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高山×深山

「んん……ん、あ?」
強く揺さぶられて目を覚ます。熱のせいか少しクラクラする頭を抑えながら顔を上げると、不審そうな表情を浮かべた慎吾が目に入った。
「ん……慎吾。おかえり」
「おかえりじゃない。なんで俺の家の前で寝てるんだ」
「今日泊めてくれ」
「泊めろ、って……お前熱があるんじゃないのか? 家にいたほうがいいだろ」
「馬鹿、彼女に伝染るだろ」
俺にはいいのか、と慎吾がため息を吐くのが聞こえた。仕方なさそうに差し伸べられた手をとる。重い体に鞭打って立ち上がると、慎吾が玄関の扉を開けてくれた。



家に入るなり寝室に放り込まれる。「色々準備するから待ってな」という言葉に黙って頷く。
「それにしたってお前、いくら恋人に伝染るからって俺の家に来る必要は無いだろ。実家にでも帰れよ」
「彼女の家くらいしか帰るところないんだよ。というか恋人じゃないし」
「……? 同棲じゃないのか」
「養ってもらってるだけだよ」
「はあ?」
意味がわからないという顔をしながら氷枕を渡してくる。頭の下に敷きつつ「ヒモやってんの」と雑に答えた。
「ヒモってお前……」
「ちょっとした雇用関係みたいなもんだよ。俺は彼女がして欲しいことをやって──家事とか。代わりに俺は食わせてもらって」
「……そういうもんなのか?」
「俺んとこはそう」
氷枕の冷たさが心地いい。ここまで熱が高いってことは、インフルか何かかもしれない──ぼんやり思いながら、少しでも伝染らないようにと思って慎吾に背を向けた。
「早く出ていけよ、伝染るぞ」
「横暴か謙虚かどっちだよ」
「はは……は、げほっ」
軽く笑っただけで咳が止まらない。喉どころか胸に痛みも感じる。
「大丈夫か?」
「ん、いや……ちょっとしんどいな……」
「だったら玄関先で待ってないで連絡してから来ればよかったのに。寒かっただろ」
「あぁ……そうか、そうだな……。頭回ってなかった」
「それは……」
少し考えたあと、慎吾が「わかった」と頷いた。
「明日、病院に連れていくよ。ただ俺も仕事があるから……」
「ご飯炊いておかず作って薬出しててくれたら俺自分でできるよ」
「それ本当に自分でできてるって言えるか?」
「ふふ、冗談。迷惑はかけるつもりはないから……金はあるし」
「彼女から貰った分?」
「ちゃんと手伝いをして貰ったやつだよ」
言うなれば給料だ。少し唇をとがらせながら言うと、慎吾はただ「そうか」と頷いた。
とにかく明日は病院に連れていってくれるらしい。初めて会った時にも思ったけど、やっぱりお人好しなんだろう。
「ごめん」
謝罪すると慎吾は少しだけ笑って、「ゆっくり休め」と部屋を出ていった。

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