Northern Lights(種無印)
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13話 分かたれた道
出撃の連続によって、知らず知らずのうちに負担を強いられた心と身体。
フレイとの一件によって更に追い込まれたキラは、耐え切れずシオンの優しさにに縋り付き、溜め込んでいた感情を吐露するように涙を流す。
手を差し伸べて、全てを認め包み込んでくれたシオンの存在が、ただ嬉しかった。
――深夜――といっても宇宙空間であるため、それに該当する時間。
泣き疲れて眠ってしまったキラの傍らで仮眠を取っていたシオンは、不意に開いたドアの音で目を覚ました。
「いけませんわ、ピンクちゃん」
ドアの方へと意識を向けていると、囁くようなラクスの声が聞こえ、そのまま彼女は出て行ってしまった。
(何を考えて外になんか……っ)
シオンは慌てて立ち上がると、ラクスの後を追うようにドアへと駆け寄った。
しかし、片方の視界を完全に遮られた状態では感覚が鈍り、足元の椅子やドアまでの距離感が上手く掴めない。危うく派手に椅子を蹴り飛ばしそうになり、慌てて身体を翻す。
「……くそ、意外と不便なもんだな」
視界を覆う包帯へと手を添え、一瞬思案するもシオンは手際よくその包帯を解いた。
しばらく包帯を外すなと言われた状態だけあって、霞む視界と僅かな痛みは未だ消えない。だが、この現状を黙って見過ごすわけにはいかなかった。
もしも、ラクスがフレイと鉢合わせするようなことになれば、また厄介なことになるのは目に見えていたからだ。
シオンは壁に手をつきながらも、ラクスの後を追った。
「こんな時間に外へ出るのは感心しないな」
ピンクのハロを抱き抱えながら展望デッキで外の様子を見ていたラクスは、背後から掛けられた声に驚いて振り返った。
そこに佇んでいたシオンに、僅かな違和感を感じる。
いつも羽織っている上着を着けていない為か、鍛えられたその体躯がやけにはっきりと感じられる。この違和感はその所為だろうか。
穏やかな外見とは結びつかない、逞しさを感じさせるその身体に、高鳴る鼓動―――明らかに彼を意識し始めていた。
「……シオン様」
「見つかってよかった……」
ホッとしたような笑みを浮かべると、シオンは髪をかき上げながらラクスに近づく。
少しずつ縮まる距離に、ラクスは今まで感じたことのない胸の高鳴りを感じていた。その鼓動に呼応するように頬が紅潮するのが自分でも分かる。このことを彼に気付かれまいと俯き、腕に抱いているピンク色の球体へと視線を落とした。
「ごめんなさい。このピンクちゃんはお散歩が好きで……」
「あ、いや……散歩が悪いわけじゃないんだ。ただ、状況が状況だけに気になって探しに来ただけだから。少し、座らないか?」
どうぞ、と、ラクスを先に座らせると、シオンもその隣にゆっくりと腰を降ろす。
――お互い無言のまま、外の暗闇をただ眺めていた。しばらくして、静かな、それでいて強い意思を感じさせるシオンの声がデッキ内に響く。
「先程の戦闘では申し訳なかった。私が傍についていながら君の身を危険にさらしてしまい……挙句、民間人を人質に取るような行為を止めることができなかった」
「それ以上は仰らないでください。シオン様のせいではありませんわ。それに……戦いは終ったのでしょう?」
「ええ……一応は……君のおかげでね」
シオンは歯切れ悪く答えると、ラクスから視線を外して俯いた。
人道的措置だと民間人を保護しておきながら、戦闘で自分達の立場が危険に晒されると、それを盾としたアークエンジェル。勿論、一部の軍人が取った手段であり、またそれを非難する権利は誰にも無い。
だが、その行為を止めることができたのは、あの状況下で自分しか居なかったのもまた事実。止めることが出来なかったことが悔しかった。
押し黙るシオンに、ラクスはそっと優しく言葉を降らせた。
「ならそれでよろしいでありませんか。それなのにどうして悲しい顔をしていらっしゃいますの?」
「……!? 君は……君はなにも思わないのか!? 先程の戦闘での連合の扱いを!」
シオンは爆発しそうになる感情を押さえつけ、顔を上げた。
目の前のラクスはすべてを包み込むような微笑を浮かべていた。
「戦いは終わって、わたくしたちは今こうしてお話しができていますわ。それで良いのではありませんか?」
「……君って子は……」
