COLORS(種運命)
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――destiny03――予兆の砲火
「なんだって!?」
シオンを伴って士官室を訪れたデュランダルが持ってきた知らせにカガリは絶句した。
告げられた事の重大さに気を取られ、なぜシオンと議長が一緒にいるのか、ということに疑問をもつ余裕はカガリには無い。
「ユニウスセブンが動いているって……どうして」
うろたえながら言葉を紡ぐカガリを前に、デュランダルがよどみない声で答える。
「それは解かりません。だが、動いているのです。それもかなりの速度で最も危険な軌道を……」
まるでドラマのセリフを口にしているような、動揺のかけらも感じさせないその口調に、カガリは違和感を感じた。
誰も予想などできない事態。
多くの人が住んでいた巨大なプラント――ユニウスセブン――の残骸が地球に向かっているなどというニュースに、なぜ落ち着いていられるのかと。
「それはすでに本艦でも確認いたしました」
タリア艦長の言葉に、カガリの思考が遮られる。
傍らにいたアスランも動揺を隠せないまま尋ねた。
「しかし、なぜこんなことに!?」
発しても仕方の無い、訊いたところで誰も答えられない言葉を思わず口にしてしまう。
なぜ――その答えを聞けば何かが変わるような気がして。
「隕石の衝突か……はたまた他の要因か……」
デュランダルがゆっくりと首を振る。
その言葉にシオンは眉をひそめ、アスランは唇を噛み締めた。
原因はともかく、あの巨大な質量をもったプラントが地球に落ちようとしているのは事実。想像するだけで背筋が凍りそうだった。
「落ちたら……落ちたらどうなるんだ!? オーブ……いや、地球は!」
明らかに動揺するカガリを落ち着かせようと、シオンはその肩に手を置き、努めて冷静な声色で話す。
「落ち着いてください、代表」
「でも!」
淡々とした口調のシオンにカガリはつい声を荒げる。
いつもは優しい兄の言葉。しかしここでは『代表』と『随員』。
代表へと向けられる声と言葉はどこか他人行儀で、それが余計にカガリを苛立たせた。
「ここであなたが取り乱したところで事態は変わりません。議長を始めプラントも、原因の究明や回避手段の模索に全力を上げてくださっています。そうですね? 議長」
「もちろん。我がプラントも全力で事に当たっています」
カガリをなだめながらも、シオンの胸中に何か寒々しいものが通り抜ける。――よく考えてみろ、と。
プラントの人間であるコーディネイターたちにとって、今回のことは対岸の火事でしかない。
ユニウスセブンが落ちようとしている先は、彼らの頭上ではなく、敵であるナチュラルたちの頭上。彼らコーディネイターには何の関係も無い事態。
シオンの思考が深みへと落ちていく。
「姫にはまたのアクシデントで大変申し訳ないが、私は間もなく終る修理を待ってこのミネルバにもユニウスセブンに向かうよう特命を出しました」
デュランダルの言葉に、シオンが我に返る。
悪い方向へと思考が向いていた自分に、自嘲的な笑みが浮かんだ。
平和へと歩んでいるこの世界、少なくともココにいるコーディネイターたちは地球の危機を救おうとしてくれている。
完全な平和はまだ遠くても、今この場にいる人間は敵ではない。そう思いたい。
「幸い位置も近いもので。姫にもどうかそれをご了承いただきたいと」
「無論だ! これは私たちにとっても、いや、むしろこちらにとって重大な事態だぞ! 私……私にもなにかできることがあるのなら……」
カガリは両手を握り締めた。
「さきほど随員の方が仰った通り、どうか落ち着いてください、姫。お力をお借りしたいことがあればこちらから申し上げます」
カガリを慰めるようにデュランダルはやさしく言った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
デュランダルがシオンと共に艦内を移動していた。
ちょうどレクルームの入り口に差し掛かったとき、中からカガリと他者の言い争う声が聞こえてきた。
アスランが静止する言葉も聞こえるが、争いはどんどんエスカレートしていく。
「―――俺の家族はアスハに殺されたんだ!」
少年の叫びが廊下にまで響いた。シオンとデュランダルはレクルームの入り口に立ち、そっと中の様子を伺う。
「国を信じて、あんたたちの理想ってのを信じて、最後の最後でオノゴロで殺された!」
(オノゴロ……で?)
