Northern Lights(種無印)
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25話 神のいかづち
ひとまずマリューたちと別れたシオンは、ニコルを見舞うべく軍病院を訪れた。
形だけのノックをしてシオンが病室のドアをスライドさせると、中に居たミゲルとラスティは慌てて立ち上がる。
来客の顔を確認するよりも先に、オーブ軍の制服に目が行った為だ。
「久しぶりだな2人とも。順調に回復しているようで安心したよ、ニコル君」
ベッドの上で身体を起こしているニコルと目が合う。
ふわりと笑うその表情と声に、来客が誰なのかをやっと認識した二人は「シオンか……」と、小さく息を漏らした。
「おかえり。まぁ座れよ」
そう言ってミゲルが椅子を差し出し、シオンがその椅子に腰をかけると、隣に座っているラスティが身を乗り出すようにして質問してきた。
「なんかあったのか? 今回はやけに外泊長かったけど」
「あぁ、ちょっとプラントまで行ってた」
「「プラント!?」」
ミゲルとラスティが見事にハモる。
シオンは差し障りない程度にプラントでのことを話して聞かせた。
「……この時期に新型のモビルスーツ。おそらく僕の父も開発に携わっていると思います」
ニコルが唇を噛み締める。
新型モビルスーツが完成するのは、今のご時世当たり前のこと。
だが、その機体にニュートロンジャマーキャンセラーが搭載されたとなると話は別だ。
しかも開発に自分の父親が携わっているとなると、悔しさが沸いてくる。
「それにしても……ニュートロンジャマーキャンセラーということは、新型は〝核〟を使ってるってことか」
眉間に皺を寄せ、ミゲルは苦々しそうに呟く。
核の悲劇はプラントが身をもって知っているはずなのに。なのになぜ、その元凶となった力を行使しようとするのか。
「マジかよ! ユニウスセブンを忘れたってのか?! 何のためのニュートロンジャマーだ! もう、あんな悲劇が起こらないようにって、放棄するって……それなのに……っ」
一瞬にして宇宙に散った何万という命。
撃たれたユニウスセブンの映像を初めて見た時の衝撃を思い出したラスティの言葉はだんだんと力を失っていく。
――核を動力とした新型MS――
そんな機体の登場に表情を曇らせる三人へと視線を巡らせながら、シオンはゆっくりと話を続けた。
「お前たちには酷なようだが事実だ。それだけ新議長になったパトリック・ザラはナチュラルを一掃したがってるということだろう。前議長シーゲル・クラインなら核の使用など、なにがあっても許可しなかっただろうに……」
プラントで僅かな時間だが相対したシーゲル・クラインの言葉を思い起こす。
彼の――コーディネイターは安定した新たな種などではない――という持論には共感する部分も多々あり、個人的に、もう一度会いたいと思わせる人物だった。
新たな議長が選任された今、対立的立場に居るシーゲルがどうしているのか気になる。
――そしてラクスのことも……。
「で、新型2機のうち、1機は俺たちがプラントを脱出する際に奪ってきた。……と、まぁ、話としてはこのくらいだな。何か他に聞きたいことは?」
「……いや、今のところ別にない」
黙り込むラスティとニコルの言葉を代弁するようにミゲルが静かに答えた。
「そうか。それじゃ、俺はまた行政府に戻るから……そうだ、ニコル君」
「はい」
「医者が一時退院を許可してくれたから、2人と一緒に俺のマンションに行くといい」
「え?」
唐突なシオンの言葉が理解できなかったのか、ニコルが不思議そうに声をあげた。
そんなニコルを他所に、シオンはミゲルとラスティへと指示を出す。
「お前らニコル君の服や身の回りのものを揃えてやってくれ。現金は残ってるか?」
「ああ。十分、十分」
現金の管理係であろうミゲルが笑いながら、右手の人差し指と親指で『OK』のサインをシオンへと向けた。
「なにからなにまですみません」
シオンの『身の回りのものを揃えてやれ』という言葉に、ニコルが申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。
戦場で命を救ってくれただけでなく、病院での治療や日常生活までも面倒をみてくれるシオンに、どう感謝すれば良いのか分からない。
気づけば「すみません」という言葉を口にしているような気がする。
いつか……いつか、何かで恩が返せる時がくれば、その時は精一杯のことをしたいと思う。
