COLORS(種運命)
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――destiny08――明日への出航-前編
「シオンッ」
格納庫の前でシオン達の帰りを待っていたラクスは、その姿を見つけて駆け寄る。
その声と姿に、心が温かくなるのをシオンは感じた。
先ほどの戦闘で感じた無力感。力を再び手にしたことへの迷い。
一瞬でそれらを払拭してくれる存在に、自然と笑みが浮かぶ。本当に嬉しくて。
「ただいま」
「お帰りなさい、シオン」
自分の帰りを待ってくれている人がいる。そして笑顔で迎えてくれる。
これ以上の幸せがどこにあるのだろう。
「ラクス?」
笑顔を浮かべている彼女の目元が、心なしか赤くなっているような気がした。
おそらく泣き腫らしたのだと思われる様子に、シオンは指先でラクスの目元へと触れ、彼女の名を疑問系で呼ぶことで、その理由を問う。
「あ……」
「――すまない、俺の所為……」
理由はどうであれ、MSを駆る戦いに赴いた自分の行動が、ラクスに心配をかけたのだろうと容易に想像ができた。
故郷であるプラントを離れ、ずっと側にいてくれた彼女を悲しませてしまったことを悔やむ。
「いいえ、違います!」
謝ろうとするシオンの言葉を遮るように、ラクスがふるふると首を横に振った。
「あれからずっと……静かに暮らしていたのに、わたくしが原因でシオンが戦うことになってしまいました……謝るのはわたくしのほうです」
――あぁ、なるほど
ラクスの涙の原因が、シオンを心配したことだけではなく、自身が戦いの原因になってしまった事に対する、罪悪感めいたものも含まれていたのだと理解したシオンは、ふわりと目を細める。
「ラクスのせいじゃない。きっと……遠からず、いつかはこんな日が来たと思う」
ずっと過去に縛られて立ち止まっていては、望んだ未来は来ない。
これ以上、大切な人を悲しませることに何の意味があるのか。
平和へと歩み始めたはずの世界に、新たな争いの火種が生まれた事実。
それを知りながら、手をこまねいているなど、出来はしない。
「ですがっ……」
なおも心配そうに瞳を揺らして見上げてくるラクスの言葉を遮って、シオンは穏やかな笑みと言葉をその唇に乗せる。
「――また……力を手にして戦おうとしている俺の側には居たくない?」
それは、遠まわしに、自分の選んだ道が正しかったのか確かめるため。
そして、今この瞬間抱いている正直な想いを伝えるため。
「そうではありません。わたくしは、ただシオンが心配で……っ」
「俺はもう大丈夫。今まで俺を守ってくれたラクスを、今度は俺が守る番だ」
そう言って手を伸ばし、ラクスの白く細い肩を抱き寄せた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝、敵の襲撃を凌いだ邸宅の残骸跡でシオンたちは話し合っていた。
「アッシュ?」
シオンの疑問にバルトフェルドが『そうだ』と肯定する。
「アレは最近ロールアウトしたばかりで、まだ正規軍にしかないはずだが……」
バルトフェルドの言葉にシオンが憮然と答える。
「それがラクスを襲ってきたとなると、相手はザフト、あるいは、ザフトの特殊部隊を動かせる立場にいる可能性が高いということだろうな」
「でも、なぜわたくしが……」
ラクスは不安に顔色を染め、バルトフェルドも短い溜息をついた。キラとマリューも困惑気味だ。
そこに「なんてことでしょう!?」と声高に悲鳴を上げてマーナがマルキオ邸跡を訪れた。
シオンは当然、キラ達にも馴染みのある、カガリの侍女だ。
「なにがあったんです!? まるでミサイルにでも吹き飛ばされたようではありませんか! 急ぎの用を言付かってくれば、この始末!」
「急ぎの用?」
シオンがその言葉を聞きとがめると、マーナは一通の手紙を差し出した。
「これを。カガリお嬢様からシオン様とキラ様に、と」
カガリが手紙を寄越すなど初めてのことだ。
シオンとキラは顔を見合わせ、手紙を受け取った。
「なぜ自分で来ない?」
シオンがマーナを見返すと、マーナはバツの悪そうな顔になる。
