Northern Lights(種無印)
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10話 アルテミス崩壊
ストライクと共に帰艦したアマテラス。
格納庫へ機体を固定してOSを落としたシオンはバイザーを上げると、暗闇となったコックピット内で宙を見つめながら大きく息を吐いた。
(――出撃して……良かったんだよな……)
この事実が首長達に知れてしまえば、ウズミの立場を揺るがすこととなる。忠誠を誓い、手足となって尽くそうと決めた、その人の居場所を奪うことになりかねない。
どうか本国にバレませんように、と内心祈りながら、シオンはコックピットを開く。
照明の明るさに目を細めながら一歩足を踏み出し、隣に固定されたストライクへと何気なく視線を向けると、マードックたちがストライクの周りに集まっていた。
「どうかしたんですか?」
「ああ、あんたか。いや、なに、坊主がなかなか出てこないんで……」
歯切れ悪く答えるマードックに「あとは任せてください」と告げると、シオンはストライクへと近づき、外部ロックを操作してコックピットを開いた。
中にはレバーを握り締めたまま呆然となっているキラがいた。
シオンはヘルメットを脱ぐとコックピット内へと身体を滑り込ませ、キラの顔を覗き込む。その表情を垣間見たシオンは、キラの心情を理解して唇を噛み締めた。
(なぜ、君だけがこんな目に会わなくてはいけないんだ……)
シオンはそっと腕を伸ばすと、ふわりとキラを包み込んだ。
「大丈夫。もう終わったんだよ、キラ君。君も、君の友達も生きてる。よくやったね、お疲れさま」
キラの全てを肯定するように優しく紡がれる言葉が、コックピット内に染み渡る。
シオンは囁きながら、レバーを握り締めるキラの手の上に自分の手を沿え、ゆっくりとキラの指をレバーから外していった。
悩み続けた自分の行動を認め労ってくれるシオンのその言葉に反応するように、キラがゆっくりと瞬きする。
徐々に鈍った感情が甦るとともに、恐怖がキラを襲う。肩を震わせ、嗚咽を漏らすキラに、シオンは抱き締める腕に一層の力を込めた。
「……っう……っ」
「大丈夫、大丈夫だから……」
シオンはキラが落ち着くのを待ち、彼を医務室へと連れて行った。
その日からキラはほとんどの時間を医務室で過ごすようになり、キラの見舞いと称して、サイ、トール、ミリアリアの3人も頻繁に医務室に訪れるようになった。
最初は嫌悪感を顕にしていたミゲルとラスティだったが、ミリアリアたちと接するうちに、少なくとも対等に接するに値するナチュラルもいるのだと考えを改めるようになっていった。
いつのまにか医務室は少年たちの癒しの場となり、つかの間の平和がその空間にだけ訪れていた。
クルーゼ隊の追撃をなんとか凌いだアークエンジェルはやっとの思いでアルテミスへ入港した。
軍の認識コードを持たないだけに許可が下りないのではないかという懸念を他所に、あっけなくアルテミスから入港許可が下りたものの、その事に不信感を覚えたシオンは、キラにストライクの起動プログラムをロックしておくように言った。
素直に頷きはしたものの、キラにはシオンの言葉の真意が理解できていないようだった。それでもキラは兄のように慕うシオンの言葉ならばとロックを掛けた。
入港するやいなや、アークエンジェルは武装したMAに囲まれた。エアーロックを破り、武装した兵士たちが一斉になだれ込んでくる。
医務室にいたシオンの元にも兵士たちがやってきた。入ってくるなり、銃を突きつけられ、食堂へと連行された。
怪我人だという理由でなんとかミゲルとラスティだけはと抵抗したが、問答無用で連行され、マリュー以下、すべてのクルーが集められていた。
『これはいったいどういうことですか』と抗議するマリューに対し、指揮官らしき男がニタリと笑い『一応の措置として艦のコントロールと火器管制を封鎖させてもらうだけですよ』言い放った。
2人のやり取りを聞いていたシオンは周囲に聞こえないような小さな声で呟く。
「――そういうことか……」
「シオンさん?」
