Northern Lights(種無印)
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9話 フェイズシフトダウン
「奪った〝G〟をすべて投入してきたのか!?」
予想はしていたとはいえ、ストライクに向かっている4機のMSの機影を確認し、シオンは息を呑んだ。
ストライクとイージスが戦っている間にデュエルが割り込み、ビームライフルを放ちながらストライクに迫る。
『くっそー! なかなかの武装じゃないか! 取り付けない……』
『艦底部から仕掛けます。援護を!』
「やらせるか……っ!」
シオンはストライクの位置を確認しながらも、アークエンジェルに取り付こうとするバスターとブリッツを牽制する。
突如降り注いだ攻撃に、ディアッカは驚きの声をあげ、周りを見回した。
『っ!? 今のどこから……っ』
ミラージュコロイドを展開させているアマテラスは、スラスターやライフルの熱源が感知されない限り、相手に見つかることは無いに等しい。
「……こんな戦い方はしたくないんだが……」
不本意だと言わんばかりの表情でシオンが呟く。
この機能は本来、偵察時に展開させることを目的として搭載されたものだ。姿を隠したまま相手を攻撃するなど卑怯以外の何物でもない。
だが、アマテラスの姿を晒すことで自分の存在がザフトに知られるよりはマシだと考えを転換させる。いくら秘匿していた機体でも、彼らの力をもってすればアマテラスの情報を得ることは難しくないだろう。現にXシリーズの情報は漏洩し、こうして強奪までされたのだ。
『ディアッカ! もしかすると敵のMSかも知れません』
『はぁ? MSって』
『このブリッツと同じ機能を搭載しているのかも……』
ニコルは計器を操作し、熱源サーチを開始した。味方であるアークエンジェルからもあれだけの爆雷が打ち出されている現状で、じっと一ヶ所に留まっているなどあり得ない。
『見つけた!』
素早く標準を合わせると、ニコルはレーザーライフルをターゲットへと放った。
「ちっ、意外と早かったな」
向かってくるライフルの光向かってシオンはシールドを掲げる。“ヤタノカガミ”のコーティングを施されたシールドは簡単にそれを反射させた。
『跳ね返した?!』
敵に向けて放った攻撃は、シールドで防御されたというよりも、明らかに自分へ向かって跳ね返って来たように思えた。
(反射させて自分が無事でも味方に当たれば意味がない。確実にに敵機を捕捉してそいつに向けて反射させなければ……)
動揺するニコルとは対照的に、シオンは反射されたエネルギーの軌道を冷静に確認していた。
バスターとブリッツを相手にアークエンジェルは回避行動を取りながらも防戦していた。爆雷が撃ち出され、イーゲルシュテルンが、対空防御ミサイルが一斉に発射される。
どれ程の装備を持っていても、大きな戦艦が最新MSの相手をするには無理がある。それを補うようにアマテラスが迎撃する。
見えない敵に、ディアッカとニコルは恐怖にも似た感情に支配され始めていた。アークエンジェルから撃ち出されるミサイルを撃墜しながら、見えない敵からの攻撃もかわす。
言い知れぬ恐怖と疲労が二人に圧し掛かる。ただ時間だけが流れた。
「マズイな……」
流れる時間に、シオンは若干焦りの色を見せ始める。
ブリッツに搭載されるよりも前に搭載したミラージュコロイド機能。完全とはいえないそのシステムの稼働時間には限界があった。当然、ブリッツとは比べようも無いくらい短時間の稼動。
漆黒の宇宙の中、ミサイルやビームの光とは明らかに質の違う光が徐々にその姿を現した。
『っ?! おいっ、何だあれ……MS?!』
突如現れた機影に、ニコルとディアッカは急いでデータ照合を始める。
『アンノウン……?敵戦力はストライク1機だったはずです。一体……うわっっ!』
動きが一瞬止まった隙を見逃さず、シオンはブリッツ、次いでバスターへとライフルを連射させると、追い討ちをかけるように、背部パックにマウントされている高エネルギービーム砲を発射する。
