Northern Lights(種無印)
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6話 サイレントラン
医務室に戻ったシオンは両ベッドの間に椅子を置いて、助け出した少年たちの様子を見守っていた。
最初に助けた少年は出血が酷く危険な状態だったが、今は小康を保っている。しかし、未だ意識の回復はなかった。
もう一人の少年は外傷も少なく、意識さえ戻ればすぐにでも会話が出来そうだ。
連合に属するこの艦での自分の立場、すべき事、できる事。
目の前の彼らの立場とこれから先。
思案に暮れながらも、シオンは二人の看護を懸命に続けた。
自然と医務室に篭りきりとなり、入手できる情報も限られる。
だから知らなかった。
この艦を追尾している相手がクルーゼ隊だということを。
マリューたちが自分の警告を無視してキラをストライクに乗せようとしているということを。
そして、アークエンジェルが〝どこに〟向かっているのかということを―――
シオンが医務室に篭っている頃、ブリッジでは深刻な話し合いが持たれていた。
「ザフト艦の動き、つかめるかしら」
「無理です。ヘリオポリスの残骸の中にはいまだ熱を持つものも多く、これではレーダーも熱探知も……」
マリューの問いに声を落としながら答える伍長に、「そいつはむこうも同じだと思うぜ」とムウが気休めのように言った。
「今攻撃を受けたらこちらに勝ち目はないわ」
独り言のように呟き、マリューは考え込む。
その言葉にムウは、アークエンジェルの現状を確認するように言葉を並べた。
「だな。こっちには虎の子のストライクと俺のボロボロのメビウスのみ。戦闘はな……じゃ、最大戦速で振り切るかい? かなりの高速艦なんだろ? こいつは」
「むこうにも高速艦のナスカ級がいます。振り切れるかどうか……」
「なら、素直に投降するかい? それも1つの手ではあるぜ?」
ムウは肩をすくめてみせた。が、それを聞いたマリューはキッパリと言い放った。
「状況が厳しいのは解っています。でも、投降するつもりはありません。この艦とストライクは絶対にザフトには渡せません。我々はなんとしてもこれを無事に大西洋連邦司令部へ持ち帰らなければならないのです」
「だが、月本部とすら連絡の取れないこの状況でどうする? 意気込みは買うが、それだけじゃな……」
マリューとムウが難しい顔で考え込んでいると、今まで黙っていたナタルが口を開いた。
「艦長、私はアルテミスへの入港を具申いたします。あそこは現在の本艦の位置からもっとも取りやすいコースにある友軍です」
ナタルの台詞にハッとするムウとマリュー。
二人は自分の中にある『アルテミス』に関する情報を素早く掻き集めた。
「傘のアルテミスか……」
「ユーラシアの軍事要塞ね。でも、〝G〟もこの艦も、公式発表どころか友軍の認識コードすら持っていない状況よ……」
言い淀むムウの言葉をを代弁するようにマリューが呟いた。
公式発表どころか、極秘に開発・製造していた戦艦とMS。
その基地を敵軍に襲われ、新型MS5機のうち4機は敵の手に渡った挙句、隠れ蓑にしていた中立コロニーは崩壊した。
何をどう説明すれば、味方だと認識してもらえるのか……。黙り込むマリューの表情が曇る。
「アークエンジェルとストライクは我が大西洋連邦の極秘機密だということは無論私とて承知しております。ですがこのまま月に針路を取ったとしても、途中戦闘も無くすんなり行けるとはお思いではありますまい。物資の搬入もままならぬまま発進した我々には、早急に補給が必要です。事態はユーラシアにも理解してもらえると思います。現状はなるだけ戦闘を避け、アルテミスにて補給を受け、そのうえで月本部との連絡をはかるのが、もっとも現実的な策だと思いますが」
「アルテミス……ねぇ。そうこちらの思惑通りに行くかな?」
自信満々な様子のナタルとは対照的に、ムウは懐疑的に呟く。自分達に都合よく、全ての事が上手く進むなどあるわけがないと。
「でも、今は確かにそれしか手はなさそうね。デコイ用意! 発射と同時にアルテミスへ航路修正の為、メインエンジン噴射を行う。後は艦が発見されるのを防ぐ為、慣性航行に移行。第2戦闘配備! 艦の制御は最短時間内にとどめよ」
マリューはためらいつつも命令を下した。それを受けてブリッジが慌ただしく動き始める。
「アルテミスまでのサイレントランニング、およそ2時間ってとこか……あとは運だな」
ムウの呟きにクルーが一斉に神妙な面持ちに変わった。