『かなわない』そう思った。
この笑顔を護りたい。
たとえその為にどれほどの障害が立ちふさがろうとも、この笑顔のために自分は力を使おうと、漠然と、だが確実にその感情の種がシオンの中に宿った。
「……駄目だ。やはり君はこのままココにいてはいけない。私と一緒に来てくれ」
シオンはラクスの手を引いて展望デッキを出ると、人目を避けるようにパイロットルームへと向かった。
ロッカーからラクスのサイズに合う宇宙服を探し出し、それをラクスに着るように指示しているとパイロットルームの扉が開いた。
シオンは反射的にラクスを自分の背後に隠す。
「シオンさん? それに……」
「キ、ラ君?」
目を見張って2人を見たキラだったが、ずぐにシオンの意図していることを読み取った。
「彼女を帰すんですね?」
「そうだ。ここには置いておけない。今回はやつらも大人しく引いたが、次はどう出るか。なにしろ相手はあのクルーゼ隊だ。こう言ってはなんだが、ラミアス艦長の手に負える相手じゃない。第8艦隊と合流すれば彼女を逃がし難くなるだろう。今しかないんだ。―――見逃してくれないか?」
「でも、シオンさんは完全に視力が戻ったわけじゃないんですよ?! そんな状態で出て行ってもし何かあったら……」
「ありがとう、心配してくれて。でも、行かなければならないんだ。解って――」
「僕が行きます」
予想外のキラの言葉に、シオンが目を見開いて言葉を詰まらせていると、更にキラは念を押すように続ける。
「僕が彼女をザフトに返しに行きます」
「しかし!」
「向こうにはアスランが……僕の友達がいるんです。彼に迎えに来るように指定して引き渡します。だから僕に任せてください。絶対に彼女を無事引き渡しますから」
「危険だ!」
「危険なのはシオンさんも一緒です。それに視力の戻ってないシオンさんが行くよりも僕が行くほうがまだ安全です。僕を信じて。待っててください」
ケガをしているシオンを危険な目に合わせたくないと言い張るキラにシオンは折れるしかなかった。
なにより、こんなところで言い合いをして時間を無駄にしたくなかった。
「……解った。なら俺は君たちが無事に飛び立てるようにサポートするよ。それくらいはさせてくれ」
「はい」
キラは自分のロッカーからパイロットスーツを取り出した。
格納庫へ向かう2人の視線はラクスの宇宙服に注がれた。否、正確には腹部の部分にだ。
服の上から宇宙服を着せようとしたのだが、ロングスカートがネックになった。しかたなくスカートを巻き上げたのだが……まさに『今何ヶ月?』とばかりに膨れている。
先にシオンが格納庫に入り、人気のいないことを確認する。ストライクの前に立ち〝続け〟と合図を送るとキラがラクスを連れて小走りに向かってくる。
コックピットを開き、2人を中に入れるとシオンは『元気で。頼んだぞキラ君』とラクスに続いてキラに微笑みかけた。
キラは『はい』と答え、ラクスは『またお会いしましょうね』と微笑み返す。シオンはその答えに苦笑しながらも『……必ず』と答えた。
「さぁ、これ以上は駄目だ。見つからないうちにハッチを開放する。―――キラ君」
「はい」
「もし……もし、友達と行きたいのなら行ってもいいんだよ」
「えっ?」
自分の心の迷いを指摘するシオンの言葉にキラは動揺した。
「ここにいる友達のことなら俺が責任を持って解放するように第8艦隊の責任者と交渉する。だから、もし、ザフトにいるという友達のところに行きたいのなら行きなさい。君にここは辛過ぎる……」
シオンはそれだけ言うとストライクから離れた。
警報が鳴り出し、作業員が集まってくる。シオンは彼らの目を盗んでコンピューターを操作していく。
スピーカーを通してキラの声が聞こえているのでシオンの存在に誰も気付かない。手早くハッチ解放とエールストライカーの手配をし、気付かれないように医務室へと戻った。
ラクスを乗せたストライクは無事アークエンジェルを飛び立った。
静かな医務室で、シオンはキラとラクスの無事をただ祈る。
血相を変えてマリューが医務室に飛び込んできた時にはシオンは包帯を巻きなおし、ベッドに横になっていた。
マリューから状況を聞いたシオンは『そうですか』とだけ言った。幸いなことに視界を覆っている包帯のおかげで彼の表情は誰にも読まれることはなかった。
キラが戻り医務室に報告に来たとき、ミゲルとラスティがニヤリと笑って『よくやった!』『サンキューな!』と労いの言葉を掛けた。
