Northern Lights(種無印)
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1話 偽りの平和
C.E.71、1月
<新たに届いた情報によりますと、ザフトは先週末、華南宇宙港の手前6キロの地点まで届き……>
ディスプレイに開いた別窓中でアナウンサーが深刻な表情でニュースを読み上げていた。
シオンはモルゲンレーテで手にした情報を暗号化してウズミに送るため一心不乱にキーボードを叩く。
最後にエンターキィを押すと情報がオーブへと送られた。
「これでここでの俺の仕事は終わりだな。後はどうするか……ザフトがこのままヘリオポリスを放っておくとは思えない。俺が指揮官なら……確実にザフトはヘリオポリスにやってくる。まったく……民間企業ゆえの強欲が出た結果がこれ、か。中立たるオーブが極秘裏に連合のためにMSを造った。それだけでもやっかいなのにもう一つ―――」
シオンはモルゲンレーテのメインコンピューターにハッキングして手に入れた資料に目を細めた。
―――強襲機動特装艦〝アークエンジェル〟―――
全長 約420m
装甲 ラミネート装甲使用
武装 陽電子破城砲 ローエングリン×2
2連装高エネルギー収束線砲 ゴットフリートMk.71×2
単装リニアカノン バリアントMk.8×2
対空自動バルカン砲塔システム イーゲルシュテルン×16
発射管対空防御ミザイル ヘルダート×16
対空ミサイル スレッジハマー
対空防御ミサイル コリントスM114
大気圏内用ミサイル ウォンバット
(こんなものまで造るなんて何を考えてる!)
苛立ちを隠せずに机を叩く。
大天使の名を冠されたこの戦艦は他のXシリーズ以上に厳重に隠されており、ザフト側もこの戦艦の存在までは気づいてはいないだろうとシオンは推測した。
だからこそ余計に腹が立つ。Xシリーズだけでも頭が痛いのにこの上戦艦まで建造していたとなると、プラントに対してオーブは言い訳ができなくなるだろう。
いや、ウズミの性格からして最初から言い訳などせずに全責任を負う形で引責辞任しそうだが。
「させるか。あの方はオーブに必要な方だ。さて、どうしたものか……」
シオンは思考の海に潜った。だから気づくのが遅れたのだ。管制区のアラートに―――
シオンがヘリオポリスに来て、まず最初にしたことはヘリオポリス内のメインコンピューターにアクセスして官制区の情報を自分のコンピューターにダウンロードすることだった。
シオン・フィーリアには2種類のIDが存在する。
1つはオーブ民間人としてのID。
もう一つは影から獅子の国を護る、闇の獅子としてのID。
その影の存在は公になってはいない。その存在を知るのは、オーブ五大氏族と軍内の一佐以上の階級の人間のみ。
闇の獅子とは非常時にはオーブ代表の持つ全権限を独断で行使することも認められている。文字通りもう一人のオーブ代表なのだ。
だが、その存在は決して表に出ることはなかった。今までは。
「……!?」
工場区から聞こえてくる爆発音でシオンはパッと目を開いた。
コンピューターに向き直り、すさまじい速さでキーボードーを叩いていく。
「くそっ!やっぱり来たか!……だが、Xシリーズだけは!!」
ディスプレイ内に映し出された光景は爆風に吹き飛ばされる人々と誘爆し、炎上する施設。そしてMSの攻撃で崩れ落ちるモルゲンレーテだった。
シオンは手早くデーターを移し替えると万が一のことを考え、コンピューターを初期化して研究室を走り去った。
「お父様の裏切り者!!」
シオンが格納庫まで走って来たとき、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
(この声……まさか、カガリ!?)
