Northern Lights(種無印)
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15話 再会
『おひさしぶりです、提督』
そう言った彼の顔は本来の年相応の少年の顔。
傷つき、迷い、自分が何を求めているのかも解らなくなって道を見失っていたあの頃のままの……。
自分では連合の意図、否、ブルーコスモスの意図から守りきれないと、半崩壊状態の彼ら――生体CPU候補――を内密にオーブへ逃したのはいつのことだったか。
アークエンジェルの無事を聞いたときも驚いたが、その中にオーブ代表代理としてシオンの名を見つけたとき、どれほど驚愕したことか。
戦いから遠ざけようと逃がしたはずが、結局彼は戦場に戻っていた。
「しばらく見ないうちに大きくなったな。ウズミ代表はよくしてくれているか? あの子は元気かね?」
久方ぶりの再会にハルバートンが矢継早に質問を投げかける。『あの子』の言葉を聞いた途端シオンは瞼を伏せ、首を横に振った。
「……亡くなりました」
「亡くなった……だと?」
ハルバートンはシオンの言葉に息を呑んだ。
「ウズミ様の計らいで俺たちは最先端の治療を受けることができました。けど、あいつは……サリアは手遅れだったんです。ラボで受けた実験はあいつの身体を予想以上に蝕んでた……それでもオーブに入ってすぐの頃は2人で海を見たり、少しくらいなら森林の中を散歩したり出来たんです。けれど、数ヶ月でベッドから起き上がることもできなくなって……機械でかろうじて生命を繋いでる状態だった……・」
両手で顔を覆い、俺はあいつに何もしてやれなかったと声を震わせるシオンにハルバートンは眉を寄せた。
「―――君にそこまで想ってもらえたのだ。きっとあの子は幸せだったろう。それ以上、自分を責めるな。あの子の死は君の所為ではない。我々……連合の責任だ」
「エクステンデット計画はあなたの関知するところじゃなかった。ブルーコスモスの息の掛かっていないあなたにはどうすることもできない。―――なのに、あなたは自分の立場を省みず俺たちを逃がしてくれた。俺はあなたを憎んでなんていませんよ。逆に感謝してるくらいです。あなたのおかげで俺たちは……あいつはオーブで自分を取り戻すことができた。そして俺はウズミ様に会えた……ありがとうございます、ハルバートン提督」
シオンは深く頭を下げた。
出会った頃は、まさに『兵器』としか呼べなかった彼。その彼が『人』として自分と肩を並べている……その事実にハルバートンは感慨深いものを感じていた。
「そうか……そういってくれるか……君のその言葉が唯一の救いだ。ところで話は変わるが……アークエンジェルに保護されている民間人と〝彼〟のことだが」
ハルバートンの声に、シオンはゆっくりと顔を上げると真っ直ぐに声の主を見据える。
「俺としては艦に乗っている民間人を一刻も早く降ろしてほしいと思っています。その為のシャトルを一機お借りできませんか? アークエンジェルがアラスカに向けて降下する前に民間人をシャトルに乗せてオーブに降ろしたいんです。もちろん〝彼〟も」
「キラ・ヤマトかね」
「そうです。キラ君は民間人の――しかも学生でありながら不運にも戦火に巻き込まれストライクを目にしてしまいました。その為にココのクルーから〝アレ〟に乗ることを強要されてきた。しかも当初、周りからはコーディネイターだというだけで銃まで向けられて……彼がこうなってしまった原因は俺にあります。あの時、俺と一緒に行動するよりもラミアス艦長と行ったほうが安全だと俺が判断してしまった所為だ。だから俺はココを離れることができなかったんです。――少なくとも彼が他の民間人と共にアークエンジェルを降りられるという確固たる証拠がない限りは。だから第8艦隊の司令官があなただと聞いて正直ホッとしました」
「ほう……なぜかね? バジルール少尉の言ではないが、私が彼の除隊に反対するとは思わなかったのかね」
「ええ、思いません」
シオンは珍しく、年相応の笑みを湛えながらハルバートンへと言葉を続ける。
