Northern Lights(種無印)
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23話 舞い降りる剣
「推力低下!艦の姿勢、維持できません!!」
ノイマンの叫び声がブリッジに響き渡る。
その間に、攻撃をかいくぐってきたジンがアークエンジェルへと肉薄したかと思うと、すぐさまブリッジに向けてライフルを構えた。
目の前に現れた敵のモビルスーツ。
向けられた銃口に諦めて目を閉じる者、ただその場を離れようと逃げ出す者、諦めず敵を見据える者。
恐怖と絶望がブリッジを埋め尽くそうとしたその時、一筋の光が天から降り注ぎ、ジンのライフルを撃ち落とした。
突如襲ってきた衝撃に慌てたジンがカメラ・アイを宙に向けると、その頭部を、光と同じく降ってきた剣が一瞬で切り落とす。
〝それ〟は、まるでアークエンジェルを護るかのようにザフト軍の前に立ちふさがった。
輝く白と青を基調としたボディ。
Xナンバーと酷似していながらも、どこか違うそのモビルスーツは6枚の翼を広げ、その場に存在するすべての兵士たちを見下ろすように悠然とその姿を目に焼きつけさせた。
<こちらはシオン・フィーリア。アークエンジェル、聞こえますか?>
「フィーリア……代理?」
事態が飲み込めず、呆然とアンノウンモビルスーツを見ていたマリューだったが、通信機から入ってきた聞き覚えのある声に自身の耳を疑った。
「どうして代理がここに……」
<話は後です。援護するので今のうちに退艦を――>
通信している間も、シオンは機体を止めることは無かった。
両翼部に装備されているプラズマ収束ビーム砲を始め、両腰のレールガンが一斉に火を吹く。
その一度の攻撃だけでアークエンジェルの周囲に展開していた〝グゥル〟や〝ジン〟が確実に戦闘不能に陥る。
シオンの駆るフリーダムは、その圧倒的力を持って敵機を戦闘不能にはしたものの、撃墜まではしなかった。
そんな戦い方を目の当たりにしたキラは「すごい……」と感嘆の声を上げている。
<なにをしている!? 早く退艦を!>
再度、シオンが呼びかける。
それでもその場を動かないアークエンジェルに痺れを切らしたキラが「早く退艦してください、マリューさん!」と通信に割って入った。
「……!? まさか……あなたキラ君!?」
死んだと思っていたキラの声にマリューを始め、全クルーが驚愕する。
<そうだ。ここにはキラ君もいる!詳しい話は後で。死にたくないのなら早く退艦を!>
〝死〟の言葉にマリューがハッと我にかえる。
「あっ……いえ、駄目なのよ。本部の地下にサイクロプスが……わたしたちは囮に……知らなかったのよ。だからここで退艦はできないの。もっと基地から離れなくては……」
マリューの血を吐くような告白に、アークエンジェルは『捨て石』にされたのだと理解したシオンは、連合軍上層部の卑劣さに操縦桿を握る手を震わせた。
キラも理解したのだろう。言葉を失って呆然としている。
一瞬、思案したシオンは、通信をオープンチャンネルへと切り替えた。
<ザフト、連合、両軍に伝える。アラスカ基地は間もなくサイクロプスを起動させ、自爆する。両軍とも直ちに戦闘を停止し、撤退することを進言する。繰り返す――>
当然のことだろうが、シオンの警告に耳を貸すことなく、デュエルが切りかかってきた。
おそらく自分の警告を、戦況を混乱させる為のハッタリだと判断したのだろう。
チッ、と舌打ちしてシオンはフットペダルを踏み込んだ。一瞬でデュエルとの距離を詰めると、スピードを落とすことなくサーベルで両脚を切り落とす。
そのままデュエルをディン目掛けて蹴り飛ばすと同時に「そいつを連れて早く脱出しろ!」と通信を入れる。
迷いを見せるディンだったが、シオンが再度離脱を促すと、デュエルを抱えて戦闘を離脱した。
