もしもゲーチスが良い人だったら
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荒れた地面に砂煙が広がり、ゲーチスは呼吸を乱しながら立ち尽くしていた。
彼のポケモンたちは全員ひんし状態、もう戦える子はいない。
対するトウコのポケモンたちは、傷を負いながらも誇らしげに主を囲んでいる。
「……勝負あったよ。ゲーチス」
トウコの声は強いが、勝ち誇った色は一切なかった。
ゲーチスは唇を震わせた。
「バカな……!? ボクが……こんな年下の女に……!」
苛立ちが胸を引き裂くようだった。
彼にとって、敗北は何より許せないものだ。
「ボクはこんな身体に生まれながら……必死に求めてきたのです……! ボクが負けることなど……あっていいはずが……!」
右半身は重く、痛む。
走れず、掴めず、守れず。
その不自由さが、彼の野望の根になっていた。
しかしトウコは、そっと頭を振った。
「年下とか、女とか、そんなの関係ない。わたしだって負けたことはあるよ」
ゲーチスは顔を上げる。
その瞳には、理解できない感情が宿っていた。
トウコは優しい手つきで、自分のポケモンに触れる。
「今日わたしが勝てたのは、この子たちが協力してくれたから。わたし一人じゃ絶対に無理だった……」
「……協力……?」
「ポケモンは道具なんかじゃない。まして独占するものでもないよ!」
その言葉に、ゲーチスの表情が僅かに歪んだ。
「……綺麗事を」
吐き捨てるような言葉。ほんの少しだけ震えていた。
「誰もが……!そんなふうに思えるほど、恵まれているわけではないのです!」
自分でも気付いていないのだろう。
その告白には、悔しさだけではなく、微かな寂しさが滲んでいた。
トウコは、彼の頑なな部分を責めることはしなかった。
「そっか……そうだったんだね」
淡々と、でも温かく。
否定も押し付けもせず、ただ受け止める声音。
ゲーチスは眉をひそめる。
理解不能、というより、理解したくないとでも言いたげだ。
「……確かにボクは負けた……が!アナタの言葉が正しいとは思えない……!」
「そうだね……わたしは……今のあなたに価値観を押し付ける必要はないかもしれない」
あっさりと言われ、ゲーチスは僅かにたじろいだ。
反論の隙を与えてこない“寛容”というものを、どう扱えばいいか分からない。
「でもわたしは知ってる。ポケモンにちゃんと向き合えば、すごい力を返してくれるって」
トウコは自分のポケモンをそっと抱き寄せた。
その仕草には、信頼と愛情があふれている。
ゲーチスはその様子を睨むように観察し――そして、心のどこかが、わずかにきしむのを感じた。
そんなはずはない、と即座に否定したかった。
だが、さきほど味わった敗北が、その反論を鈍らせる。
「……ボクは、信じるつもりはないのですよ」
やっと絞り出した声は、以前より少しだけ静かだった。
トウコはただ、微笑む。
その笑顔がまた、彼の警戒心を刺激する。
「でもさ、今日みたいに一緒にバトルしてみたら……何か分かるかもしれないって思ったの」
「……何か?」
「うん。勝ち負け以外の何か……わたしが負けた日にも、確かにあったから」
ゲーチスは言葉を失った。
バトルに負けて得るものがあるなど、彼の世界には存在しない考えだった。
だが――
トウコの言葉は、ゆっくりと、彼の胸に沈んでいく。
完全な共感でも、同意でもない。
ただ、否定しきれない“違和感”として。
それは、ほんのわずかでも彼を変える“最初のゆらぎ”だった。
「……ボクは、そんな考えには……」
「今はまだ、それでいいよ。今のゲーチスにはまだ、色んな選択肢があるから……!」
その言葉に、彼はまた苛立ちそうになった。
だが、なぜか怒りが強く湧いてこない。
ゲーチスは胸の奥で生まれつつある違和感を、必死に押し戻しながらも――完全には消せなかった。
「……また来るね、ゲーチス」
・・・