小さな呟きだったが、すぐ傍にいたキラ、そしてラスティとミゲルには聞こえていたようだ。どういう意味だ、と3人が同時に視線をシオンに向けた。
それらの視線と自分の視線を交わらせることないまま、シオンは独り言のように小さな声で語り始める。
「簡単なことさ。地球連合軍なんて旗を振り回していても一枚岩じゃないってことだ。元々連合は〝対プラント〟という共通目的を持った国家の集まり。それくらいなら君たちでも知っているだろう?」
そう言ってミゲルとラスティをチラリと見る。
「それくらいなら。確か北米から中南米までが大西洋連邦だろ?」
「ユーラシア連邦はユーラシア大陸と北欧を除く、ヨーロッパ諸国を母体にした集まりだったはず……」
ラスティが言えば、後をミゲルが続ける。
「そういうこと。利権や大国の思惑、互いへの牽制――足並みが揃ってるなんてお世辞にも言えない。しかも、アークエンジェルとストライクは北大西洋連邦が総力をつぎ込んで他の共同体にも極秘裏に開発依頼した新兵器だ。しかも最悪なことに大西洋連邦とユーラシア連邦は仲が悪い、とくれば――そんな状況下でライバル視している共同体の最新兵器が自分たちのもとに保護を求めて飛び込んできたらどうなる? 結果は目に見えてるさ」
シオンは嫌悪感を吐き出すように言った。さすがのキラも事態が飲み込めてきたのか、言葉が出ない。ミゲルとラスティも渋い顔をしている。
そこにユーラシアの士官たちが入ってきた。
「私は当衛星基地指令官のジェラード・ガルシアだ。この艦に積んである2機のMSのパイロットと技術者は誰かね?」
「私です」
ガルシアの言葉に正直に返事をしようとするキラの口をすばやく塞ぎ、シオンは名乗り出た。隣に立つキラが目を見開いて自分を見るが、あえて無視する。
今になって、ようやくキラはシオンが言ったことの意味を理解した。
「ほう、君があのMSのパイロットか。だが、MSはもう一機ある。もう一人はどこかね」
「そんな者はいません。2機とも私が操縦しています。元々私のMSはストライクではないもう1機のほうなのですが、ヘリオポリス脱出の際、仕方なく協力しただけです」
「ほう……では、少し前の戦闘に出ていたのも君だというのかね?」
「ええ、私も死にたくはありませんので。―― ああ、それと……ストライクはいざ知らず、私のMSには指一本触れないでください。もし、無断でデーターを吸い出そうというなら、事は国際問題に発展します。その事をお忘れなきよう」
「きさま……何者だ?」
暗に〝お前の首一つでは済まないぞ〟と無言の圧力を掛けられたガルシアはそれでも威厳を崩さぬように精一杯の虚勢を張るが、返ってきた答えに顔色を失った。
「申し遅れました。私はオーブ連合首長国代表代理、シオン・フィーリア。オーブの獅子の異名を取る我が国の代表、ウズミ・ナラ・アスハより全権を委任されてこの場に居ます。そしてあれはオーブのMS。連合の――しかもあなた達ごとき階級の人間が軽々しく触れていいものではない。もし、あれに触れようものなら、私が全力を持ってあなた達を排除させていただく」
真正面からシオンの怒気を受けて言葉を失ったガルシアだが、なんとか威厳を正そうとしようとしたとき、緊張に耐えかねたカズイがテーブルのグラスを床に落とした。
行き場を失った怒りを向ける格好の獲物を見つけたガルシアはカズイに殴りかかった。それを庇ったサイが壁に吹き飛ぶ。それを見たフレイが悲鳴を上げて、覆いかぶさった。
そして次の瞬間、決して言ってはならない一言をフレイは口にした。
「やめて! その子がパイロットよ! だって、その子、コーディネイターだもの!!」
キラを指差すフレイを見て、シオンの顔色が一瞬で変わった。傍にいたマードックたちも一斉に顔色を変えた。それを見てユーラシアの兵士たちが唖然とする。
観念したキラが「僕がストライクのパイロットです」と名乗りを上げた。
「なぜ、あんなことを言った?!」
キラがガルシアたちに連行されて行くと、シオンは押し殺した声で口を開いた。
フレイはなにを言われているのか解らないというように『なにが?』と答える。
その態度がまたシオンの怒りに火をつけた。