声の主を探して周りを見渡すと、茶色の髪の少年の傍で地面に膝をついて叫んでいるカガリの姿があった。
(なんでここにあいつがいるんだ)
傍に行こうとした瞬間、視界の端にキラリと光るものがカガリに向けられるのを確認したシオンは少年に向かって「避けろ!」と叫んだ。
シオンの声に反応した少年はカガリを抱えて後ろへ飛びのいた。間一髪で銃弾は手すりをかすめて飛んでいく。
「大丈夫か!」
シオンは急いで二人に走り寄って怪我がないか確かめた。
「はい、大丈夫です。あの……先程はありがとうございました。あなたが声を掛けてくれなかったら僕たち……」
「いや、無事ならそれでいい」
「―――! お前……っ!!」
シオンの顔を確認したカガリが驚いた声を上げた。
「久しぶりだな」
シオンは表情を和らげ、カガリの頭をポンポンと叩いた。
「お知り合いですか?」
「ああ。この子を助けてくれてありがとう。俺はシオン・フィーリア。君は?」
「キラです。キラ・ヤマト」
キラ君か、と微笑みながらシオンが握手の手を差し出すと、キラはその微笑に顔を赤くして、慌てて手を差し出した。
「ちょっ、なんでヘリオポリスにいるんだ。わたしは聞いていないぞ」
頬を膨らませるカガリに「仕事だよ」と手短にシオンは答える。
「ここは危険です。早くシェルターに行かないと……」
「そうだな。確かにこのままじゃ危険だ。悪いな、説明してる暇がない。シェルターへ急ぐぞ」
焦るキラの言葉に頷いたシオンは、なおも言い縋ろうとするカガリの言葉を無視して走り出した。
キラもカガリの手を引いて走り出す。
シェルターに辿り着き、入り口のインターフォンを押すと、スピーカーから声が返ってきた。
<まだ誰かいるのか?>
「ああ、3人いる。開けてくれ」
「3人だって!?」
シオンの言葉に驚いた声が返ってくる。
「……? 3人だとマズイのか?」
スピーカーからの応答に一瞬間が空いた。
<……もう、ここは一杯だ。左ブロックに37があるがそこまで行けないか?>
男の返答にシオンはチッと舌を鳴らした。
37ブロックに行くには銃撃戦の中をかいくぐって行かなければならない。自分はともかくキラとカガリだけでもシェルターに避難させたかった。
思案するように一瞬押し黙ったシオンを押し退けるようにキラがスピーカーへ向かって言葉を投げつけた。
「なら一人だけでも!お願いします。女の子なんです!」
「おっ、おい、キラ君……」
呆然としていると、しばらくの沈黙の後、中から応答があった。
<―――わかった。すまん>
ロックが開き、扉が開くとキラはカガリの身体を押し込んだ。
「ちょっ……ちょっと待って!お前らはどうするんだ!?」
「俺たちは向こうのシェルターに行く」
「だから大丈夫」
シオンの言葉に頷くキラ。
嫌がるカガリの声を無視してシオンは扉を閉めた。
まずはカガリを避難させることができ、肩の荷が一つ降りたことに安堵する。
それでもまだ、成すべきことは山積みだった。
「すまない。本来なら君も一緒に避難させるべきなのに……」
「気にしないでください。それより急ぎましょう」
「ああ」
シオンはキラを連れて走り出した。
「ハマナ、ブライアン、早くX―105、X―303を起動させるんだ!」
女の声が格納庫に響いた。
キラとシオンがキャットウォークの下に視線を移すと、そこにはMSの陰に隠れてライフルを撃っている女性がいた。
(あの銃捌き……あの女、ただの作業員じゃないな。おそらく連合の人間か。相手はザフト、圧倒的に不利だ)
そう思いながらもシオンにはその作業服の女を助ける気など微塵もなかった。
(他人の国のコロニー内で平気な顔してMSやら銃やら……何様のつもりだ、あいつら)
利益に目が眩んで連合の仕事を引き受けたモルゲンレーテにも非はあるが、ここは民間のコロニーだ。数多くの市民が暮らしている。そこを彼らは戦場にしたのだ。
シオンは冷めた眼で戦闘を見ていた。
(いくらがんばっても無駄だな。相手はコーディネーター。ナチュラルのしかも女が敵う相手じゃない……あいつらがやりあっているうちにシェルターに急ぐか)
