Northern Lights(種無印)
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26話 決意の砲火
ミゲル、ラスティ、ニコルの3人を連れて、シオンはアークエンジェルの繋留されているドックへとやってきた。
ほぼ補修作業の終ったその艦は、退艦する者と残留する者でごった返している。
ラスティは目ざとくサイとカズイを見つけると、大声で彼らの名前を叫んだ。
「おーい、サイー、カズイー!」
「……え!? ラス……ティ? それに……ミゲル?」
「えっ? なんでここに? っていうか、その格好……」
手を振って走り寄ってくるラスティの姿を目にし、懐かしさに表情を綻ばせるが、その表情はすぐに一転し、2人とも唖然とする。
それもそのはず、目の前の彼はパイロットスーツに身を包んでいたからだ。いや、ラスティだけではなくミゲルとシオンも同じように……。
自分のパイロットスーツに釘付けになっているサイとカズイの視線に「ああ、これ?」とラスティが説明を始めた。
「シオンに無理言って連れてきてもらったんだ。見ての通り、今回の戦闘俺らも出るから」
「えっ!?」
その言葉にカズイの肩がビクリと震える。
「お前らは降りるんだろう? そしたら、もう会えないだろうと思ってさ。ミリィはどこだよ」
「彼女なら捕虜のところだと思う。カズイは降りるけど、俺とミリィは残るんだ」
ミリアリアを探すようにキョロキョロと周りを見回すラスティに、サイが申し訳なさそうに答えた。
その答えに、いつの間にか輪に加わっていたミゲルが反応する。
「……残るのか」
表情を変えず、そう呟かれるミゲルの言葉は、まるで『民間人なのになぜ降りないんだ』と問いかけているような気がした。
「うん。やっぱりオーブは俺たちの国だから。守りたいんだ」
力強くそう答えるサイに、ミゲルは「そうか……」と小さく微笑んだ。
するとそこにタイミング良く、ミリアリアが通りかかった。
「うそ!? ラス? ミゲル?」
「よっ、おひさー元気だったか?」
「捕虜のところにいたと聞いたが」
片手を上げて軽く答えるラスティと相変わらず堅苦しいミゲル。
久しぶりに会った変わらぬ2人の姿にミリアリアの表情も緩む。
「ええ。そうよ。さっき解放してきたところ」
「捕虜って“ザフト”?」
「うん……」
そこで僅かにミリアリアの表情が暗くなる。
シオンからトールが戦死したらしいことは聞いていた。そして、彼を殺したのが自分たちの仲間であることも。
そんな彼女にかける言葉が見つからず、渋い表情を浮かべるミゲルが助けを求めるようにラスティへと視線を向けた。
(こんな時だけ俺に振るなよー……)
「あー……で? その捕虜になった間抜けなヤツってどんなヤツ?」
重くなった空気をかき消すように必死で振舞うラスティ。
「間抜けって……そういえば2人なら知ってるかしら? バスターのパイロットなの」
「バスター!?」
ミリアリアの言葉に今まで黙っていたニコルが声を上げた。
「あー、悪ぃ。誰がどの機体に乗ってるかまでは知らねぇんだ」
申し訳なさそうに告げるラスティの言葉にミリアリアの表情が曇る。
「そう……」
「あっ、ニコル、お前なら知って――――」
「金髪の男なんだけど……」
ヘリオポリス崩壊時に戦線離脱してしまった自分よりも、ニコルなら何か知っているだろうと話を振ろうとした途端に告げられたミリアリアの言葉。
その内容にラスティの動きがピタリと止まる。
「……金髪? もしかして色黒? んでもって軽くてタラシっぽいヤツ?」
「タラシかどうかは知らないわよ。でも他は合ってるわ。知ってるの?」
「あ……うん。ものすごーく」
気まずい空気が辺りを覆う。バツが悪そうに視線を泳がせるラスティ。
ミリアリアは俯いて、何かを我慢するように拳を握っている。
「ディアッカ・エルスマン。クルーゼ隊で赤服を纏うことを許された1人……俺たちの仲間だ」
事実を告げるミゲルの声に、驚く者、俯く者……そして沈黙が辺りを包んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時計の針がタイムリミットの時刻を指した。同時に連合艦隊からミサイルが打ち上げられる。
――開戦の火蓋が切って落された。
領海線上に配備されているオーブ艦隊がミサイルを迎撃する。
連合艦隊からモビルアーマーとモビルスーツ隊が次々と飛び立った。