「機関全速!退避!」
タイミングを見計らい、アークエンジェルも発進する。
背後でサイクロプスが起動された。
シオンの警告を無視したザフト部隊はサイクロプスのマイクロ波をもろに受けた。
懸命に脱出しようとしたジンとグゥルだったが、グゥルを失ったことで支えを失ったジンも落下する。
力を失って墜落するジンの手を取ったのはフリーダムだった。
シオンはジンの傍に機体を近づけると、その腕を力強く引き上げて加速した。
アークエンジェルがアラスカ基地から離れた海岸に半ば墜落するように着艦すると、追いついたフリーダムもアークエンジェルが降り立った海岸近くの内陸部に降り立つ。
シオンとキラは、助けたザフト兵をコックピットから運び出したが、彼はすでにマイクロ波の余波を受けていたのだろう、間もなく息を引き取った。
キラは悔しそうに唇を噛み締め、それを見守るシオンもまた辛そうに眉を顰めている。
「マリューさん……間に合ってよかったです」
「本当に……キラ君なのね? それに……フィーリア代理も……助けてくださってありがとうございました」
マリューは深々と頭を下げた。
「……っキラ!」
ミリアリアが弾かれたようにキラに泣きつき、ノイマンを始めとしたクルーがそれに続いた。
サイ、カズイも複雑そうな表情でそれに続く。
涙の再会を1歩引いた位置で見ていたシオンの肩をムウが叩いた。
「サンキュー、助かったぜ。まさか、お前さんが来てくれるとは……しっかし、お前さんとボウズ……なんでザフトのスーツ着てんの」
「……ザフトに、いたの?」
マリューが驚いたように呟いた。
その質問にシオンは「話せば長くなるんですけどね」と、苦笑いを浮かべる。
「詳しいことは彼らの再会劇が終ってからにしましょう。せっかくの場面に不粋な邪魔はしたくない」
「あいっかわらずだなぁ、お前さん。だが、お前さんのそのセリフを聞くと、『生きてるんだな』って実感するぜ」
「そりゃ、よかったですね」
「可愛くないなー」
「男に可愛いと言われたくない」
睨み合う2人を止めたのはマリューだった。
「はいはい。2人とも、そこまでよ」
「仕方ない。ここはラミアス艦長の顔を立てておこう」
「しゃーねーな。マリューを怒らせると後が怖いからな」
「……もう尻に敷かれてるのか?」
「うるせぇ。男にはな、色々あるんだよ」
「……ご愁傷様」
肩を落すムウを慰めるシオンだったが、言葉とは裏腹に楽しそうな表情を浮かべていた。
「――僕はザフトではありません。そして、もう、地球軍でもありません」
再会劇が終った後、キラは表情を改めて、そう宣言した。
シオンは口を挟むことなく、その様子を見守っている。
「解ったわ。とりえず、話をしましょう。あの機体はどうすればいいかしら?」
「整備や補給のことを仰っているのなら、今のところは不要でしょう。あれにはNジャマーキャンセラーが搭載されています」
〝Nジャマーキャンセラー〟の言葉に全員が愕然となる。
「データーを取りたいと仰るなら、お断りして僕はシオンさんとここを離れます。奪おうとされるのなら、敵対してでも守ります。アレを託された僕の責任です」
キラの力強い言葉と表情に、マリューは彼の決意の強さを思い知る。
「……解りました」
数瞬の後、マリューは背筋を延ばし、凛とした声を響かせる。
「機体には一切手を触れないことを約束します。いいわね?」
マリューはクルーに念を押した。
「――それで、これからアークエンジェルは……否、ラミアス艦長たちはどうされるおつもりですか?」
一通りの話しが終ったところでシオンがゆっくりと口を開いた。
「どう、って……」
目を伏せ、言いよどむマリュー。
