もしもゲーチスが良い人だったら
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現代に戻ってきたトウコとセレビィ。
セレビィの光が消え、世界が知っている空気感を取り戻す。
トウコは胸を弾ませていた。
――きっと、未来は変わっている。
あの過去のゲーチスが、少しでも優しい道を歩いていれば。
勢いよく目を開ける。
だけど。
だけど――。
「……えっ……?」
現代に戻ってきて、ライモンシティを見渡して気づく。
プラズマ団は健在だ。変わらず、忙しなく何かをしている印象。
まったく、何一つ変わっていない。
「な、なんで……なんで変わってないの……?」
トウコは胸を押さえた。心臓が苦しい。
あれほど頑張って、話して、戦って、真剣に向き合ったのに。
努力はまるで届いていない。
セレビィがそっと肩に寄り添う。
申し訳なさそうに、小さく鳴いた。
ライモンシティの風が、夕方独特のオレンジ色を運んでいた。
観覧車の影が大きく地面に伸び、その足元でトウコは立ち尽くしていた。
そこへ、足音が近づいてきた。
「……トウコ」
Nだった。
柔らかいがどこか張りつめた声。
トウコがぼんやり振り向くと、Nは微笑んだ。
「おかえり、って言った方がいいのかな」
怪しげで不気味な調子の一言で、トウコは胸が締めつけられた。
Nも……変わっていない。
プラズマ団も、世界も、何ひとつ。
「……変わってないんだね。全部」
ぽつりとこぼれたトウコの声は震えていた。
Nはほんの一瞬、表情を強張らせたが、すぐに微笑んでみせた。
「何がどう変わったのか、ボクには認識できないよ。でも少なくとも、ボクは今も王様。チャンピオンを超える。これで理解できるかい?」
トウコは俯き、眉を寄せた。
「ゲーチスは……?」
「とうさっ……ゲーチスは、ポケモンを道具として扱っているプラズマ団の権力者だ」
「っ……じゃあ……私が過去に行っても無意味なの?」
その問いは、ほとんど泣き声だった。
Nは静かに首を横に振り、観覧車の方へ視線を向けた。
「一概に無駄ってわけじゃない。そういう話って、少しイメージしにくいよね」
トウコは黙って頷いた。
Nはゆっくりと言葉を選びながら続けた。
「たとえば……観覧車が2基あるとする。観覧車Aと、観覧車B。トウコが元々乗っていたのは、観覧車Aだ」
淡い風がふたりの間を抜けていく。
「でも、セレビィと一緒に乗ったのは観覧車B。だからそこで起きたことは、観覧車Bの軌道上での出来事なんだ」
「じゃあ……戻ってきた私は?」
「トウコは観覧車Aに戻ってきた。だから、AとBはそれぞれ別々に動き続ける。互いの軌道が干渉するはずがないよね」
トウコの喉がひくりと震えた。
「……ゲーチスとの思い出は全部、別の観覧車に置いてきちゃったってこと?」
Nは悲しげに目を伏せた。
「置いてきた、というより……動き続けているという表現が正しいかな。トウコが変えたのは、あくまで観覧車Bの世界。だから、観覧車Aは何も変わらない」
しばらく沈黙が流れた。
トウコは唇を噛みしめ、観覧車のゴンドラを見つめた。
「……別の世界線……そんな……」
セレビィの時渡りは、ただ時間を遡るのではなく“別の世界の過去へ飛ぶ力”だった。
そのため、トウコが何をどうしようと、どれだけ別の世界のゲーチスを正そうと、帰ってくるのは元の世界。
そう、この世界線のゲーチスは、一切変わらない。
トウコの思考が、ゆっくり歪んでいく。
あの過去のゲーチスは、確かに考えを変えてくれたはず。
未来のことまで話して、反面教師にして、ってお願いした。
少なくともあの時約束してくれたゲーチスに嘘偽りはなかった。
なのにここは――変わらない世界。
「そんな……っ!」
溢れる悔しさに、膝が震えた。
「あんなに話したのに……なんで変わらないの……!」
セレビィが寄り添う。
でも、その小さな温度は優しいのに残酷だった。
――自分は、誰も救えていないの?