ライフルとは比べ物にならないエネルギー波がブリッツとバスターを襲った。
『っ……なんて攻撃だ。大丈夫か! ニコル!……っくそ!』
『少し油断しました。ディアッカも大丈夫ですか?!』
『ああ……情報になくても、向かってくるなら敵だ』
目の前の金色のMSを睨み付け、ディアッカは操縦桿を握る手に力を込めた。
「っ……ラミアス艦長、作戦はどうなっているんだ!?」
バスターとブリッツを相手に、攻撃を続けながらシオンはブリッジへと通信を繋ぐ。
本来なら連合の人間ではないシオンに作戦内容を知らせることはできない。それでもシオンの焦った表情にマリューは作戦内容を説明した。
「それだとすべてはスピードとタイミングにかかってくるな……フラガ大尉の現在位置は?」
『ナスカ級、底部です!』
『――――!! 前方ナスカ級よりレーザー照射感あり。ロックされます!』
『〝ローエングリン〟発射準備! 目標、前方ナスカ級!!』
チャンドラの叫び声に真っ先に反応したナタルがためらいなく指示を出す。
その指示内容にシオンは驚いて声を張り上げた。
「おい、待て! まだ、フラガ大尉が接近中なんじゃないのか!?」
『部外者は黙っていていただきたい。撃たなければ、こちらが撃たれる!』
制止の声を上げるシオンをナタルが遮った。
彼女の言い分は正論だが、艦を守るためにパイロットを犠牲にするような攻撃は、MSパイロットでもあるシオンにとって許し難いものだ。引き下がるわけにはいかない。更に言葉を続けようとした時……
『いいえ、代理のおっしゃる通りよ。許可できません! 艦、回避!!』
マリューはナタルの指示を却下し、回避命令を下した。
その声にシオンは驚いたように、ただ画面に映るマリューを見つめていた。命令を下した厳しい声とは裏腹に、柔らかな笑みを浮かべるマリューと視線が絡む。その笑みにシオンもまた表情を緩めた。
その時、ヴェサリウスの底部から攻撃をかわし、ゼロがガンバレルを展開させた。リニアガンを連射して、ありったけの火力を機関部に叩き込む。
ヴェサリウスの上部へ抜けきる瞬間、機関部から炎が上がるのをみたムウは『よっしゃ』とガッツポーズをあげた。
「フラガ大尉より通信『作戦成功。これより帰投する』」
その知らせを聞いた瞬間、アークエンジェル内に歓声が上がった。トールたちは顔を見合わせ、ホッと胸を撫で下ろした。
張り詰めていた空気が若干和んだような気がしたのも束の間、マリューの声がブリッジに響く。
「この機を逃さず、前方ナスカ級を撃ちます!」
「了解! ローエングリン、1番、2番、発射準備! 陽電子バンクチェンバー臨界、マズルチョーク電位安定しました」
マリューの命令にクルーがすばやく攻撃準備にかかる。ローエングリンの発射口が開いた。
「てぇー!!」
ナタルの命令と同時にローエングリンが一斉に火を噴く。必死に回避行動を取るヴェサリウスだが、損傷した機関部ではその圧倒的火力の前に沈黙する他なかった。
「ナスカ級、本艦進路上より離脱!」
「ストライクへ帰還信号を! アークエンジェルはこのまま最大戦速で、アルテミスへ向かいます! アマテラスも帰艦を!」
『……いえ、ストライクの応援に行きます』
マリューの指示を聞かず、ストライクの元へと向かう。
シオンの胸中には、ある心配がずっと渦巻いていた。
「ストライクのエネルギー残量が気になるな……」
ヴェサリウスからの帰還信号を受けたアスランはあまりの出来事にしばし呆然となった。しかし、その指令を無視し、デュエルがストライクに向かっていく。
「イザーク、撤退命令だぞ!」
アスランはいさめようとするがデュエルは止まる気配が一向にない。同じくバスターもそれに続く。
デュエルとバスターに阻まれ、ストライクはアークエンジェルに帰還できずにいた。
コックピット内でキラはレバーを握り締め、鳴り出したアラートに気づくことなく、ビームライフルを乱射していた。