それからトウコはしばらくの間、過去のゲーチスの元を訪れることにした。
過去のゲーチスからすれば、いつ現れるか分からない相手。
しかし、トウコからすれば過去のゲーチスと会って、またその数日後のゲーチスに会う、連続的なものに過ぎない。
いつしか過去のゲーチスは、時折現れるトウコを、本当に少しずつだが、なんやかんやで話を聞く程度になっていった。
「……未来の娘が、またボクに何の用ですか……」
自分と然程歳は変わりないのに……とトウコは思った。
怯まず、むしろ前に進み出る。
愚直ともいえるその真っすぐさに怪訝な表情を浮かべるゲーチス。
「ゲーチス、右半身……少し動くようになったって言ってたよね?歩くのは大丈夫?」
「問題はありません。哀れみに来たのですか?」
トウコはゲーチスの向かいの切り株に徐に座る。
「まあ、今日は普通にお話でもしようかなって」
「……は?」
ゲーチスは思わず間抜けな声が口から漏れた。
「たまには気分転換も大事だよ」
「……理解できませんね。ボクに時間を割くなど」
だがトウコの視線はどこか優しく、押しつけがましくもなく、ただここに居るという当たり前の態度だ。
その当たり前が、ゲーチスにはあまりにも遠い。
トウコの視線が逸れ、ゲーチスの近くで浮いているデスマスへ向いた。
「ゲーチス、デスマスって昔は人間だったって知ってる?図鑑だと、このお面は生前の顔で……」
「……道具にボクが興味を持つとでも?」
口ではそう言っているが、トウコは気づいた。
ゲーチスが一度も視線を逸らさずに話を聞いていることを。
「でも、デスマスと一緒にいる人って優しい人が多い気がする。悲しい気持ちを分かってあげられるというか……」
「……ボクがそうだと?」
「どうでしょうね?」
くすりと笑ったトウコの眼差しは、未来を変えたいという願望を背負いながらなお、どこか痛ましい。
ゲーチスは呆れを通り越していた。トウコは自身の未来を変えようと必死なのだ。
その事実が、ゲーチスをどうしようもなく落ち着かなくさせる。
そんなゲーチスの傍らにもう一匹、ひょい、と小さな黒い影が姿を現した。モノズだ。
「あ、モノズはね、進化がすっごく遅いんだけど……そのぶん強くて、ドラゴンタイプの中でも本当に優秀なの!」
私が説明すると、ゲーチスは興味深そうにモノズへと視線を落とした。
未来のゲーチスはポケモンをただの“道具”として扱っている。
愛情ではなく支配。絆ではなく命令。
……でも以前の私とのバトルから、ポケモンに対する対応は、少し変わったようだった。
「覚えるわざも強いものが多くて……あ!でも、やつあたりなんて覚えさせちゃダメだよ」
しまった、と思ったときにはもう遅かった。
ゲーチスさんの口元が、ゆっくりと、愉快そうに歪んだ。
「やつあたり……?ほう。それはどのような技なのですか?」
「……トレーナーと絆が低いほど威力が上がるわざ……だから、あんまり使ってほしくない」
「それは興味深い……」
「か、かわいそうなわざなんだから、絶対にやめたげてよね!」
わたわたしているトウコを見て、ゲーチスはふと、聞いてみた。
「折角です。未来の娘。未来のボクがどうなっているか、説明していただけませんか?」
「……それは……」
言えるわけがない。だって、彼は――
「セレビィをお預かりしましょう」
「……っ!?」
いつの間にか、ゲーチスの左手には、木陰からひょっこり顔を出していたセレビィが捕まっていた。
もちろん傷つける気はない…そういう握り方だった。
だけど、捕らえられているという事実が胸に刺さる。
「返してほしければ話すことですね。別に危害を加えるつもりはありませんよ。アナタが口を閉ざさなければ」
「ずるい……!」
「お褒めに預かり光栄です」
ニコリと、悪意とも余裕ともつかない微笑み。
私は唇を噛んだ。
でも、セレビィを危険に晒すわけにはいかない。
「……わかったよ。言うから……放してあげて」
「それは未来のボク次第ですが、さあ、どうぞ」
