COLORS(種運命)
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――destiny01――
翌日、プラントへ向かうシャトルの中にシオンの姿があった。
アスランと同じようにサングラスで素顔を隠し、後部座席に座る。
窓の外を見やり、アスランやカガリとは最低限の会話しか交わさないシオン。
微妙な空気を保ったまま、シャトルはアーモリーワンのドックに入っていった。
カガリとアスランに続いてタラップを降りたシオンが、ここで別れることを告げようとしたと同時にカガリが振り返り、先に口を開いた。
「兄様、やはり会談には……」
「そういう約束だ」
どこか遠慮がちに問いかけてきたカガリに対して、まるで突き放すかのようにぴしゃりと言い切るシオン。
言葉だけ聞けば冷たく聞こえる声色だったが、シオンの表情はどこか柔らかく、カガリを気遣う雰囲気が漂っていた。
自分の殻に閉じこもるように、人との接触を避けていた以前のシオンとは明らかに変わり始めているのが分かる。
アスランにとって友であり兄のようにも慕っている彼が、自分らしさを取り戻してくれることは本当に嬉しく、思わず口元に笑みが浮かびそうになるのを必死に堪えて言葉を紡いだ。
「気をつけて。いい気分転換になるといいな」
「あぁ。カガリを頼む」
カガリはアスランを伴い、議長との会談へと向かうためシオンと別れた。
シオンもプラント本国へ行くシャトルに乗り換えようと場所を移動する。
途中、腕時計に視線を落とし発射時間を確認して小さくため息をついた。
「街でもぶらつくか……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ドサッと、何かが落ちる音がして反射的に視線を向けると、黒髪の少年が背後から金の髪の少女を抱かかえるようにして支えていた。
ご丁寧に片手が少女の胸の上に添えられている。
少女が激しい動きで少年の腕を振り払って走り去った。
なんとはなしに、ぼんやりとその光景を見ていたシオンだったが、逃げるように自分の傍を走り抜けようとする少女の顔を見た瞬間、体中に衝撃が走った。
「――……っ」
思わず呼び止めようと振り返るが、意外にも少女の足は早く、あっという間にシオンとの距離が広がる。
シオンは走り去る少女の後姿を見つめ、思わず手を伸ばした。「待ってくれ」と呼び止めたくなる衝動に襲われるが、なぜかその言葉を飲み込んだ。
ふわふわと風に揺れる柔らかな金の髪、しなやかに伸びた手足――。
その後姿が、記憶の奥底に眠る大切な存在だった少女と重なる。
「……サリア……」
不意に紡いだ名に自分で驚いたシオンは思わず口を手で覆った。
そんなはずはない、と、脳裏を過ぎった映像を打ち消そうとするが、相反するように鼓動が跳ねる。
ただの他人の空似だと自分を言い聞かせるも、少女が合流した2人の少年を目にしたシオンの瞳は驚愕に見開かれた。
「アウ…ル? スティング?!」
遠い昔に、その少女と共にいた少年達。自分は彼らを知っている。
「――ちょ…っと、待て……どういう、コトだ」
思いもよらない事態に思考回路が混乱するのを必死に整理する。
あの子達が生きているとは限らない。仮に生きていたとしても、こんな場所にいるはずがなかった。
彼らは、自分が逃げ出した場所――地球連合軍管轄のラボ――で出会った子たちで、到底、一般市民として普通の生活などしているわけがないのだ。
「っ……くっ」
更に暴れる鼓動に息が詰まる。
力なく壁に寄りかかり、胸を握り締め、シオンは荒くなる呼吸を整えようと努力した。
記憶の底に押し込め、二度と思い出したくないと思っていた記憶が甦り、じわじわとシオンを侵食する。
固定される身体。
身体中に取り付けられた数多くのコード。
与えられるのは苦痛と得体の知れない数々の薬物。