シオンは見つからないように姿を隠しながら場所を移動した。
安全を確認してキラに声をかける。その時、一人のザフト兵が作業服の女を背後から狙った。
それに気づいたキラが「後ろ!」と叫んでいた。その声に反応して女はザフト兵を撃つ。そして、その上にいたキラに眼を留めた。
「――子供?」
女は一瞬、驚いた表情を見せたが「来い!」と叫んだ。
「左ブロックのシェルターへ行きます。おかまいなく」
「あそこにはもう、ドアしかない!」
キラがそう言うと女は再び叫んだ。女の言葉に足を止めたキラは決心したように隣にいるであろうシオンに声を掛けた。
「それじゃあ、彼も一緒に……え? シオンさん?」
さっきまで隣にいたシオンの姿を探して辺りを見回すと、ちょうど作業服の女の位置からは死角になる位置にシオンは立っていた。
「シオンさん―――!?」
キラが叫ぶとシオンは呼ぶなというようにジェスチャーをした。
「君は彼女と行くんだ。シェルターがない以上、このままここにいるのは危険だ」
「それじゃ一緒に……」
「俺は一緒には行けない。ここから少し離れた場所に相棒を待たせているんだ。さぁ、早く行くんだ!このままここにいたら本当に死んでしまうぞ!」
「わ……解りました」
決断したキラはキャットウォークから飛び降りた。そのまま猫のようなしなやかさでMSの上に着地した。
その間にも女の背後で戦っていた男がザフト兵を撃ち倒す。
仲間の生命を奪ったその男に向かって赤いパイロットスーツの兵士が銃を撃った。
男が倒れると、ザフト兵は振り向きざまに女を撃った。ザフト兵の撃った弾は女の肩に命中し、血が飛び散った。
(不本意だが、このままではキラ君も危険だからな)
事の次第を黙って見ていたシオンは懐から銃を取り出し、ザフト兵の銃を撃ち飛ばした。
いきなりどこからともなく飛んできた銃弾に自分の銃を撃ち落されたザフト兵はナイフを取り出し、キラと女に向かって走り寄った。
シオンは冷静に銃身をザフト兵の額に狙いを定めた。トリガーにかかった指に力を入れる―――そこでザフト兵の動きが止まった。
(……? なんだ?)
シオンは様子を見るために銃を下ろした。
「……アスラン?」
「……キラ?」
思ってもいない場所での再会にキラとアスランは呆然と立ち尽くしていた。その隙を突いて女は銃を構えた。
それに気づいたアスランが間一髪で避ける。
銃声に驚いて振り返ったキラは女に体当たりされ、MSの中へと転がり込んだ。
(あの女、何を考えてる!いくら非常事態でも民間人をMSの中に入れるなんて……それにしてもあのザフト兵の動きは一体……?)
シオンが眉をしかめている間にも事態は進んだ。
システムが立ち上がったのだろう。ブゥンという駆動と共にMSの両目が光り指が動いた。
エンジンがうなり声を上げたかと思うと、四肢がぎこちなく動き始め、機体を固定していたボルトが周囲に飛び散った。
一方のアスランも、もう一方の機体に乗り込んだ。そこに〝ジン〟から通信が入る。
<よくやった、アスラン>
「ラスティは失敗だ。向こうの機体には地球軍の士官が乗っている」
通信してきたミゲルにアスランは辛そうに答えた。
「なに!? ラスティは?」
ミゲルの問いにアスランは唇を噛み締めて首を振った。
<なら、あの機体は俺が捕獲する。お前は先に離脱しろ!>
ミゲルの〝ジン〟がマシンガンを発砲し、機体に近づく。それをシオンは冷静に見ていた。
「GAT―X105 ストライク、か。ストライカーパック換装システム、高機動タイプエール、接近戦に特化したソード、砲戦用ランチャの3種類に機体を変更可能な万能機。だが、未だOSが未完成。さて、どうなることやら……」
シオンは記憶の中からストライクの資料を取り出して呟いた。
そろそろ自分も動く時だろう。
ヘリオポリス内で戦闘を始めた連合とザフトがどうなろうと知ったことではないが、キラにストライクのパイロットと行けと言ったのは自分だ。せめてキラだけでも護らなければ……その思いでシオンはキャットウォークから飛び降りた。