解放されたセレビィは私の腕に飛び込んできた。
その温もりを抱きしめながら、私は覚悟を固める。
話すしかない――彼の未来を。
「一応、記録しておきましょうかね。紙とペンを」
彼は今……未来の自分に興味を抱いてくれている。
「……うん。わかった」
トウコはバッグからレポート用の紙を数枚とペンを取り出し、そっと差し出した。
ゲーチスはそれを受け取ると、一瞬だけ目を伏せる。
右手ではなく、左手でペンを握る姿勢──ペン先が紙に触れた瞬間、震えた。
おそらく元は右利きなのだろう。それでもゲーチスは今、左手で無理やり書こうとしている。
「無理しないで、わたしが書くから──」
「不要です」
ゲーチスはぴしゃりと遮った。
その固い声音に、トウコは何も返せなかった。
変わるかどうかは、この人の意思次第──その言葉を、トウコは良い方向に信じることにした。
「えっと、何から話せばいいか……まず、Nのことからかな……ゲーチスの息子、みたいな存在の人」
「息子……?」
未来のことを話して、もしかしたら、そうならないように努めてくれると嬉しい。
そんな淡い期待を込めて話し出す。
「血は繋がってないんだってさ」
「……ふむ。それで?」
冷静に見えて、その奥には自分が未来でどう在るのかを必死に追う焦りがあった。
「あなたの育て方に、すごく……影響されたんだと思う」
静かに、ゲーチスの瞳が細められた。
「ねえゲーチス……お願いだから、わたしが言ったようにならないよう、反面教師として考えてよね……!」
「ボク次第だと言っているのです。続けなさい。未来の娘」
「……じゃあ、言葉で肯定しなくて良いよ。でも、約束だからね!」
「……」
私はNから聞いたゲーチスのことも、プラズマ団のことも、そしてゲーチスが未来で辿った道も……
少しずつ、丁寧に語り始めた。
紙に残る震えた文字が、過去のゲーチスの切実さを示すようにゆっくりと増えていく。
トウコは、その一文字一文字がどうか未来の彼を救いますように、と願った。
セレビィが、心配そうに私の腕をぎゅっと掴んだ。
彼のポケモンたちは全員ひんし状態、もう戦える子はいない。
対するトウコのポケモンたちは、傷を負いながらも誇らしげに主を囲んでいる。
「……勝負あったよ。ゲーチス」
トウコの声は強いが、勝ち誇った色は一切なかった。
ゲーチスは唇を震わせた。
「バカな……!? ボクが……こんな年下の女に……!」
苛立ちが胸を引き裂くようだった。
彼にとって、敗北は何より許せないものだ。
「ボクはこんな身体に生まれながら……必死に求めてきたのです……! ボクが負けることなど……あっていいはずが……!」
右半身は重く、痛む。
走れず、掴めず、守れず。
その不自由さが、彼の野望の根になっていた。
しかしトウコは、そっと頭を振った。
「年下とか、女とか、そんなの関係ない。わたしだって負けたことはあるよ」
ゲーチスは顔を上げる。
その瞳には、理解できない感情が宿っていた。
トウコは優しい手つきで、自分のポケモンに触れる。
「今日わたしが勝てたのは、この子たちが協力してくれたから。わたし一人じゃ絶対に無理だった……」
「……協力……?」
「ポケモンは道具なんかじゃない。まして独占するものでもないよ!」
その言葉に、ゲーチスの表情が僅かに歪んだ。
「……綺麗事を」
吐き捨てるような言葉。ほんの少しだけ震えていた。
「誰もが……!そんなふうに思えるほど、恵まれているわけではないのです!」
自分でも気付いていないのだろう。
その告白には、悔しさだけではなく、微かな寂しさが滲んでいた。
トウコは、彼の頑なな部分を責めることはしなかった。
「そっか……そうだったんだね」
淡々と、でも温かく。
否定も押し付けもせず、ただ受け止める声音。
ゲーチスは眉をひそめる。
理解不能、というより、理解したくないとでも言いたげだ。
「……確かにボクは負けた……が!アナタの言葉が正しいとは思えない……!」