シオンの脳裏に無残に焼かれた祖国の姿が甦る。
命を懸けて仕えてきた、父とも呼べる人が、国の理念と未来のために国と運命を共にした戦いがあった。
『別の未来を求むなら、そこへ向かえ。たとえそこに待つものが過酷な道でも行かねばならぬ』
『民と国とカガリを頼む。私はそなたを誇りに思う――我が息子よ』
その人――ウズミ・ナラ・アスハの最期の言葉が脳裏に浮かび、シオンの瞳が揺れる。
デュランダルはその様子を横目でそっと見守った。
「だから俺はアンタたちを信じない! オーブなんて国も信じない! アンタたちの言うキレイごとなんて信じない! なにもわかってないようなやつが、わかったような口を利かないで欲しいね!」
黒い髪の少年――シン・アスカは最後の言葉を投げ捨てレクルームを出て行こうとした。
そこで入り口に立っていたシオンとデュランダル議長の存在に初めて気づく。
慌てて議長に敬礼するもそれは一瞬で、すぐに傍らのシオンへと視線を移動させた。
「そこ、どいてもらえますか?」
興奮が冷めないのだろう。印象的な紅い瞳が怒りのままジロリと睨みつける。
だが、シオンはその場を移動しようとはしない。
「聞こえないんすか?」
「……君の言いたいことは……それだけか?」
言葉と声だけではサングラスに隠されたシオンの真意が測ることができず、少年はじっと睨みつける。
「は?」
シオンはゆっくりとサングラスを外し、睨みつけてくる紅い瞳と対峙した。
見つめ返すシオンの静かで深い色合いの瞳に、シンが一瞬怯む。
「君は以前オーブにいて、先の大戦で家族を失った。それでアスハ家を……オーブを憎んでいるというのは理解した」
「だったら何だって言うんですか! アンタには関係な……」
苛立つように言葉を畳み掛けるシンの言葉を遮り、シオンは一つの事実を告げる。
「あの戦いでオーブ軍を指揮していたのは俺だ。そこにいるアスハ代表じゃない。彼女を恨むのは筋違いだ」
「っ……!!」
突然目の前に現れた青年の告白にシンは一瞬、言葉を失ったが、次の瞬間にはその紅い瞳に更なる怒りの色を宿す。
そして何かを必死にこらえるように拳を震わせて声を張り上げた。
「――この国の正義を貫くってあの時、自分たちの言葉で誰が死ぬことになるのか、ちゃんと考えたのかよ!」
「ちがう! シオンがオーブ軍の指揮を取ったのは宇宙に上がってからだ! オーブが焼かれたことはシオンの責任ではない!」
ただならぬ雰囲気を纏い始めたザフトの少年とシオンの間に割って入ったカガリは泣きそうな表情で必死に叫んだ。
「途中からであろうとなんだろうと軍の指揮を執り、国の命運を握ったことに変わりはない。オーブが焼かれた責任は俺にもある――だが、たとえ君が元オーブの民とはいえ今はザフトの軍人だろう? 一介の軍人にすぎない身で一国の代表に先程の発言……いささか不敬だとは思わないか?」
「不敬? どこが! 俺は事実を言っただけだ!!」
「その態度が不敬だと言っているんだ。友好国とは言っても、君一個人の感情的な発言が国際問題に発展しかねない事態に発展する可能性があると言っているんだ。口を慎め。だいたい、いつからザフトの質はここまで下がったんだ」
シオンの脳裏に今まで出会ったザフトの人間たちの顔が過ぎる。
オーブとは違い、はっきりとその階級分けが成されているザフト。上下関係や礼節にはとりわけ厳しいと聞いたのを思い出す。
「質が下がった? オーブの人間がザフトの質を計らないでほしいね」
シンはギリギリと拳を振るわせる。
まだ何かを言いたげな瞳のまま、シオンの脇を荒っぽい足取りで通り抜けシンはレクルームをあとにした。
静まり返ったレクルーム。シオンの大仰なため息に、皆がそちらへと視線を向ける。
手に持っていたサングラスを胸元のポケットへ収めると、目の前に佇むカガリへと言葉を紡ぐ。
「――代表、あなたもすぐに感情的になってはいけない。あなたはオーブの代表です。少しはご自分の立場を考えて――第一、ここはザフトの艦で、彼らは避難した我々を救助してくださった恩人です」
