Northern Lights(種無印)
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8話 戦う決意
「うっ……」
比較的軽傷だった金髪の少年が身じろぎした。
シオンがタオルで少年の額に浮いた汗をそっと拭ってやると、苦しげに閉じられていた瞼がゆっくりと開き、乾いた唇から掠れた声が絞り出された。
「……こ……こは……?」
「よかった……目が覚めたかい? ここは……アークエンジェルという連合の戦艦の中だ。ヘリオポリスでのことを覚えているかな?」
シオンは極力少年を刺激しないようやさしく問いかけた。
が、連合の戦艦に居るのだと告げた瞬間、少年がピクリと反応したのをシオンは見逃さなかった。当然といえば当然の反応だ。
その少年はというと、医務室の明るさにまだ目が慣れないのか、目を細めたまま、質問に答えようと記憶の糸を手繰り寄せている様子だった。
「ヘリオ……ポリス……そうだ、俺は連合のMSに……だが、誰かが俺を助けてくれて……」
「そう、本当に間一髪だったよ。私が駆けつけるのがもう少し遅れていたら君は乗っていたジンもろともストライクのソードで真っ二つだ。間に合って本当によかった」
心底ホッとした表情を見せるシオンに、少年は漠然とした疑問を抱いていた。
自分と戦闘中だった敵MSとの間に割って入ってきた金色のMSとそのパイロット。共に、見覚えがない。
ザフトである自分が記憶にない機体だというのなら、目の前の人間は『敵』で『連合』の人間なのだろうか。
なら、なぜザフトである自分を助けたのか。
「……ナチュラルのくせに変なヤツだな」
敵であるコーディネイターを助けるなんて、と呟いた。
その呟きに、ふわりと笑みを浮かべたシオンが返した言葉に、少年の顔が驚愕に変わる。
「私は……コーディネイターだよ」
「……!!俺たちの同胞なら、なぜナチュラルの味方を……!?」
「やれやれ……君はなにか勘違いをしているようだね。言っておくが私は連合の人間じゃない。あぁ、そういえば自己紹介がまだだったね。私はオーブ連合首長国代表代理のシオン・フィーリア。ちなみに、君とそっちに眠っている彼は確かに捕虜になったが、それは連合の捕虜じゃない。我がオーブの捕虜だ。この艦には先だって起こったヘリオポリス崩壊に関する情報収集と、この艦の最高責任者に事の次第の説明を聞く為に一時的に着艦したに過ぎない。それに……」
チラリといまだ眠り続ける少年に視線を移す。
「君たちの治療も必要だったしね」
「……よくナチュラルどもが許可を出したな?」
「そりゃ、あちらとしたら、こっちに対して多少は罪悪感もあっただろうからね。まぁ、中にはそうでない人間もいたけど、この艦の艦長さんにちょっとお願いしたら、快くこの医務室と治療に必要な物資を提供してくれたんだよ」
にっこりと笑みを浮かべながら、恐喝をお願いと言い張るシオンに、少年は背中に冷たいものを感じながら、この後、待っているであろう出来事を思い浮かべ、乾いた笑みを浮かべたのだった。
(それって、世間一般的に脅したっていうんじゃ……ラスティ~、早く目を覚ましてくれ~!! 頼む! 俺を一人にしないでくれ!!)