「お嬢さまはもう、ご自分でこちらにいらっしゃることが叶わなくなりましたので、マーナがこっそりとこれを預かってまいりました」
「怪我でもされたのですか?」
マーナの言葉に、ラクスは心配そうな表情を浮かべた。
「いいえ……お元気でいらっしゃいます。ただ、今はもう結婚のためにセイラン家に入られまして……」
「ええっ?!」
全員が一斉に声を上げる。シオンも目を見張った。
「お式まではあちらのお宅にお預かりになり、その後もどうなることか……このマーナにもわからない状態なのでございます」
マーナが寂しそうに訴える。
確かにユウナ・ロマとの間にそういう話があることは知っていた。
だが、ウズミが存命の間は宙に浮いた、というよりも、立ち消えになりかけていた話のはずだった。
呆然とするシオンの手から、キラが手紙を取り上げるようにして、慌てて封筒を開いて内容を読み上げ始めた。
手紙には、オーブが世界安全保障条約機構に加盟すること、国の行く末を熟考した挙句、ユウナ・ロマとの結婚を決めたことが書かれてある。
そして、アスランから貰った指輪を返しておいて欲しい、と。
「シオンさん」
はい、と言って目の前に差し出されたカガリからの手紙。
シオンはキラの手から手紙を受け取ると、その文面に目を通す。ラクスも横から手紙を覗き込んだ。
そのしっかりとした筆跡にカガリの決意が見て取れる。
硬い調子の文面からは、彼女の魅力である奔放なまでの気概と凛とした信念は感じられず、懸命に自分を律しているような感じが伺えた。
「ウズミ様が亡くなり、俺が居ないのをいいことに、首長たちを意のままに動かして逃げ道を塞いでカガリを孤立させ、その上で結婚を迫ったのか……」
気丈な言葉を連ねた手紙の行間から溢れ出すカガリの苦しみ、悩みの深さがシオンを揺さぶった。
自分が逃げ続けた結果がコレだ。
最愛の人を悲しませ、妹のように可愛がっていた存在は、自身の力なさに打ちのめされ、苦悩し、意に沿わぬ結婚を強いられている。
間違っている。
自分が取ってきた行動も、カガリの決意も、オーブが歩むと決めた道も、何もかもが。
今ならまだ間に合うはずだ
シオンは再び立つことを決めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「でも、本当にそれでいいのかしらね……」
マリューがぽつりと呟くと、キラは静かに頷く。
「ええ――っていうか、もう、そうする他ないし」
キラの答えを聞いたマリューは重く息をついた。
彼女の迷いは理解できる。そんな迷う彼女だからこそ、シオンもキラも彼女を信頼できるのだ。
「本当は、何が正しいのかなんて……僕たちにもまだ全然わからないけど」
キラの言葉に続けてシオンが言葉を紡ぐ。まるで自分に言い聞かせるように。
「だが、諦めてはダメだろう? 分かっているのに黙っているのもダメだ」
その言葉に、キラが俯きかけた顔を上げて、シオンと視線を絡ませる。
「――だから行かなくちゃ。また、あんなことになる前に。そうですよね、シオンさん」
「あぁ」
オーブ軍の制服に着替えたクルーは、持ち場に着くと慣れた調子で起動作業に入った。
「機関、定格起動中。コンジットおよびAPUオンライン。――気密隔壁及び水密隔壁、全閉鎖を確認。生命維持装置、正常に機能中」
バルトフェルドが作業確認を開始し、マリューは皆に促され艦長席へと腰を降ろす。
「主動力、コンタクト。システム、オールグリーン。アークエンジェル全システム、オンライン」
キラが母親のカリダと別れの挨拶を済ませて艦に乗り込んで間もなく、ドックへの注水が開始された。
ゆっくりと水面が上昇し、艦体が水に覆われていく。
格納庫では既にシオンがアマテラスのコックピット内で待機していた。
「遅くなってすみません」
格納庫へと駆け込んできたキラが、フリーダムのコックピットへと向かう。
「カリダさんに、ちゃんと挨拶できたのか?」
「はいっ」
自分と同じように色々悩み苦しんでいたキラだったが、そんな迷いが吹っ切れたような表情にシオンの心も軽くなる。
<メインゲート、解放! >
ブリッジと繋がった通信。
発進シークエンスが最終段階に入っている。
<機関20%、アークエンジェル、前進微速!>