「酷なようですが、はっきりと申し上げましょう。このまま応急処置を施し、パナマに辿り着いたとしても、命令なく戦線を離れたこの艦は敵前逃亡艦。しかも、連合上層部はアラスカで捨て駒にしたあなた方の生存を快く思うはずがない。このままでは銃殺刑は避けられないでしょう。というよりも、彼らにすれば、一刻も早く証拠隠滅したいでしょうしね」
「証拠隠滅……」
「当然でしょう? いくらコーディネイターを滅ぼす為とはいえ、多くの同胞を捨て石にしたと報道されれば、どうなります? 子供でも解ることでしょう。十中八九、軍法会議など名目上でしか行われない。今回の作戦の真相を知るあなたたちは名誉挽回の機会さえも与えられず、待ち受けるのは〝死〟のみだ」
『それでもまだ連合の為に戦いますか?』そう問われ、マリューは唇を噛み締めた。
クルーたちも顔色を失っている。
「……こんなこと終らせるには、何と戦わなくちゃいけないと、マリューさんは思いますか?」
キラの問いにマリューは言葉に詰まった。
「僕は……・それと戦わなくちゃならないんだと思います」
キラの肩を叩き、シオンが後を続けた。
「あなた方にその意思があるのなら、我が国は貴艦を受け入れよう。オーブ代表代理……いや、闇の獅子として、ここに貴艦アークエンジェルとそのクルー、及び、ZGMF-X10A〝フリーダム〟とそのパイロット、キラ・ヤマトの入国を許可する。――ようこそ、獅子の国へ。我が国は君たちを歓迎しよう」
初めて見るシオンの顔に、全員が彼がその背負うものの大きさを見た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
満身創痍のアークエンジェルは太平洋を南下していた。
通信が回復するなり、シオンは自分の他はウズミしか知らない極秘回線に繋げ、事の次第を報告した。
闇の獅子として正式にアークエンジェルとそのクルーの受け入れを許可したことを――
受け入れを拒否されるのではないかとのマリューたちの懸念をよそにオーブは彼らを受け入れた。
最初に訪れたときと同じようにオノゴロ島の秘密ドックから入港する。
ドックにはウズミとカガリ、そしてキサカが出迎えに来ていた。
アークエンジェルがドックに繋留されるなり、カガリはタラップを駆け出した。
艦内に走りこんできたカガリはキラの姿を目にするなり、飛びついた。
「キラ~!!」
「カガ……うわっ!」
飛びついてきたカガリを支えきれず、キラはそのまま床に倒れこんでしまった。
「このバカァ!お前……お前、死んだと思ってたぞ!このやろう!」
「ごめん」
後頭部を強かに打ちつけ、顔を歪めるキラを見上げるようにしてカガリが呟く。
「ほんとに……生きてるんだな?」
「生きてるよ。戻ってきたんだ」
「フィーリア代理のご好意に甘える形となってしまいましたが、この度はわたしどもの身勝手なお願いを聞き入れてくださり、ありがとうございました」
マリューが深々と頭を下げる。
オーブ軍本部の一室に設けられた会合にはアークエンジェル側はマリューを始め、ムウ、ノイマン、キラが。オーブ側はウズミ、カガリ、キサカ、そしてシオンが出席した。
「ことがことゆえ、クルーの方々にはまたしばらく不自由を強いるが、それはご了承いただきだい。ともあれ、ゆっくりと休むことはできよう」
「ありがとうございます」
「地球軍本部壊滅の報から、世界は再び動こうとしておる。ゆっくりと考えられるがよかろう。貴殿らの着ている、その軍服の意味もな」
「はい……」
「――それにしてもサイクロプスを使用するとは……」
アラスカでの出来事を聞き終えると、ウズミは苦々しい表情になった。
「しかし、いくら敵の情報をつかんでいたとて、そのような策、常軌を逸しているとしか思えん」
「ですが、アラスカは確かにそれで、ザフトの戦力を8割方奪いました。それは事実です――立案者に都合のいい犠牲のうえにね……机上の冷たい計算。我が国では決してありえない唾棄すべき作戦だ」