言葉を失っている少年に顔を近づけると、シオンは矢継ぎ早に質問を口にする。
「で? 君の名前は? それと彼の名前は知ってる? 友達?」
「……ミゲル・アイマン。そっちはラスティ・マッケンジー」
中立国とはいえオーブの捕虜となり、敵である連合の戦艦に収容され、命の恩人は裏表のありそうな奴で……現状を理解しつつも、先を考えると気が重くなる。
知らず知らずのうちにミゲルはため息をもらしていた。
「アイマン君とマッケンジー君ね。私のことはシオンと呼んでくれていい。ファミリーネームで呼ばれるのは肩が凝るからね。あぁ、心配しなくていい。これから私の問いに素直に答えてくれたら悪いようにはしないよ? 大丈夫、私は基本的にやさしいから――――」
『基本的に』と強調して、ニヤリと口の端を上げたシオンに答えられる範囲に関してだけは決して逆らうまいと心に固く誓うミゲルだった。
アークエンジェルのブリッジに警報が鳴り響いた。
「大型の熱量感知! 戦艦のエンジンと思われます。距離200……! 目標はかなりの高速で移動。横軸で本艦を追い抜きます! 艦特定。ナスカ級です!」
「読まれてるぞ。先回りしてこっちの頭を抑えるつもりだ!」
ムウが叫んでいる間にもナスカ級艦は近づき、後方にもローラシア級の艦が近づいていた。
「やられたな。このままじゃいずれローラシア級に追いつかれる……逃げようとしてエンジンを使えばナスカ級が転進してくるってことか」
<適艦影発見! 適艦影発見! 第1戦闘配備!>
切迫したアナウンスにシオンは顔を上げた。
「とうとう戦闘になるのか……」
立場上、マリューに自分の力を頼るなと言い切ったものの、キラや保護された民間人を見殺しにはできない。
この艦にもう一機MSさえあればなにか理由をつけて自分も出撃できたのだが、ストライク以外のMSがない以上は仕方がない。
どのような理由があろうとも連合とザフトの戦いにアマテラスを使うことはできないのだから……。
「……キラ君や学生たちは大丈夫かな?」
何気なく呟いた言葉にミゲルが反応する。
「学生って? この艦、民間人が乗ってるのか?!」
「ああ。運悪く連合の機密を目にしてしまったらしくてね。身柄を拘束されてしまったんだ」
戦艦に民間人が乗っている―――その事実に驚愕するミゲルにシオンは苦虫を噛み潰したように答えた。
巻き込まれた彼らのことも気にはなるが、いくら捕虜とはいえ、怪我人を放っておくことはできない。
シオンはキラ達のことを気にしつつも、ミゲルとラスティの看護を優先させようと椅子に座りなおした。
その時、耳に飛び込んできたアナウンスにシオンは我が耳を疑った。
<キラ・ヤマトはブリッジへ。キラ・ヤマトはブリッジへ>
「っ?! 馬鹿な……あれほど彼をMSに乗せるなと釘を刺しておいたのに!! 民間人をMSに乗せるなんて!」
「民間人をMSに!?」
愕然とするミゲルを尻目にシオンはブリッジに向かって走り出した。
「ラミアス艦長!」
「……っ! フィーリア代理っ?!」
鬼のような形相でブリッジに飛び込んできたシオンを見て、マリューは身体を震わせた。
「私はあなたに言っておいたはずだ! 金輪際彼をMSに乗せるなと……っ」
連合の軍服に身を包み、ブリッジに座っているミリアリアたちの姿を目にしたシオンは、自分の怒りゲージが振り切れるのを感じた。
人間、本気で怒ると表情はもとより、声からも感情が消えるものなのか。これまでのシオンの怒りのレベルは今のレベルに比べれば生易しいものだったのだろう。
なまじ容姿が整っているがゆえに、その姿は見る者にとってまさに生ける荒神のように映った。
言葉を失っているマリューやブリッジにいるクルーを無視し、通信機を手にしたシオンはそのまま発進準備中のストライクに繋げた。
「キラ君」
『シオンさん!?』
キラは思いもかけない相手からの通信に目を見張った。
「ラミアス艦長には君をMSに乗せるなと言っておいたのだが……こんなことになってしまってすまない。君を……君たちをこれ以上、戦争に巻き込むような真似だけはしたくなかったのに」
『シオンさん……僕だって本当は戦いたくない。殺したくない。けど……友達が死ぬのはもっと嫌だから。フラガさんに言われたんです。この艦を護れるのは僕とあの人だけだって……力があるのなら出来ることをやれって。だから!!』
「分かった……分かってるから……それ以上、言わなくていい」
『…………』
「……君がそんな思いをしてまでMSに乗ったとういうのに、俺は……」
独り言のように呟くその表情からは、先程までの怒りの色は消えていた。
『シオン……さん?』
「キラ君、必ず生きて帰ってくるんだ。何があっても……だから必ず帰ってくると約束してくれ」
懇願するように声を絞り出すシオンにキラは唯一言『必ず戻ります』と言って通信を切った。
キラとの通信が切れたのを確認すると、シオンはマリューへと向き直って頭を下げた。
「先程の失礼な言動、どうかお許しください。ラミアス艦長」
「そんな……」
シオンの言葉にマリューは複雑な表情を浮かべる。頭を上げ、その彼女を真っ直ぐに見つめたままシオンは言葉を続けた。
「それと、MSの発進許可をいただきたい」
「……えっ?! 発進許可? まさかフィーリア代理、あなた……」
