もしもゲーチスが良い人だったら
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ときわたりポケモンのセレビィ。
トウコはこの子と、運命的な出会いをした。
どこから来たかは検討がつかない。
でも、何故かトウコに懐いていた。
過去や未来に、一緒にタイムトラベルができるポケモン。
それを知ったトウコは、あることを思いつく。
今のイッシュ地方は、プラズマ団が暗躍している。
ポケモンを人間の支配より解放しなければならない。
そんな思想に囚われ、陰でトレーナーからポケモンを巻き上げている悪の組織だ。
その根幹にいる人の考えが変われば、今のイッシュも落ち着くはず。
Nがプラズマ団の王……なら、過去の彼に会って話せば何か変わるかもしれない。
「お願い、セレビィ……」
時代を行き来する際に、座標に建物があると思うと少し怖い。
セレビィならそれぐらい考慮してくれるだろうが、念の為ヤグルマの森の奥地でセレビィに頼んだ。
セレビィはそれに応えてくれた。
トウコたちは光に包まれ、眩しさで目を閉じ――
・・・
セレビィの光がほどけた瞬間、空気感がふっと変わったのを実感する。
見渡せば、見慣れた静かな森とは違う、まるで異世界に来たかのような感覚に苛まれる。
「ここが……過去のイッシュ……のヤグルマの森?」
セレビィはまるで答えるかのように小さく鳴き、トウコの肩に寄り添った。
風がやけに澄んでいて、時間そのものがひとつ深呼吸したようだった。
そんな時、木陰の向こうから、乾いた杖の音がした。
乾いた茂みにコツ、コツ、と不規則に響く音が、どこか痛々しい。
「……?」
気になって覗き込むと、少年がひとり。
年の頃はトウコより少し上くらいだろうか。
ただ、身長はかなり高い。
Nと似たような緑色の髪をしているが、明らかにNではない。
トウコは横で浮いてるセレビィを不安げに横目で見るが、セレビィはじっとこちらを見るだけだ。
視線をその人に戻し、まじまじと姿を観察する。
その人の身体はあまりにも弱々しい。
右目と右腕に厚い包帯。
右脚を庇いながら松葉杖をつく姿は、痛みが染みついているようだった。
「大丈夫……?」
思わず駆け寄ると、その人はビクリと肩を揺らした。
鋭い片目が鋭く光り、まるで敵を見るような視線を向けてくる。
「……誰ですかアナタ。ボクに触らないでください」
「えっ……あ、ごめん。でも怪我してるみたいだから……」
「見れば分かるでしょう」
最後の言葉だけ小さく震えていた。
強がりなのが、すぐにわかる。
でもこの人…どこかで…?
「無理しないほうがいいよ。手、貸すから」
その人は無言でそっぽを向き、松葉杖をつき直した。
けれど一歩踏み出した瞬間、痛みが走ったのか体がガクンと傾く。
「っ!」
「危ないっ!」
反射的に彼の腕を支える。
驚いたようにその人が見上げてくる。瞳の奥には、怯えと悔しさと、ほんの少しの安堵が混ざっていた。
「……何故助けるのです」
「助けるのに、理由なんていらないよ」
「意味がわかりません。誰もそんなことしませんよ」
その言葉を聞いた瞬間、その人のことが放っておけなくなってしまった。
「……じゃあ、今日からはわたしがするね。歩く練習。ゆっくりでいいから!」
その人は、しばらく黙ってこちらを見つめていた。
拒絶とも警戒ともつかない沈黙。
けれど、その目の奥には、どこか疲れと戸惑いが揺れている気がした。
やがて彼はふっと視線を落とす。
ほんのわずかに肩の力が抜けたような仕草で。
「……勝手にすればいいです」
その声音は冷たかったはずなのに、不思議と棘を感じなかった。
むしろ、どうすればいいのか分からない不器用さが滲んでいて、トウコは思わず笑みを漏らす。
歩き出した彼は、足元がおぼつかず、何度も小さくよろめいた。
そのたびに悔しげに眉間にしわが寄る。誇りが強い人なのだと分かった。
「……痛い?」
思わず声をかけると、彼はむっとしたように口を引き結ぶ。
「痛さの範疇に入りません……!」
「無理しなくていいんだよ」
「ボクは、人に支えられるほど弱くはないのです……!」
その呟きは、先ほどまでの反抗とは違い、静かで、大人びていて。
誰かに守られることを恐れるような響きがあった。
「……わたしだって弱い時はある。でも、弱いからって誰かに支えられるのは、悪いことじゃないよ」
彼は何も言い返さなかった。
ただ、ほんの一瞬だけ、足を踏み出す動きが和らいだ気がした。
少し歩いたところで、トウコは勇気を出して口を開く。
「そうだ!名前、聞いていい?私はトウコ」
彼はゆっくりとトウコの方を向いた。
その瞳には、まだ警戒心が残っている。しかし不思議と逃げようとはしない。
「……ボクの名はゲーチスです。ハルモニア家のゲーチス」
「!!」
この人…カラクサで演説し、ヒウンでベルのムンちゃんを返していた…ゲーチス?
ということはプラズマ団の偉い人…ということになる。
(……もしかして、セレビィがわたしをこの人の元に連れてきたのは、Nよりもこの人を説得した方が良いから…?)