オーブもアストレイ隊を中心に防御を固める。
3機のアストレイを従えたアマテラスがストライク・ダガー隊目掛けて攻撃を開始する。アークエンジェルからもフリーダムとストライクが出撃した。
アマテラスとフリーダムが、数で押してくるダガー隊を瞬時にロック・オンし、全砲口を向けると凄まじい威力の砲火がほとばしり、周囲のダガーを一瞬で戦闘不能に陥れる。
ミゲルたちが駆るアストレイも順調に敵を撃破していく。
両軍のモビルスーツが入り混じったオノゴロは文字通り混戦となった。
数では勝る連合も、アマテラスとフリーダムをはじめ、ストライク、そしてミゲルたちの駆る3機のアストレイの活躍で徐々に後退を始める。
旗色の悪くなった連合はそこで3機の新型を投入してきた。
3機の動きは明らかに他の機体とは違い、その反応速度はナチュラルのものとは思えないほどで、こちらのようにサポートOSを導入しているとしても、ナチュラルのそれを遥かに上回っているのは一目瞭然だった。
それだけの動きを可能にする存在をシオンは知っている。
(……とうとうエクステンデットを投入してきたか)
3機のうち、レイダー、フォビドゥンがアマテラスに、カラミティがフリーダムに向かう。
レイダーが鉄球を振り上げ、アマテラスを狙うが、アマテラスはビームサーベルを取り出し、鉄球の鎖部分を切り落とした。
その隙を突いたフォビドゥンが背後からニーズヘグで切りかかる。
アマテラスは上空に飛び上がるとそれをかわし、即座にビームライフルを撃った。
だが、フォビドゥンに装備されているエネルギー偏向装甲“ゲシュマイディッヒ・パンツァー”がそれを湾曲させる。
「っ!! ビームが曲がる……?!」
アマテラスがレイダーとフォビドゥンを相手にしている頃、フリーダムもまた、カラミティを相手に戦っていた。
だが、戦力の要である2機が新型を相手にしている隙をついて、連合はまたも物量作戦に出る。
アークエンジェルも“ゴットフリート”を始め“バリアント”“ヘルダート”を使い、懸命に敵機とミサイルを追撃していくが、戦艦ではMSの機動性と火力に対応しきれない。
そこに一条の光が放たれ、そのエネルギーに触れたミサイルや戦闘機が爆発が爆散する。
「!?何だよ、今のっ」
援護射撃としか思えない攻撃に、ラスティはモニターを素早く拡大してエネルギーの発射元を探す。
すると、オノゴロの海岸線に長射程狙撃ライフルを構えてたたずんでいる1機のMSを見つけた。
「……? 何だ? あの機体。あんなのオーブにあったっけ?」
<バスターです!!>
ラスティが呟いた疑問に答えるように、アストレイ間で繋いだままの回線を通じてニコルの声が響いた。
「えええっ!? バスターって……ディアッカ?! でも捕虜……」
<開戦前に解放したとミリアリアが言ってただろう? そんなことより、戦闘中なのを忘れるな>
今度はミゲルが通信に加わった。
会話を続けながらもアストレイ3機は鮮やかなまでの戦闘を繰り広げていた。
初めて操縦する機体に乗っているとは思えないほどの動きで装備を使いこなし、的確にダガーのコックピットを撃ち抜いていく。
「……っ、数が多けりゃいいってもんじゃないっての! っていうか、何でアークエンジェルの援護してんの、ディアッカのヤツ」
<さぁ……何があったんでしょうか>
<戦闘が終われば聞けるだろ。俺たちの顔見てどんな反応するか……ちょっと楽しみだな>
悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべるミゲルに、ラスティとニコルも笑顔を浮かべる。
<なら、この戦闘……絶対に生き残らないといけませんね>
バスターの援護を受けて盛り返したアークエンジェルが反撃を開始した。
「――いい加減に堕ちろ!! 俺はお前らにだけに関わってる暇はないんだ!」
アマテラスがレイダーに向けてビームライフルを放つが、またもそれをフォビドゥンが湾曲させる。
その間に生じた隙を突くようにシオンはフットペダルを踏み込むと、フォビドゥンへと接近しビームサーベルで“ゲシュマイディッヒ・パンツァー”を切り落とした。
そのままスピードに乗ってレイダーの腕も切り落とす。
ふと、キラはどうなったのだろう、とフリーダムに目を向ければ、カラミティ相手に苦戦していた。
体勢を失ったフリーダムがそれを立て直す前にカラミティのビームがフリーダムを捕えた。
――直撃だ――
「キラ君っ!!」
