Northern Lights(種無印)

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28話 暁の宇宙へ


 オーブからの再三の会談要求にも関わらず、連合は再びオーブへの侵攻を再開した。

 行政府で侵攻再開の報せを受け取ったシオン達は愕然とする。
「……再度の会談要請に何も答えないまま……っ」
 湧き上がる怒りに拳を震わせながらも、指示を仰ごうとウズミへと視線を向ける。
 そこには、自分と同じように怒りを顔に浮かべる指導者―ウズミ―が居た。
「おのれ……これが回答か、地球軍!! 敵とみなせば、その言葉すら聞かぬか!?」
 ウズミの怒声が行政府内に響いた。


     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 迎撃の為、アストレイ隊が出撃していく。その中には当然のようにミゲル、ラスティ、ニコルの駆るアストレイの姿もあった。
 ドックで被弾箇所の処置をしていたアークエンジェルも発進し、敵艦隊を目指す。

 押し寄せてくるストライク・ダガー隊を相手に、キラは瞬時に数機のダガーを戦闘不能へと追い込んでいくが、すぐ後方から別の機体が現れては押し寄せてくる。
 すぐ眼下では、ミゲルたちのアストレイが応戦しているが、まさに焼け石に水だ。
 ――と、昨日の新型3機―レイダー、フォビドゥン、カラミティ―が姿を現した。
 3機はフリーダムを見つけた途端、一気に襲い掛かってきた。
 レイダーは機関砲、フォビドゥンはレールガン、カラミティは全ての砲を乱れ撃ちしてフリーダムを狙う。
 キラは必死で機体を駆り、それらを回避するが、3機相手ではそれが精一杯で反撃は難しい。
 そんなフリーダムを視界に捕らえながらも加勢できない状況のアストレイでは、ラスティたちの通信が行き交っている。
<ミゲルっ、上! フリーダム援護しないと!>
<わかってる! けど、目の前のやつら片付けるのが精一杯だ!>
<――もう少し……ダガー隊の数が減ってくれれば……っ>
 そう言ってフリーダムへと意識を向けたニコルは、別の機影を見つけて息をのんだ。
<あれは……アスラン?!>
 そこに現れた紅い機体は間違いなくジャスティスだった。
<え?! ――あ! あっち、ディアッカだ!>
 今度はラスティが叫ぶ。
 岸には、アークエンジェルを取り囲む戦闘機へ向けて超高インパルス長射程狙撃ライフルで援護するバスターの姿があった。
 そんな彼らの行動に、ミゲルたちの胸に熱いものがこみあげる。
 命令を受けたわけではない。それぞれの意志で、思いで、戦場に降り立ちながら、同じものを守るために戦う――。
 仲間の援護を、これほど心強いと思ったことは今までなかった。
 だが、現実は甘くない。
 上陸したダガー隊が軍施設とアストレイ隊を破壊していくのを、ストライクとバスターが懸命に食い止め、海上ではアークエンジェルが“ゴットフリート”で地球軍艦艇を沈めていた。
 それでも数の上での劣勢を覆すことは不可能で、オーブ艦隊は一隻、また一隻と沈められていく。
 それでも皆、退くことなく戦い続けていた。


 同刻、行政府地下本部。

 部屋には首長たちと現代表のホムラ、そしてシオンとウズミの姿があった。

「――準備、整いました。作業には後2時間ほどかかるとのことです」
「かかりすぎる。すでに時間の問題なのだ……」
 シオンの報告にウズミは首を横に振る。
 モニターには刻々と破壊の度合いを深めていく市街地、苦戦する艦隊とMS隊のようすが映し出されている。
 敗色を濃くしていく状況にシオンは唇を噛み締めた。
 アマテラスでの出撃をウズミに止められたその時から、ウズミの選択しようとしていることに薄々気づいてはいた。
 だが……今からでも出撃すればまだ間に合うのではないか、こんな時のために自分はあのMSを与えられたのではなかったのか、そんな思いが胸に渦巻く。
「――シオン
 傍らのシオンの胸中を察してか、ウズミが諭すような柔らかな声でシオンの名を呼ぶ。
 その声に、シオンが視線を移すと、そこには決意を秘めた深い色を宿す双眸があった。
「残存の兵力はカグヤに集結させるよう、命令を。オノゴロは放棄する!」
 苦渋の選択にシオンの表情が苦しげに歪んだ。