ザフト兵たちの死体の傍を横切ろうとした時、その内の一人がピクリと動いた。シオンは近づいてヘルメットを脱がし、傷口を確かめた。
銃弾は急所からわずかだがずれていた。それでもこのままにしておけばやがては失血死するのは目に見えている。
(まだ子供じゃないか。なんで……)
シオンは手早く止血のための応急処置を済ますと、モルゲンレーテの敷地内を後にした。
途中、ジンとストライクに視線を移せば、戦闘中にいきなり動きが格段によくなったストライクがアーマーシュナイダーでジンの首に突き立てていた。
(動きが変わった!? OSを書き換えたのか?……だが、あれほどの動きができるOSがナチュラルに組み立てることができるのか? しかも、どう見てもアレを書き換えたのは戦闘中だ。いったい、誰が……)
シオンの脳裏にキラの姿が浮かび上がったが、「まさかな」と首を振って頭の端へ追いやった。
モルゲンレーテの敷地から数キロ離れた地下にその施設はあった。
巧妙にカムフラージュされた入り口に立ち、シオンは一見するとパネルには見えないそれに手を置いた。
システムが起動し、シオンの指紋を読み取っていく。続いて網膜照合の指示が出る。指示に従い網膜のチェックを済ませると、最終チェックとして声紋チェックが行われる。
「オーブ代表代理シオン・フィーリア」
このチェックのすべてが一度にクリアできなければこの扉を開くことはできない。それだけこの扉の向こうにいる存在は重要なのだ。
『指紋照合クリア
網膜照合クリア
声紋照合クリア
全照合クリア シオン・フィーリアと承認します』
ゴウン、ゴウンと鈍い音を立てて重い扉が開く。シオンはザフトの少年兵を横抱きに抱いて中に入った。
壁際に設置されているレバーを上に上げると、室内の電源が入った。とたんにまばゆいばかりの光があたりを照らしだす。
「……久しぶりだな……アマテラス」
シオンはふわりと瞳を細めて黄金のMSを見上げ呟いた。
その表情には、相棒との再会を喜ぶ色と、この先の運命を憂う色とがない交ぜになっていた。
少年兵を抱き上げ、コックピットへと乗り込む。
「さてと……他人の国のコロニーで好き勝手してる奴らにはお仕置きが必要だ」
機体に電源を入れると駆動音とともになつかしいシステム名がパネルに流れ、OSが立ち上がったことを知らせる。
Generation
Unsubdued
Nuclear
Drive
Assault
Module Complex
〝ORB-00 AMATERASU〟
主の帰還と意思に応えて眠れる守護者が眼を覚ます。
「シオン・フィーリア、〝アマテラス〟出る!」
C.E.71、1月
<新たに届いた情報によりますと、ザフトは先週末、華南宇宙港の手前6キロの地点まで届き……>
ディスプレイに開いた別窓中でアナウンサーが深刻な表情でニュースを読み上げていた。
シオンはモルゲンレーテで手にした情報を暗号化してウズミに送るため一心不乱にキーボードを叩く。
最後にエンターキィを押すと情報がオーブへと送られた。
「これでここでの俺の仕事は終わりだな。後はどうするか……ザフトがこのままヘリオポリスを放っておくとは思えない。俺が指揮官なら……確実にザフトはヘリオポリスにやってくる。まったく……民間企業ゆえの強欲が出た結果がこれ、か。中立たるオーブが極秘裏に連合のためにMSを造った。それだけでもやっかいなのにもう一つ―――」
シオンはモルゲンレーテのメインコンピューターにハッキングして手に入れた資料に目を細めた。
―――強襲機動特装艦〝アークエンジェル〟―――
全長 約420m
装甲 ラミネート装甲使用
武装 陽電子破城砲 ローエングリン×2
2連装高エネルギー収束線砲 ゴットフリートMk.71×2
単装リニアカノン バリアントMk.8×2
対空自動バルカン砲塔システム イーゲルシュテルン×16
発射管対空防御ミザイル ヘルダート×16
対空ミサイル スレッジハマー
対空防御ミサイル コリントスM114
大気圏内用ミサイル ウォンバット
(こんなものまで造るなんて何を考えてる!)