「気にしない、気にしない。この程度のこと迷惑の範疇にも入らないさ。じゃあ」
「あ、シオン」
病室を出ようと椅子から立ち上がったシオンをラスティが呼び止めた。
「ん?」
「何かあった? プラントで」
「何か? プラントであった事は今話しただろ」
不意に投げかけられた質問の意図が分からず、シオンが不審げに眉を寄せると、ラスティは慌てたように手を振ってシオンを送り出す。
「あー……そうだよな。うん、行ってらっしゃ~い」
「変なヤツだな」
恐らく、自分はラスティの質問に見合った答えを言っていない。
なのに彼は納得したように自分を解放した。
どこか歯切れの悪さを感じながらも、シオンは行政府へと向かうべく病室を後にした。
病室を出てすぐの廊下で、シオンの背中を見送っていたミゲルとラスティ。
その姿が見えなくなったと同時に、視線はそのままにミゲルがぽつりと呟いた。
「何かあっただろうな」
その言葉に、同意者が居た!とばかりにラスティが目を輝かせた。
「やっぱミゲルもそう思う?!」
「あぁ、何ていうか……雰囲気?」
「そうそう。“何が”とか“どこが”とかは分かんないんだけどさー……」
首を傾げながらも、その変化が嬉しいのか、二人の顔には笑顔が浮かんでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「最後通知だと!?」
ウズミが吠えた。
会議室内にはシオンを始め、首長たちが集まり、地球連合から突きつけられた最後通知に目を通し、唖然となっている。
連合が出してきたのは、現政権の即時退陣と武装解除、解体だった。
(パナマを落され、体裁を取ることもできなくなったか)
「おそらく連中が欲しいのはマスドライバーとモルゲンレーテでしょう」
「だが、それがいかに筋の通らぬことか。そう声高に叫んで見たところで、もはや大西洋連邦に逆らえる国もない」
首長連中の言葉にウズミの表情が苦渋に歪む。
「ユーラシアは疲弊し、赤道連合、スカンジナビア王国などの主だった中立国も連合に組した今、我らも覚悟を決めねばならないでしょう。事態を知ったカーペンタリアから会談の要請が来ていますが、彼らの魂胆など知れています」
「どうあっても世界を二分したいか、大西洋連邦は!」
シオンの意見を受け、ウズミが激昂する。
「このまま連合を受け入れれば、我が国の理念は失われます。たとえ、連合に下ったとしても、すぐにパナマの二の舞……敵となった我が国を見過ごすほど、ザフトは甘くない。どのみち戦火は逃れられないかと」
表情を翳らせながらも、シオンは淡々と言葉を続けた。
どんな状況下であろうと冷静でいられるよう、必死に感情をコントロールする。
「ともあれ、わたしは市民への避難勧告を進言します」
「「「避難勧告!?」」」
ミゲルたち3人を避難させるべく連絡を取ったシオンは、ちょうどマンションに戻ったと言う彼らを待たせ、その場へと急行した。
自宅へ戻ったというのに、テーブルにつく余裕もないままシオンは用件だけを告げる。
「ああ。今この国に向けて連合の艦隊が進攻中だ。お前たち3人はすぐに避難しろ。――すまない。俺がお前たちを巻き込んだ。もっと早く解放していれば……」
謝罪の言葉とともに頭を下げるシオンに、ラスティが言葉をかける。
「よせって。ニコルは別にしても俺とミゲルは自分の意思でここに残ったんだぜ? なぁ?」
ラスティの言葉に同意するようにミゲルが頷いた。
「少なくとも俺は……俺たちは巻き込まれたとは思ってない。ヘリオポリスで死ぬはずだった俺たちをアンタは助けてくれた。謝罪されるようなことはなにもない」
「そうです。僕だってあなたが助けてくれなければ、確実に死んでいました。感謝しても、し足りないくらいですよ」
「お前たち……」
3人の言葉にシオンは胸を詰まらせた。
命を救ったといっても、結果オーブの捕虜となった3人。不自由は無くとも、こうして、不測の事態とはいえ自国の混乱に巻き込んでしまった。
本来なら少しでも早くプラントへと帰す手続きを進めなければならなかったのに、彼らとの生活が心地良く、甘えのような気持ちが生じていたのかも知れない。
シオンが続けるべき言葉を探していると、意外なほど軽い口調でラスティが問いかけた。
「けどさ、連合と一戦交えるって言ってもな……・オーブって戦力的にどうなんだよ?」
「そうですね。こう言っては失礼ですが、僕らがモビルスーツを奪取した時もOSに問題がありましたし……」