 全軍に離脱命令が出され、それぞれが集結場所であるカグヤ島を目指す。


     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


 マスドライバー管制室に呼び出されたマリューたちは、ウズミから思いもかけない提案をされた。
「オーブを離脱!? 我々に脱出せよとおっしゃるのですか!? ウズミ様」
 予想外の言葉だったのだろう、マリューが食ってかかるような口調でウズミに問うが、まるでその怒りを褒めるように微笑むウズミは、ゆっくりと口を開いた。
「あなた方も、もうお分かりであろう。オーブが失われるのも、もはや時間の問題だ」
 ――オーブが失われる――
 その言葉にマリューは表情を引き締め、傍らに控えていたシオンは表情を曇らせた。
「お、お父様……何を!?」
 いつもとは違う重みを感じる父の言葉とシオンの表情に、父の思惑を感じ取ったカガリは、驚いて立ち尽くすしかできない。
「人々の避難は完了した。支援の手はある……後の責めは我らが負う。が、たとえオーブを失っても、失ってはならぬものがあろう」
 そしてウズミの言葉を引き継ぐように、シオンが口を開いたと同時に、キラとアスラン、ディアッカが遅れて管制室へと入ってきた。
「地球軍の背後にはブルーコスモスの盟主、アズラエルの姿が。そしてプラントも……今や『コーディネイターこそが新たな種』とするパトリック・ザラの手の内……」
 その言葉にアスランが辛そうに俯く。
「このまま進めば世界はやがて、認めぬ者同士が際限なく争うばかりとなろう……そんなものでよいのか!? 君たちの世界は!」
 ウズミが厳しい口調でマリューたちに告げると、彼女たちの表情が厳しいものへと変わった。
「――もし、あなた達……アークエンジェルがオーブと共に滅びるようなことになれば、ウズミ様の仰るとおり――世界はナチュラルとコーディネイターに分かれて戦い続けるだけだ。そんな世界に疑問があるから、今ここにいる」
 シオンはムウ、マリュー、そしてキラ、アスラン、ディアッカへと順に視線を移していく。
 深海のように澄んだ瞳と穏やかな声は「だから今ここで斃れてはいけない」と強く訴えているように感じた。
 そんなシオンを見つめるウズミの目はあたたかで、まるで父親のようだとマリューが考えていると、その視線が今度は自分に向けられる。
「またも過酷な道だが……判ってもらえような? マリュー・ラミアス」
 指し示された、今よりもさらに険しい道――自分に託されたものの重みをひしひしと感じ、思わず傍らに立つムウを見やった。
 するとムウは彼女の視線をしっかりと受け止めると小さく頷く。それだけでマリューの中に力が湧いてくる。
 マリューはウズミの視線を受け止め「小さくとも強い灯は消えぬと……私たちも信じております」と答えると、ウズミからシオンへと視線を移し、ふわりと微笑んだ。


 宙へと上がる準備があわただしく進められる。
 空中戦が難しいバスターは既にアークエンジェルへ、M1アストレイとパイロットのミゲルたちはクサナギへと、それぞれ乗り込んだ。

 管制室を歩き回りながら指示を飛ばすウズミのそばを、カガリがまとわりつくように移動している。
「お父様! 脱出するなら皆で! 残してなど行けません!」
 とうに脱出させたオペレーターたちの代わりに管制を受け持っている首長たち。そのそばでサポートしているシオンは、カガリの様子を視線だけで追いかけていた。
 父との別れが迫っている現実を無意識に感じているのだろう。それほどにカガリは必死だった。
 沖合いに停泊していた地球連合軍艦隊に動きがあった。管制室に緊張がはしる。
「ラミアス殿、発進を!」
 ウズミがアークエンジェルを促す。
<わかりました! キラ君たちは?>
 マリューの問いかけにキラが素早く答えた。
<発進を援護します! アークエンジェルは行ってください!>
 

 連合の新型3機が現れ、カラミティがアークエンジェルに砲を向けるが、フリーダムとジャスティスの援護射撃により、あっけなく大気圏離脱を許した。
 あとはクサナギだけ。
 3機を相手にキラとアスランが必死に戦っている最中、マスドライバー管制室では、いつまでもそばを離れようとしないカガリをウズミが無理矢理連れ出していた。
シオン、そなたも来るのだ」
 有無を言わせないウズミの言葉にシオンは黙って従った。