苛立ちを隠せずに机を叩く。
大天使の名を冠されたこの戦艦は他のXシリーズ以上に厳重に隠されており、ザフト側もこの戦艦の存在までは気づいてはいないだろうとシオンは推測した。
だからこそ余計に腹が立つ。Xシリーズだけでも頭が痛いのにこの上戦艦まで建造していたとなると、プラントに対してオーブは言い訳ができなくなるだろう。
いや、ウズミの性格からして最初から言い訳などせずに全責任を負う形で引責辞任しそうだが。
「させるか。あの方はオーブに必要な方だ。さて、どうしたものか……」
シオンは思考の海に潜った。だから気づくのが遅れたのだ。管制区のアラートに―――
シオンがヘリオポリスに来て、まず最初にしたことはヘリオポリス内のメインコンピューターにアクセスして官制区の情報を自分のコンピューターにダウンロードすることだった。
シオン・フィーリアには2種類のIDが存在する。
1つはオーブ民間人としてのID。
もう一つは影から獅子の国を護る、闇の獅子としてのID。
その影の存在は公になってはいない。その存在を知るのは、オーブ五大氏族と軍内の一佐以上の階級の人間のみ。
闇の獅子とは非常時にはオーブ代表の持つ全権限を独断で行使することも認められている。文字通りもう一人のオーブ代表なのだ。
だが、その存在は決して表に出ることはなかった。今までは。
「……!?」
工場区から聞こえてくる爆発音でシオンはパッと目を開いた。
コンピューターに向き直り、すさまじい速さでキーボードーを叩いていく。
「くそっ!やっぱり来たか!……だが、Xシリーズだけは!!」
ディスプレイ内に映し出された光景は爆風に吹き飛ばされる人々と誘爆し、炎上する施設。そしてMSの攻撃で崩れ落ちるモルゲンレーテだった。
シオンは手早くデーターを移し替えると万が一のことを考え、コンピューターを初期化して研究室を走り去った。
「お父様の裏切り者!!」
シオンが格納庫まで走って来たとき、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
(この声……まさか、カガリ!?)
声の主を探して周りを見渡すと、茶色の髪の少年の傍で地面に膝をついて叫んでいるカガリの姿があった。
(なんでここにあいつがいるんだ)
傍に行こうとした瞬間、視界の端にキラリと光るものがカガリに向けられるのを確認したシオンは少年に向かって「避けろ!」と叫んだ。
シオンの声に反応した少年はカガリを抱えて後ろへ飛びのいた。間一髪で銃弾は手すりをかすめて飛んでいく。
「大丈夫か!」
シオンは急いで二人に走り寄って怪我がないか確かめた。
「はい、大丈夫です。あの……先程はありがとうございました。あなたが声を掛けてくれなかったら僕たち……」
「いや、無事ならそれでいい」
「―――! お前……っ!!」
シオンの顔を確認したカガリが驚いた声を上げた。
「久しぶりだな」
シオンは表情を和らげ、カガリの頭をポンポンと叩いた。
「お知り合いですか?」
「ああ。この子を助けてくれてありがとう。俺はシオン・フィーリア。君は?」
「キラです。キラ・ヤマト」
キラ君か、と微笑みながらシオンが握手の手を差し出すと、キラはその微笑に顔を赤くして、慌てて手を差し出した。
「ちょっ、なんでヘリオポリスにいるんだ。わたしは聞いていないぞ」
頬を膨らませるカガリに「仕事だよ」と手短にシオンは答える。
「ここは危険です。早くシェルターに行かないと……」
「そうだな。確かにこのままじゃ危険だ。悪いな、説明してる暇がない。シェルターへ急ぐぞ」
焦るキラの言葉に頷いたシオンは、なおも言い縋ろうとするカガリの言葉を無視して走り出した。
キラもカガリの手を引いて走り出す。
シェルターに辿り着き、入り口のインターフォンを押すと、スピーカーから声が返ってきた。
<まだ誰かいるのか?>
「ああ、3人いる。開けてくれ」
「3人だって!?」
シオンの言葉に驚いた声が返ってくる。
「……? 3人だとマズイのか?」
スピーカーからの応答に一瞬間が空いた。
<……もう、ここは一杯だ。左ブロックに37があるがそこまで行けないか?>
男の返答にシオンはチッと舌を鳴らした。
37ブロックに行くには銃撃戦の中をかいくぐって行かなければならない。自分はともかくキラとカガリだけでもシェルターに避難させたかった。
思案するように一瞬押し黙ったシオンを押し退けるようにキラがスピーカーへ向かって言葉を投げつけた。