シオンが不快げにスクリーンに呼び出した地球軍司令部の公式発表を見ながら言った。
淡々とした口調で事実を読み上げたと思うと、画面が切り替わり、つい先日、行われた戦闘による、破壊の痕跡を映し出す。
事実を知らない報道官が沈痛な面持ちで感情を込めながら、コーディネイター排斥を訴えていた。よく出来たシナリオだった。
そう、真相を知らなければ、誰もが騙されるだろう。
「大西洋連邦は、中立の立場を取る国々へも、一層の圧力をかけてきておる。連合軍として参戦せぬ場合は敵対国と見なす、とな。むろん、我がオーブとて例外ではない。――ご存知のことと思うが、我が国はコーディネイターを拒否しない。オーブの法と理念を守るものならば誰でも入国、居住を許可する数少ない国だ。『ナチュラル』だから『コーディネイター』だからと互いを見るその思想こそが一層の軋轢を生むと考えるからだ。――だからこそ、コーディネイターをすべてただ悪とし、敵として攻撃させようとする大西洋連邦のやり方に同調することはできん」
「おっしゃることは解ります……ですが、失礼ながら、それは理想論ではないでしょうか? そうは言ってもコーディネイターはナチュラルを見下すし、ナチュラルはコーディナイターを妬みます。それが……現実です」
気まずげながらも反論するムウ。
「それはそうだな……我が国とてすべてが巧くいっているわけじゃない」
ムウの言葉に、ウズミは複雑な表情を浮かべる。
すると、黙っていたシオンが口を開いた。
「だが、それで諦めたら、やがて互いに滅ぼしつくすしかなくなる……そうなってから悔やんでも遅いんだ」
「シオンの言うとおりだ。それとも君らは、それが世界と言うなら黙って従うか?――どの道を選ぶかは君らの自由だ。君らは若く、力もある。見極められよ。真に目指す未来をな……」
「ウズミ様はどうお考えですか?」
「ただ、剣を飾っておける状況ではなくなった。そう、思っておる」
「推力低下!艦の姿勢、維持できません!!」
ノイマンの叫び声がブリッジに響き渡る。
その間に、攻撃をかいくぐってきたジンがアークエンジェルへと肉薄したかと思うと、すぐさまブリッジに向けてライフルを構えた。
目の前に現れた敵のモビルスーツ。
向けられた銃口に諦めて目を閉じる者、ただその場を離れようと逃げ出す者、諦めず敵を見据える者。
恐怖と絶望がブリッジを埋め尽くそうとしたその時、一筋の光が天から降り注ぎ、ジンのライフルを撃ち落とした。
突如襲ってきた衝撃に慌てたジンがカメラ・アイを宙に向けると、その頭部を、光と同じく降ってきた剣が一瞬で切り落とす。
〝それ〟は、まるでアークエンジェルを護るかのようにザフト軍の前に立ちふさがった。
輝く白と青を基調としたボディ。
Xナンバーと酷似していながらも、どこか違うそのモビルスーツは6枚の翼を広げ、その場に存在するすべての兵士たちを見下ろすように悠然とその姿を目に焼きつけさせた。
<こちらはシオン・フィーリア。アークエンジェル、聞こえますか?>
「フィーリア……代理?」
事態が飲み込めず、呆然とアンノウンモビルスーツを見ていたマリューだったが、通信機から入ってきた聞き覚えのある声に自身の耳を疑った。
「どうして代理がここに……」
<話は後です。援護するので今のうちに退艦を――>
通信している間も、シオンは機体を止めることは無かった。
両翼部に装備されているプラズマ収束ビーム砲を始め、両腰のレールガンが一斉に火を吹く。
その一度の攻撃だけでアークエンジェルの周囲に展開していた〝グゥル〟や〝ジン〟が確実に戦闘不能に陥る。
シオンの駆るフリーダムは、その圧倒的力を持って敵機を戦闘不能にはしたものの、撃墜まではしなかった。