シオンの不安と時を同じくして、アークエンジェル内でもストライクのエネルギー残量を心配する声があがっていた。
「援護して!」
「この混戦では無理です!」
援護の指示を出そうとするマリューにナタルが叫んだ。
めまぐるしく動き回るMS戦では下手に手を出せば味方を撃ってしまう可能性もある。
そして、今がその状況だった。
――突然、ストライクからビームライフルの反応がなくなった。恐れていた事態が起こったのだ。
ストライクのフェイズシフトが落ち、暗い鋼色に戻っていく。それを見たデュエルがチャンスとばかりに飛び込んでくる。誰もが『やられる』と思った。だが、ストライクは間一髪のところでデュエルのサーベルを回避した――いや、回避させてもらっていた。
MA状態に変形したイージスがその鉤爪でストライクを捕獲していたのだ。
『キラ!!』
アークエンジェルのブリッジでミリアリアが必死にキラの名を呼んでいるのが聞こえる。それに続くトノムラの声も。
『ストライク、イージスに捕獲されました。フェイズシフト、ダウン!』
息をのんで状況を見ているだけであろうブリッジに、シオンは通信を繋いだ。
「まだ完全に敵に捕獲されたわけじゃない! ランチャーストライカーの射出を!!」
時を同じくしてムウからもランチャーストライカー射出の指示が通信されていた。
『なにをする、アスラン!』
『この機体、捕獲する!』
『なに!? 命令は撃破だぞ!』
『捕獲できるのならば、そのほうがいい。撤退する』
キラの耳に、通信を介してアスランと仲間の会話が飛び込んでくる。
イージスはストライクを抱え、いち早く戦線を離脱する。残りの3機が後に続く。
「アスラン! どういうつもりだ!?」
『このままガモフへ連行する』
キラの叫びにアスランが答えた。連行という言葉にキラは動揺し、更に声を荒げて抵抗する。
「いやだ! 僕はザフトの艦になんか行かない!」
『いいかげんにしろ!』
キラの叫びにアスランは怒鳴り声を上げた。
『来るんだ、キラ。でないと俺は……お前を撃たなきゃいけないんだぞ! 血のバレンタインで母も死んだ……』
アスランの声には苦渋が滲んでいた。それを聞いて、キラは息をのむ。
『俺は……っ、うわっ!』
そして口を開こうとしたそのとき――突然、横から衝撃が走った。
アマテラスがイージスへと攻撃を仕掛けていたのだ。
『キラ君!』
『シオンさん!?』
突然現れた金色の機体に、アスランは驚愕の声をあげた。
アマテラスの攻撃に、防御態勢を取ろうとMA状態を解いたイージスの鉤爪からストライクが解放される。自由になったストライクにシオンから通信が入った。
『離脱するんだ! アークエンジェルがランチャーを射出する! 早く装備の換装を!!』
『キラ!!』
通信機を通して聞こえてくるアスランの声に後ろ髪を引かれながらもキラはその場を離脱した。後を追い縋ろうとするイージスをシオンがライフルで牽制する。
離脱するストライクを目にして、今度はデュエルが追い縋ってきた。アークエンジェルの援護射撃をかわし、どんどん近づいてくる。
アークエンジェルのカタパルトからランチャーストライカーが射出されたのを確認したキラはエールストライカーを離脱させ―――同時にデュエルがグレネードランチャーを放った。宇宙空間にすさまじい閃光が走った。
『くそっ! 間に合えっ!』
デュエルの攻撃からストライクを守ろうと、シオンは全速力でグレネードランチャーの軸線上へと向かった。
“ヤタノカガミ”のコーティングが施されているアマテラスをグレネードランチャーとストライクの間に割り込ませ、シールド代わりにしようと。
だが、無常にもその光はシオンの目の前を凄まじい勢いですり抜けていった。
「キラぁぁぁぁ」
ブリッジでミリアリアとトールが叫ぶ。シオンも言葉を失い、その光景から目を離せずにいた。
すると、その場からビームが放たれた。巨大なエネルギー量がデュエルの右腕を吹き飛ばす。爆炎の中からストライクが飛び出した。超高インパルス砲〝アグニ〟がその火を噴く。