「いやです! お父様が残るなら……!」
 カガリが涙を溜めながら必死に訴えるが、ウズミは厳しい声ではねつける。
「我らには我らの役目、お前にはお前の役目があるのだ! なぜそれが判らん!?」
 怒鳴られたカガリは息をのんで押し黙った。
 ウズミに引きずられながらカガリは、後ろからついて来るシオンに視線を送り助け舟を求めるが、彼がそれに応じてくれる気配はなかった。
 その様子に、カガリの不安が更に広がる。
(――まさか……まさか、兄様までお父様と一緒に……?!)
 そして気づくとマスドライバー発射場にたどり着いていた。
 クサナギのハッチでは、キサカが焦れた様子で待っている。
「ウズミ様……シオン、カガリ!」
 焦ったような声をあげるキサカに向かって、ウズミはカガリを投げつけるように押し付けた。
 シオンも続いてクサナギへと移動する。
「急げキサカ、シオン! このバカ娘を頼むぞ」
「は!」
「…………」
 キサカは万感の思いを込めてウズミを見つめるが、シオンは目の前に迫りくる別れの瞬間に、どうしていいか分からなくなる。
 自分に新しい生をくれた人――命を懸けて尽くそうと思ったその人が、今、国と共に散ろうとしている――。自分はどうすればいいのか、どうしたいのか。
「ぅ……お父様」
 今にも泣き出しそうな顔で見上げてくるカガリに、ウズミはふと表情を和らげる。
「……そんな顔をするな……『オーブの獅子』の娘が」
 ウズミの手がいとおしむようにカガリの髪を撫でた。
「そなたの父で、幸せであったよ……」
 そう言って彼が離れると同時にシオンがクサナギのハッチから飛び出した。
「キサカ! カガリを頼む!」
 シオンのその言葉と行動の意味をカガリが理解する前に無常にもハッチが閉じられる。
「ああ……っ!」
 カガリが慌ててハッチに取り縋るが、あっという間にウズミとシオンが立つタラップが離れていく。
「お父様ぁ! 兄様ぁーっ!」
 分厚い隔壁に隔てられ、聞こえるはずも無いのに、カガリはハッチを叩き続けながら叫んだ。


「勝手な真似を……」
 シオンの行動の意味を悟ったウズミは、怒るわけでも呆れるわけでもなく、ただ小さく笑みを漏らしながら呟いた。
 それはまるで、小さな子供の悪戯を注意しながらも「ほどほどにしなさい」と笑っている親のようで。
「――最後の最後までそなたを頼る結果となってしまったか……後のことを頼んだぞ、シオン
「ウズミ、様……?」
 ウズミの意図が分からない。
 オーブと命運を共にしようとする今、自分に『後のことを頼む』とはどういう意味だ。
「別の未来を求むなら、そこへ向かえ。たとえそこに待つものが過酷な道でも行かねばならぬ」
 ウズミの言葉の意味を理解したシオンは思わず声を荒げた。
 最後までウズミと共にあれると信じていた。だが、彼の言葉は、自分達の道は分かたれたと言っているように聞こえる。
「別の未来に……その未来にウズミ様のいる場所はあるのですか?! それがあるなら俺は行きます。でも! それがないのなら最後までお傍にっ……失くすのはサリアだけでいいっ! 1人はもう……っ」
 シオンがそこまで感情を顕にしたのはサリアを失って以来だった。
 ウズミの大きく温かい手がシオンの肩に乗せられる。
「ならぬ。たとえ私を失っても、そなたは1人ではなかろう? もう見つけたはずだ。己が翼を休ませることのできる場所を」
「そんな場所……」
「サリアを失って以来、そなたの瞳は真の意味で生きてはいなかった。ヘリオポリスへ行かせた後も、そのことが気にかかっておった……だが、戻ってきたそなたの瞳は以前とはどこか違った。そなたを変えたのはキラ・ヤマトか? それとも他の者か? いずれにしてもそなたは“約束の地”終の棲家を見つけたのだ」
「……!? そんなことない! 俺は……俺にはもう、あなた以外に必要とするものなんて――」
 “ない”そう言おうとしたその瞬間、シオンの脳裏にラクスの姿が浮かんだ。