そんな戦い方を目の当たりにしたキラは「すごい……」と感嘆の声を上げている。
<なにをしている!? 早く退艦を!>
再度、シオンが呼びかける。
それでもその場を動かないアークエンジェルに痺れを切らしたキラが「早く退艦してください、マリューさん!」と通信に割って入った。
「……!? まさか……あなたキラ君!?」
死んだと思っていたキラの声にマリューを始め、全クルーが驚愕する。
<そうだ。ここにはキラ君もいる!詳しい話は後で。死にたくないのなら早く退艦を!>
〝死〟の言葉にマリューがハッと我にかえる。
「あっ……いえ、駄目なのよ。本部の地下にサイクロプスが……わたしたちは囮に……知らなかったのよ。だからここで退艦はできないの。もっと基地から離れなくては……」
マリューの血を吐くような告白に、アークエンジェルは『捨て石』にされたのだと理解したシオンは、連合軍上層部の卑劣さに操縦桿を握る手を震わせた。
キラも理解したのだろう。言葉を失って呆然としている。
一瞬、思案したシオンは、通信をオープンチャンネルへと切り替えた。
<ザフト、連合、両軍に伝える。アラスカ基地は間もなくサイクロプスを起動させ、自爆する。両軍とも直ちに戦闘を停止し、撤退することを進言する。繰り返す――>
当然のことだろうが、シオンの警告に耳を貸すことなく、デュエルが切りかかってきた。
おそらく自分の警告を、戦況を混乱させる為のハッタリだと判断したのだろう。
チッ、と舌打ちしてシオンはフットペダルを踏み込んだ。一瞬でデュエルとの距離を詰めると、スピードを落とすことなくサーベルで両脚を切り落とす。
そのままデュエルをディン目掛けて蹴り飛ばすと同時に「そいつを連れて早く脱出しろ!」と通信を入れる。
迷いを見せるディンだったが、シオンが再度離脱を促すと、デュエルを抱えて戦闘を離脱した。
「機関全速!退避!」
タイミングを見計らい、アークエンジェルも発進する。
背後でサイクロプスが起動された。
シオンの警告を無視したザフト部隊はサイクロプスのマイクロ波をもろに受けた。
懸命に脱出しようとしたジンとグゥルだったが、グゥルを失ったことで支えを失ったジンも落下する。
力を失って墜落するジンの手を取ったのはフリーダムだった。
シオンはジンの傍に機体を近づけると、その腕を力強く引き上げて加速した。
アークエンジェルがアラスカ基地から離れた海岸に半ば墜落するように着艦すると、追いついたフリーダムもアークエンジェルが降り立った海岸近くの内陸部に降り立つ。
シオンとキラは、助けたザフト兵をコックピットから運び出したが、彼はすでにマイクロ波の余波を受けていたのだろう、間もなく息を引き取った。
キラは悔しそうに唇を噛み締め、それを見守るシオンもまた辛そうに眉を顰めている。
「マリューさん……間に合ってよかったです」
「本当に……キラ君なのね? それに……フィーリア代理も……助けてくださってありがとうございました」
マリューは深々と頭を下げた。
「……っキラ!」
ミリアリアが弾かれたようにキラに泣きつき、ノイマンを始めとしたクルーがそれに続いた。
サイ、カズイも複雑そうな表情でそれに続く。
涙の再会を1歩引いた位置で見ていたシオンの肩をムウが叩いた。
「サンキュー、助かったぜ。まさか、お前さんが来てくれるとは……しっかし、お前さんとボウズ……なんでザフトのスーツ着てんの」
「……ザフトに、いたの?」
マリューが驚いたように呟いた。
その質問にシオンは「話せば長くなるんですけどね」と、苦笑いを浮かべる。
「詳しいことは彼らの再会劇が終ってからにしましょう。せっかくの場面に不粋な邪魔はしたくない」
「あいっかわらずだなぁ、お前さん。だが、お前さんのそのセリフを聞くと、『生きてるんだな』って実感するぜ」
「そりゃ、よかったですね」