デュエルはそれを必死でかわし、後退していく。他の3機もそれに従うように、その宙域から離脱していった。
「奪った〝G〟をすべて投入してきたのか!?」
予想はしていたとはいえ、ストライクに向かっている4機のMSの機影を確認し、シオンは息を呑んだ。
ストライクとイージスが戦っている間にデュエルが割り込み、ビームライフルを放ちながらストライクに迫る。
『くっそー! なかなかの武装じゃないか! 取り付けない……』
『艦底部から仕掛けます。援護を!』
「やらせるか……っ!」
シオンはストライクの位置を確認しながらも、アークエンジェルに取り付こうとするバスターとブリッツを牽制する。
突如降り注いだ攻撃に、ディアッカは驚きの声をあげ、周りを見回した。
『っ!? 今のどこから……っ』
ミラージュコロイドを展開させているアマテラスは、スラスターやライフルの熱源が感知されない限り、相手に見つかることは無いに等しい。
「……こんな戦い方はしたくないんだが……」
不本意だと言わんばかりの表情でシオンが呟く。
この機能は本来、偵察時に展開させることを目的として搭載されたものだ。姿を隠したまま相手を攻撃するなど卑怯以外の何物でもない。
だが、アマテラスの姿を晒すことで自分の存在がザフトに知られるよりはマシだと考えを転換させる。いくら秘匿していた機体でも、彼らの力をもってすればアマテラスの情報を得ることは難しくないだろう。現にXシリーズの情報は漏洩し、こうして強奪までされたのだ。
『ディアッカ! もしかすると敵のMSかも知れません』
『はぁ? MSって』
『このブリッツと同じ機能を搭載しているのかも……』
ニコルは計器を操作し、熱源サーチを開始した。味方であるアークエンジェルからもあれだけの爆雷が打ち出されている現状で、じっと一ヶ所に留まっているなどあり得ない。
『見つけた!』
素早く標準を合わせると、ニコルはレーザーライフルをターゲットへと放った。
「ちっ、意外と早かったな」
向かってくるライフルの光向かってシオンはシールドを掲げる。“ヤタノカガミ”のコーティングを施されたシールドは簡単にそれを反射させた。
『跳ね返した?!』
敵に向けて放った攻撃は、シールドで防御されたというよりも、明らかに自分へ向かって跳ね返って来たように思えた。
(反射させて自分が無事でも味方に当たれば意味がない。確実にに敵機を捕捉してそいつに向けて反射させなければ……)
動揺するニコルとは対照的に、シオンは反射されたエネルギーの軌道を冷静に確認していた。
バスターとブリッツを相手にアークエンジェルは回避行動を取りながらも防戦していた。爆雷が撃ち出され、イーゲルシュテルンが、対空防御ミサイルが一斉に発射される。
どれ程の装備を持っていても、大きな戦艦が最新MSの相手をするには無理がある。それを補うようにアマテラスが迎撃する。
見えない敵に、ディアッカとニコルは恐怖にも似た感情に支配され始めていた。アークエンジェルから撃ち出されるミサイルを撃墜しながら、見えない敵からの攻撃もかわす。
言い知れぬ恐怖と疲労が二人に圧し掛かる。ただ時間だけが流れた。
「マズイな……」
流れる時間に、シオンは若干焦りの色を見せ始める。
ブリッツに搭載されるよりも前に搭載したミラージュコロイド機能。完全とはいえないそのシステムの稼働時間には限界があった。当然、ブリッツとは比べようも無いくらい短時間の稼動。
漆黒の宇宙の中、ミサイルやビームの光とは明らかに質の違う光が徐々にその姿を現した。
『っ?! おいっ、何だあれ……MS?!』
突如現れた機影に、ニコルとディアッカは急いでデータ照合を始める。
『アンノウン……?敵戦力はストライク1機だったはずです。一体……うわっっ!』
動きが一瞬止まった隙を見逃さず、シオンはブリッツ、次いでバスターへとライフルを連射させると、追い討ちをかけるように、背部パックにマウントされている高エネルギービーム砲を発射する。
ライフルとは比べ物にならないエネルギー波がブリッツとバスターを襲った。