マリューの号令と共にアークエンジェルが前進する。
艦はゆっくりと地下水路を抜けて、やがて上昇した。
「シオンッ」
格納庫の前でシオン達の帰りを待っていたラクスは、その姿を見つけて駆け寄る。
その声と姿に、心が温かくなるのをシオンは感じた。
先ほどの戦闘で感じた無力感。力を再び手にしたことへの迷い。
一瞬でそれらを払拭してくれる存在に、自然と笑みが浮かぶ。本当に嬉しくて。
「ただいま」
「お帰りなさい、シオン」
自分の帰りを待ってくれている人がいる。そして笑顔で迎えてくれる。
これ以上の幸せがどこにあるのだろう。
「ラクス?」
笑顔を浮かべている彼女の目元が、心なしか赤くなっているような気がした。
おそらく泣き腫らしたのだと思われる様子に、シオンは指先でラクスの目元へと触れ、彼女の名を疑問系で呼ぶことで、その理由を問う。
「あ……」
「――すまない、俺の所為……」
理由はどうであれ、MSを駆る戦いに赴いた自分の行動が、ラクスに心配をかけたのだろうと容易に想像ができた。
故郷であるプラントを離れ、ずっと側にいてくれた彼女を悲しませてしまったことを悔やむ。
「いいえ、違います!」
謝ろうとするシオンの言葉を遮るように、ラクスがふるふると首を横に振った。
「あれからずっと……静かに暮らしていたのに、わたくしが原因でシオンが戦うことになってしまいました……謝るのはわたくしのほうです」
――あぁ、なるほど
ラクスの涙の原因が、シオンを心配したことだけではなく、自身が戦いの原因になってしまった事に対する、罪悪感めいたものも含まれていたのだと理解したシオンは、ふわりと目を細める。
「ラクスのせいじゃない。きっと……遠からず、いつかはこんな日が来たと思う」
ずっと過去に縛られて立ち止まっていては、望んだ未来は来ない。
これ以上、大切な人を悲しませることに何の意味があるのか。
平和へと歩み始めたはずの世界に、新たな争いの火種が生まれた事実。
それを知りながら、手をこまねいているなど、出来はしない。
「ですがっ……」
なおも心配そうに瞳を揺らして見上げてくるラクスの言葉を遮って、シオンは穏やかな笑みと言葉をその唇に乗せる。
「――また……力を手にして戦おうとしている俺の側には居たくない?」
それは、遠まわしに、自分の選んだ道が正しかったのか確かめるため。
そして、今この瞬間抱いている正直な想いを伝えるため。
「そうではありません。わたくしは、ただシオンが心配で……っ」
「俺はもう大丈夫。今まで俺を守ってくれたラクスを、今度は俺が守る番だ」
そう言って手を伸ばし、ラクスの白く細い肩を抱き寄せた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝、敵の襲撃を凌いだ邸宅の残骸跡でシオンたちは話し合っていた。
「アッシュ?」
シオンの疑問にバルトフェルドが『そうだ』と肯定する。
「アレは最近ロールアウトしたばかりで、まだ正規軍にしかないはずだが……」
バルトフェルドの言葉にシオンが憮然と答える。
「それがラクスを襲ってきたとなると、相手はザフト、あるいは、ザフトの特殊部隊を動かせる立場にいる可能性が高いということだろうな」
「でも、なぜわたくしが……」
ラクスは不安に顔色を染め、バルトフェルドも短い溜息をついた。キラとマリューも困惑気味だ。
そこに「なんてことでしょう!?」と声高に悲鳴を上げてマーナがマルキオ邸跡を訪れた。
シオンは当然、キラ達にも馴染みのある、カガリの侍女だ。
「なにがあったんです!? まるでミサイルにでも吹き飛ばされたようではありませんか! 急ぎの用を言付かってくれば、この始末!」
「急ぎの用?」
シオンがその言葉を聞きとがめると、マーナは一通の手紙を差し出した。
「これを。カガリお嬢様からシオン様とキラ様に、と」
カガリが手紙を寄越すなど初めてのことだ。
シオンとキラは顔を見合わせ、手紙を受け取った。
「なぜ自分で来ない?」
シオンがマーナを見返すと、マーナはバツの悪そうな顔になる。
「お嬢さまはもう、ご自分でこちらにいらっしゃることが叶わなくなりましたので、マーナがこっそりとこれを預かってまいりました」