「なら一人だけでも!お願いします。女の子なんです!」
「おっ、おい、キラ君……」
呆然としていると、しばらくの沈黙の後、中から応答があった。
<―――わかった。すまん>
ロックが開き、扉が開くとキラはカガリの身体を押し込んだ。
「ちょっ……ちょっと待って!お前らはどうするんだ!?」
「俺たちは向こうのシェルターに行く」
「だから大丈夫」
シオンの言葉に頷くキラ。
嫌がるカガリの声を無視してシオンは扉を閉めた。
まずはカガリを避難させることができ、肩の荷が一つ降りたことに安堵する。
それでもまだ、成すべきことは山積みだった。
「すまない。本来なら君も一緒に避難させるべきなのに……」
「気にしないでください。それより急ぎましょう」
「ああ」
シオンはキラを連れて走り出した。
「ハマナ、ブライアン、早くX―105、X―303を起動させるんだ!」
女の声が格納庫に響いた。
キラとシオンがキャットウォークの下に視線を移すと、そこにはMSの陰に隠れてライフルを撃っている女性がいた。
(あの銃捌き……あの女、ただの作業員じゃないな。おそらく連合の人間か。相手はザフト、圧倒的に不利だ)
そう思いながらもシオンにはその作業服の女を助ける気など微塵もなかった。
(他人の国のコロニー内で平気な顔してMSやら銃やら……何様のつもりだ、あいつら)
利益に目が眩んで連合の仕事を引き受けたモルゲンレーテにも非はあるが、ここは民間のコロニーだ。数多くの市民が暮らしている。そこを彼らは戦場にしたのだ。
シオンは冷めた眼で戦闘を見ていた。
(いくらがんばっても無駄だな。相手はコーディネーター。ナチュラルのしかも女が敵う相手じゃない……あいつらがやりあっているうちにシェルターに急ぐか)
シオンは見つからないように姿を隠しながら場所を移動した。
安全を確認してキラに声をかける。その時、一人のザフト兵が作業服の女を背後から狙った。
それに気づいたキラが「後ろ!」と叫んでいた。その声に反応して女はザフト兵を撃つ。そして、その上にいたキラに眼を留めた。
「――子供?」
女は一瞬、驚いた表情を見せたが「来い!」と叫んだ。
「左ブロックのシェルターへ行きます。おかまいなく」
「あそこにはもう、ドアしかない!」
キラがそう言うと女は再び叫んだ。女の言葉に足を止めたキラは決心したように隣にいるであろうシオンに声を掛けた。
「それじゃあ、彼も一緒に……え? シオンさん?」
さっきまで隣にいたシオンの姿を探して辺りを見回すと、ちょうど作業服の女の位置からは死角になる位置にシオンは立っていた。
「シオンさん―――!?」
キラが叫ぶとシオンは呼ぶなというようにジェスチャーをした。
「君は彼女と行くんだ。シェルターがない以上、このままここにいるのは危険だ」
「それじゃ一緒に……」
「俺は一緒には行けない。ここから少し離れた場所に相棒を待たせているんだ。さぁ、早く行くんだ!このままここにいたら本当に死んでしまうぞ!」
「わ……解りました」
決断したキラはキャットウォークから飛び降りた。そのまま猫のようなしなやかさでMSの上に着地した。
その間にも女の背後で戦っていた男がザフト兵を撃ち倒す。
仲間の生命を奪ったその男に向かって赤いパイロットスーツの兵士が銃を撃った。
男が倒れると、ザフト兵は振り向きざまに女を撃った。ザフト兵の撃った弾は女の肩に命中し、血が飛び散った。
(不本意だが、このままではキラ君も危険だからな)
事の次第を黙って見ていたシオンは懐から銃を取り出し、ザフト兵の銃を撃ち飛ばした。
いきなりどこからともなく飛んできた銃弾に自分の銃を撃ち落されたザフト兵はナイフを取り出し、キラと女に向かって走り寄った。
シオンは冷静に銃身をザフト兵の額に狙いを定めた。トリガーにかかった指に力を入れる―――そこでザフト兵の動きが止まった。
(……? なんだ?)
シオンは様子を見るために銃を下ろした。
「……アスラン?」
「……キラ?」
思ってもいない場所での再会にキラとアスランは呆然と立ち尽くしていた。その隙を突いて女は銃を構えた。
それに気づいたアスランが間一髪で避ける。
銃声に驚いて振り返ったキラは女に体当たりされ、MSの中へと転がり込んだ。
(あの女、何を考えてる!いくら非常事態でも民間人をMSの中に入れるなんて……それにしてもあのザフト兵の動きは一体……?)