「あなたの人となりは理解しているつもりです。それに彼の除隊に反対するような人なら、あの時、危険を顧みずに俺たちを助けたりはしなかったでしょう? あなたならきっとキラ君を除隊させてくれると信じていました」
キッパリと言い切る、迷いのない瞳を自分に向けてくるシオンにハルバートンは苦笑いを浮かべた。
この場を包み始めた和やかな空気。それを払うかのような厳しい表情で、そういえば……と、何かを思い出したようにシオンは口を開いた。
「この艦を追ってきて来ているのはラウ・ル・クルーゼが率いる隊のようですね……この後、どうなさるおつもりですか? 一筋縄では行かない相手ですよ」
「? 君はラウ・ル・クルーゼを知っているのかね」
まるで対峙したことでもあるかのようにクルーゼの強さを表現するシオンの言葉に、ハルバートンは疑問を持った。
今はオーブの人間である彼が、なぜザフトの一隊長の実力を知っているのか。
確かに軍上層部に身を置いていれば、情報や噂くらい耳にするだろう。だが今の彼の言葉は、明らかに「自分はクルーゼの実力を知っている」と受け取れる。
「……えぇ、まぁ」
ハルバートンの質問に、シオンは言葉を濁した。
それはまるで、この先は聞かないで欲しいと懇願するようにも聞こえた。
視線を僅かに逸らせたシオンに、ハルバートンは優しく告げる。
「言いたくなければ、詳しくは聞かん」
真っ直ぐ人を見て話す彼が視線を逸らすのは、それがきっと触れられたくない、知られたくない部分だからだ。
そう感じたハルバートンは、話題を変えるかそろそろこの部屋からでるか、考えを逡巡させた。
「――幼少の頃、少し……」
流れ始めた沈黙を破るように、シオンの呟きが部屋の空気を震わせる。
何かを思い起こすように遠くへと視線を彷徨わせながら話し始めたシオンの横顔を、ハルバートンは黙って見守った。
「個人的な昔話になりますが、聞いてくださいますか」
「聞こう」
向かい合う形になるようにソファーへと腰を降ろすと、膝の上に置かれた自分の拳へ視線を留めたまま口を開いた。
「俺はコーディネイターです」
「…………」
シオンの突然の告白にハルバートンは動じることなく、ただ黙って彼の言葉に耳を傾けた。
「俺とラウ・ル・クルーゼは幼少の頃、共に育ちました。いわゆる幼馴染のようなものです。諸事情があって離れ離れになってしまいましたが、彼のことはよく知っています。俺は彼を兄のように慕っていました」
視線を交わすことなく話すシオンの表情は読み取れなかったが、耳に届く声には昔を懐かしむような色が含まれているように感じられた。
(兄のように慕った人物が今はザフトの隊長……この子はどこまで苦しめば……)
シオンの心情を憂い、ハルバートンは表情を曇らせる。
「俺が5歳くらいの頃……暮らしていた場所がテロに合い、両親を含む大勢の人々が生命を落しました。幸か不幸か俺は当時の研究主任の気まぐれで生命を存え……その後のことは提督もご存知でしょう」
そう言ってシオンは顔を上げ、向かい合うハルバートンへと視線を移動させた。
「エクステンデット計画の実験体としてサリアと共に戦場に送られ、あなたと出会った。ラウのことは連合に拉致されて以降今まで何も知りませんでしたが……」
辛そうに彼女の名を口にしながらも微笑む彼が、今にも泣きそうに見えるのは気のせいだろうか。
掛ける言葉が見つからず、ハルバートンは「そうか」としか告げられなかった。
「――いざ降りるとなると名残惜しいのかい?」
格納庫でストライクを見上げていたキラはふいに背後から掛けられた声に振り返った。
そこにはキャットウォークに身体を預けるようにしてシオンが立っていた。
「シオンさん」
パッと顔を輝かせてキラは傍に駆け寄って来た。
シオンは笑みを浮かべながらキラの頭に手を置くと、その栗色の髪をクシャっと撫でた。
「除隊おめでとう」
「知って……?」
「もちろん。俺はその話し合いのためにココに残ってたんだから」
クスクス笑うシオンに「あっ、そっか」と声を上げるキラ。