「キラ君がどうなるのか考えなかったのか? 何の為に私がパイロットだと名乗り出たと思っている。それを君は……君の一言が彼を危険にさらしたんだぞ!」
「なんで私が怒られなきゃならないのよ! だって、ここ味方の基地なんでしょう? パイロットが誰かなんて言っちゃえばいいじゃない。なんでいけないの!?」
さも心外だという表情のフレイに、必死に怒りを抑えるシオン。ラスティとミゲルも嫌悪感丸出しの表情でフレイを見ている。
「――連合が誰と戦っているのかよく考えろ」
シオンは止めようとするユーラシアの兵士を殴り倒し、踵を返して医務室へと戻っていった。その後を追うようにラスティとミゲルも続いた。
「最っ低だな、あの女!」
医務室に戻るやいなや、ラスティはフレイをなじった。ミゲルもシオンが無言でいるのを気にしながらも、フレイの言動を批判する。
2人の言い合いを尻目にシオンは連行されたキラのことを案じていた。その時、大きな揺れが医務室を襲った。
「この振動は――!!」
シオンが顔を上げた。
「間違いないぜ、これは爆発による振動だ」
ミゲルとラスティが顔を合わせる。
アルテミスの傘――それはビームも実弾も通さない難攻不落ともいわれる絶対防衛兵器。
ガルシアたちはアルテミスを盲目的に安全だと思い込んでいるようだが、シオンから見れば攻略は簡単だ。もし自分がザフトでアマテラスが使えれば、こんな基地など、ものの数分で落とせるだろう。
だが、それはアマテラスに装備されている機能があればこその話。それ以外では確かに厄介な装置ではあるのだが――ザフトに奪取されたXシリーズ。
あの中の1機にはアマテラスと同じ装備が搭載されている。もしも彼ら――ザフト――がそれに気付いたのなら……。
「アルテミスは落ちたな」
シオンはポツリと呟いた。
そして、シオンの呟き通り、外ではミラージュコロイドを展開したブリッツの活躍で、アルテミスは陥落1歩手前まで追い込まれていた。
ソードストライカーを換装したストライクが時間を稼ぎ、その間にアークエンジェルが緊急発進する。
傘を失ったアルテミスなど紅を纏った彼らに敵うはずもなく――バスターから発射されたランチャーの一撃で凄まじい爆炎が上がった。
その姿はまるで宙に咲く大輪の火花のようだった。
ストライクと共に帰艦したアマテラス。
格納庫へ機体を固定してOSを落としたシオンはバイザーを上げると、暗闇となったコックピット内で宙を見つめながら大きく息を吐いた。
(――出撃して……良かったんだよな……)
この事実が首長達に知れてしまえば、ウズミの立場を揺るがすこととなる。忠誠を誓い、手足となって尽くそうと決めた、その人の居場所を奪うことになりかねない。
どうか本国にバレませんように、と内心祈りながら、シオンはコックピットを開く。
照明の明るさに目を細めながら一歩足を踏み出し、隣に固定されたストライクへと何気なく視線を向けると、マードックたちがストライクの周りに集まっていた。
「どうかしたんですか?」
「ああ、あんたか。いや、なに、坊主がなかなか出てこないんで……」
歯切れ悪く答えるマードックに「あとは任せてください」と告げると、シオンはストライクへと近づき、外部ロックを操作してコックピットを開いた。
中にはレバーを握り締めたまま呆然となっているキラがいた。
シオンはヘルメットを脱ぐとコックピット内へと身体を滑り込ませ、キラの顔を覗き込む。その表情を垣間見たシオンは、キラの心情を理解して唇を噛み締めた。
(なぜ、君だけがこんな目に会わなくてはいけないんだ……)
シオンはそっと腕を伸ばすと、ふわりとキラを包み込んだ。
「大丈夫。もう終わったんだよ、キラ君。君も、君の友達も生きてる。よくやったね、お疲れさま」
キラの全てを肯定するように優しく紡がれる言葉が、コックピット内に染み渡る。
シオンは囁きながら、レバーを握り締めるキラの手の上に自分の手を沿え、ゆっくりとキラの指をレバーから外していった。
悩み続けた自分の行動を認め労ってくれるシオンのその言葉に反応するように、キラがゆっくりと瞬きする。
徐々に鈍った感情が甦るとともに、恐怖がキラを襲う。肩を震わせ、嗚咽を漏らすキラに、シオンは抱き締める腕に一層の力を込めた。
「……っう……っ」
