Northern Lights(種無印)
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17話 オーブ
ラコーニ隊の護衛で無事プラントに帰還を果たしたラクスは久しぶりの我が家へと足を踏み入れた。
「ラクス……無事でよかった」
知らせを受けてラクスの帰宅を待っていたシーゲルは、共に出迎える執事やメイド達を他所に、愛娘を強く抱き締めた。
本当に無事でよかった、と何度も呟いて。
「お父様……」
その声と温もりに、ラクスは現実を実感する。
目の前で起こった戦闘、救命ポッドで彷徨う自分を救ってくれたキラ、コーディネイターである自分を畏怖するナチュラル、庇うように常に傍に居てくれたシオン。
少し前に体験したはずの出来事が、まるで夢だったかのような錯覚に陥る。
「……少し、休みますわ」
そう言って自室へと入ったラクスは、靴を無造作に脱ぎ捨てて着替えもせずベッドへと倒れこんだ。
まるでラクスを気遣うように、その枕元をピンク色のハロが転がっている。
『元気で』
『またお会いしましょうね』
『……必ず』
自分の言葉に困ったように苦笑いを浮かべた彼。
今も心の中を占めるのは連合の艦の中で出逢ったシオンのことだった。
ベッドで寝転がったまま、窓へと視線を向けると外には人工の夜空が広がる。
先程から何度目かになるかわからない溜息が漏れた。
「あの方に……シオン様に……もう一度お会いしたいですわ。ねぇ、ピンクちゃん?」
ラクスは手を伸ばすとハロを胸元に抱き寄せ、ハロに語りかけた。その言葉に同意するようにハロがシオンの名前を繰り返す。
彼の名を聞くだけで胸が締め付けられるような感情に支配されるラクスは、それをどうにかしようとハロを抱き締める手に力を込めた。
「今頃はもうオーブに戻られたのでしょうか……確か地球はあちらの方向でしたわね。出来ることなら今すぐにでも飛んで行きたい。もう一度あの方の微笑が見たいですわ」
切ない願いを胸に秘め、ラクスは眠りの淵へと落ちていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ウズミの許可を得たシオンは、アマテラスをモルゲンレーテとは別に設けられた専用施設に運び込むと、ミゲルとラスティを連れて自宅へとエアカーを走らせた。
「なんか別人だよなー」
後部座席から運転席へと身を乗り出すようにして、突然ラスティが呟いた言葉にシオンが「誰が?」と問い返した。ミゲルもシオンと同じような表情でラスティの返事を待っている。
「そうやってオーブ軍の服着てるとさ、やっぱオーブのお偉いさんなんだなーってさ」
「お偉いさんって……」
のほほんとしたラスティの言葉に、ザフトの赤服が使う単語じゃないだろ、とミゲルは内心溜め息をついた。
「お褒めに預かり光栄だ。俺の立場上、これを着て威厳が出なければ問題だからな」
視線は前方に固定したまま、風で乱れる髪を軽く押さえながらシオンはそう言って笑った。
「じゃあさ、今度俺たちの軍服姿も見せてやるよ」
「あぁ、楽しみにしてるよ」
何の気なしに言ったであろうラスティの言葉に、シオンは一瞬表情を曇らせる。
オーブとプラント、それぞれの軍人である自分達がその軍服を纏って仲良く再会できる日など来るのだろうか……と。
「うっわ、広!」
開口一番ラスティはそう言った。
ベッドルームは4部屋、それ以外にも書斎、リビング、キッチン、バスルームなど。
1人暮らしには十分すぎる間取りに、ミゲルも絶句している。
「俺の寝室はここ。この部屋だけは立ち入り禁止だからな。他の部屋は好きに使ってくれていい。相談してお互いの寝室を決めてくれ」
シオンの後を黙って付いて歩く2人に、シオンは部屋の説明を淡々とこなしていった。
「あと必要なのは……着替えと食料だな。買出しに行くぞ」
「えっ、ちょっとくらい休憩――」
まさに一息入れようとソファに腰を降ろしたラスティが、抗議するような視線をシオンへ向ける。
「ダメ。俺は忙しいんだ。これが終ったら行政府にとんぼ返りなんだからな」
その言葉にミゲルは一瞬の間の後、シオンへと視線を向けて呟いた。
「……いいのかよ。俺たちを見張ってなくて」
どんな風に呼ばれようと、どんな待遇を受けようとも、今の自分達は捕虜だ。
本来なら、こんな自由は与えられない。
「逃げる気なのか?」
真剣な面持ちのミゲルとは対照的に、シオンは茶化すような笑みを浮かべている。
それは、この言葉に対するミゲルやラスティの答えを予想してのものなのだろう。