森の中にひっそりと佇む木屋の前まで、トウコは過去のゲーチスを見守りながらついていった。
やがて木屋に入るのを見届け、トウコは和やかに笑みを浮かべる。
「……ゲーチス、また来るよ。絶対に」
「……アナタ、先程会ったばかりなのに随分と馴れ馴れしいですね。必要ありません」
強がりで、真っ直ぐに感情をむき出しにするゲーチス。
でも……必ずこの人を改心させてみせる。
そうすればきっと、現代が変わるはず。
トウコはこの子と、運命的な出会いをした。
どこから来たかは検討がつかない。
でも、何故かトウコに懐いていた。
過去や未来に、一緒にタイムトラベルができるポケモン。
それを知ったトウコは、あることを思いつく。
今のイッシュ地方は、プラズマ団が暗躍している。
ポケモンを人間の支配より解放しなければならない。
そんな思想に囚われ、陰でトレーナーからポケモンを巻き上げている悪の組織だ。
その根幹にいる人の考えが変われば、今のイッシュも落ち着くはず。
Nがプラズマ団の王……なら、過去の彼に会って話せば何か変わるかもしれない。
「お願い、セレビィ……」
時代を行き来する際に、座標に建物があると思うと少し怖い。
セレビィならそれぐらい考慮してくれるだろうが、念の為ヤグルマの森の奥地でセレビィに頼んだ。
セレビィはそれに応えてくれた。
トウコたちは光に包まれ、眩しさで目を閉じ――
・・・
セレビィの光がほどけた瞬間、空気感がふっと変わったのを実感する。
見渡せば、見慣れた静かな森とは違う、まるで異世界に来たかのような感覚に苛まれる。
「ここが……過去のイッシュ……のヤグルマの森?」
セレビィはまるで答えるかのように小さく鳴き、トウコの肩に寄り添った。
風がやけに澄んでいて、時間そのものがひとつ深呼吸したようだった。
そんな時、木陰の向こうから、乾いた杖の音がした。
乾いた茂みにコツ、コツ、と不規則に響く音が、どこか痛々しい。
「……?」
気になって覗き込むと、少年がひとり。
年の頃はトウコより少し上くらいだろうか。
ただ、身長はかなり高い。
Nと似たような緑色の髪をしているが、明らかにNではない。
トウコは横で浮いてるセレビィを不安げに横目で見るが、セレビィはじっとこちらを見るだけだ。
視線をその人に戻し、まじまじと姿を観察する。
その人の身体はあまりにも弱々しい。
右目と右腕に厚い包帯。
右脚を庇いながら松葉杖をつく姿は、痛みが染みついているようだった。
「大丈夫……?」
思わず駆け寄ると、その人はビクリと肩を揺らした。
鋭い片目が鋭く光り、まるで敵を見るような視線を向けてくる。
「……誰ですかアナタ。ボクに触らないでください」
「えっ……あ、ごめん。でも怪我してるみたいだから……」
「見れば分かるでしょう」
最後の言葉だけ小さく震えていた。
強がりなのが、すぐにわかる。
でもこの人…どこかで…?
「無理しないほうがいいよ。手、貸すから」
その人は無言でそっぽを向き、松葉杖をつき直した。
けれど一歩踏み出した瞬間、痛みが走ったのか体がガクンと傾く。
「っ!」
「危ないっ!」
反射的に彼の腕を支える。
驚いたようにその人が見上げてくる。瞳の奥には、怯えと悔しさと、ほんの少しの安堵が混ざっていた。
「……何故助けるのです」
「助けるのに、理由なんていらないよ」
「意味がわかりません。誰もそんなことしませんよ」
その言葉を聞いた瞬間、その人のことが放っておけなくなってしまった。
「……じゃあ、今日からはわたしがするね。歩く練習。ゆっくりでいいから!」
その人は、しばらく黙ってこちらを見つめていた。
拒絶とも警戒ともつかない沈黙。
けれど、その目の奥には、どこか疲れと戸惑いが揺れている気がした。
やがて彼はふっと視線を落とす。
ほんのわずかに肩の力が抜けたような仕草で。
「……勝手にすればいいです」
その声音は冷たかったはずなのに、不思議と棘を感じなかった。
むしろ、どうすればいいのか分からない不器用さが滲んでいて、トウコは思わず笑みを漏らす。
歩き出した彼は、足元がおぼつかず、何度も小さくよろめいた。
そのたびに悔しげに眉間にしわが寄る。誇りが強い人なのだと分かった。
「……痛い?」
思わず声をかけると、彼はむっとしたように口を引き結ぶ。
「痛さの範疇に入りません……!」
「無理しなくていいんだよ」
「ボクは、人に支えられるほど弱くはないのです……!」
その呟きは、先ほどまでの反抗とは違い、静かで、大人びていて。
誰かに守られることを恐れるような響きがあった。
「……わたしだって弱い時はある。でも、弱いからって誰かに支えられるのは、悪いことじゃないよ」
彼は何も言い返さなかった。
ただ、ほんの一瞬だけ、足を踏み出す動きが和らいだ気がした。
少し歩いたところで、トウコは勇気を出して口を開く。
「そうだ!名前、聞いていい?私はトウコ」
彼はゆっくりとトウコの方を向いた。
その瞳には、まだ警戒心が残っている。しかし不思議と逃げようとはしない。
「……ボクの名はゲーチスです。ハルモニア家のゲーチス」
「!!」
この人…カラクサで演説し、ヒウンでベルのムンちゃんを返していた…ゲーチス?
ということはプラズマ団の偉い人…ということになる。
(……もしかして、セレビィがわたしをこの人の元に連れてきたのは、Nよりもこの人を説得した方が良いから…?)
森の中にひっそりと佇む木屋の前まで、トウコは過去のゲーチスを見守りながらついていった。
やがて木屋に入るのを見届け、トウコは和やかに笑みを浮かべる。
「……ゲーチス、また来るよ。絶対に」
「……アナタ、先程会ったばかりなのに随分と馴れ馴れしいですね。必要ありません」
強がりで、真っ直ぐに感情をむき出しにするゲーチス。
でも……必ずこの人を改心させてみせる。
そうすればきっと、現代が変わるはず。
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