「可愛くないなー」
「男に可愛いと言われたくない」
睨み合う2人を止めたのはマリューだった。
「はいはい。2人とも、そこまでよ」
「仕方ない。ここはラミアス艦長の顔を立てておこう」
「しゃーねーな。マリューを怒らせると後が怖いからな」
「……もう尻に敷かれてるのか?」
「うるせぇ。男にはな、色々あるんだよ」
「……ご愁傷様」
肩を落すムウを慰めるシオンだったが、言葉とは裏腹に楽しそうな表情を浮かべていた。
「――僕はザフトではありません。そして、もう、地球軍でもありません」
再会劇が終った後、キラは表情を改めて、そう宣言した。
シオンは口を挟むことなく、その様子を見守っている。
「解ったわ。とりえず、話をしましょう。あの機体はどうすればいいかしら?」
「整備や補給のことを仰っているのなら、今のところは不要でしょう。あれにはNジャマーキャンセラーが搭載されています」
〝Nジャマーキャンセラー〟の言葉に全員が愕然となる。
「データーを取りたいと仰るなら、お断りして僕はシオンさんとここを離れます。奪おうとされるのなら、敵対してでも守ります。アレを託された僕の責任です」
キラの力強い言葉と表情に、マリューは彼の決意の強さを思い知る。
「……解りました」
数瞬の後、マリューは背筋を延ばし、凛とした声を響かせる。
「機体には一切手を触れないことを約束します。いいわね?」
マリューはクルーに念を押した。
「――それで、これからアークエンジェルは……否、ラミアス艦長たちはどうされるおつもりですか?」
一通りの話しが終ったところでシオンがゆっくりと口を開いた。
「どう、って……」
目を伏せ、言いよどむマリュー。
「酷なようですが、はっきりと申し上げましょう。このまま応急処置を施し、パナマに辿り着いたとしても、命令なく戦線を離れたこの艦は敵前逃亡艦。しかも、連合上層部はアラスカで捨て駒にしたあなた方の生存を快く思うはずがない。このままでは銃殺刑は避けられないでしょう。というよりも、彼らにすれば、一刻も早く証拠隠滅したいでしょうしね」
「証拠隠滅……」
「当然でしょう? いくらコーディネイターを滅ぼす為とはいえ、多くの同胞を捨て石にしたと報道されれば、どうなります? 子供でも解ることでしょう。十中八九、軍法会議など名目上でしか行われない。今回の作戦の真相を知るあなたたちは名誉挽回の機会さえも与えられず、待ち受けるのは〝死〟のみだ」
『それでもまだ連合の為に戦いますか?』そう問われ、マリューは唇を噛み締めた。
クルーたちも顔色を失っている。
「……こんなこと終らせるには、何と戦わなくちゃいけないと、マリューさんは思いますか?」
キラの問いにマリューは言葉に詰まった。
「僕は……・それと戦わなくちゃならないんだと思います」
キラの肩を叩き、シオンが後を続けた。
「あなた方にその意思があるのなら、我が国は貴艦を受け入れよう。オーブ代表代理……いや、闇の獅子として、ここに貴艦アークエンジェルとそのクルー、及び、ZGMF-X10A〝フリーダム〟とそのパイロット、キラ・ヤマトの入国を許可する。――ようこそ、獅子の国へ。我が国は君たちを歓迎しよう」
初めて見るシオンの顔に、全員が彼がその背負うものの大きさを見た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
満身創痍のアークエンジェルは太平洋を南下していた。
通信が回復するなり、シオンは自分の他はウズミしか知らない極秘回線に繋げ、事の次第を報告した。
闇の獅子として正式にアークエンジェルとそのクルーの受け入れを許可したことを――
受け入れを拒否されるのではないかとのマリューたちの懸念をよそにオーブは彼らを受け入れた。
最初に訪れたときと同じようにオノゴロ島の秘密ドックから入港する。