「いや、そんな気ねぇよ」
「なら別に問題ないだろう? 現金も用意しておくから欲しいものがあったら遠慮なく買えよ。ほら、行くぞ。時間が勿体無い」
問答無用とばかりに2人の首根っこを掴むと、シオンは買い物へと急いだ。
オーブに入ってすぐ、モルゲンレーテの作業服しか与えられなかったミゲルとラスティに普段着を用意しようと、まずは服を選びに一軒の店を目指した。
「アレと……アレ。それにあそこのも見せてもらおうかな」
愛用の店に入ったシオンは、2人に服を物色するように言ったが、遠慮しているのか1着しか選ばない2人に業を煮やし、似合いそうな服を片っ端からチョイスしていく。断ろうとするミゲルとラスティを問答無用で黙らせると、2人に選択権を与えないまま、シオンは馴染みの店員と談笑しながら2人のコーディネイトを何パターンも完成させた。
あっという間に支払いを済ませ、夕方に自宅マンションへ届ける手配も抜かりなく済ませる。その鮮やかなまでの強制力と行動力に、ミゲルとラスティは「ある意味捕虜だ……」と呟いた。
「ほら、なにグズグズしてる。次は食料の買出しに行くぞ」
「元気だな……つーか、ありえねぇよ。そりゃ俺だって親父が評議員だし、金はあるぜ。けど1人暮らしであの広さの家とこの買い物の量はどうよ?」
「お前がそれなら一般人の俺はどうなるんだ。金銭感覚についていけねぇっての」
つい先ほどの買い物を思い出し、溜め息をつくミゲル。シオンの「早くしろ」の声でラスティと顔を見合わせ、苦笑いしつつエアカーまで走る。
なんのかんのと言ってもシオンとの生活が楽しみでもあるのだ。
夕刻、山のような食糧を買い込みマンションに戻ってくるとタイミングよく、2人の衣類が届けられた。
2人が試着している間に手早く夕飯の準備を始めるシオン。
出来上がったパスタとサラダをテーブルに並べていると2人がキッチンにやってきた。
「どう、似合う?」
「ああ、似合ってる。ミゲルもいいじゃないか」
「そうか? まぁ俺は何着ても似合うからな」
そう言ってモデル張りのポージングをとるミゲルに、ラスティが小さく溜め息をついている。
「まーた始まったよ」
ミゲルのナルシスト的発言に、ウンザリだと言わんばかりのラスティ。
シオンはそんな2人の微笑ましいやり取りを見守りつつ、食事の段取りを進めた。
「さっ、冷めないうちに食べてくれ」
「うまそう~」
素早く椅子に座ったラスティが、テーブルに並ぶ食料を見て目を輝かせている。
「料理するんだな」
意外そうに呟くミゲルに、シオンは「簡単なものくらいならな」と笑って答えた。
ラスティはさっそくパスタを口に運んでいる。
「うまーい」
「口に合ってなによりだ」
「マジ美味いって! ミゲル、早く食べてみろよ」
「へー、んじゃ俺も――美味いな……」
久しぶりの落ち着いた食事に、2人は黙々と口に食べ物を運んでいる。
その様子に満足げな笑みを浮かべ、シオンはキッチンを後にする。
「それじゃ俺は行政府に行くから。たぶん泊まりになると思うから戸締りだけして先に寝ててくれ」
「「いってらっしゃい」」
見事にハモる2人。
シオンは一瞬驚いたように目を見張ったが、すぐに笑顔で出て行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時折吹き抜ける風は木々を揺らし、シオンの髪を弄ぶ。
静かに見下ろす視線の先には、大切な人の名が刻まれた墓がある。
「ただいま」
呟きながら、ゆっくりと片膝をつくと、手にしていた花をそっと手向ける。
「いろいろあったけど……無事に帰って来たよ、サリア」
愛しそうにその名を紡ぐと、自然と笑みが浮かぶ。
彼女に報告しようと、シオンはヘリオポリスでの出来事を思い起こしていた。
――極秘裏に開発された新型MSと戦艦の存在。ザフトとの交戦。アークエンジェルでの出来事。キラやミゲル、ラスティ達との出会い。
ここを離れて、そんなに時間は経っていないはずなのに、全てが懐かしく感じられる。
一体どれだけの時間、彼女と話していたのだろう。
頬を掠める風がほんの少し冷たさを増し、シオンの思考を遮った。
「……あ、偶然ハルバートン提督に会ったんだ。君のことを……心配してた……っ」
シオンの顔から先程までの笑みが消える。
信じたくない現実を、やっと受け入れることが出来たのはつい最近だった。
他人にその事――サリアの死――を告げるには、まだ痛みが伴う。
「ごめん……もう行かないと。こう見えても結構忙しい身なんだ」
なんとか笑顔を作り、いつものように墓石へと口付ける。