「大丈夫、大丈夫だから……」
シオンはキラが落ち着くのを待ち、彼を医務室へと連れて行った。
その日からキラはほとんどの時間を医務室で過ごすようになり、キラの見舞いと称して、サイ、トール、ミリアリアの3人も頻繁に医務室に訪れるようになった。
最初は嫌悪感を顕にしていたミゲルとラスティだったが、ミリアリアたちと接するうちに、少なくとも対等に接するに値するナチュラルもいるのだと考えを改めるようになっていった。
いつのまにか医務室は少年たちの癒しの場となり、つかの間の平和がその空間にだけ訪れていた。
クルーゼ隊の追撃をなんとか凌いだアークエンジェルはやっとの思いでアルテミスへ入港した。
軍の認識コードを持たないだけに許可が下りないのではないかという懸念を他所に、あっけなくアルテミスから入港許可が下りたものの、その事に不信感を覚えたシオンは、キラにストライクの起動プログラムをロックしておくように言った。
素直に頷きはしたものの、キラにはシオンの言葉の真意が理解できていないようだった。それでもキラは兄のように慕うシオンの言葉ならばとロックを掛けた。
入港するやいなや、アークエンジェルは武装したMAに囲まれた。エアーロックを破り、武装した兵士たちが一斉になだれ込んでくる。
医務室にいたシオンの元にも兵士たちがやってきた。入ってくるなり、銃を突きつけられ、食堂へと連行された。
怪我人だという理由でなんとかミゲルとラスティだけはと抵抗したが、問答無用で連行され、マリュー以下、すべてのクルーが集められていた。
『これはいったいどういうことですか』と抗議するマリューに対し、指揮官らしき男がニタリと笑い『一応の措置として艦のコントロールと火器管制を封鎖させてもらうだけですよ』言い放った。
2人のやり取りを聞いていたシオンは周囲に聞こえないような小さな声で呟く。
「――そういうことか……」
「シオンさん?」
小さな呟きだったが、すぐ傍にいたキラ、そしてラスティとミゲルには聞こえていたようだ。どういう意味だ、と3人が同時に視線をシオンに向けた。
それらの視線と自分の視線を交わらせることないまま、シオンは独り言のように小さな声で語り始める。
「簡単なことさ。地球連合軍なんて旗を振り回していても一枚岩じゃないってことだ。元々連合は〝対プラント〟という共通目的を持った国家の集まり。それくらいなら君たちでも知っているだろう?」
そう言ってミゲルとラスティをチラリと見る。
「それくらいなら。確か北米から中南米までが大西洋連邦だろ?」
「ユーラシア連邦はユーラシア大陸と北欧を除く、ヨーロッパ諸国を母体にした集まりだったはず……」
ラスティが言えば、後をミゲルが続ける。
「そういうこと。利権や大国の思惑、互いへの牽制――足並みが揃ってるなんてお世辞にも言えない。しかも、アークエンジェルとストライクは北大西洋連邦が総力をつぎ込んで他の共同体にも極秘裏に開発依頼した新兵器だ。しかも最悪なことに大西洋連邦とユーラシア連邦は仲が悪い、とくれば――そんな状況下でライバル視している共同体の最新兵器が自分たちのもとに保護を求めて飛び込んできたらどうなる? 結果は目に見えてるさ」
シオンは嫌悪感を吐き出すように言った。さすがのキラも事態が飲み込めてきたのか、言葉が出ない。ミゲルとラスティも渋い顔をしている。
そこにユーラシアの士官たちが入ってきた。
「私は当衛星基地指令官のジェラード・ガルシアだ。この艦に積んである2機のMSのパイロットと技術者は誰かね?」
「私です」
ガルシアの言葉に正直に返事をしようとするキラの口をすばやく塞ぎ、シオンは名乗り出た。隣に立つキラが目を見開いて自分を見るが、あえて無視する。
今になって、ようやくキラはシオンが言ったことの意味を理解した。
「ほう、君があのMSのパイロットか。だが、MSはもう一機ある。もう一人はどこかね」
「そんな者はいません。2機とも私が操縦しています。元々私のMSはストライクではないもう1機のほうなのですが、ヘリオポリス脱出の際、仕方なく協力しただけです」
「ほう……では、少し前の戦闘に出ていたのも君だというのかね?」