そして自分を取り囲んで、淡々と研究データを取る科学者たちの冷たい視線。
逃げることなど出来ず、永遠に続くと思われた地獄のような日々は、いまだシオンの心の奥底から消えることはなかった。
結果的に失敗とはいえ、この身体がコーディネイトされたものでなければ、とうの昔に自分は死んでいただろうと思うと、作り出してくれた『親』に感謝したくなる。
自嘲気味な笑みが口元に浮かんだ。
「――こんな状態で……生かされる意味は何なんだろうな……」
額に汗を滲ませ、ゆっくりと呼吸を整える。
俯いていた顔を上げ、少女の走り去った方向へと視線を向けると、かろうじてまだ追いかけることができる距離に彼らは居た。
「くそ……っ」
消すことの出来ない、身体に染み付いた恐怖と痛みの記憶。その記憶が甦るたびに変調をきたす身体。
そんな自分を叱咤し唇を噛み締めると、シオンは少女たちの後を追って走り出した。
「俺に何をしろって言うんだ…サリア……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――ここは……」
3人を追ってたどり着いたのはザフト軍の工場だった。敷地内から迎えに来たバギーに乗って彼らは中へと消えていく。
彼らがシオンの記憶にある人物と同一であれば、彼らは地球連合軍に属する強化人間――エクステンデット――だ。
それがザフトの基地内部に入っていく……ここは今カガリがプラント議長と非公式の会談をしているはずの場所だった。
嫌な予感が胸中を埋め尽くす。
「……っ?!」
カガリたちと連絡手段を講じていたシオンの背後で爆発音が起こった。
ハンガーが破壊され、周囲を炎の海にして3機のモビルスーツが姿を現す。
鳴り止まないサイレン。混乱し、走り回る兵士たち。
シオンはその混乱に乗じて工場内に侵入した。
「くそっ、まるでヘリオポリスの時と同じじゃないかっ」
破壊された工場内を走り抜ける。すぐ近くでモビルスーツが戦闘を開始していた。
ハンガーの間を抜けたところで、アスランに手を引かれ避難するカガリを見つけた。
「カガリ! アスラン!」
「兄様!?」
「!? どうしてここに! プラントへ行ったんじゃ……」
前議長でラクスの父であるシーゲル・クラインの墓前へと向かったはずのシオンの登場に驚くアスラン。
その間にもあちこちで爆発音が鳴り響く。
「話は後だ。それよりここを離れるぞ。このままカガリを死なせるわけにはいかない」
そこで周囲をグルリと見渡すと、明らかに見捨てられたザクが2体倒れていた。
「……不本意だがしかたがない。こいつを借りよう」
「大丈夫なのか?」
シオンの言葉に、アスランは心配そうな表情を向ける。
終戦からずっとシオンはモビルスーツを避け続けていた。ほんの少しの距離を移動させるだけの格納庫内での移動ですら手伝うことは無かったのだ。
恐らくはクルーゼの一件が、何らかのトラウマとして彼の中に残っているからだろうと思ってはいるが、そんな精神状態で満足にモビルスーツを操れるとは思えない。
「俺がこっちのザクに乗る。アスランはカガリと一緒にそっちのやつに乗れ」
アスランの心配を他所に、シオンは2体のザクのうち、明らかに損傷している方のザクのコックピットのハッチを開け、中に入ろうとした。
それを慌ててアスランが止める。
「駄目だ! それならシオンがカガリを連れて無事なほうのザクに乗ってくれ。俺がそっちのザクに乗る!」
「言い争いをしてる余裕はない! お前の最優先任務は代表を護ることだろう? 解ったら俺が足止めしている間にカガリを連れて逃げろ!」
「……解かった」
シオンの言っていることは正しい。不承不承頷くしかないアスラン。
代表の護衛としてこの地に降り立った以上、シオンの言うとおり最優先事項はカガリの身の安全だ。