「アマテラスで大天使の護衛を。MSパイロットのシオン・フィーリア個人としてね」
ふわりと笑みを浮かべると、シオンはマリューの回答を待たずに床を蹴り上げてブリッジから格納庫へと移動を始める。すれ違いざまに垣間見えたシオンの横顔は、穏やかでありながらも決意を秘めたものだった。
彼の突然の行動に、一瞬呆気に取られたマリューだったが、迅速に発進準備を指示する。
「アマテラスの発進準備急いで! あ、フィーリア代理! パイロットスーツは……っ」
「大丈夫。ありがとう、ラミアス艦長」
既にエレベーターの中へと滑り込んだシオンの声が、まだ開いていたドアのおかげでブリッジへと響く。その声に、状況の好転を期待したブリッジ内の空気が少し和らいだのを誰もが感じていた。
アマテラスを隠しておいたドックには当然のようにシオンのパイロットスーツも用意されていた。
ヘリオポリス崩壊の際には着用する余裕はなかったが、念の為にと持ち込んだのだ。それが役に立つとは、正直複雑な気分だった。
漆黒に染められたパイロットスーツに着替えたシオンがコックピットに乗り込み、OSを起動した途端、ブリッジから通信が入った。通信画面には心配そうな表情のマリューが映っている。
シオンは画面上のマリューに気を止めることもなく、黙々と計器のチェックに手を滑らせていく。
『本当によろしいのですか?』
――二色に分かれる戦場に、中立国のMSが出撃しても……?
――他国の争いに介入しないと理念を掲げる国の代表代理が、そのMSを駆っても……?
マリューが告げる短い言葉の中に含まれる意味に気づいたシオンは、忙しなく動かしていた視線と手はそのままに、口を開いた。
「私もキラ君と同じように彼らを護りたい。フラガ氏が言うように、力があるのなら出来ることを……それだけです」
調整を終えたシオンは通信画面のマリューへと微笑んだ。「心配ない」と。
『カタパルト接続。アマテラス、スタンバイ』
ミリアリアのアナウンスにより、機体が発進スタンバイの状態になる。あとは発進指示を待つだけだ。スッ、とシオンの表情が鋭いものに変化する。
『システム、オールグリーン。進路クリアー。アマテラス、発進どうぞ!』
「シオン・フィーリア、アマテラス出る!」
「うっ……」
比較的軽傷だった金髪の少年が身じろぎした。
シオンがタオルで少年の額に浮いた汗をそっと拭ってやると、苦しげに閉じられていた瞼がゆっくりと開き、乾いた唇から掠れた声が絞り出された。
「……こ……こは……?」
「よかった……目が覚めたかい? ここは……アークエンジェルという連合の戦艦の中だ。ヘリオポリスでのことを覚えているかな?」
シオンは極力少年を刺激しないようやさしく問いかけた。
が、連合の戦艦に居るのだと告げた瞬間、少年がピクリと反応したのをシオンは見逃さなかった。当然といえば当然の反応だ。
その少年はというと、医務室の明るさにまだ目が慣れないのか、目を細めたまま、質問に答えようと記憶の糸を手繰り寄せている様子だった。
「ヘリオ……ポリス……そうだ、俺は連合のMSに……だが、誰かが俺を助けてくれて……」
「そう、本当に間一髪だったよ。私が駆けつけるのがもう少し遅れていたら君は乗っていたジンもろともストライクのソードで真っ二つだ。間に合って本当によかった」
心底ホッとした表情を見せるシオンに、少年は漠然とした疑問を抱いていた。
自分と戦闘中だった敵MSとの間に割って入ってきた金色のMSとそのパイロット。共に、見覚えがない。
ザフトである自分が記憶にない機体だというのなら、目の前の人間は『敵』で『連合』の人間なのだろうか。
なら、なぜザフトである自分を助けたのか。
「……ナチュラルのくせに変なヤツだな」
敵であるコーディネイターを助けるなんて、と呟いた。
その呟きに、ふわりと笑みを浮かべたシオンが返した言葉に、少年の顔が驚愕に変わる。
「私は……コーディネイターだよ」
「……!!俺たちの同胞なら、なぜナチュラルの味方を……!?」
「やれやれ……君はなにか勘違いをしているようだね。言っておくが私は連合の人間じゃない。あぁ、そういえば自己紹介がまだだったね。私はオーブ連合首長国代表代理のシオン・フィーリア。ちなみに、君とそっちに眠っている彼は確かに捕虜になったが、それは連合の捕虜じゃない。我がオーブの捕虜だ。この艦には先だって起こったヘリオポリス崩壊に関する情報収集と、この艦の最高責任者に事の次第の説明を聞く為に一時的に着艦したに過ぎない。それに……」
チラリといまだ眠り続ける少年に視線を移す。
「君たちの治療も必要だったしね」
「……よくナチュラルどもが許可を出したな?」
「そりゃ、あちらとしたら、こっちに対して多少は罪悪感もあっただろうからね。まぁ、中にはそうでない人間もいたけど、この艦の艦長さんにちょっとお願いしたら、快くこの医務室と治療に必要な物資を提供してくれたんだよ」
にっこりと笑みを浮かべながら、恐喝をお願いと言い張るシオンに、少年は背中に冷たいものを感じながら、この後、待っているであろう出来事を思い浮かべ、乾いた笑みを浮かべたのだった。
(それって、世間一般的に脅したっていうんじゃ……ラスティ~、早く目を覚ましてくれ~!! 頼む! 俺を一人にしないでくれ!!)