「そのことなら問題ない。ナチュラル用のサポートシステムが完成したらしいからM1アストレイが投入される」
「いいのか? そこまで話して。一応俺たちは〝ザフト〟だぞ?」
軍の実情を躊躇うことなく口にする自分へと向けられる視線と言葉に、シオンは小さく笑う。
「問題ない。アストレイの投入など、戦闘が始まればすぐに解ることだ。それに今回の敵は連合であってザフトじゃないしな」
そんなシオンの言葉に「そうか」と呟き、ミゲルは口元に手をあてて思案にふける。
しばらくの後、覚悟を決めた顔で口を開いた。
「なぁ、俺にそのアストレイを1機貸してくれないか?」
「えっ?」
「なに言ってんだ、ミゲル!?」
ニコルとラスティは、思ってもみなかったミゲルの言葉に、ただ驚いた。
「……自分がなにを言っているのか解っているのか?」
トーンを押さえた、少し低い声と真っ直ぐな視線がミゲルへと向かう。
「ああ。ザフトの俺がこの戦争に介入するのはマズイんだろうが、幸か不幸か、俺は本国でMIA扱いになってる。バレなければいいさ。恩返しがしたい……俺を使ってくれ」
「ミゲル……」
いつもの雰囲気とはうって変わった真剣な眼差しに、ミゲルの本気が感じられる。
「あーあ、1人だけカッコつけちゃってズリぃっての。俺にもMS貸してくれよ。絶対足手まといにはならないからさ」
自分の胸をぽんぽんと叩くと「こう見えても赤を着てたんだぜ?」とラスティが自信ありげにニヤリと笑う。
「では、全部で3機貸してください」
「ニコル君!?」
ある意味ミゲルとラスティの言動は予想の範囲内だったが、ニコルまで同じ事を言い出すとは思っていなかった。
驚くシオンに、にっこりと笑みを浮かべてニコルが続ける。
「ニコルでかまいません。僕も戦わせてください」
「気持ちは嬉しいが……」
嘘ではない。本当に嬉しかった。
彼らの命を救ったことが正しかったのかと、一時悩んだこともある。
そんな自分の行動に『恩返しがしたい』と参戦を申し出てくれた。
――だが……
「俺らがしたいって言ってんだから遠慮すんなって。戦力は多いほうがいいに決まってるだろ。役に立つぜ」
そう言って笑うラスティに、ミゲルとニコルが「そうそう」と後押しすると、根負けする形でシオンは3人の提案を受け入れた。
ひとまずマリューたちと別れたシオンは、ニコルを見舞うべく軍病院を訪れた。
形だけのノックをしてシオンが病室のドアをスライドさせると、中に居たミゲルとラスティは慌てて立ち上がる。
来客の顔を確認するよりも先に、オーブ軍の制服に目が行った為だ。
「久しぶりだな2人とも。順調に回復しているようで安心したよ、ニコル君」
ベッドの上で身体を起こしているニコルと目が合う。
ふわりと笑うその表情と声に、来客が誰なのかをやっと認識した二人は「シオンか……」と、小さく息を漏らした。
「おかえり。まぁ座れよ」
そう言ってミゲルが椅子を差し出し、シオンがその椅子に腰をかけると、隣に座っているラスティが身を乗り出すようにして質問してきた。
「なんかあったのか? 今回はやけに外泊長かったけど」
「あぁ、ちょっとプラントまで行ってた」
「「プラント!?」」
ミゲルとラスティが見事にハモる。
シオンは差し障りない程度にプラントでのことを話して聞かせた。
「……この時期に新型のモビルスーツ。おそらく僕の父も開発に携わっていると思います」
ニコルが唇を噛み締める。
新型モビルスーツが完成するのは、今のご時世当たり前のこと。
だが、その機体にニュートロンジャマーキャンセラーが搭載されたとなると話は別だ。
しかも開発に自分の父親が携わっているとなると、悔しさが沸いてくる。
「それにしても……ニュートロンジャマーキャンセラーということは、新型は〝核〟を使ってるってことか」
眉間に皺を寄せ、ミゲルは苦々しそうに呟く。
核の悲劇はプラントが身をもって知っているはずなのに。なのになぜ、その元凶となった力を行使しようとするのか。
「マジかよ! ユニウスセブンを忘れたってのか?! 何のためのニュートロンジャマーだ! もう、あんな悲劇が起こらないようにって、放棄するって……それなのに……っ」
一瞬にして宇宙に散った何万という命。
撃たれたユニウスセブンの映像を初めて見た時の衝撃を思い出したラスティの言葉はだんだんと力を失っていく。
――核を動力とした新型MS――