シオンが眉をしかめている間にも事態は進んだ。
システムが立ち上がったのだろう。ブゥンという駆動と共にMSの両目が光り指が動いた。
エンジンがうなり声を上げたかと思うと、四肢がぎこちなく動き始め、機体を固定していたボルトが周囲に飛び散った。
一方のアスランも、もう一方の機体に乗り込んだ。そこに〝ジン〟から通信が入る。
<よくやった、アスラン>
「ラスティは失敗だ。向こうの機体には地球軍の士官が乗っている」
通信してきたミゲルにアスランは辛そうに答えた。
「なに!? ラスティは?」
ミゲルの問いにアスランは唇を噛み締めて首を振った。
<なら、あの機体は俺が捕獲する。お前は先に離脱しろ!>
ミゲルの〝ジン〟がマシンガンを発砲し、機体に近づく。それをシオンは冷静に見ていた。
「GAT―X105 ストライク、か。ストライカーパック換装システム、高機動タイプエール、接近戦に特化したソード、砲戦用ランチャの3種類に機体を変更可能な万能機。だが、未だOSが未完成。さて、どうなることやら……」
シオンは記憶の中からストライクの資料を取り出して呟いた。
そろそろ自分も動く時だろう。
ヘリオポリス内で戦闘を始めた連合とザフトがどうなろうと知ったことではないが、キラにストライクのパイロットと行けと言ったのは自分だ。せめてキラだけでも護らなければ……その思いでシオンはキャットウォークから飛び降りた。
ザフト兵たちの死体の傍を横切ろうとした時、その内の一人がピクリと動いた。シオンは近づいてヘルメットを脱がし、傷口を確かめた。
銃弾は急所からわずかだがずれていた。それでもこのままにしておけばやがては失血死するのは目に見えている。
(まだ子供じゃないか。なんで……)
シオンは手早く止血のための応急処置を済ますと、モルゲンレーテの敷地内を後にした。
途中、ジンとストライクに視線を移せば、戦闘中にいきなり動きが格段によくなったストライクがアーマーシュナイダーでジンの首に突き立てていた。
(動きが変わった!? OSを書き換えたのか?……だが、あれほどの動きができるOSがナチュラルに組み立てることができるのか? しかも、どう見てもアレを書き換えたのは戦闘中だ。いったい、誰が……)
シオンの脳裏にキラの姿が浮かび上がったが、「まさかな」と首を振って頭の端へ追いやった。
モルゲンレーテの敷地から数キロ離れた地下にその施設はあった。
巧妙にカムフラージュされた入り口に立ち、シオンは一見するとパネルには見えないそれに手を置いた。
システムが起動し、シオンの指紋を読み取っていく。続いて網膜照合の指示が出る。指示に従い網膜のチェックを済ませると、最終チェックとして声紋チェックが行われる。
「オーブ代表代理シオン・フィーリア」
このチェックのすべてが一度にクリアできなければこの扉を開くことはできない。それだけこの扉の向こうにいる存在は重要なのだ。
『指紋照合クリア
網膜照合クリア
声紋照合クリア
全照合クリア シオン・フィーリアと承認します』
ゴウン、ゴウンと鈍い音を立てて重い扉が開く。シオンはザフトの少年兵を横抱きに抱いて中に入った。
壁際に設置されているレバーを上に上げると、室内の電源が入った。とたんにまばゆいばかりの光があたりを照らしだす。
「……久しぶりだな……アマテラス」
シオンはふわりと瞳を細めて黄金のMSを見上げ呟いた。
その表情には、相棒との再会を喜ぶ色と、この先の運命を憂う色とがない交ぜになっていた。
少年兵を抱き上げ、コックピットへと乗り込む。
「さてと……他人の国のコロニーで好き勝手してる奴らにはお仕置きが必要だ」
機体に電源を入れると駆動音とともになつかしいシステム名がパネルに流れ、OSが立ち上がったことを知らせる。
Generation
Unsubdued
Nuclear
Drive
Assault
Module Complex
〝ORB-00 AMATERASU〟
主の帰還と意思に応えて眠れる守護者が眼を覚ます。
「シオン・フィーリア、〝アマテラス〟出る!」