「そうだね……わたしは……今のあなたに価値観を押し付ける必要はないかもしれない」
あっさりと言われ、ゲーチスは僅かにたじろいだ。
反論の隙を与えてこない“寛容”というものを、どう扱えばいいか分からない。
「でもわたしは知ってる。ポケモンにちゃんと向き合えば、すごい力を返してくれるって」
トウコは自分のポケモンをそっと抱き寄せた。
その仕草には、信頼と愛情があふれている。
ゲーチスはその様子を睨むように観察し――そして、心のどこかが、わずかにきしむのを感じた。
そんなはずはない、と即座に否定したかった。
だが、さきほど味わった敗北が、その反論を鈍らせる。
「……ボクは、信じるつもりはないのですよ」
やっと絞り出した声は、以前より少しだけ静かだった。
トウコはただ、微笑む。
その笑顔がまた、彼の警戒心を刺激する。
「でもさ、今日みたいに一緒にバトルしてみたら……何か分かるかもしれないって思ったの」
「……何か?」
「うん。勝ち負け以外の何か……わたしが負けた日にも、確かにあったから」
ゲーチスは言葉を失った。
バトルに負けて得るものがあるなど、彼の世界には存在しない考えだった。
だが――
トウコの言葉は、ゆっくりと、彼の胸に沈んでいく。
完全な共感でも、同意でもない。
ただ、否定しきれない“違和感”として。
それは、ほんのわずかでも彼を変える“最初のゆらぎ”だった。
「……ボクは、そんな考えには……」
「今はまだ、それでいいよ。今のゲーチスにはまだ、色んな選択肢があるから……!」
その言葉に、彼はまた苛立ちそうになった。
だが、なぜか怒りが強く湧いてこない。
ゲーチスは胸の奥で生まれつつある違和感を、必死に押し戻しながらも――完全には消せなかった。
「……また来るね、ゲーチス」
・・・
それからトウコはしばらくの間、過去のゲーチスの元を訪れることにした。
過去のゲーチスからすれば、いつ現れるか分からない相手。
しかし、トウコからすれば過去のゲーチスと会って、またその数日後のゲーチスに会う、連続的なものに過ぎない。
いつしか過去のゲーチスは、時折現れるトウコを、本当に少しずつだが、なんやかんやで話を聞く程度になっていった。
「……未来の娘が、またボクに何の用ですか……」
自分と然程歳は変わりないのに……とトウコは思った。
怯まず、むしろ前に進み出る。
愚直ともいえるその真っすぐさに怪訝な表情を浮かべるゲーチス。
「ゲーチス、右半身……少し動くようになったって言ってたよね?歩くのは大丈夫?」
「問題はありません。哀れみに来たのですか?」
トウコはゲーチスの向かいの切り株に徐に座る。
「まあ、今日は普通にお話でもしようかなって」
「……は?」
ゲーチスは思わず間抜けな声が口から漏れた。
「たまには気分転換も大事だよ」
「……理解できませんね。ボクに時間を割くなど」
だがトウコの視線はどこか優しく、押しつけがましくもなく、ただここに居るという当たり前の態度だ。
その当たり前が、ゲーチスにはあまりにも遠い。
トウコの視線が逸れ、ゲーチスの近くで浮いているデスマスへ向いた。
「ゲーチス、デスマスって昔は人間だったって知ってる?図鑑だと、このお面は生前の顔で……」
「……道具にボクが興味を持つとでも?」
口ではそう言っているが、トウコは気づいた。
ゲーチスが一度も視線を逸らさずに話を聞いていることを。
「でも、デスマスと一緒にいる人って優しい人が多い気がする。悲しい気持ちを分かってあげられるというか……」
「……ボクがそうだと?」
「どうでしょうね?」
くすりと笑ったトウコの眼差しは、未来を変えたいという願望を背負いながらなお、どこか痛ましい。
ゲーチスは呆れを通り越していた。トウコは自身の未来を変えようと必死なのだ。
その事実が、ゲーチスをどうしようもなく落ち着かなくさせる。
そんなゲーチスの傍らにもう一匹、ひょい、と小さな黒い影が姿を現した。モノズだ。