アスランはカガリを伴いザクの中へと入ると、ハッチを閉め、起動スイッチを入れる。
「アスラン! 兄様にモビルスーツの操縦は……っ」
「――大丈夫だ。シオンを信じよう」
不安をあらわにするカガリを落ち着かせるように言葉を紡ぐ。
その言葉はアスランが自分に向けて紡いだ言葉でもあった。
モニターが光り、倒れていたザクがゆっくりと立ち上がる。
ザクの動きを感知した黒いモビルスーツがビームライフルを構えこちらへと向かってくる。
シオンはアスランを先に行かせ、黒いモビルスーツ―――ガイアに向かって突っ込んだ。
ショルダーアタックをまともに受けたガイアは後方に吹き飛ぶ。
だが、動きを止めたのはほんの一瞬で、すぐに態勢を立て直したガイアが今度はビームサーベルを手にするとザクめがけて振り下ろす。
「この機体の装備は――」
シオンはパネルを操作し、素早くザクの搭載武器を確認すると、トマホークを手に取った。
「せめてカガリ達がこの場を離れるまではっ!」
振り下ろされたビームサーベルをギリギリのところで受け止める。
ぶつかり合う両者。つばぜり合いの後、お互いに素早く距離をとると再度切りかかる。
互角かと思われた戦闘だったが、事態は急変した。
シオンの駆るザクの動きが急に鈍くなる。
「っ?!……くそっ」
もともと損傷があった機体に限界がきたのだろう。
攻撃を受けたわけではないのに衝撃がコックピットを襲う。
モニター画面で機体状況を確認すると、あちこちに危険を知らせるマークが点滅していた。
『シオン!』
通信機からアスランの声が聞こえてくる。
目の前のザクに集中していたガイアはアスランのザクに気付くのが遅れた。
真横からショルダーアタックを食らったガイアは半壊したハンガーの上に倒れこむが、すぐにビームライフルを構えるとアスランのザクに向かってがむしゃらに撃ち続ける。
ビームの雨に晒されようとしたアスランのザク。それを庇うように、シオンのザクが前に出るとシールドを構えた。
『兄……様……?』
『――っく――ぁっ!!』
被弾し、その衝撃を皮切りに別の箇所も爆発を起こした機体が炎を上げる。
『シオン!!』
『兄様!!』
アスランは爆発を起こしたザクに走り寄ると、ボロボロになった機体を抱き起こした。
通信を繋ぎながら、目の前のガイアを牽制するためにビームライフルの狙いを定める。
『シオンっ、無事か?!』
『大丈夫……だ。それより……なぜ逃げなかった。逃げろと言ったはず……だ』
通信機から切れ切れの声が聞こえてくる。
『馬鹿なことを言うな! シオンを見捨てていけるわけがないだろう!』
『そうだ! 兄様だけ残して私たちだけが安全なところへなど!』
『……馬鹿だな。俺のことなど放っておけばいいものを……・』
『それ以上言ったら本気で殴るぞ。それでなくとも損傷した機体に乗るなんて無茶をしでかしてっ』
アスランの声に含まれた怒気に気付いたのだろう、シオンは申し訳なさそうな表情を浮かべると「悪い……言葉が過ぎた」と小さな声で呟いた。
なおも2機に攻撃しようとするガイアを一機の戦闘機が阻んだ。
その後方から2機のユニットが飛来する。戦闘機はユニットと速度を合わせると合体した。
『あれは……あれも新型か?』
『恐らくは』
『そう、か。アレに乗っているパイロットの腕がどの程度かは知らないが、あのモビルスーツの足止めくらいはできるだろう。その間に俺たちは脱出しよう』
『ああ、そうだな。カガリが少し負傷しているし、治療が必要だ。さっきデュランダル議長が新造艦に入るのが見えた。俺たちもそこへ行こう』
『……デュランダル? アスラン、プラントの新しい議長はデュランダルという名なのか?』
『? あぁ。珍しいな、シオンが政府要人の名を記憶していないなんて。議長の名はギルバート・デュランダル……クライン派からの選出だそうだ』