シオンは一言『おかえり』と言ってキラを抱きしめたのだった。
出撃の連続によって、知らず知らずのうちに負担を強いられた心と身体。
フレイとの一件によって更に追い込まれたキラは、耐え切れずシオンの優しさにに縋り付き、溜め込んでいた感情を吐露するように涙を流す。
手を差し伸べて、全てを認め包み込んでくれたシオンの存在が、ただ嬉しかった。
――深夜――といっても宇宙空間であるため、それに該当する時間。
泣き疲れて眠ってしまったキラの傍らで仮眠を取っていたシオンは、不意に開いたドアの音で目を覚ました。
「いけませんわ、ピンクちゃん」
ドアの方へと意識を向けていると、囁くようなラクスの声が聞こえ、そのまま彼女は出て行ってしまった。
(何を考えて外になんか……っ)
シオンは慌てて立ち上がると、ラクスの後を追うようにドアへと駆け寄った。
しかし、片方の視界を完全に遮られた状態では感覚が鈍り、足元の椅子やドアまでの距離感が上手く掴めない。危うく派手に椅子を蹴り飛ばしそうになり、慌てて身体を翻す。
「……くそ、意外と不便なもんだな」
視界を覆う包帯へと手を添え、一瞬思案するもシオンは手際よくその包帯を解いた。
しばらく包帯を外すなと言われた状態だけあって、霞む視界と僅かな痛みは未だ消えない。だが、この現状を黙って見過ごすわけにはいかなかった。
もしも、ラクスがフレイと鉢合わせするようなことになれば、また厄介なことになるのは目に見えていたからだ。
シオンは壁に手をつきながらも、ラクスの後を追った。
「こんな時間に外へ出るのは感心しないな」
ピンクのハロを抱き抱えながら展望デッキで外の様子を見ていたラクスは、背後から掛けられた声に驚いて振り返った。
そこに佇んでいたシオンに、僅かな違和感を感じる。
いつも羽織っている上着を着けていない為か、鍛えられたその体躯がやけにはっきりと感じられる。この違和感はその所為だろうか。
穏やかな外見とは結びつかない、逞しさを感じさせるその身体に、高鳴る鼓動―――明らかに彼を意識し始めていた。
「……シオン様」
「見つかってよかった……」
ホッとしたような笑みを浮かべると、シオンは髪をかき上げながらラクスに近づく。
少しずつ縮まる距離に、ラクスは今まで感じたことのない胸の高鳴りを感じていた。その鼓動に呼応するように頬が紅潮するのが自分でも分かる。このことを彼に気付かれまいと俯き、腕に抱いているピンク色の球体へと視線を落とした。
「ごめんなさい。このピンクちゃんはお散歩が好きで……」
「あ、いや……散歩が悪いわけじゃないんだ。ただ、状況が状況だけに気になって探しに来ただけだから。少し、座らないか?」
どうぞ、と、ラクスを先に座らせると、シオンもその隣にゆっくりと腰を降ろす。
――お互い無言のまま、外の暗闇をただ眺めていた。しばらくして、静かな、それでいて強い意思を感じさせるシオンの声がデッキ内に響く。
「先程の戦闘では申し訳なかった。私が傍についていながら君の身を危険にさらしてしまい……挙句、民間人を人質に取るような行為を止めることができなかった」
「それ以上は仰らないでください。シオン様のせいではありませんわ。それに……戦いは終ったのでしょう?」
「ええ……一応は……君のおかげでね」
シオンは歯切れ悪く答えると、ラクスから視線を外して俯いた。
人道的措置だと民間人を保護しておきながら、戦闘で自分達の立場が危険に晒されると、それを盾としたアークエンジェル。勿論、一部の軍人が取った手段であり、またそれを非難する権利は誰にも無い。
だが、その行為を止めることができたのは、あの状況下で自分しか居なかったのもまた事実。止めることが出来なかったことが悔しかった。
押し黙るシオンに、ラクスはそっと優しく言葉を降らせた。
「ならそれでよろしいでありませんか。それなのにどうして悲しい顔をしていらっしゃいますの?」
「……!? 君は……君はなにも思わないのか!? 先程の戦闘での連合の扱いを!」
シオンは爆発しそうになる感情を押さえつけ、顔を上げた。
目の前のラクスはすべてを包み込むような微笑を浮かべていた。
「戦いは終わって、わたくしたちは今こうしてお話しができていますわ。それで良いのではありませんか?」
「……君って子は……」
『かなわない』そう思った。
この笑顔を護りたい。