ドックにはウズミとカガリ、そしてキサカが出迎えに来ていた。
アークエンジェルがドックに繋留されるなり、カガリはタラップを駆け出した。
艦内に走りこんできたカガリはキラの姿を目にするなり、飛びついた。
「キラ~!!」
「カガ……うわっ!」
飛びついてきたカガリを支えきれず、キラはそのまま床に倒れこんでしまった。
「このバカァ!お前……お前、死んだと思ってたぞ!このやろう!」
「ごめん」
後頭部を強かに打ちつけ、顔を歪めるキラを見上げるようにしてカガリが呟く。
「ほんとに……生きてるんだな?」
「生きてるよ。戻ってきたんだ」
「フィーリア代理のご好意に甘える形となってしまいましたが、この度はわたしどもの身勝手なお願いを聞き入れてくださり、ありがとうございました」
マリューが深々と頭を下げる。
オーブ軍本部の一室に設けられた会合にはアークエンジェル側はマリューを始め、ムウ、ノイマン、キラが。オーブ側はウズミ、カガリ、キサカ、そしてシオンが出席した。
「ことがことゆえ、クルーの方々にはまたしばらく不自由を強いるが、それはご了承いただきだい。ともあれ、ゆっくりと休むことはできよう」
「ありがとうございます」
「地球軍本部壊滅の報から、世界は再び動こうとしておる。ゆっくりと考えられるがよかろう。貴殿らの着ている、その軍服の意味もな」
「はい……」
「――それにしてもサイクロプスを使用するとは……」
アラスカでの出来事を聞き終えると、ウズミは苦々しい表情になった。
「しかし、いくら敵の情報をつかんでいたとて、そのような策、常軌を逸しているとしか思えん」
「ですが、アラスカは確かにそれで、ザフトの戦力を8割方奪いました。それは事実です――立案者に都合のいい犠牲のうえにね……机上の冷たい計算。我が国では決してありえない唾棄すべき作戦だ」
シオンが不快げにスクリーンに呼び出した地球軍司令部の公式発表を見ながら言った。
淡々とした口調で事実を読み上げたと思うと、画面が切り替わり、つい先日、行われた戦闘による、破壊の痕跡を映し出す。
事実を知らない報道官が沈痛な面持ちで感情を込めながら、コーディネイター排斥を訴えていた。よく出来たシナリオだった。
そう、真相を知らなければ、誰もが騙されるだろう。
「大西洋連邦は、中立の立場を取る国々へも、一層の圧力をかけてきておる。連合軍として参戦せぬ場合は敵対国と見なす、とな。むろん、我がオーブとて例外ではない。――ご存知のことと思うが、我が国はコーディネイターを拒否しない。オーブの法と理念を守るものならば誰でも入国、居住を許可する数少ない国だ。『ナチュラル』だから『コーディネイター』だからと互いを見るその思想こそが一層の軋轢を生むと考えるからだ。――だからこそ、コーディネイターをすべてただ悪とし、敵として攻撃させようとする大西洋連邦のやり方に同調することはできん」
「おっしゃることは解ります……ですが、失礼ながら、それは理想論ではないでしょうか? そうは言ってもコーディネイターはナチュラルを見下すし、ナチュラルはコーディナイターを妬みます。それが……現実です」
気まずげながらも反論するムウ。
「それはそうだな……我が国とてすべてが巧くいっているわけじゃない」
ムウの言葉に、ウズミは複雑な表情を浮かべる。
すると、黙っていたシオンが口を開いた。
「だが、それで諦めたら、やがて互いに滅ぼしつくすしかなくなる……そうなってから悔やんでも遅いんだ」
「シオンの言うとおりだ。それとも君らは、それが世界と言うなら黙って従うか?――どの道を選ぶかは君らの自由だ。君らは若く、力もある。見極められよ。真に目指す未来をな……」
「ウズミ様はどうお考えですか?」
「ただ、剣を飾っておける状況ではなくなった。そう、思っておる」