アスランの口から出た『ギルバート・デュランダル』の名とエクステンデット3人の登場にシオンは断ち切ることのできない運命を感じたのだった。
翌日、プラントへ向かうシャトルの中にシオンの姿があった。
アスランと同じようにサングラスで素顔を隠し、後部座席に座る。
窓の外を見やり、アスランやカガリとは最低限の会話しか交わさないシオン。
微妙な空気を保ったまま、シャトルはアーモリーワンのドックに入っていった。
カガリとアスランに続いてタラップを降りたシオンが、ここで別れることを告げようとしたと同時にカガリが振り返り、先に口を開いた。
「兄様、やはり会談には……」
「そういう約束だ」
どこか遠慮がちに問いかけてきたカガリに対して、まるで突き放すかのようにぴしゃりと言い切るシオン。
言葉だけ聞けば冷たく聞こえる声色だったが、シオンの表情はどこか柔らかく、カガリを気遣う雰囲気が漂っていた。
自分の殻に閉じこもるように、人との接触を避けていた以前のシオンとは明らかに変わり始めているのが分かる。
アスランにとって友であり兄のようにも慕っている彼が、自分らしさを取り戻してくれることは本当に嬉しく、思わず口元に笑みが浮かびそうになるのを必死に堪えて言葉を紡いだ。
「気をつけて。いい気分転換になるといいな」
「あぁ。カガリを頼む」
カガリはアスランを伴い、議長との会談へと向かうためシオンと別れた。
シオンもプラント本国へ行くシャトルに乗り換えようと場所を移動する。
途中、腕時計に視線を落とし発射時間を確認して小さくため息をついた。
「街でもぶらつくか……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ドサッと、何かが落ちる音がして反射的に視線を向けると、黒髪の少年が背後から金の髪の少女を抱かかえるようにして支えていた。
ご丁寧に片手が少女の胸の上に添えられている。
少女が激しい動きで少年の腕を振り払って走り去った。
なんとはなしに、ぼんやりとその光景を見ていたシオンだったが、逃げるように自分の傍を走り抜けようとする少女の顔を見た瞬間、体中に衝撃が走った。
「――……っ」
思わず呼び止めようと振り返るが、意外にも少女の足は早く、あっという間にシオンとの距離が広がる。
シオンは走り去る少女の後姿を見つめ、思わず手を伸ばした。「待ってくれ」と呼び止めたくなる衝動に襲われるが、なぜかその言葉を飲み込んだ。
ふわふわと風に揺れる柔らかな金の髪、しなやかに伸びた手足――。
その後姿が、記憶の奥底に眠る大切な存在だった少女と重なる。
「……サリア……」
不意に紡いだ名に自分で驚いたシオンは思わず口を手で覆った。
そんなはずはない、と、脳裏を過ぎった映像を打ち消そうとするが、相反するように鼓動が跳ねる。
ただの他人の空似だと自分を言い聞かせるも、少女が合流した2人の少年を目にしたシオンの瞳は驚愕に見開かれた。
「アウ…ル? スティング?!」
遠い昔に、その少女と共にいた少年達。自分は彼らを知っている。
「――ちょ…っと、待て……どういう、コトだ」
思いもよらない事態に思考回路が混乱するのを必死に整理する。
あの子達が生きているとは限らない。仮に生きていたとしても、こんな場所にいるはずがなかった。
彼らは、自分が逃げ出した場所――地球連合軍管轄のラボ――で出会った子たちで、到底、一般市民として普通の生活などしているわけがないのだ。
「っ……くっ」
更に暴れる鼓動に息が詰まる。
力なく壁に寄りかかり、胸を握り締め、シオンは荒くなる呼吸を整えようと努力した。
記憶の底に押し込め、二度と思い出したくないと思っていた記憶が甦り、じわじわとシオンを侵食する。
固定される身体。
身体中に取り付けられた数多くのコード。
与えられるのは苦痛と得体の知れない数々の薬物。
そして自分を取り囲んで、淡々と研究データを取る科学者たちの冷たい視線。