「これでしばらくお別れだな」
「え……!?」
「俺は報告のために一足早くオーブに降りる。君たちは連合が用意するシャトルに乗って後から降りてくるといい。次に会うときはオーブだ」
「――はい!」
「再会を楽しみにしているよ。さぁ、もう行かないとシャトルの乗船が始まる」
シオンはキラの背中を押してシャトルの用意がされているランチへと促した。
「それではラミアス艦長、お世話になりました。フラガ大尉、バジルール少尉もお元気で」
先にアマテラスにラスティとミゲルを乗り込ませ、シオンはマリューたちと最後の挨拶をしていた。
「お世話になっている間は色々衝突もありましたが、こうしてみると別れも寂しいものですね」
「フィーリア代理……いえ、我々のほうこそ――」
「よしましょう」
マリューの言葉をやんわりと遮った。
「もう終ったことです。あなたが気にやむことはありません。それでは私はこれで。民間人の降下のほう、よろしくお願いします」
「お任せください。必ずシャトルは無事オーブに着けてみせます」
凛とした声と共に敬礼をするマリューの言葉に頷き、シオンはアマテラスに乗り込んだ。
「2人とも、しっかり掴まってろよ」
「掴まれっていってもな……どこに掴まるんだよ!」
「だよな。ただでさえ狭いコックピットだってのに……」
「どっか適当に掴まれ。じゃないと大気圏突入のとき辛いのはお前らだぞ?」
『大気圏突入』の言葉に目を見張る2人。
「はっ!? 大気圏突入!? MSで!? ナニ考えてんだ!!」
「そうだ! 死ぬ気かよ、お前!」
「死ぬ? 誰に向かって言ってる。俺がそんなヘマするか」
「いや……そういう問題じゃ……なぁ……」
「ああ……」
顔面蒼白にする二人を無視し、シオンはアマテラスを起動させる。
発進シークエンスのOKサインが出、アークエンジェルから黄金の機体が飛び立った。
シールドを機体の前に掲げ、そのまま大気圏へと突入する。
「いやだ~殺される~!!」
「うるさいっ。口を閉じてろ。舌噛むぞ」
背後でギャーギャーわめく2人に突っ込みながらアマテラスはオーブに向けて降下したのだった。
『おひさしぶりです、提督』
そう言った彼の顔は本来の年相応の少年の顔。
傷つき、迷い、自分が何を求めているのかも解らなくなって道を見失っていたあの頃のままの……。
自分では連合の意図、否、ブルーコスモスの意図から守りきれないと、半崩壊状態の彼ら――生体CPU候補――を内密にオーブへ逃したのはいつのことだったか。
アークエンジェルの無事を聞いたときも驚いたが、その中にオーブ代表代理としてシオンの名を見つけたとき、どれほど驚愕したことか。
戦いから遠ざけようと逃がしたはずが、結局彼は戦場に戻っていた。
「しばらく見ないうちに大きくなったな。ウズミ代表はよくしてくれているか? あの子は元気かね?」
久方ぶりの再会にハルバートンが矢継早に質問を投げかける。『あの子』の言葉を聞いた途端シオンは瞼を伏せ、首を横に振った。
「……亡くなりました」
「亡くなった……だと?」
ハルバートンはシオンの言葉に息を呑んだ。
「ウズミ様の計らいで俺たちは最先端の治療を受けることができました。けど、あいつは……サリアは手遅れだったんです。ラボで受けた実験はあいつの身体を予想以上に蝕んでた……それでもオーブに入ってすぐの頃は2人で海を見たり、少しくらいなら森林の中を散歩したり出来たんです。けれど、数ヶ月でベッドから起き上がることもできなくなって……機械でかろうじて生命を繋いでる状態だった……・」
両手で顔を覆い、俺はあいつに何もしてやれなかったと声を震わせるシオンにハルバートンは眉を寄せた。
「―――君にそこまで想ってもらえたのだ。きっとあの子は幸せだったろう。それ以上、自分を責めるな。あの子の死は君の所為ではない。我々……連合の責任だ」