シオンでなくとも、それを目にした誰もが、そう思っただろう。
その瞬間、真紅の機体がフリーダムの前に立ちふさがり、シールドでカラミティのビームを防いだ。
「……何、だ……あれは」
キラが助かったという安堵感と、未知の機体の出現に対する危機感とが同時に湧き起こる。
真紅の機体の介入に驚くキラとシオンの耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。
<こちらザフト軍国防本部直属特務隊、アスラン・ザラ。聞こえるか、フリーダム。キラ・ヤマトだな?>
「アスラン……?」
無意識に呟いた友の名。
聞きたいことが、話したいことがある。けれど、今はお互いよりも集中すべき敵がいる。
キラはビームサーベルを抜くとカラミティへと斬りかかった。
「どういうつもりだ? ザフトがこの戦闘に介入するのか!?」
戦いながらも、キラはアスランへと叫ぶように疑問をぶつけると、思いがけない答えが返ってきた。
<軍からはこの戦闘に関して、なんの命令も受けていない。この介入は、俺個人の意思だ!>
「…………」
二人のやり取りを聞いていたシオンが息をのむ。
『個人の意思』
自分も同じように何度も命令以外の行動を起こしてきた。
中立国の代表代理でありながら連合とザフトの戦闘に介入し、ザフト兵を救助した。
なぜだと問われれば「そうしたかったから」と答えるだろう。
――2色に分かれようとする世界に芽生え始めた新たな色。
そんな予感を感じずにはいられなかった。
新たにジャスティスが戦況に加わり、フリーダムと共にカラミティに立ち向かう。
初めての共闘とは思えない息の合った動きにカラミティが苦戦を強いられる。
――と、急にカラミティの動きが鈍くなった。
レイダー、フォビドゥンも明らかに戦闘に支障をきたしている。
「急にどうした……?」
あまりに不自然な動きにシオンが不審げに眉を顰めると、3機はそのまま追っ手を牽制しながら戦場を離脱していく。
その状況に戦闘の終わりを確信したシオンは、小さく息を吐いて緊張を解くと、視線だけを移動させてモニターに映るフリーダムとジャスティスを見た。
「――アスラン・ザラ、か……」
カラミティ、レイダー、フォビドゥン3機の帰投を皮切りに連合軍は一時撤退し、シオンの予想通り戦闘は一旦終わりを迎えた。
ミゲル、ラスティ、ニコルの3人を連れて、シオンはアークエンジェルの繋留されているドックへとやってきた。
ほぼ補修作業の終ったその艦は、退艦する者と残留する者でごった返している。
ラスティは目ざとくサイとカズイを見つけると、大声で彼らの名前を叫んだ。
「おーい、サイー、カズイー!」
「……え!? ラス……ティ? それに……ミゲル?」
「えっ? なんでここに? っていうか、その格好……」
手を振って走り寄ってくるラスティの姿を目にし、懐かしさに表情を綻ばせるが、その表情はすぐに一転し、2人とも唖然とする。
それもそのはず、目の前の彼はパイロットスーツに身を包んでいたからだ。いや、ラスティだけではなくミゲルとシオンも同じように……。
自分のパイロットスーツに釘付けになっているサイとカズイの視線に「ああ、これ?」とラスティが説明を始めた。
「シオンに無理言って連れてきてもらったんだ。見ての通り、今回の戦闘俺らも出るから」
「えっ!?」
その言葉にカズイの肩がビクリと震える。
「お前らは降りるんだろう? そしたら、もう会えないだろうと思ってさ。ミリィはどこだよ」
「彼女なら捕虜のところだと思う。カズイは降りるけど、俺とミリィは残るんだ」
ミリアリアを探すようにキョロキョロと周りを見回すラスティに、サイが申し訳なさそうに答えた。
その答えに、いつの間にか輪に加わっていたミゲルが反応する。
「……残るのか」
表情を変えず、そう呟かれるミゲルの言葉は、まるで『民間人なのになぜ降りないんだ』と問いかけているような気がした。
「うん。やっぱりオーブは俺たちの国だから。守りたいんだ」
力強くそう答えるサイに、ミゲルは「そうか……」と小さく微笑んだ。
するとそこにタイミング良く、ミリアリアが通りかかった。
「うそ!? ラス? ミゲル?」
「よっ、おひさー元気だったか?」
「捕虜のところにいたと聞いたが」
片手を上げて軽く答えるラスティと相変わらず堅苦しいミゲル。
久しぶりに会った変わらぬ2人の姿にミリアリアの表情も緩む。
「ええ。そうよ。さっき解放してきたところ」