 ――わたくしの力と想いもあなたと共に……

 そう言って微笑んだ彼女を強く抱き締めたあの瞬間、傍に居たいと確かに願った自分がいたのを思い出す。
「…………」
 そして、それをウズミは見逃さなかった。
「その様子だと心当たりがあるようだな」
「――俺は……」
「民と国とカガリを頼む。私はそなたを誇りに思う――我が息子よ」
「……父上」
 シオンはためらいがちに、その言葉を呟いた。
 ウズミを父のように慕いながらも、その想いは相手にとって不要かも知れないと、一度も口にすることの無かった言葉。
 けれど今、その人から“誇り”だと“息子”だと告げられた。
 その事実が嬉しく……そして悲しくて、シオンの視界が揺れる。
「もう1つ、そなたに頼みがある」
 ウズミは懐から1枚の写真を取り出した。
「これをカガリに渡して欲しい」
 受け取った写真に目を落とすと、そこにはやさしい笑みを浮かべた茶色の髪の女性が金の髪の赤ん坊と茶色の髪の赤ん坊を抱いていた。
 何気なくその写真を裏返したシオンは、そこに書かれた名前に驚きを隠せなかった。

『キラ&カガリ』

「これ、は……」
(ここに書かれている言葉が事実ならあの2人は―――)
 シオンは顔を上げてウズミを凝視した。対してウズミは無言のまま力強く頷いた。
「頼んだぞ。あれに伝えて欲しい……『お前は独りではない。兄弟がおる』と」
「――はい……了解、しました。必ずカガリに渡します」

 ウズミの決意を読み取ったシオンはそれしか言うことができず、一礼すると、振り返ることなくその場を後にした。
 

     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 クサナギはマスドライバーでの発射準備に入りながらも、なかなか出発できないでいた。
 原因は連合のモビルスーツだ。
 キラとアスランが奮闘するものの3対2では分が悪く、焦りも手伝ってか戦況は良いとは言えない。
 時間だけが虚しく経過していく。

<悪いがここから先は一歩も通さん!>
 その強い意志を感じさせるような強い光を放つモビルスーツ、アマテラスが現れた。
 それを見つけたキラが嬉しそうに声を発する。
シオンさん!!>
<遅れてすまない>
 新しい獲物に興味を示す獣のように、カラミティ、レイダー、フォビドゥンが一斉にアマテラスに向かって攻撃を開始する。
 フリーダムとジャスティスが援護に回り、アマテラスはカラミティに向かってビームライフルを放つが、フォビドゥンが割って入った。
 湾曲されたビームが近くを飛んでいたダガーに当たる。
 味方の被害などお構いなしに、レイダーとカラミティが攻撃を続けていた。

 ――と、轟音と共にマスドライバーからクサナギが射出される。

「キラ君、アスラン君。行け!」
<<はい!>>
 発射施設から弾丸のようにクサナギが飛び出してくる。
 クサナギに向かった2機――フリーダムとジャスティスを落そうと、カラミティがビームを放つのをアマテラスがライフルで阻止する。
 先にジャスティスがクサナギの船体にしがみ付き援護射撃を開始する。次いで反対側にフリーダムが追いすがる。懸命に相対速度を合わせ、船体の張り出した箇所に取り付いた。
シオンさん!」
 限界ギリギリまで3機を相手にしたシオンはここまでと判断を下し、機体を翻してバーニアスラスターを全開にした。
 キラは全神経を集中させ、フリーダムの腕を伸ばす。アマテラスも懸命に腕を伸ばしその腕を取ろうとする。
 幾度かの後、ついにアマテラスが伸ばした手をフリーダムが捉えた。しっかりと握り、そのまま力強く引き寄せる。
 アマテラスも無事に船体に取り付くことができた。

 なおも追いすがってくるカラミティら3機に向かってジャスティス、フリーダム、アマテラスが砲口を向ける。
 3機から放たれた砲火は海面を撃ち、その際に生じた水しぶきが敵の視界を奪う。
 その隙を突いてクサナギは成層圏へと飛び立った。



 両機が飛び立った後、轟音と共にマスドライバーレールが炎を噴き、次々と誘爆する。それと同時にオノゴロ本島にあるモルゲンレーテからも火の手が上がった。
 中立国に不似合いな軍事技術を生み出してきた国営企業は高く炎を上げて燃え尽きた。
 誰もが望んだ平穏な暮らしを謳歌できた国。まさに楽園と呼ぶに相応しかった場所――オーブ。

 ――生に対する執着を失くしかけた自分に、生きる理由と喜びを教えてくれた人。
 ――愛する人の終の地。
 “父”と呼べる人と“祖国”と呼べる場所の最期をアマテラスのコックピットから涙を流し、見守った。

 目的のマスドライバーとモルゲンレーテの消失に、連合も侵攻の手を止め、自分たちが滅びに導いた国の最後を見ていた。


「――……いつの日か必ずこの国は取り戻す!!」

 新たな決意を胸に秘め、アマテラスは宙へと上った。
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