「エクステンデット計画はあなたの関知するところじゃなかった。ブルーコスモスの息の掛かっていないあなたにはどうすることもできない。―――なのに、あなたは自分の立場を省みず俺たちを逃がしてくれた。俺はあなたを憎んでなんていませんよ。逆に感謝してるくらいです。あなたのおかげで俺たちは……あいつはオーブで自分を取り戻すことができた。そして俺はウズミ様に会えた……ありがとうございます、ハルバートン提督」
シオンは深く頭を下げた。
出会った頃は、まさに『兵器』としか呼べなかった彼。その彼が『人』として自分と肩を並べている……その事実にハルバートンは感慨深いものを感じていた。
「そうか……そういってくれるか……君のその言葉が唯一の救いだ。ところで話は変わるが……アークエンジェルに保護されている民間人と〝彼〟のことだが」
ハルバートンの声に、シオンはゆっくりと顔を上げると真っ直ぐに声の主を見据える。
「俺としては艦に乗っている民間人を一刻も早く降ろしてほしいと思っています。その為のシャトルを一機お借りできませんか? アークエンジェルがアラスカに向けて降下する前に民間人をシャトルに乗せてオーブに降ろしたいんです。もちろん〝彼〟も」
「キラ・ヤマトかね」
「そうです。キラ君は民間人の――しかも学生でありながら不運にも戦火に巻き込まれストライクを目にしてしまいました。その為にココのクルーから〝アレ〟に乗ることを強要されてきた。しかも当初、周りからはコーディネイターだというだけで銃まで向けられて……彼がこうなってしまった原因は俺にあります。あの時、俺と一緒に行動するよりもラミアス艦長と行ったほうが安全だと俺が判断してしまった所為だ。だから俺はココを離れることができなかったんです。――少なくとも彼が他の民間人と共にアークエンジェルを降りられるという確固たる証拠がない限りは。だから第8艦隊の司令官があなただと聞いて正直ホッとしました」
「ほう……なぜかね? バジルール少尉の言ではないが、私が彼の除隊に反対するとは思わなかったのかね」
「ええ、思いません」
シオンは珍しく、年相応の笑みを湛えながらハルバートンへと言葉を続ける。
「あなたの人となりは理解しているつもりです。それに彼の除隊に反対するような人なら、あの時、危険を顧みずに俺たちを助けたりはしなかったでしょう? あなたならきっとキラ君を除隊させてくれると信じていました」
キッパリと言い切る、迷いのない瞳を自分に向けてくるシオンにハルバートンは苦笑いを浮かべた。
この場を包み始めた和やかな空気。それを払うかのような厳しい表情で、そういえば……と、何かを思い出したようにシオンは口を開いた。
「この艦を追ってきて来ているのはラウ・ル・クルーゼが率いる隊のようですね……この後、どうなさるおつもりですか? 一筋縄では行かない相手ですよ」
「? 君はラウ・ル・クルーゼを知っているのかね」
まるで対峙したことでもあるかのようにクルーゼの強さを表現するシオンの言葉に、ハルバートンは疑問を持った。
今はオーブの人間である彼が、なぜザフトの一隊長の実力を知っているのか。
確かに軍上層部に身を置いていれば、情報や噂くらい耳にするだろう。だが今の彼の言葉は、明らかに「自分はクルーゼの実力を知っている」と受け取れる。
「……えぇ、まぁ」
ハルバートンの質問に、シオンは言葉を濁した。
それはまるで、この先は聞かないで欲しいと懇願するようにも聞こえた。
視線を僅かに逸らせたシオンに、ハルバートンは優しく告げる。
「言いたくなければ、詳しくは聞かん」
真っ直ぐ人を見て話す彼が視線を逸らすのは、それがきっと触れられたくない、知られたくない部分だからだ。
そう感じたハルバートンは、話題を変えるかそろそろこの部屋からでるか、考えを逡巡させた。
「――幼少の頃、少し……」
流れ始めた沈黙を破るように、シオンの呟きが部屋の空気を震わせる。
何かを思い起こすように遠くへと視線を彷徨わせながら話し始めたシオンの横顔を、ハルバートンは黙って見守った。
「個人的な昔話になりますが、聞いてくださいますか」
「聞こう」
向かい合う形になるようにソファーへと腰を降ろすと、膝の上に置かれた自分の拳へ視線を留めたまま口を開いた。
「俺はコーディネイターです」