そんな機体の登場に表情を曇らせる三人へと視線を巡らせながら、シオンはゆっくりと話を続けた。
「お前たちには酷なようだが事実だ。それだけ新議長になったパトリック・ザラはナチュラルを一掃したがってるということだろう。前議長シーゲル・クラインなら核の使用など、なにがあっても許可しなかっただろうに……」
プラントで僅かな時間だが相対したシーゲル・クラインの言葉を思い起こす。
彼の――コーディネイターは安定した新たな種などではない――という持論には共感する部分も多々あり、個人的に、もう一度会いたいと思わせる人物だった。
新たな議長が選任された今、対立的立場に居るシーゲルがどうしているのか気になる。
――そしてラクスのことも……。
「で、新型2機のうち、1機は俺たちがプラントを脱出する際に奪ってきた。……と、まぁ、話としてはこのくらいだな。何か他に聞きたいことは?」
「……いや、今のところ別にない」
黙り込むラスティとニコルの言葉を代弁するようにミゲルが静かに答えた。
「そうか。それじゃ、俺はまた行政府に戻るから……そうだ、ニコル君」
「はい」
「医者が一時退院を許可してくれたから、2人と一緒に俺のマンションに行くといい」
「え?」
唐突なシオンの言葉が理解できなかったのか、ニコルが不思議そうに声をあげた。
そんなニコルを他所に、シオンはミゲルとラスティへと指示を出す。
「お前らニコル君の服や身の回りのものを揃えてやってくれ。現金は残ってるか?」
「ああ。十分、十分」
現金の管理係であろうミゲルが笑いながら、右手の人差し指と親指で『OK』のサインをシオンへと向けた。
「なにからなにまですみません」
シオンの『身の回りのものを揃えてやれ』という言葉に、ニコルが申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。
戦場で命を救ってくれただけでなく、病院での治療や日常生活までも面倒をみてくれるシオンに、どう感謝すれば良いのか分からない。
気づけば「すみません」という言葉を口にしているような気がする。
いつか……いつか、何かで恩が返せる時がくれば、その時は精一杯のことをしたいと思う。
「気にしない、気にしない。この程度のこと迷惑の範疇にも入らないさ。じゃあ」
「あ、シオン」
病室を出ようと椅子から立ち上がったシオンをラスティが呼び止めた。
「ん?」
「何かあった? プラントで」
「何か? プラントであった事は今話しただろ」
不意に投げかけられた質問の意図が分からず、シオンが不審げに眉を寄せると、ラスティは慌てたように手を振ってシオンを送り出す。
「あー……そうだよな。うん、行ってらっしゃ~い」
「変なヤツだな」
恐らく、自分はラスティの質問に見合った答えを言っていない。
なのに彼は納得したように自分を解放した。
どこか歯切れの悪さを感じながらも、シオンは行政府へと向かうべく病室を後にした。
病室を出てすぐの廊下で、シオンの背中を見送っていたミゲルとラスティ。
その姿が見えなくなったと同時に、視線はそのままにミゲルがぽつりと呟いた。
「何かあっただろうな」
その言葉に、同意者が居た!とばかりにラスティが目を輝かせた。
「やっぱミゲルもそう思う?!」
「あぁ、何ていうか……雰囲気?」
「そうそう。“何が”とか“どこが”とかは分かんないんだけどさー……」
首を傾げながらも、その変化が嬉しいのか、二人の顔には笑顔が浮かんでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「最後通知だと!?」
ウズミが吠えた。
会議室内にはシオンを始め、首長たちが集まり、地球連合から突きつけられた最後通知に目を通し、唖然となっている。
連合が出してきたのは、現政権の即時退陣と武装解除、解体だった。
(パナマを落され、体裁を取ることもできなくなったか)
「おそらく連中が欲しいのはマスドライバーとモルゲンレーテでしょう」
「だが、それがいかに筋の通らぬことか。そう声高に叫んで見たところで、もはや大西洋連邦に逆らえる国もない」
首長連中の言葉にウズミの表情が苦渋に歪む。
「ユーラシアは疲弊し、赤道連合、スカンジナビア王国などの主だった中立国も連合に組した今、我らも覚悟を決めねばならないでしょう。事態を知ったカーペンタリアから会談の要請が来ていますが、彼らの魂胆など知れています」
「どうあっても世界を二分したいか、大西洋連邦は!」