「あ、モノズはね、進化がすっごく遅いんだけど……そのぶん強くて、ドラゴンタイプの中でも本当に優秀なの!」
私が説明すると、ゲーチスは興味深そうにモノズへと視線を落とした。
未来のゲーチスはポケモンをただの“道具”として扱っている。
愛情ではなく支配。絆ではなく命令。
……でも以前の私とのバトルから、ポケモンに対する対応は、少し変わったようだった。
「覚えるわざも強いものが多くて……あ!でも、やつあたりなんて覚えさせちゃダメだよ」
しまった、と思ったときにはもう遅かった。
ゲーチスさんの口元が、ゆっくりと、愉快そうに歪んだ。
「やつあたり……?ほう。それはどのような技なのですか?」
「……トレーナーと絆が低いほど威力が上がるわざ……だから、あんまり使ってほしくない」
「それは興味深い……」
「か、かわいそうなわざなんだから、絶対にやめたげてよね!」
わたわたしているトウコを見て、ゲーチスはふと、聞いてみた。
「折角です。未来の娘。未来のボクがどうなっているか、説明していただけませんか?」
「……それは……」
言えるわけがない。だって、彼は――
「セレビィをお預かりしましょう」
「……っ!?」
いつの間にか、ゲーチスの左手には、木陰からひょっこり顔を出していたセレビィが捕まっていた。
もちろん傷つける気はない…そういう握り方だった。
だけど、捕らえられているという事実が胸に刺さる。
「返してほしければ話すことですね。別に危害を加えるつもりはありませんよ。アナタが口を閉ざさなければ」
「ずるい……!」
「お褒めに預かり光栄です」
ニコリと、悪意とも余裕ともつかない微笑み。
私は唇を噛んだ。
でも、セレビィを危険に晒すわけにはいかない。
「……わかったよ。言うから……放してあげて」
「それは未来のボク次第ですが、さあ、どうぞ」
解放されたセレビィは私の腕に飛び込んできた。
その温もりを抱きしめながら、私は覚悟を固める。
話すしかない――彼の未来を。
「一応、記録しておきましょうかね。紙とペンを」
彼は今……未来の自分に興味を抱いてくれている。
「……うん。わかった」
トウコはバッグからレポート用の紙を数枚とペンを取り出し、そっと差し出した。
ゲーチスはそれを受け取ると、一瞬だけ目を伏せる。
右手ではなく、左手でペンを握る姿勢──ペン先が紙に触れた瞬間、震えた。
おそらく元は右利きなのだろう。それでもゲーチスは今、左手で無理やり書こうとしている。
「無理しないで、わたしが書くから──」
「不要です」
ゲーチスはぴしゃりと遮った。
その固い声音に、トウコは何も返せなかった。
変わるかどうかは、この人の意思次第──その言葉を、トウコは良い方向に信じることにした。
「えっと、何から話せばいいか……まず、Nのことからかな……ゲーチスの息子、みたいな存在の人」
「息子……?」
未来のことを話して、もしかしたら、そうならないように努めてくれると嬉しい。
そんな淡い期待を込めて話し出す。
「血は繋がってないんだってさ」
「……ふむ。それで?」
冷静に見えて、その奥には自分が未来でどう在るのかを必死に追う焦りがあった。
「あなたの育て方に、すごく……影響されたんだと思う」
静かに、ゲーチスの瞳が細められた。
「ねえゲーチス……お願いだから、わたしが言ったようにならないよう、反面教師として考えてよね……!」
「ボク次第だと言っているのです。続けなさい。未来の娘」
「……じゃあ、言葉で肯定しなくて良いよ。でも、約束だからね!」
「……」
私はNから聞いたゲーチスのことも、プラズマ団のことも、そしてゲーチスが未来で辿った道も……
少しずつ、丁寧に語り始めた。
紙に残る震えた文字が、過去のゲーチスの切実さを示すようにゆっくりと増えていく。
トウコは、その一文字一文字がどうか未来の彼を救いますように、と願った。
セレビィが、心配そうに私の腕をぎゅっと掴んだ。