逃げることなど出来ず、永遠に続くと思われた地獄のような日々は、いまだシオンの心の奥底から消えることはなかった。
結果的に失敗とはいえ、この身体がコーディネイトされたものでなければ、とうの昔に自分は死んでいただろうと思うと、作り出してくれた『親』に感謝したくなる。
自嘲気味な笑みが口元に浮かんだ。
「――こんな状態で……生かされる意味は何なんだろうな……」
額に汗を滲ませ、ゆっくりと呼吸を整える。
俯いていた顔を上げ、少女の走り去った方向へと視線を向けると、かろうじてまだ追いかけることができる距離に彼らは居た。
「くそ……っ」
消すことの出来ない、身体に染み付いた恐怖と痛みの記憶。その記憶が甦るたびに変調をきたす身体。
そんな自分を叱咤し唇を噛み締めると、シオンは少女たちの後を追って走り出した。
「俺に何をしろって言うんだ…サリア……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――ここは……」
3人を追ってたどり着いたのはザフト軍の工場だった。敷地内から迎えに来たバギーに乗って彼らは中へと消えていく。
彼らがシオンの記憶にある人物と同一であれば、彼らは地球連合軍に属する強化人間――エクステンデット――だ。
それがザフトの基地内部に入っていく……ここは今カガリがプラント議長と非公式の会談をしているはずの場所だった。
嫌な予感が胸中を埋め尽くす。
「……っ?!」
カガリたちと連絡手段を講じていたシオンの背後で爆発音が起こった。
ハンガーが破壊され、周囲を炎の海にして3機のモビルスーツが姿を現す。
鳴り止まないサイレン。混乱し、走り回る兵士たち。
シオンはその混乱に乗じて工場内に侵入した。
「くそっ、まるでヘリオポリスの時と同じじゃないかっ」
破壊された工場内を走り抜ける。すぐ近くでモビルスーツが戦闘を開始していた。
ハンガーの間を抜けたところで、アスランに手を引かれ避難するカガリを見つけた。
「カガリ! アスラン!」
「兄様!?」
「!? どうしてここに! プラントへ行ったんじゃ……」
前議長でラクスの父であるシーゲル・クラインの墓前へと向かったはずのシオンの登場に驚くアスラン。
その間にもあちこちで爆発音が鳴り響く。
「話は後だ。それよりここを離れるぞ。このままカガリを死なせるわけにはいかない」
そこで周囲をグルリと見渡すと、明らかに見捨てられたザクが2体倒れていた。
「……不本意だがしかたがない。こいつを借りよう」
「大丈夫なのか?」
シオンの言葉に、アスランは心配そうな表情を向ける。
終戦からずっとシオンはモビルスーツを避け続けていた。ほんの少しの距離を移動させるだけの格納庫内での移動ですら手伝うことは無かったのだ。
恐らくはクルーゼの一件が、何らかのトラウマとして彼の中に残っているからだろうと思ってはいるが、そんな精神状態で満足にモビルスーツを操れるとは思えない。
「俺がこっちのザクに乗る。アスランはカガリと一緒にそっちのやつに乗れ」
アスランの心配を他所に、シオンは2体のザクのうち、明らかに損傷している方のザクのコックピットのハッチを開け、中に入ろうとした。
それを慌ててアスランが止める。
「駄目だ! それならシオンがカガリを連れて無事なほうのザクに乗ってくれ。俺がそっちのザクに乗る!」
「言い争いをしてる余裕はない! お前の最優先任務は代表を護ることだろう? 解ったら俺が足止めしている間にカガリを連れて逃げろ!」
「……解かった」
シオンの言っていることは正しい。不承不承頷くしかないアスラン。
代表の護衛としてこの地に降り立った以上、シオンの言うとおり最優先事項はカガリの身の安全だ。
アスランはカガリを伴いザクの中へと入ると、ハッチを閉め、起動スイッチを入れる。
「アスラン! 兄様にモビルスーツの操縦は……っ」