「でも彼らはユニウスセブンが落ちることを『しょうがない』とか『不可抗力』だと言ったんだ!」
カガリは怒りを思い出し、なおも言い募る。
「彼らとて本心から言ったわけではないでしょう。反省もしているはずです」
グルリとレクルームを見渡す。技術スタッフを示す制服に身を包んだ色黒の少年を始めとした数人がバツ悪げに視線をそらす。
シオンは顎で彼らを指した。
「彼らの顔を見てください。たとえ代表の意見が正論でも、場の空気も読まずに頭ごなしに言われれば面白いはずがない。それが他国の人間なら尚更です。今回はアレックスが傍にいてフォローしてくれているから、この程度で済んだようですが、もしも彼がいなかったら『オーブの代表がザフトの一軍人と大人気なく言い争いをした』と大々的に報じられる事態になっていたかも知れない。それこそ我が国の恥です」
シオンの言葉に、カガリは施政者として自分がまだまだ至らないのだと思い知る。
力を失ったその身体を支えるようにアスランが寄り添った。
俯き、言葉をなくしているカガリを尻目に、シオンは背後に立っていたデュランダルへと向き直り、深々と頭を下げた。
「代表が不躾な発言をして申し訳ない」
そう言い残し、静かにレクルームを後にする。
「いいえ、それはこちらも同じこと」
シオンの言葉に苦笑いを浮かべて答えたデュランダルは、その後を追おうと足を踏み出した。
その去り際に、レクルームに残る面々へと釘を刺すことも忘れない。
「――今回のことは問題にならぬよう私たちの胸にしまっておくことにしよう。君たちも来客がいらっしゃる間は気をつけるように。ではアスハ代表、私はここで」
優雅な笑みを浮かべるデュランダルにカガリは短く頷く。
残されたクルーもシオンの残した『国際問題』の言葉に青ざめながら、議長の笑みにも背筋を凍らせた。
「なんだって!?」
シオンを伴って士官室を訪れたデュランダルが持ってきた知らせにカガリは絶句した。
告げられた事の重大さに気を取られ、なぜシオンと議長が一緒にいるのか、ということに疑問をもつ余裕はカガリには無い。
「ユニウスセブンが動いているって……どうして」
うろたえながら言葉を紡ぐカガリを前に、デュランダルがよどみない声で答える。
「それは解かりません。だが、動いているのです。それもかなりの速度で最も危険な軌道を……」
まるでドラマのセリフを口にしているような、動揺のかけらも感じさせないその口調に、カガリは違和感を感じた。
誰も予想などできない事態。
多くの人が住んでいた巨大なプラント――ユニウスセブン――の残骸が地球に向かっているなどというニュースに、なぜ落ち着いていられるのかと。
「それはすでに本艦でも確認いたしました」
タリア艦長の言葉に、カガリの思考が遮られる。
傍らにいたアスランも動揺を隠せないまま尋ねた。
「しかし、なぜこんなことに!?」
発しても仕方の無い、訊いたところで誰も答えられない言葉を思わず口にしてしまう。
なぜ――その答えを聞けば何かが変わるような気がして。
「隕石の衝突か……はたまた他の要因か……」
デュランダルがゆっくりと首を振る。
その言葉にシオンは眉をひそめ、アスランは唇を噛み締めた。
原因はともかく、あの巨大な質量をもったプラントが地球に落ちようとしているのは事実。想像するだけで背筋が凍りそうだった。
「落ちたら……落ちたらどうなるんだ!? オーブ……いや、地球は!」
明らかに動揺するカガリを落ち着かせようと、シオンはその肩に手を置き、努めて冷静な声色で話す。
「落ち着いてください、代表」
「でも!」
淡々とした口調のシオンにカガリはつい声を荒げる。
いつもは優しい兄の言葉。しかしここでは『代表』と『随員』。
代表へと向けられる声と言葉はどこか他人行儀で、それが余計にカガリを苛立たせた。
「ここであなたが取り乱したところで事態は変わりません。議長を始めプラントも、原因の究明や回避手段の模索に全力を上げてくださっています。そうですね? 議長」
「もちろん。我がプラントも全力で事に当たっています」