言葉を失っている少年に顔を近づけると、シオンは矢継ぎ早に質問を口にする。
「で? 君の名前は? それと彼の名前は知ってる? 友達?」
「……ミゲル・アイマン。そっちはラスティ・マッケンジー」
中立国とはいえオーブの捕虜となり、敵である連合の戦艦に収容され、命の恩人は裏表のありそうな奴で……現状を理解しつつも、先を考えると気が重くなる。
知らず知らずのうちにミゲルはため息をもらしていた。
「アイマン君とマッケンジー君ね。私のことはシオンと呼んでくれていい。ファミリーネームで呼ばれるのは肩が凝るからね。あぁ、心配しなくていい。これから私の問いに素直に答えてくれたら悪いようにはしないよ? 大丈夫、私は基本的にやさしいから――――」
『基本的に』と強調して、ニヤリと口の端を上げたシオンに答えられる範囲に関してだけは決して逆らうまいと心に固く誓うミゲルだった。
アークエンジェルのブリッジに警報が鳴り響いた。
「大型の熱量感知! 戦艦のエンジンと思われます。距離200……! 目標はかなりの高速で移動。横軸で本艦を追い抜きます! 艦特定。ナスカ級です!」
「読まれてるぞ。先回りしてこっちの頭を抑えるつもりだ!」
ムウが叫んでいる間にもナスカ級艦は近づき、後方にもローラシア級の艦が近づいていた。
「やられたな。このままじゃいずれローラシア級に追いつかれる……逃げようとしてエンジンを使えばナスカ級が転進してくるってことか」
<適艦影発見! 適艦影発見! 第1戦闘配備!>
切迫したアナウンスにシオンは顔を上げた。
「とうとう戦闘になるのか……」
立場上、マリューに自分の力を頼るなと言い切ったものの、キラや保護された民間人を見殺しにはできない。
この艦にもう一機MSさえあればなにか理由をつけて自分も出撃できたのだが、ストライク以外のMSがない以上は仕方がない。
どのような理由があろうとも連合とザフトの戦いにアマテラスを使うことはできないのだから……。
「……キラ君や学生たちは大丈夫かな?」
何気なく呟いた言葉にミゲルが反応する。
「学生って? この艦、民間人が乗ってるのか?!」
「ああ。運悪く連合の機密を目にしてしまったらしくてね。身柄を拘束されてしまったんだ」
戦艦に民間人が乗っている―――その事実に驚愕するミゲルにシオンは苦虫を噛み潰したように答えた。
巻き込まれた彼らのことも気にはなるが、いくら捕虜とはいえ、怪我人を放っておくことはできない。
シオンはキラ達のことを気にしつつも、ミゲルとラスティの看護を優先させようと椅子に座りなおした。
その時、耳に飛び込んできたアナウンスにシオンは我が耳を疑った。
<キラ・ヤマトはブリッジへ。キラ・ヤマトはブリッジへ>
「っ?! 馬鹿な……あれほど彼をMSに乗せるなと釘を刺しておいたのに!! 民間人をMSに乗せるなんて!」
「民間人をMSに!?」
愕然とするミゲルを尻目にシオンはブリッジに向かって走り出した。
「ラミアス艦長!」
「……っ! フィーリア代理っ?!」
鬼のような形相でブリッジに飛び込んできたシオンを見て、マリューは身体を震わせた。
「私はあなたに言っておいたはずだ! 金輪際彼をMSに乗せるなと……っ」
連合の軍服に身を包み、ブリッジに座っているミリアリアたちの姿を目にしたシオンは、自分の怒りゲージが振り切れるのを感じた。
人間、本気で怒ると表情はもとより、声からも感情が消えるものなのか。これまでのシオンの怒りのレベルは今のレベルに比べれば生易しいものだったのだろう。
なまじ容姿が整っているがゆえに、その姿は見る者にとってまさに生ける荒神のように映った。
言葉を失っているマリューやブリッジにいるクルーを無視し、通信機を手にしたシオンはそのまま発進準備中のストライクに繋げた。