「捕虜って“ザフト”?」
「うん……」
そこで僅かにミリアリアの表情が暗くなる。
シオンからトールが戦死したらしいことは聞いていた。そして、彼を殺したのが自分たちの仲間であることも。
そんな彼女にかける言葉が見つからず、渋い表情を浮かべるミゲルが助けを求めるようにラスティへと視線を向けた。
(こんな時だけ俺に振るなよー……)
「あー……で? その捕虜になった間抜けなヤツってどんなヤツ?」
重くなった空気をかき消すように必死で振舞うラスティ。
「間抜けって……そういえば2人なら知ってるかしら? バスターのパイロットなの」
「バスター!?」
ミリアリアの言葉に今まで黙っていたニコルが声を上げた。
「あー、悪ぃ。誰がどの機体に乗ってるかまでは知らねぇんだ」
申し訳なさそうに告げるラスティの言葉にミリアリアの表情が曇る。
「そう……」
「あっ、ニコル、お前なら知って――――」
「金髪の男なんだけど……」
ヘリオポリス崩壊時に戦線離脱してしまった自分よりも、ニコルなら何か知っているだろうと話を振ろうとした途端に告げられたミリアリアの言葉。
その内容にラスティの動きがピタリと止まる。
「……金髪? もしかして色黒? んでもって軽くてタラシっぽいヤツ?」
「タラシかどうかは知らないわよ。でも他は合ってるわ。知ってるの?」
「あ……うん。ものすごーく」
気まずい空気が辺りを覆う。バツが悪そうに視線を泳がせるラスティ。
ミリアリアは俯いて、何かを我慢するように拳を握っている。
「ディアッカ・エルスマン。クルーゼ隊で赤服を纏うことを許された1人……俺たちの仲間だ」
事実を告げるミゲルの声に、驚く者、俯く者……そして沈黙が辺りを包んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時計の針がタイムリミットの時刻を指した。同時に連合艦隊からミサイルが打ち上げられる。
――開戦の火蓋が切って落された。
領海線上に配備されているオーブ艦隊がミサイルを迎撃する。
連合艦隊からモビルアーマーとモビルスーツ隊が次々と飛び立った。
オーブもアストレイ隊を中心に防御を固める。
3機のアストレイを従えたアマテラスがストライク・ダガー隊目掛けて攻撃を開始する。アークエンジェルからもフリーダムとストライクが出撃した。
アマテラスとフリーダムが、数で押してくるダガー隊を瞬時にロック・オンし、全砲口を向けると凄まじい威力の砲火がほとばしり、周囲のダガーを一瞬で戦闘不能に陥れる。
ミゲルたちが駆るアストレイも順調に敵を撃破していく。
両軍のモビルスーツが入り混じったオノゴロは文字通り混戦となった。
数では勝る連合も、アマテラスとフリーダムをはじめ、ストライク、そしてミゲルたちの駆る3機のアストレイの活躍で徐々に後退を始める。
旗色の悪くなった連合はそこで3機の新型を投入してきた。
3機の動きは明らかに他の機体とは違い、その反応速度はナチュラルのものとは思えないほどで、こちらのようにサポートOSを導入しているとしても、ナチュラルのそれを遥かに上回っているのは一目瞭然だった。
それだけの動きを可能にする存在をシオンは知っている。
(……とうとうエクステンデットを投入してきたか)
3機のうち、レイダー、フォビドゥンがアマテラスに、カラミティがフリーダムに向かう。
レイダーが鉄球を振り上げ、アマテラスを狙うが、アマテラスはビームサーベルを取り出し、鉄球の鎖部分を切り落とした。
その隙を突いたフォビドゥンが背後からニーズヘグで切りかかる。
アマテラスは上空に飛び上がるとそれをかわし、即座にビームライフルを撃った。
だが、フォビドゥンに装備されているエネルギー偏向装甲“ゲシュマイディッヒ・パンツァー”がそれを湾曲させる。
「っ!! ビームが曲がる……?!」
アマテラスがレイダーとフォビドゥンを相手にしている頃、フリーダムもまた、カラミティを相手に戦っていた。
だが、戦力の要である2機が新型を相手にしている隙をついて、連合はまたも物量作戦に出る。
アークエンジェルも“ゴットフリート”を始め“バリアント”“ヘルダート”を使い、懸命に敵機とミサイルを追撃していくが、戦艦ではMSの機動性と火力に対応しきれない。
そこに一条の光が放たれ、そのエネルギーに触れたミサイルや戦闘機が爆発が爆散する。
「!?何だよ、今のっ」
援護射撃としか思えない攻撃に、ラスティはモニターを素早く拡大してエネルギーの発射元を探す。