『っ……なんて攻撃だ。大丈夫か! ニコル!……っくそ!』
『少し油断しました。ディアッカも大丈夫ですか?!』
『ああ……情報になくても、向かってくるなら敵だ』
目の前の金色のMSを睨み付け、ディアッカは操縦桿を握る手に力を込めた。
「っ……ラミアス艦長、作戦はどうなっているんだ!?」
バスターとブリッツを相手に、攻撃を続けながらシオンはブリッジへと通信を繋ぐ。
本来なら連合の人間ではないシオンに作戦内容を知らせることはできない。それでもシオンの焦った表情にマリューは作戦内容を説明した。
「それだとすべてはスピードとタイミングにかかってくるな……フラガ大尉の現在位置は?」
『ナスカ級、底部です!』
『――――!! 前方ナスカ級よりレーザー照射感あり。ロックされます!』
『〝ローエングリン〟発射準備! 目標、前方ナスカ級!!』
チャンドラの叫び声に真っ先に反応したナタルがためらいなく指示を出す。
その指示内容にシオンは驚いて声を張り上げた。
「おい、待て! まだ、フラガ大尉が接近中なんじゃないのか!?」
『部外者は黙っていていただきたい。撃たなければ、こちらが撃たれる!』
制止の声を上げるシオンをナタルが遮った。
彼女の言い分は正論だが、艦を守るためにパイロットを犠牲にするような攻撃は、MSパイロットでもあるシオンにとって許し難いものだ。引き下がるわけにはいかない。更に言葉を続けようとした時……
『いいえ、代理のおっしゃる通りよ。許可できません! 艦、回避!!』
マリューはナタルの指示を却下し、回避命令を下した。
その声にシオンは驚いたように、ただ画面に映るマリューを見つめていた。命令を下した厳しい声とは裏腹に、柔らかな笑みを浮かべるマリューと視線が絡む。その笑みにシオンもまた表情を緩めた。
その時、ヴェサリウスの底部から攻撃をかわし、ゼロがガンバレルを展開させた。リニアガンを連射して、ありったけの火力を機関部に叩き込む。
ヴェサリウスの上部へ抜けきる瞬間、機関部から炎が上がるのをみたムウは『よっしゃ』とガッツポーズをあげた。
「フラガ大尉より通信『作戦成功。これより帰投する』」
その知らせを聞いた瞬間、アークエンジェル内に歓声が上がった。トールたちは顔を見合わせ、ホッと胸を撫で下ろした。
張り詰めていた空気が若干和んだような気がしたのも束の間、マリューの声がブリッジに響く。
「この機を逃さず、前方ナスカ級を撃ちます!」
「了解! ローエングリン、1番、2番、発射準備! 陽電子バンクチェンバー臨界、マズルチョーク電位安定しました」
マリューの命令にクルーがすばやく攻撃準備にかかる。ローエングリンの発射口が開いた。
「てぇー!!」
ナタルの命令と同時にローエングリンが一斉に火を噴く。必死に回避行動を取るヴェサリウスだが、損傷した機関部ではその圧倒的火力の前に沈黙する他なかった。
「ナスカ級、本艦進路上より離脱!」
「ストライクへ帰還信号を! アークエンジェルはこのまま最大戦速で、アルテミスへ向かいます! アマテラスも帰艦を!」
『……いえ、ストライクの応援に行きます』
マリューの指示を聞かず、ストライクの元へと向かう。
シオンの胸中には、ある心配がずっと渦巻いていた。
「ストライクのエネルギー残量が気になるな……」
ヴェサリウスからの帰還信号を受けたアスランはあまりの出来事にしばし呆然となった。しかし、その指令を無視し、デュエルがストライクに向かっていく。
「イザーク、撤退命令だぞ!」
アスランはいさめようとするがデュエルは止まる気配が一向にない。同じくバスターもそれに続く。
デュエルとバスターに阻まれ、ストライクはアークエンジェルに帰還できずにいた。
コックピット内でキラはレバーを握り締め、鳴り出したアラートに気づくことなく、ビームライフルを乱射していた。
シオンの不安と時を同じくして、アークエンジェル内でもストライクのエネルギー残量を心配する声があがっていた。
「援護して!」