「ええ、私も死にたくはありませんので。―― ああ、それと……ストライクはいざ知らず、私のMSには指一本触れないでください。もし、無断でデーターを吸い出そうというなら、事は国際問題に発展します。その事をお忘れなきよう」
「きさま……何者だ?」
暗に〝お前の首一つでは済まないぞ〟と無言の圧力を掛けられたガルシアはそれでも威厳を崩さぬように精一杯の虚勢を張るが、返ってきた答えに顔色を失った。
「申し遅れました。私はオーブ連合首長国代表代理、シオン・フィーリア。オーブの獅子の異名を取る我が国の代表、ウズミ・ナラ・アスハより全権を委任されてこの場に居ます。そしてあれはオーブのMS。連合の――しかもあなた達ごとき階級の人間が軽々しく触れていいものではない。もし、あれに触れようものなら、私が全力を持ってあなた達を排除させていただく」
真正面からシオンの怒気を受けて言葉を失ったガルシアだが、なんとか威厳を正そうとしようとしたとき、緊張に耐えかねたカズイがテーブルのグラスを床に落とした。
行き場を失った怒りを向ける格好の獲物を見つけたガルシアはカズイに殴りかかった。それを庇ったサイが壁に吹き飛ぶ。それを見たフレイが悲鳴を上げて、覆いかぶさった。
そして次の瞬間、決して言ってはならない一言をフレイは口にした。
「やめて! その子がパイロットよ! だって、その子、コーディネイターだもの!!」
キラを指差すフレイを見て、シオンの顔色が一瞬で変わった。傍にいたマードックたちも一斉に顔色を変えた。それを見てユーラシアの兵士たちが唖然とする。
観念したキラが「僕がストライクのパイロットです」と名乗りを上げた。
「なぜ、あんなことを言った?!」
キラがガルシアたちに連行されて行くと、シオンは押し殺した声で口を開いた。
フレイはなにを言われているのか解らないというように『なにが?』と答える。
その態度がまたシオンの怒りに火をつけた。
「キラ君がどうなるのか考えなかったのか? 何の為に私がパイロットだと名乗り出たと思っている。それを君は……君の一言が彼を危険にさらしたんだぞ!」
「なんで私が怒られなきゃならないのよ! だって、ここ味方の基地なんでしょう? パイロットが誰かなんて言っちゃえばいいじゃない。なんでいけないの!?」
さも心外だという表情のフレイに、必死に怒りを抑えるシオン。ラスティとミゲルも嫌悪感丸出しの表情でフレイを見ている。
「――連合が誰と戦っているのかよく考えろ」
シオンは止めようとするユーラシアの兵士を殴り倒し、踵を返して医務室へと戻っていった。その後を追うようにラスティとミゲルも続いた。
「最っ低だな、あの女!」
医務室に戻るやいなや、ラスティはフレイをなじった。ミゲルもシオンが無言でいるのを気にしながらも、フレイの言動を批判する。
2人の言い合いを尻目にシオンは連行されたキラのことを案じていた。その時、大きな揺れが医務室を襲った。
「この振動は――!!」
シオンが顔を上げた。
「間違いないぜ、これは爆発による振動だ」
ミゲルとラスティが顔を合わせる。
アルテミスの傘――それはビームも実弾も通さない難攻不落ともいわれる絶対防衛兵器。
ガルシアたちはアルテミスを盲目的に安全だと思い込んでいるようだが、シオンから見れば攻略は簡単だ。もし自分がザフトでアマテラスが使えれば、こんな基地など、ものの数分で落とせるだろう。
だが、それはアマテラスに装備されている機能があればこその話。それ以外では確かに厄介な装置ではあるのだが――ザフトに奪取されたXシリーズ。
あの中の1機にはアマテラスと同じ装備が搭載されている。もしも彼ら――ザフト――がそれに気付いたのなら……。
「アルテミスは落ちたな」
シオンはポツリと呟いた。
そして、シオンの呟き通り、外ではミラージュコロイドを展開したブリッツの活躍で、アルテミスは陥落1歩手前まで追い込まれていた。
ソードストライカーを換装したストライクが時間を稼ぎ、その間にアークエンジェルが緊急発進する。
傘を失ったアルテミスなど紅を纏った彼らに敵うはずもなく――バスターから発射されたランチャーの一撃で凄まじい爆炎が上がった。
その姿はまるで宙に咲く大輪の火花のようだった。