拍手夢まとめ

復活夢 SS1『ナイフみたいな言葉』
シリアス注意※

初めてイタリアで過ごした冬は日本の冬よりも少し寒く感じられた。
それはいつも近くにあった家族の温もりがないせいだろうか。
人は大切なものを失ってはじめてそのありがたさに気づくというが
本当にそのとおりだと思い知らされるばかりだった。

普段は笑顔をキープし、仲間にも強がって見せるけれど、やっぱり温もりが抜けた生活は寂しくて寒い。

小さな手を温めるために白い息をはいた。
昔はこの手を温めてくれた両親も、今はいない。

小さな手を改めて見つめる。
夜の静けさと暖炉の小さな灯りに照らされて
白い指先は青白く不健康で生気のないように感じられた。

この手で、もうすぐ私は人を殺す。
それも多くの人を………。

スクアーロやヴァリアーの人達からは
もし戦闘になれば銃を持ち、自分の身を守れと教わってこれまで訓練してきた。

今までは彼らも親切に殺人という言葉を濁してきてくれたが
この前、私を狙った大規模なヴァリアー襲撃事件が起こってから
ついに人を殺すことも頭に入れて行動しろと告げられた。

「こんなことがしたかったのかな」

私の人生は、月並みでも一般的な幸せを願い
出来れば人の助けになれるような人生を歩みたかった。
ヴァリアーに入隊した後も、私の治癒能力で人を癒やして助けることに力をつくしてきた。

「仕方がねぇだろ」

不意に頭上から降ってきた普段より声量を落とした声に
少しビクッと怯えながら、どこまで聞かれていたかと思案する。

「お前には同情するが…この世界に入ったら嫌でも覚悟を決めなきゃいけねぇ。
じゃねぇとテメェが死んじまうからな。
もちろん、俺らもそれは避けてぇ」

「14歳の女の子には厳しすぎるなぁ」

でも本当のことなので何も言えなかった。
私だって命は惜しい。まだ14年しか生きていないから。

「じゃあ…もしですよ。大切な人も殺さないといけない場面が訪れたらどうしますか?」

ソファの上で少し拗ねたように体育座りし前髪から伺うようにスクアーロを見やると
彼は少し暖炉の火を見つめて黙り込んだ。

しかし、やっぱり彼はそれでも切るしかねぇと呟いた。

「きびしいなぁ…。私はどうすればそこまで割り切れるんでしょうか?

私は、まだ無理です。――例えそれが赤の他人でも、その人の背景を考えてしまいます。
この人は家族がいるのかな?とか……もっと長生きしたかっただろうなとか。
もちろん、その人がどうしようもないクズならまだ心は痛まないかも。

でも…ううん、やっぱりダメだ。
私はまだ人を殺せない。そんなことをするくらいなら……」

「自分が死ぬってか?」

スクアーロの顔が私を覗きこむようにかがんだので
私は居たたまれなくなってソファにうずまりながら小さく頷いた。

「どうだろうな。お前がもし目の前に銃があって死にそうな状況におかれた時に同じ台詞が出てきたら俺は尊敬するぜ。
――人を殺すことは確かに良いことでねぇのは確かだ。
しかしそれ以上に自分の命を投げ出すカスの方が俺はよっぽど悪いと思うぜ」

「っ何ですかそれ……。ほんとに…もうっ……まるでナイフみたいな言葉」

乾いた笑いの後、小さく『それでもウソをついてくれるくらい良いじゃない』と呟いた。
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