カガリをなだめながらも、シオンの胸中に何か寒々しいものが通り抜ける。――よく考えてみろ、と。
プラントの人間であるコーディネイターたちにとって、今回のことは対岸の火事でしかない。
ユニウスセブンが落ちようとしている先は、彼らの頭上ではなく、敵であるナチュラルたちの頭上。彼らコーディネイターには何の関係も無い事態。
シオンの思考が深みへと落ちていく。
「姫にはまたのアクシデントで大変申し訳ないが、私は間もなく終る修理を待ってこのミネルバにもユニウスセブンに向かうよう特命を出しました」
デュランダルの言葉に、シオンが我に返る。
悪い方向へと思考が向いていた自分に、自嘲的な笑みが浮かんだ。
平和へと歩んでいるこの世界、少なくともココにいるコーディネイターたちは地球の危機を救おうとしてくれている。
完全な平和はまだ遠くても、今この場にいる人間は敵ではない。そう思いたい。
「幸い位置も近いもので。姫にもどうかそれをご了承いただきたいと」
「無論だ! これは私たちにとっても、いや、むしろこちらにとって重大な事態だぞ! 私……私にもなにかできることがあるのなら……」
カガリは両手を握り締めた。
「さきほど随員の方が仰った通り、どうか落ち着いてください、姫。お力をお借りしたいことがあればこちらから申し上げます」
カガリを慰めるようにデュランダルはやさしく言った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
デュランダルがシオンと共に艦内を移動していた。
ちょうどレクルームの入り口に差し掛かったとき、中からカガリと他者の言い争う声が聞こえてきた。
アスランが静止する言葉も聞こえるが、争いはどんどんエスカレートしていく。
「―――俺の家族はアスハに殺されたんだ!」
少年の叫びが廊下にまで響いた。シオンとデュランダルはレクルームの入り口に立ち、そっと中の様子を伺う。
「国を信じて、あんたたちの理想ってのを信じて、最後の最後でオノゴロで殺された!」
(オノゴロ……で?)
シオンの脳裏に無残に焼かれた祖国の姿が甦る。
命を懸けて仕えてきた、父とも呼べる人が、国の理念と未来のために国と運命を共にした戦いがあった。
『別の未来を求むなら、そこへ向かえ。たとえそこに待つものが過酷な道でも行かねばならぬ』
『民と国とカガリを頼む。私はそなたを誇りに思う――我が息子よ』
その人――ウズミ・ナラ・アスハの最期の言葉が脳裏に浮かび、シオンの瞳が揺れる。
デュランダルはその様子を横目でそっと見守った。
「だから俺はアンタたちを信じない! オーブなんて国も信じない! アンタたちの言うキレイごとなんて信じない! なにもわかってないようなやつが、わかったような口を利かないで欲しいね!」
黒い髪の少年――シン・アスカは最後の言葉を投げ捨てレクルームを出て行こうとした。
そこで入り口に立っていたシオンとデュランダル議長の存在に初めて気づく。
慌てて議長に敬礼するもそれは一瞬で、すぐに傍らのシオンへと視線を移動させた。
「そこ、どいてもらえますか?」
興奮が冷めないのだろう。印象的な紅い瞳が怒りのままジロリと睨みつける。
だが、シオンはその場を移動しようとはしない。
「聞こえないんすか?」
「……君の言いたいことは……それだけか?」
言葉と声だけではサングラスに隠されたシオンの真意が測ることができず、少年はじっと睨みつける。
「は?」
シオンはゆっくりとサングラスを外し、睨みつけてくる紅い瞳と対峙した。
見つめ返すシオンの静かで深い色合いの瞳に、シンが一瞬怯む。
「君は以前オーブにいて、先の大戦で家族を失った。それでアスハ家を……オーブを憎んでいるというのは理解した」
「だったら何だって言うんですか! アンタには関係な……」
苛立つように言葉を畳み掛けるシンの言葉を遮り、シオンは一つの事実を告げる。
「あの戦いでオーブ軍を指揮していたのは俺だ。そこにいるアスハ代表じゃない。彼女を恨むのは筋違いだ」
「っ……!!」