たとえその為にどれほどの障害が立ちふさがろうとも、この笑顔のために自分は力を使おうと、漠然と、だが確実にその感情の種がシオンの中に宿った。
「……駄目だ。やはり君はこのままココにいてはいけない。私と一緒に来てくれ」
シオンはラクスの手を引いて展望デッキを出ると、人目を避けるようにパイロットルームへと向かった。
ロッカーからラクスのサイズに合う宇宙服を探し出し、それをラクスに着るように指示しているとパイロットルームの扉が開いた。
シオンは反射的にラクスを自分の背後に隠す。
「シオンさん? それに……」
「キ、ラ君?」
目を見張って2人を見たキラだったが、ずぐにシオンの意図していることを読み取った。
「彼女を帰すんですね?」
「そうだ。ここには置いておけない。今回はやつらも大人しく引いたが、次はどう出るか。なにしろ相手はあのクルーゼ隊だ。こう言ってはなんだが、ラミアス艦長の手に負える相手じゃない。第8艦隊と合流すれば彼女を逃がし難くなるだろう。今しかないんだ。―――見逃してくれないか?」
「でも、シオンさんは完全に視力が戻ったわけじゃないんですよ?! そんな状態で出て行ってもし何かあったら……」
「ありがとう、心配してくれて。でも、行かなければならないんだ。解って――」
「僕が行きます」
予想外のキラの言葉に、シオンが目を見開いて言葉を詰まらせていると、更にキラは念を押すように続ける。
「僕が彼女をザフトに返しに行きます」
「しかし!」
「向こうにはアスランが……僕の友達がいるんです。彼に迎えに来るように指定して引き渡します。だから僕に任せてください。絶対に彼女を無事引き渡しますから」
「危険だ!」
「危険なのはシオンさんも一緒です。それに視力の戻ってないシオンさんが行くよりも僕が行くほうがまだ安全です。僕を信じて。待っててください」
ケガをしているシオンを危険な目に合わせたくないと言い張るキラにシオンは折れるしかなかった。
なにより、こんなところで言い合いをして時間を無駄にしたくなかった。
「……解った。なら俺は君たちが無事に飛び立てるようにサポートするよ。それくらいはさせてくれ」
「はい」
キラは自分のロッカーからパイロットスーツを取り出した。
格納庫へ向かう2人の視線はラクスの宇宙服に注がれた。否、正確には腹部の部分にだ。
服の上から宇宙服を着せようとしたのだが、ロングスカートがネックになった。しかたなくスカートを巻き上げたのだが……まさに『今何ヶ月?』とばかりに膨れている。
先にシオンが格納庫に入り、人気のいないことを確認する。ストライクの前に立ち〝続け〟と合図を送るとキラがラクスを連れて小走りに向かってくる。
コックピットを開き、2人を中に入れるとシオンは『元気で。頼んだぞキラ君』とラクスに続いてキラに微笑みかけた。
キラは『はい』と答え、ラクスは『またお会いしましょうね』と微笑み返す。シオンはその答えに苦笑しながらも『……必ず』と答えた。
「さぁ、これ以上は駄目だ。見つからないうちにハッチを開放する。―――キラ君」
「はい」
「もし……もし、友達と行きたいのなら行ってもいいんだよ」
「えっ?」
自分の心の迷いを指摘するシオンの言葉にキラは動揺した。
「ここにいる友達のことなら俺が責任を持って解放するように第8艦隊の責任者と交渉する。だから、もし、ザフトにいるという友達のところに行きたいのなら行きなさい。君にここは辛過ぎる……」
シオンはそれだけ言うとストライクから離れた。
警報が鳴り出し、作業員が集まってくる。シオンは彼らの目を盗んでコンピューターを操作していく。
スピーカーを通してキラの声が聞こえているのでシオンの存在に誰も気付かない。手早くハッチ解放とエールストライカーの手配をし、気付かれないように医務室へと戻った。
ラクスを乗せたストライクは無事アークエンジェルを飛び立った。
静かな医務室で、シオンはキラとラクスの無事をただ祈る。
血相を変えてマリューが医務室に飛び込んできた時にはシオンは包帯を巻きなおし、ベッドに横になっていた。
マリューから状況を聞いたシオンは『そうですか』とだけ言った。幸いなことに視界を覆っている包帯のおかげで彼の表情は誰にも読まれることはなかった。
キラが戻り医務室に報告に来たとき、ミゲルとラスティがニヤリと笑って『よくやった!』『サンキューな!』と労いの言葉を掛けた。
シオンは一言『おかえり』と言ってキラを抱きしめたのだった。