胸の奥がきしむ。涙が滲む。
トウコは唇を噛みしめた。
(……でも。少なくともあの世界線のゲーチスには、わたしの言葉、ちゃんと届いてた……気がする)
その記憶だけが、今のトウコを支えていた。
しかし――
自分が救いたかった“この世界のゲーチス”は、変わらない。その絶望が、トウコの心に重くのしかかっていった。
「……やめるのかい?時わたり」
「……ううん。一概に無駄な訳じゃないんでしょ……?」
「ボクはそう思ってる。キミもそう判断するのなら……ボクからは何も言わないよ」
セレビィの光が消え、世界が知っている空気感を取り戻す。
トウコは胸を弾ませていた。
――きっと、未来は変わっている。
あの過去のゲーチスが、少しでも優しい道を歩いていれば。
勢いよく目を開ける。
だけど。
だけど――。
「……えっ……?」
現代に戻ってきて、ライモンシティを見渡して気づく。
プラズマ団は健在だ。変わらず、忙しなく何かをしている印象。
まったく、何一つ変わっていない。
「な、なんで……なんで変わってないの……?」
トウコは胸を押さえた。心臓が苦しい。
あれほど頑張って、話して、戦って、真剣に向き合ったのに。
努力はまるで届いていない。
セレビィがそっと肩に寄り添う。
申し訳なさそうに、小さく鳴いた。
ライモンシティの風が、夕方独特のオレンジ色を運んでいた。
観覧車の影が大きく地面に伸び、その足元でトウコは立ち尽くしていた。
そこへ、足音が近づいてきた。
「……トウコ」
Nだった。
柔らかいがどこか張りつめた声。
トウコがぼんやり振り向くと、Nは微笑んだ。
「おかえり、って言った方がいいのかな」
怪しげで不気味な調子の一言で、トウコは胸が締めつけられた。
Nも……変わっていない。
プラズマ団も、世界も、何ひとつ。
「……変わってないんだね。全部」
ぽつりとこぼれたトウコの声は震えていた。
Nはほんの一瞬、表情を強張らせたが、すぐに微笑んでみせた。
「何がどう変わったのか、ボクには認識できないよ。でも少なくとも、ボクは今も王様。チャンピオンを超える。これで理解できるかい?」
トウコは俯き、眉を寄せた。
「ゲーチスは……?」
「とうさっ……ゲーチスは、ポケモンを道具として扱っているプラズマ団の権力者だ」
「っ……じゃあ……私が過去に行っても無意味なの?」
その問いは、ほとんど泣き声だった。
Nは静かに首を横に振り、観覧車の方へ視線を向けた。
「一概に無駄ってわけじゃない。そういう話って、少しイメージしにくいよね」
トウコは黙って頷いた。
Nはゆっくりと言葉を選びながら続けた。
「たとえば……観覧車が2基あるとする。観覧車Aと、観覧車B。トウコが元々乗っていたのは、観覧車Aだ」
淡い風がふたりの間を抜けていく。
「でも、セレビィと一緒に乗ったのは観覧車B。だからそこで起きたことは、観覧車Bの軌道上での出来事なんだ」
「じゃあ……戻ってきた私は?」
「トウコは観覧車Aに戻ってきた。だから、AとBはそれぞれ別々に動き続ける。互いの軌道が干渉するはずがないよね」
トウコの喉がひくりと震えた。
「……ゲーチスとの思い出は全部、別の観覧車に置いてきちゃったってこと?」
Nは悲しげに目を伏せた。
「置いてきた、というより……動き続けているという表現が正しいかな。トウコが変えたのは、あくまで観覧車Bの世界。だから、観覧車Aは何も変わらない」
しばらく沈黙が流れた。
トウコは唇を噛みしめ、観覧車のゴンドラを見つめた。
「……別の世界線……そんな……」
セレビィの時渡りは、ただ時間を遡るのではなく“別の世界の過去へ飛ぶ力”だった。
そのため、トウコが何をどうしようと、どれだけ別の世界のゲーチスを正そうと、帰ってくるのは元の世界。
そう、この世界線のゲーチスは、一切変わらない。
トウコの思考が、ゆっくり歪んでいく。
あの過去のゲーチスは、確かに考えを変えてくれたはず。
未来のことまで話して、反面教師にして、ってお願いした。
少なくともあの時約束してくれたゲーチスに嘘偽りはなかった。
なのにここは――変わらない世界。
「そんな……っ!」
溢れる悔しさに、膝が震えた。
「あんなに話したのに……なんで変わらないの……!」
セレビィが寄り添う。
でも、その小さな温度は優しいのに残酷だった。
――自分は、誰も救えていないの?
胸の奥がきしむ。涙が滲む。
トウコは唇を噛みしめた。
(……でも。少なくともあの世界線のゲーチスには、わたしの言葉、ちゃんと届いてた……気がする)
その記憶だけが、今のトウコを支えていた。
しかし――
自分が救いたかった“この世界のゲーチス”は、変わらない。その絶望が、トウコの心に重くのしかかっていった。
「……やめるのかい?時わたり」
「……ううん。一概に無駄な訳じゃないんでしょ……?」
「ボクはそう思ってる。キミもそう判断するのなら……ボクからは何も言わないよ」