「――大丈夫だ。シオンを信じよう」
不安をあらわにするカガリを落ち着かせるように言葉を紡ぐ。
その言葉はアスランが自分に向けて紡いだ言葉でもあった。
モニターが光り、倒れていたザクがゆっくりと立ち上がる。
ザクの動きを感知した黒いモビルスーツがビームライフルを構えこちらへと向かってくる。
シオンはアスランを先に行かせ、黒いモビルスーツ―――ガイアに向かって突っ込んだ。
ショルダーアタックをまともに受けたガイアは後方に吹き飛ぶ。
だが、動きを止めたのはほんの一瞬で、すぐに態勢を立て直したガイアが今度はビームサーベルを手にするとザクめがけて振り下ろす。
「この機体の装備は――」
シオンはパネルを操作し、素早くザクの搭載武器を確認すると、トマホークを手に取った。
「せめてカガリ達がこの場を離れるまではっ!」
振り下ろされたビームサーベルをギリギリのところで受け止める。
ぶつかり合う両者。つばぜり合いの後、お互いに素早く距離をとると再度切りかかる。
互角かと思われた戦闘だったが、事態は急変した。
シオンの駆るザクの動きが急に鈍くなる。
「っ?!……くそっ」
もともと損傷があった機体に限界がきたのだろう。
攻撃を受けたわけではないのに衝撃がコックピットを襲う。
モニター画面で機体状況を確認すると、あちこちに危険を知らせるマークが点滅していた。
『シオン!』
通信機からアスランの声が聞こえてくる。
目の前のザクに集中していたガイアはアスランのザクに気付くのが遅れた。
真横からショルダーアタックを食らったガイアは半壊したハンガーの上に倒れこむが、すぐにビームライフルを構えるとアスランのザクに向かってがむしゃらに撃ち続ける。
ビームの雨に晒されようとしたアスランのザク。それを庇うように、シオンのザクが前に出るとシールドを構えた。
『兄……様……?』
『――っく――ぁっ!!』
被弾し、その衝撃を皮切りに別の箇所も爆発を起こした機体が炎を上げる。
『シオン!!』
『兄様!!』
アスランは爆発を起こしたザクに走り寄ると、ボロボロになった機体を抱き起こした。
通信を繋ぎながら、目の前のガイアを牽制するためにビームライフルの狙いを定める。
『シオンっ、無事か?!』
『大丈夫……だ。それより……なぜ逃げなかった。逃げろと言ったはず……だ』
通信機から切れ切れの声が聞こえてくる。
『馬鹿なことを言うな! シオンを見捨てていけるわけがないだろう!』
『そうだ! 兄様だけ残して私たちだけが安全なところへなど!』
『……馬鹿だな。俺のことなど放っておけばいいものを……・』
『それ以上言ったら本気で殴るぞ。それでなくとも損傷した機体に乗るなんて無茶をしでかしてっ』
アスランの声に含まれた怒気に気付いたのだろう、シオンは申し訳なさそうな表情を浮かべると「悪い……言葉が過ぎた」と小さな声で呟いた。
なおも2機に攻撃しようとするガイアを一機の戦闘機が阻んだ。
その後方から2機のユニットが飛来する。戦闘機はユニットと速度を合わせると合体した。
『あれは……あれも新型か?』
『恐らくは』
『そう、か。アレに乗っているパイロットの腕がどの程度かは知らないが、あのモビルスーツの足止めくらいはできるだろう。その間に俺たちは脱出しよう』
『ああ、そうだな。カガリが少し負傷しているし、治療が必要だ。さっきデュランダル議長が新造艦に入るのが見えた。俺たちもそこへ行こう』
『……デュランダル? アスラン、プラントの新しい議長はデュランダルという名なのか?』
『? あぁ。珍しいな、シオンが政府要人の名を記憶していないなんて。議長の名はギルバート・デュランダル……クライン派からの選出だそうだ』
アスランの口から出た『ギルバート・デュランダル』の名とエクステンデット3人の登場にシオンは断ち切ることのできない運命を感じたのだった。