「また来るよ」
ゆっくりと立ち上がると、膝についた汚れを払い、墓地を後にした。
ラコーニ隊の護衛で無事プラントに帰還を果たしたラクスは久しぶりの我が家へと足を踏み入れた。
「ラクス……無事でよかった」
知らせを受けてラクスの帰宅を待っていたシーゲルは、共に出迎える執事やメイド達を他所に、愛娘を強く抱き締めた。
本当に無事でよかった、と何度も呟いて。
「お父様……」
その声と温もりに、ラクスは現実を実感する。
目の前で起こった戦闘、救命ポッドで彷徨う自分を救ってくれたキラ、コーディネイターである自分を畏怖するナチュラル、庇うように常に傍に居てくれたシオン。
少し前に体験したはずの出来事が、まるで夢だったかのような錯覚に陥る。
「……少し、休みますわ」
そう言って自室へと入ったラクスは、靴を無造作に脱ぎ捨てて着替えもせずベッドへと倒れこんだ。
まるでラクスを気遣うように、その枕元をピンク色のハロが転がっている。
『元気で』
『またお会いしましょうね』
『……必ず』
自分の言葉に困ったように苦笑いを浮かべた彼。
今も心の中を占めるのは連合の艦の中で出逢ったシオンのことだった。
ベッドで寝転がったまま、窓へと視線を向けると外には人工の夜空が広がる。
先程から何度目かになるかわからない溜息が漏れた。
「あの方に……シオン様に……もう一度お会いしたいですわ。ねぇ、ピンクちゃん?」
ラクスは手を伸ばすとハロを胸元に抱き寄せ、ハロに語りかけた。その言葉に同意するようにハロがシオンの名前を繰り返す。
彼の名を聞くだけで胸が締め付けられるような感情に支配されるラクスは、それをどうにかしようとハロを抱き締める手に力を込めた。
「今頃はもうオーブに戻られたのでしょうか……確か地球はあちらの方向でしたわね。出来ることなら今すぐにでも飛んで行きたい。もう一度あの方の微笑が見たいですわ」
切ない願いを胸に秘め、ラクスは眠りの淵へと落ちていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ウズミの許可を得たシオンは、アマテラスをモルゲンレーテとは別に設けられた専用施設に運び込むと、ミゲルとラスティを連れて自宅へとエアカーを走らせた。
「なんか別人だよなー」
後部座席から運転席へと身を乗り出すようにして、突然ラスティが呟いた言葉にシオンが「誰が?」と問い返した。ミゲルもシオンと同じような表情でラスティの返事を待っている。
「そうやってオーブ軍の服着てるとさ、やっぱオーブのお偉いさんなんだなーってさ」
「お偉いさんって……」
のほほんとしたラスティの言葉に、ザフトの赤服が使う単語じゃないだろ、とミゲルは内心溜め息をついた。
「お褒めに預かり光栄だ。俺の立場上、これを着て威厳が出なければ問題だからな」
視線は前方に固定したまま、風で乱れる髪を軽く押さえながらシオンはそう言って笑った。
「じゃあさ、今度俺たちの軍服姿も見せてやるよ」
「あぁ、楽しみにしてるよ」
何の気なしに言ったであろうラスティの言葉に、シオンは一瞬表情を曇らせる。
オーブとプラント、それぞれの軍人である自分達がその軍服を纏って仲良く再会できる日など来るのだろうか……と。
「うっわ、広!」
開口一番ラスティはそう言った。
ベッドルームは4部屋、それ以外にも書斎、リビング、キッチン、バスルームなど。
1人暮らしには十分すぎる間取りに、ミゲルも絶句している。
「俺の寝室はここ。この部屋だけは立ち入り禁止だからな。他の部屋は好きに使ってくれていい。相談してお互いの寝室を決めてくれ」
シオンの後を黙って付いて歩く2人に、シオンは部屋の説明を淡々とこなしていった。
「あと必要なのは……着替えと食料だな。買出しに行くぞ」
「えっ、ちょっとくらい休憩――」
まさに一息入れようとソファに腰を降ろしたラスティが、抗議するような視線をシオンへ向ける。
「ダメ。俺は忙しいんだ。これが終ったら行政府にとんぼ返りなんだからな」
その言葉にミゲルは一瞬の間の後、シオンへと視線を向けて呟いた。
「……いいのかよ。俺たちを見張ってなくて」
どんな風に呼ばれようと、どんな待遇を受けようとも、今の自分達は捕虜だ。
本来なら、こんな自由は与えられない。
「逃げる気なのか?」
真剣な面持ちのミゲルとは対照的に、シオンは茶化すような笑みを浮かべている。
それは、この言葉に対するミゲルやラスティの答えを予想してのものなのだろう。
「いや、そんな気ねぇよ」