突然目の前に現れた青年の告白にシンは一瞬、言葉を失ったが、次の瞬間にはその紅い瞳に更なる怒りの色を宿す。
そして何かを必死にこらえるように拳を震わせて声を張り上げた。
「――この国の正義を貫くってあの時、自分たちの言葉で誰が死ぬことになるのか、ちゃんと考えたのかよ!」
「ちがう! シオンがオーブ軍の指揮を取ったのは宇宙に上がってからだ! オーブが焼かれたことはシオンの責任ではない!」
ただならぬ雰囲気を纏い始めたザフトの少年とシオンの間に割って入ったカガリは泣きそうな表情で必死に叫んだ。
「途中からであろうとなんだろうと軍の指揮を執り、国の命運を握ったことに変わりはない。オーブが焼かれた責任は俺にもある――だが、たとえ君が元オーブの民とはいえ今はザフトの軍人だろう? 一介の軍人にすぎない身で一国の代表に先程の発言……いささか不敬だとは思わないか?」
「不敬? どこが! 俺は事実を言っただけだ!!」
「その態度が不敬だと言っているんだ。友好国とは言っても、君一個人の感情的な発言が国際問題に発展しかねない事態に発展する可能性があると言っているんだ。口を慎め。だいたい、いつからザフトの質はここまで下がったんだ」
シオンの脳裏に今まで出会ったザフトの人間たちの顔が過ぎる。
オーブとは違い、はっきりとその階級分けが成されているザフト。上下関係や礼節にはとりわけ厳しいと聞いたのを思い出す。
「質が下がった? オーブの人間がザフトの質を計らないでほしいね」
シンはギリギリと拳を振るわせる。
まだ何かを言いたげな瞳のまま、シオンの脇を荒っぽい足取りで通り抜けシンはレクルームをあとにした。
静まり返ったレクルーム。シオンの大仰なため息に、皆がそちらへと視線を向ける。
手に持っていたサングラスを胸元のポケットへ収めると、目の前に佇むカガリへと言葉を紡ぐ。
「――代表、あなたもすぐに感情的になってはいけない。あなたはオーブの代表です。少しはご自分の立場を考えて――第一、ここはザフトの艦で、彼らは避難した我々を救助してくださった恩人です」
「でも彼らはユニウスセブンが落ちることを『しょうがない』とか『不可抗力』だと言ったんだ!」
カガリは怒りを思い出し、なおも言い募る。
「彼らとて本心から言ったわけではないでしょう。反省もしているはずです」
グルリとレクルームを見渡す。技術スタッフを示す制服に身を包んだ色黒の少年を始めとした数人がバツ悪げに視線をそらす。
シオンは顎で彼らを指した。
「彼らの顔を見てください。たとえ代表の意見が正論でも、場の空気も読まずに頭ごなしに言われれば面白いはずがない。それが他国の人間なら尚更です。今回はアレックスが傍にいてフォローしてくれているから、この程度で済んだようですが、もしも彼がいなかったら『オーブの代表がザフトの一軍人と大人気なく言い争いをした』と大々的に報じられる事態になっていたかも知れない。それこそ我が国の恥です」
シオンの言葉に、カガリは施政者として自分がまだまだ至らないのだと思い知る。
力を失ったその身体を支えるようにアスランが寄り添った。
俯き、言葉をなくしているカガリを尻目に、シオンは背後に立っていたデュランダルへと向き直り、深々と頭を下げた。
「代表が不躾な発言をして申し訳ない」
そう言い残し、静かにレクルームを後にする。
「いいえ、それはこちらも同じこと」
シオンの言葉に苦笑いを浮かべて答えたデュランダルは、その後を追おうと足を踏み出した。
その去り際に、レクルームに残る面々へと釘を刺すことも忘れない。
「――今回のことは問題にならぬよう私たちの胸にしまっておくことにしよう。君たちも来客がいらっしゃる間は気をつけるように。ではアスハ代表、私はここで」
優雅な笑みを浮かべるデュランダルにカガリは短く頷く。
残されたクルーもシオンの残した『国際問題』の言葉に青ざめながら、議長の笑みにも背筋を凍らせた。
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