「デコイ発射! メインエンジン噴射! アルテミスへの針路へ航路修正!」
医務室に戻ったシオンは両ベッドの間に椅子を置いて、助け出した少年たちの様子を見守っていた。
最初に助けた少年は出血が酷く危険な状態だったが、今は小康を保っている。しかし、未だ意識の回復はなかった。
もう一人の少年は外傷も少なく、意識さえ戻ればすぐにでも会話が出来そうだ。
連合に属するこの艦での自分の立場、すべき事、できる事。
目の前の彼らの立場とこれから先。
思案に暮れながらも、シオンは二人の看護を懸命に続けた。
自然と医務室に篭りきりとなり、入手できる情報も限られる。
だから知らなかった。
この艦を追尾している相手がクルーゼ隊だということを。
マリューたちが自分の警告を無視してキラをストライクに乗せようとしているということを。
そして、アークエンジェルが〝どこに〟向かっているのかということを―――
シオンが医務室に篭っている頃、ブリッジでは深刻な話し合いが持たれていた。
「ザフト艦の動き、つかめるかしら」
「無理です。ヘリオポリスの残骸の中にはいまだ熱を持つものも多く、これではレーダーも熱探知も……」
マリューの問いに声を落としながら答える伍長に、「そいつはむこうも同じだと思うぜ」とムウが気休めのように言った。
「今攻撃を受けたらこちらに勝ち目はないわ」
独り言のように呟き、マリューは考え込む。
その言葉にムウは、アークエンジェルの現状を確認するように言葉を並べた。
「だな。こっちには虎の子のストライクと俺のボロボロのメビウスのみ。戦闘はな……じゃ、最大戦速で振り切るかい? かなりの高速艦なんだろ? こいつは」
「むこうにも高速艦のナスカ級がいます。振り切れるかどうか……」
「なら、素直に投降するかい? それも1つの手ではあるぜ?」
ムウは肩をすくめてみせた。が、それを聞いたマリューはキッパリと言い放った。
「状況が厳しいのは解っています。でも、投降するつもりはありません。この艦とストライクは絶対にザフトには渡せません。我々はなんとしてもこれを無事に大西洋連邦司令部へ持ち帰らなければならないのです」
「だが、月本部とすら連絡の取れないこの状況でどうする? 意気込みは買うが、それだけじゃな……」
マリューとムウが難しい顔で考え込んでいると、今まで黙っていたナタルが口を開いた。
「艦長、私はアルテミスへの入港を具申いたします。あそこは現在の本艦の位置からもっとも取りやすいコースにある友軍です」
ナタルの台詞にハッとするムウとマリュー。
二人は自分の中にある『アルテミス』に関する情報を素早く掻き集めた。
「傘のアルテミスか……」
「ユーラシアの軍事要塞ね。でも、〝G〟もこの艦も、公式発表どころか友軍の認識コードすら持っていない状況よ……」
言い淀むムウの言葉をを代弁するようにマリューが呟いた。
公式発表どころか、極秘に開発・製造していた戦艦とMS。
その基地を敵軍に襲われ、新型MS5機のうち4機は敵の手に渡った挙句、隠れ蓑にしていた中立コロニーは崩壊した。
何をどう説明すれば、味方だと認識してもらえるのか……。黙り込むマリューの表情が曇る。
「アークエンジェルとストライクは我が大西洋連邦の極秘機密だということは無論私とて承知しております。ですがこのまま月に針路を取ったとしても、途中戦闘も無くすんなり行けるとはお思いではありますまい。物資の搬入もままならぬまま発進した我々には、早急に補給が必要です。事態はユーラシアにも理解してもらえると思います。現状はなるだけ戦闘を避け、アルテミスにて補給を受け、そのうえで月本部との連絡をはかるのが、もっとも現実的な策だと思いますが」
「アルテミス……ねぇ。そうこちらの思惑通りに行くかな?」
自信満々な様子のナタルとは対照的に、ムウは懐疑的に呟く。自分達に都合よく、全ての事が上手く進むなどあるわけがないと。
「でも、今は確かにそれしか手はなさそうね。デコイ用意! 発射と同時にアルテミスへ航路修正の為、メインエンジン噴射を行う。後は艦が発見されるのを防ぐ為、慣性航行に移行。第2戦闘配備! 艦の制御は最短時間内にとどめよ」
マリューはためらいつつも命令を下した。それを受けてブリッジが慌ただしく動き始める。
「アルテミスまでのサイレントランニング、およそ2時間ってとこか……あとは運だな」
ムウの呟きにクルーが一斉に神妙な面持ちに変わった。
「デコイ発射! メインエンジン噴射! アルテミスへの針路へ航路修正!」