「なら別に問題ないだろう? 現金も用意しておくから欲しいものがあったら遠慮なく買えよ。ほら、行くぞ。時間が勿体無い」
問答無用とばかりに2人の首根っこを掴むと、シオンは買い物へと急いだ。
オーブに入ってすぐ、モルゲンレーテの作業服しか与えられなかったミゲルとラスティに普段着を用意しようと、まずは服を選びに一軒の店を目指した。
「アレと……アレ。それにあそこのも見せてもらおうかな」
愛用の店に入ったシオンは、2人に服を物色するように言ったが、遠慮しているのか1着しか選ばない2人に業を煮やし、似合いそうな服を片っ端からチョイスしていく。断ろうとするミゲルとラスティを問答無用で黙らせると、2人に選択権を与えないまま、シオンは馴染みの店員と談笑しながら2人のコーディネイトを何パターンも完成させた。
あっという間に支払いを済ませ、夕方に自宅マンションへ届ける手配も抜かりなく済ませる。その鮮やかなまでの強制力と行動力に、ミゲルとラスティは「ある意味捕虜だ……」と呟いた。
「ほら、なにグズグズしてる。次は食料の買出しに行くぞ」
「元気だな……つーか、ありえねぇよ。そりゃ俺だって親父が評議員だし、金はあるぜ。けど1人暮らしであの広さの家とこの買い物の量はどうよ?」
「お前がそれなら一般人の俺はどうなるんだ。金銭感覚についていけねぇっての」
つい先ほどの買い物を思い出し、溜め息をつくミゲル。シオンの「早くしろ」の声でラスティと顔を見合わせ、苦笑いしつつエアカーまで走る。
なんのかんのと言ってもシオンとの生活が楽しみでもあるのだ。
夕刻、山のような食糧を買い込みマンションに戻ってくるとタイミングよく、2人の衣類が届けられた。
2人が試着している間に手早く夕飯の準備を始めるシオン。
出来上がったパスタとサラダをテーブルに並べていると2人がキッチンにやってきた。
「どう、似合う?」
「ああ、似合ってる。ミゲルもいいじゃないか」
「そうか? まぁ俺は何着ても似合うからな」
そう言ってモデル張りのポージングをとるミゲルに、ラスティが小さく溜め息をついている。
「まーた始まったよ」
ミゲルのナルシスト的発言に、ウンザリだと言わんばかりのラスティ。
シオンはそんな2人の微笑ましいやり取りを見守りつつ、食事の段取りを進めた。
「さっ、冷めないうちに食べてくれ」
「うまそう~」
素早く椅子に座ったラスティが、テーブルに並ぶ食料を見て目を輝かせている。
「料理するんだな」
意外そうに呟くミゲルに、シオンは「簡単なものくらいならな」と笑って答えた。
ラスティはさっそくパスタを口に運んでいる。
「うまーい」
「口に合ってなによりだ」
「マジ美味いって! ミゲル、早く食べてみろよ」
「へー、んじゃ俺も――美味いな……」
久しぶりの落ち着いた食事に、2人は黙々と口に食べ物を運んでいる。
その様子に満足げな笑みを浮かべ、シオンはキッチンを後にする。
「それじゃ俺は行政府に行くから。たぶん泊まりになると思うから戸締りだけして先に寝ててくれ」
「「いってらっしゃい」」
見事にハモる2人。
シオンは一瞬驚いたように目を見張ったが、すぐに笑顔で出て行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時折吹き抜ける風は木々を揺らし、シオンの髪を弄ぶ。
静かに見下ろす視線の先には、大切な人の名が刻まれた墓がある。
「ただいま」
呟きながら、ゆっくりと片膝をつくと、手にしていた花をそっと手向ける。
「いろいろあったけど……無事に帰って来たよ、サリア」
愛しそうにその名を紡ぐと、自然と笑みが浮かぶ。
彼女に報告しようと、シオンはヘリオポリスでの出来事を思い起こしていた。
――極秘裏に開発された新型MSと戦艦の存在。ザフトとの交戦。アークエンジェルでの出来事。キラやミゲル、ラスティ達との出会い。
ここを離れて、そんなに時間は経っていないはずなのに、全てが懐かしく感じられる。
一体どれだけの時間、彼女と話していたのだろう。
頬を掠める風がほんの少し冷たさを増し、シオンの思考を遮った。
「……あ、偶然ハルバートン提督に会ったんだ。君のことを……心配してた……っ」
シオンの顔から先程までの笑みが消える。
信じたくない現実を、やっと受け入れることが出来たのはつい最近だった。
他人にその事――サリアの死――を告げるには、まだ痛みが伴う。
「ごめん……もう行かないと。こう見えても結構忙しい身なんだ」
なんとか笑顔を作り、いつものように墓石へと口付ける。
「また来るよ」
ゆっくりと立ち上がると、膝についた汚れを払い、墓地を後にした。