「この混戦では無理です!」
援護の指示を出そうとするマリューにナタルが叫んだ。
めまぐるしく動き回るMS戦では下手に手を出せば味方を撃ってしまう可能性もある。
そして、今がその状況だった。
――突然、ストライクからビームライフルの反応がなくなった。恐れていた事態が起こったのだ。
ストライクのフェイズシフトが落ち、暗い鋼色に戻っていく。それを見たデュエルがチャンスとばかりに飛び込んでくる。誰もが『やられる』と思った。だが、ストライクは間一髪のところでデュエルのサーベルを回避した――いや、回避させてもらっていた。
MA状態に変形したイージスがその鉤爪でストライクを捕獲していたのだ。
『キラ!!』
アークエンジェルのブリッジでミリアリアが必死にキラの名を呼んでいるのが聞こえる。それに続くトノムラの声も。
『ストライク、イージスに捕獲されました。フェイズシフト、ダウン!』
息をのんで状況を見ているだけであろうブリッジに、シオンは通信を繋いだ。
「まだ完全に敵に捕獲されたわけじゃない! ランチャーストライカーの射出を!!」
時を同じくしてムウからもランチャーストライカー射出の指示が通信されていた。
『なにをする、アスラン!』
『この機体、捕獲する!』
『なに!? 命令は撃破だぞ!』
『捕獲できるのならば、そのほうがいい。撤退する』
キラの耳に、通信を介してアスランと仲間の会話が飛び込んでくる。
イージスはストライクを抱え、いち早く戦線を離脱する。残りの3機が後に続く。
「アスラン! どういうつもりだ!?」
『このままガモフへ連行する』
キラの叫びにアスランが答えた。連行という言葉にキラは動揺し、更に声を荒げて抵抗する。
「いやだ! 僕はザフトの艦になんか行かない!」
『いいかげんにしろ!』
キラの叫びにアスランは怒鳴り声を上げた。
『来るんだ、キラ。でないと俺は……お前を撃たなきゃいけないんだぞ! 血のバレンタインで母も死んだ……』
アスランの声には苦渋が滲んでいた。それを聞いて、キラは息をのむ。
『俺は……っ、うわっ!』
そして口を開こうとしたそのとき――突然、横から衝撃が走った。
アマテラスがイージスへと攻撃を仕掛けていたのだ。
『キラ君!』
『シオンさん!?』
突然現れた金色の機体に、アスランは驚愕の声をあげた。
アマテラスの攻撃に、防御態勢を取ろうとMA状態を解いたイージスの鉤爪からストライクが解放される。自由になったストライクにシオンから通信が入った。
『離脱するんだ! アークエンジェルがランチャーを射出する! 早く装備の換装を!!』
『キラ!!』
通信機を通して聞こえてくるアスランの声に後ろ髪を引かれながらもキラはその場を離脱した。後を追い縋ろうとするイージスをシオンがライフルで牽制する。
離脱するストライクを目にして、今度はデュエルが追い縋ってきた。アークエンジェルの援護射撃をかわし、どんどん近づいてくる。
アークエンジェルのカタパルトからランチャーストライカーが射出されたのを確認したキラはエールストライカーを離脱させ―――同時にデュエルがグレネードランチャーを放った。宇宙空間にすさまじい閃光が走った。
『くそっ! 間に合えっ!』
デュエルの攻撃からストライクを守ろうと、シオンは全速力でグレネードランチャーの軸線上へと向かった。
“ヤタノカガミ”のコーティングが施されているアマテラスをグレネードランチャーとストライクの間に割り込ませ、シールド代わりにしようと。
だが、無常にもその光はシオンの目の前を凄まじい勢いですり抜けていった。
「キラぁぁぁぁ」
ブリッジでミリアリアとトールが叫ぶ。シオンも言葉を失い、その光景から目を離せずにいた。
すると、その場からビームが放たれた。巨大なエネルギー量がデュエルの右腕を吹き飛ばす。爆炎の中からストライクが飛び出した。超高インパルス砲〝アグニ〟がその火を噴く。
デュエルはそれを必死でかわし、後退していく。他の3機もそれに従うように、その宙域から離脱していった。