シオンの意見を受け、ウズミが激昂する。
「このまま連合を受け入れれば、我が国の理念は失われます。たとえ、連合に下ったとしても、すぐにパナマの二の舞……敵となった我が国を見過ごすほど、ザフトは甘くない。どのみち戦火は逃れられないかと」
表情を翳らせながらも、シオンは淡々と言葉を続けた。
どんな状況下であろうと冷静でいられるよう、必死に感情をコントロールする。
「ともあれ、わたしは市民への避難勧告を進言します」
「「「避難勧告!?」」」
ミゲルたち3人を避難させるべく連絡を取ったシオンは、ちょうどマンションに戻ったと言う彼らを待たせ、その場へと急行した。
自宅へ戻ったというのに、テーブルにつく余裕もないままシオンは用件だけを告げる。
「ああ。今この国に向けて連合の艦隊が進攻中だ。お前たち3人はすぐに避難しろ。――すまない。俺がお前たちを巻き込んだ。もっと早く解放していれば……」
謝罪の言葉とともに頭を下げるシオンに、ラスティが言葉をかける。
「よせって。ニコルは別にしても俺とミゲルは自分の意思でここに残ったんだぜ? なぁ?」
ラスティの言葉に同意するようにミゲルが頷いた。
「少なくとも俺は……俺たちは巻き込まれたとは思ってない。ヘリオポリスで死ぬはずだった俺たちをアンタは助けてくれた。謝罪されるようなことはなにもない」
「そうです。僕だってあなたが助けてくれなければ、確実に死んでいました。感謝しても、し足りないくらいですよ」
「お前たち……」
3人の言葉にシオンは胸を詰まらせた。
命を救ったといっても、結果オーブの捕虜となった3人。不自由は無くとも、こうして、不測の事態とはいえ自国の混乱に巻き込んでしまった。
本来なら少しでも早くプラントへと帰す手続きを進めなければならなかったのに、彼らとの生活が心地良く、甘えのような気持ちが生じていたのかも知れない。
シオンが続けるべき言葉を探していると、意外なほど軽い口調でラスティが問いかけた。
「けどさ、連合と一戦交えるって言ってもな……・オーブって戦力的にどうなんだよ?」
「そうですね。こう言っては失礼ですが、僕らがモビルスーツを奪取した時もOSに問題がありましたし……」
「そのことなら問題ない。ナチュラル用のサポートシステムが完成したらしいからM1アストレイが投入される」
「いいのか? そこまで話して。一応俺たちは〝ザフト〟だぞ?」
軍の実情を躊躇うことなく口にする自分へと向けられる視線と言葉に、シオンは小さく笑う。
「問題ない。アストレイの投入など、戦闘が始まればすぐに解ることだ。それに今回の敵は連合であってザフトじゃないしな」
そんなシオンの言葉に「そうか」と呟き、ミゲルは口元に手をあてて思案にふける。
しばらくの後、覚悟を決めた顔で口を開いた。
「なぁ、俺にそのアストレイを1機貸してくれないか?」
「えっ?」
「なに言ってんだ、ミゲル!?」
ニコルとラスティは、思ってもみなかったミゲルの言葉に、ただ驚いた。
「……自分がなにを言っているのか解っているのか?」
トーンを押さえた、少し低い声と真っ直ぐな視線がミゲルへと向かう。
「ああ。ザフトの俺がこの戦争に介入するのはマズイんだろうが、幸か不幸か、俺は本国でMIA扱いになってる。バレなければいいさ。恩返しがしたい……俺を使ってくれ」
「ミゲル……」
いつもの雰囲気とはうって変わった真剣な眼差しに、ミゲルの本気が感じられる。
「あーあ、1人だけカッコつけちゃってズリぃっての。俺にもMS貸してくれよ。絶対足手まといにはならないからさ」
自分の胸をぽんぽんと叩くと「こう見えても赤を着てたんだぜ?」とラスティが自信ありげにニヤリと笑う。
「では、全部で3機貸してください」
「ニコル君!?」
ある意味ミゲルとラスティの言動は予想の範囲内だったが、ニコルまで同じ事を言い出すとは思っていなかった。
驚くシオンに、にっこりと笑みを浮かべてニコルが続ける。
「ニコルでかまいません。僕も戦わせてください」
「気持ちは嬉しいが……」
嘘ではない。本当に嬉しかった。
彼らの命を救ったことが正しかったのかと、一時悩んだこともある。
そんな自分の行動に『恩返しがしたい』と参戦を申し出てくれた。
――だが……
「俺らがしたいって言ってんだから遠慮すんなって。戦力は多いほうがいいに決まってるだろ。役に立つぜ」
そう言って笑うラスティに、ミゲルとニコルが「そうそう」と後押しすると、根負けする形でシオンは3人の提案を受け入れた。