「キラ君」
『シオンさん!?』
キラは思いもかけない相手からの通信に目を見張った。
「ラミアス艦長には君をMSに乗せるなと言っておいたのだが……こんなことになってしまってすまない。君を……君たちをこれ以上、戦争に巻き込むような真似だけはしたくなかったのに」
『シオンさん……僕だって本当は戦いたくない。殺したくない。けど……友達が死ぬのはもっと嫌だから。フラガさんに言われたんです。この艦を護れるのは僕とあの人だけだって……力があるのなら出来ることをやれって。だから!!』
「分かった……分かってるから……それ以上、言わなくていい」
『…………』
「……君がそんな思いをしてまでMSに乗ったとういうのに、俺は……」
独り言のように呟くその表情からは、先程までの怒りの色は消えていた。
『シオン……さん?』
「キラ君、必ず生きて帰ってくるんだ。何があっても……だから必ず帰ってくると約束してくれ」
懇願するように声を絞り出すシオンにキラは唯一言『必ず戻ります』と言って通信を切った。
キラとの通信が切れたのを確認すると、シオンはマリューへと向き直って頭を下げた。
「先程の失礼な言動、どうかお許しください。ラミアス艦長」
「そんな……」
シオンの言葉にマリューは複雑な表情を浮かべる。頭を上げ、その彼女を真っ直ぐに見つめたままシオンは言葉を続けた。
「それと、MSの発進許可をいただきたい」
「……えっ?! 発進許可? まさかフィーリア代理、あなた……」
「アマテラスで大天使の護衛を。MSパイロットのシオン・フィーリア個人としてね」
ふわりと笑みを浮かべると、シオンはマリューの回答を待たずに床を蹴り上げてブリッジから格納庫へと移動を始める。すれ違いざまに垣間見えたシオンの横顔は、穏やかでありながらも決意を秘めたものだった。
彼の突然の行動に、一瞬呆気に取られたマリューだったが、迅速に発進準備を指示する。
「アマテラスの発進準備急いで! あ、フィーリア代理! パイロットスーツは……っ」
「大丈夫。ありがとう、ラミアス艦長」
既にエレベーターの中へと滑り込んだシオンの声が、まだ開いていたドアのおかげでブリッジへと響く。その声に、状況の好転を期待したブリッジ内の空気が少し和らいだのを誰もが感じていた。
アマテラスを隠しておいたドックには当然のようにシオンのパイロットスーツも用意されていた。
ヘリオポリス崩壊の際には着用する余裕はなかったが、念の為にと持ち込んだのだ。それが役に立つとは、正直複雑な気分だった。
漆黒に染められたパイロットスーツに着替えたシオンがコックピットに乗り込み、OSを起動した途端、ブリッジから通信が入った。通信画面には心配そうな表情のマリューが映っている。
シオンは画面上のマリューに気を止めることもなく、黙々と計器のチェックに手を滑らせていく。
『本当によろしいのですか?』
――二色に分かれる戦場に、中立国のMSが出撃しても……?
――他国の争いに介入しないと理念を掲げる国の代表代理が、そのMSを駆っても……?
マリューが告げる短い言葉の中に含まれる意味に気づいたシオンは、忙しなく動かしていた視線と手はそのままに、口を開いた。
「私もキラ君と同じように彼らを護りたい。フラガ氏が言うように、力があるのなら出来ることを……それだけです」
調整を終えたシオンは通信画面のマリューへと微笑んだ。「心配ない」と。
『カタパルト接続。アマテラス、スタンバイ』
ミリアリアのアナウンスにより、機体が発進スタンバイの状態になる。あとは発進指示を待つだけだ。スッ、とシオンの表情が鋭いものに変化する。
『システム、オールグリーン。進路クリアー。アマテラス、発進どうぞ!』
「シオン・フィーリア、アマテラス出る!」