「怪我でもされたのですか?」
マーナの言葉に、ラクスは心配そうな表情を浮かべた。
「いいえ……お元気でいらっしゃいます。ただ、今はもう結婚のためにセイラン家に入られまして……」
「ええっ?!」
全員が一斉に声を上げる。シオンも目を見張った。
「お式まではあちらのお宅にお預かりになり、その後もどうなることか……このマーナにもわからない状態なのでございます」
マーナが寂しそうに訴える。
確かにユウナ・ロマとの間にそういう話があることは知っていた。
だが、ウズミが存命の間は宙に浮いた、というよりも、立ち消えになりかけていた話のはずだった。
呆然とするシオンの手から、キラが手紙を取り上げるようにして、慌てて封筒を開いて内容を読み上げ始めた。
手紙には、オーブが世界安全保障条約機構に加盟すること、国の行く末を熟考した挙句、ユウナ・ロマとの結婚を決めたことが書かれてある。
そして、アスランから貰った指輪を返しておいて欲しい、と。
「シオンさん」
はい、と言って目の前に差し出されたカガリからの手紙。
シオンはキラの手から手紙を受け取ると、その文面に目を通す。ラクスも横から手紙を覗き込んだ。
そのしっかりとした筆跡にカガリの決意が見て取れる。
硬い調子の文面からは、彼女の魅力である奔放なまでの気概と凛とした信念は感じられず、懸命に自分を律しているような感じが伺えた。
「ウズミ様が亡くなり、俺が居ないのをいいことに、首長たちを意のままに動かして逃げ道を塞いでカガリを孤立させ、その上で結婚を迫ったのか……」
気丈な言葉を連ねた手紙の行間から溢れ出すカガリの苦しみ、悩みの深さがシオンを揺さぶった。
自分が逃げ続けた結果がコレだ。
最愛の人を悲しませ、妹のように可愛がっていた存在は、自身の力なさに打ちのめされ、苦悩し、意に沿わぬ結婚を強いられている。
間違っている。
自分が取ってきた行動も、カガリの決意も、オーブが歩むと決めた道も、何もかもが。
今ならまだ間に合うはずだ
シオンは再び立つことを決めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「でも、本当にそれでいいのかしらね……」
マリューがぽつりと呟くと、キラは静かに頷く。
「ええ――っていうか、もう、そうする他ないし」
キラの答えを聞いたマリューは重く息をついた。
彼女の迷いは理解できる。そんな迷う彼女だからこそ、シオンもキラも彼女を信頼できるのだ。
「本当は、何が正しいのかなんて……僕たちにもまだ全然わからないけど」
キラの言葉に続けてシオンが言葉を紡ぐ。まるで自分に言い聞かせるように。
「だが、諦めてはダメだろう? 分かっているのに黙っているのもダメだ」
その言葉に、キラが俯きかけた顔を上げて、シオンと視線を絡ませる。
「――だから行かなくちゃ。また、あんなことになる前に。そうですよね、シオンさん」
「あぁ」
オーブ軍の制服に着替えたクルーは、持ち場に着くと慣れた調子で起動作業に入った。
「機関、定格起動中。コンジットおよびAPUオンライン。――気密隔壁及び水密隔壁、全閉鎖を確認。生命維持装置、正常に機能中」
バルトフェルドが作業確認を開始し、マリューは皆に促され艦長席へと腰を降ろす。
「主動力、コンタクト。システム、オールグリーン。アークエンジェル全システム、オンライン」
キラが母親のカリダと別れの挨拶を済ませて艦に乗り込んで間もなく、ドックへの注水が開始された。
ゆっくりと水面が上昇し、艦体が水に覆われていく。
格納庫では既にシオンがアマテラスのコックピット内で待機していた。
「遅くなってすみません」
格納庫へと駆け込んできたキラが、フリーダムのコックピットへと向かう。
「カリダさんに、ちゃんと挨拶できたのか?」
「はいっ」
自分と同じように色々悩み苦しんでいたキラだったが、そんな迷いが吹っ切れたような表情にシオンの心も軽くなる。
<メインゲート、解放! >
ブリッジと繋がった通信。
発進シークエンスが最終段階に入っている。
<機関20%、アークエンジェル、前進微速!>
マリューの号令と共にアークエンジェルが前進する。
艦はゆっくりと地下水路を抜けて、やがて上昇した。