すると、オノゴロの海岸線に長射程狙撃ライフルを構えてたたずんでいる1機のMSを見つけた。
「……? 何だ? あの機体。あんなのオーブにあったっけ?」
<バスターです!!>
ラスティが呟いた疑問に答えるように、アストレイ間で繋いだままの回線を通じてニコルの声が響いた。
「えええっ!? バスターって……ディアッカ?! でも捕虜……」
<開戦前に解放したとミリアリアが言ってただろう? そんなことより、戦闘中なのを忘れるな>
今度はミゲルが通信に加わった。
会話を続けながらもアストレイ3機は鮮やかなまでの戦闘を繰り広げていた。
初めて操縦する機体に乗っているとは思えないほどの動きで装備を使いこなし、的確にダガーのコックピットを撃ち抜いていく。
「……っ、数が多けりゃいいってもんじゃないっての! っていうか、何でアークエンジェルの援護してんの、ディアッカのヤツ」
<さぁ……何があったんでしょうか>
<戦闘が終われば聞けるだろ。俺たちの顔見てどんな反応するか……ちょっと楽しみだな>
悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべるミゲルに、ラスティとニコルも笑顔を浮かべる。
<なら、この戦闘……絶対に生き残らないといけませんね>
バスターの援護を受けて盛り返したアークエンジェルが反撃を開始した。
「――いい加減に堕ちろ!! 俺はお前らにだけに関わってる暇はないんだ!」
アマテラスがレイダーに向けてビームライフルを放つが、またもそれをフォビドゥンが湾曲させる。
その間に生じた隙を突くようにシオンはフットペダルを踏み込むと、フォビドゥンへと接近しビームサーベルで“ゲシュマイディッヒ・パンツァー”を切り落とした。
そのままスピードに乗ってレイダーの腕も切り落とす。
ふと、キラはどうなったのだろう、とフリーダムに目を向ければ、カラミティ相手に苦戦していた。
体勢を失ったフリーダムがそれを立て直す前にカラミティのビームがフリーダムを捕えた。
――直撃だ――
「キラ君っ!!」
シオンでなくとも、それを目にした誰もが、そう思っただろう。
その瞬間、真紅の機体がフリーダムの前に立ちふさがり、シールドでカラミティのビームを防いだ。
「……何、だ……あれは」
キラが助かったという安堵感と、未知の機体の出現に対する危機感とが同時に湧き起こる。
真紅の機体の介入に驚くキラとシオンの耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。
<こちらザフト軍国防本部直属特務隊、アスラン・ザラ。聞こえるか、フリーダム。キラ・ヤマトだな?>
「アスラン……?」
無意識に呟いた友の名。
聞きたいことが、話したいことがある。けれど、今はお互いよりも集中すべき敵がいる。
キラはビームサーベルを抜くとカラミティへと斬りかかった。
「どういうつもりだ? ザフトがこの戦闘に介入するのか!?」
戦いながらも、キラはアスランへと叫ぶように疑問をぶつけると、思いがけない答えが返ってきた。
<軍からはこの戦闘に関して、なんの命令も受けていない。この介入は、俺個人の意思だ!>
「…………」
二人のやり取りを聞いていたシオンが息をのむ。
『個人の意思』
自分も同じように何度も命令以外の行動を起こしてきた。
中立国の代表代理でありながら連合とザフトの戦闘に介入し、ザフト兵を救助した。
なぜだと問われれば「そうしたかったから」と答えるだろう。
――2色に分かれようとする世界に芽生え始めた新たな色。
そんな予感を感じずにはいられなかった。
新たにジャスティスが戦況に加わり、フリーダムと共にカラミティに立ち向かう。
初めての共闘とは思えない息の合った動きにカラミティが苦戦を強いられる。
――と、急にカラミティの動きが鈍くなった。
レイダー、フォビドゥンも明らかに戦闘に支障をきたしている。
「急にどうした……?」
あまりに不自然な動きにシオンが不審げに眉を顰めると、3機はそのまま追っ手を牽制しながら戦場を離脱していく。
その状況に戦闘の終わりを確信したシオンは、小さく息を吐いて緊張を解くと、視線だけを移動させてモニターに映るフリーダムとジャスティスを見た。
「――アスラン・ザラ、か……」
カラミティ、レイダー、フォビドゥン3機の帰投を皮切りに連合軍は一時撤退し、シオンの予想通り戦闘は一旦終わりを迎えた。