「…………」
シオンの突然の告白にハルバートンは動じることなく、ただ黙って彼の言葉に耳を傾けた。
「俺とラウ・ル・クルーゼは幼少の頃、共に育ちました。いわゆる幼馴染のようなものです。諸事情があって離れ離れになってしまいましたが、彼のことはよく知っています。俺は彼を兄のように慕っていました」
視線を交わすことなく話すシオンの表情は読み取れなかったが、耳に届く声には昔を懐かしむような色が含まれているように感じられた。
(兄のように慕った人物が今はザフトの隊長……この子はどこまで苦しめば……)
シオンの心情を憂い、ハルバートンは表情を曇らせる。
「俺が5歳くらいの頃……暮らしていた場所がテロに合い、両親を含む大勢の人々が生命を落しました。幸か不幸か俺は当時の研究主任の気まぐれで生命を存え……その後のことは提督もご存知でしょう」
そう言ってシオンは顔を上げ、向かい合うハルバートンへと視線を移動させた。
「エクステンデット計画の実験体としてサリアと共に戦場に送られ、あなたと出会った。ラウのことは連合に拉致されて以降今まで何も知りませんでしたが……」
辛そうに彼女の名を口にしながらも微笑む彼が、今にも泣きそうに見えるのは気のせいだろうか。
掛ける言葉が見つからず、ハルバートンは「そうか」としか告げられなかった。
「――いざ降りるとなると名残惜しいのかい?」
格納庫でストライクを見上げていたキラはふいに背後から掛けられた声に振り返った。
そこにはキャットウォークに身体を預けるようにしてシオンが立っていた。
「シオンさん」
パッと顔を輝かせてキラは傍に駆け寄って来た。
シオンは笑みを浮かべながらキラの頭に手を置くと、その栗色の髪をクシャっと撫でた。
「除隊おめでとう」
「知って……?」
「もちろん。俺はその話し合いのためにココに残ってたんだから」
クスクス笑うシオンに「あっ、そっか」と声を上げるキラ。
「これでしばらくお別れだな」
「え……!?」
「俺は報告のために一足早くオーブに降りる。君たちは連合が用意するシャトルに乗って後から降りてくるといい。次に会うときはオーブだ」
「――はい!」
「再会を楽しみにしているよ。さぁ、もう行かないとシャトルの乗船が始まる」
シオンはキラの背中を押してシャトルの用意がされているランチへと促した。
「それではラミアス艦長、お世話になりました。フラガ大尉、バジルール少尉もお元気で」
先にアマテラスにラスティとミゲルを乗り込ませ、シオンはマリューたちと最後の挨拶をしていた。
「お世話になっている間は色々衝突もありましたが、こうしてみると別れも寂しいものですね」
「フィーリア代理……いえ、我々のほうこそ――」
「よしましょう」
マリューの言葉をやんわりと遮った。
「もう終ったことです。あなたが気にやむことはありません。それでは私はこれで。民間人の降下のほう、よろしくお願いします」
「お任せください。必ずシャトルは無事オーブに着けてみせます」
凛とした声と共に敬礼をするマリューの言葉に頷き、シオンはアマテラスに乗り込んだ。
「2人とも、しっかり掴まってろよ」
「掴まれっていってもな……どこに掴まるんだよ!」
「だよな。ただでさえ狭いコックピットだってのに……」
「どっか適当に掴まれ。じゃないと大気圏突入のとき辛いのはお前らだぞ?」
『大気圏突入』の言葉に目を見張る2人。
「はっ!? 大気圏突入!? MSで!? ナニ考えてんだ!!」
「そうだ! 死ぬ気かよ、お前!」
「死ぬ? 誰に向かって言ってる。俺がそんなヘマするか」
「いや……そういう問題じゃ……なぁ……」
「ああ……」
顔面蒼白にする二人を無視し、シオンはアマテラスを起動させる。
発進シークエンスのOKサインが出、アークエンジェルから黄金の機体が飛び立った。
シールドを機体の前に掲げ、そのまま大気圏へと突入する。
「いやだ~殺される~!!」
「うるさいっ。口を閉じてろ。舌噛むぞ」
背後でギャーギャーわめく2人に突っ込みながらアマテラスはオーブに向けて降下したのだった。