フラダリさんとの旅
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ガラル地方の空は、今日も澄んでいた。
私はスタジアムのライトを見上げ、深く息を吸った。
観客席には、溢れんばかりの人の波。
拍手、歓声、そして…無数のカメラのフラッシュ。
「勝者…セイカ選手!」
司会の声が響き渡り、場内が割れるような歓声に包まれる。
ーー少し前まで、観客として見下ろしていた光景。
それが今、自分の足で立っている場所だなんて。
控室に戻ると、ビビヨンが小さく羽を震わせて寄り添ってくる。
「ありがとう、ビビヨン。今日も最高だったね!」
鏡の中の自分は、ほんの少し見慣れないほど輝いていた。
だけど、その笑顔の裏にーー小さな不安があった。
SNSには自分の名前が並び、ニュースサイトにも書かれていた。
コメント欄には応援の声が多く嬉しい反面、一つだけ、危惧していることがある。
それは同時に多くの人たちの目にも触れてしまうということ。
「あ…」
SNSに私の写真が投稿されていた。
それは良いのだが、背後にフラダリさんもほんのわずかにだが写っている。
…嫌な予感は的中した。
その夜。
借宿の部屋で、私はフラダリさんが外出かけている間、窓際のソファに腰を下ろしていた。
バトルの疲れを癒すためちょうど紅茶を口にした、その瞬間だった。
ーーロトロトロト。
テーブルに置いたスマホロトムが鳴る。
こんな時間に誰だろう…?
画面に表示された名前を見て、手が止まった。
《カラスバさん》
……
や、ヤバい…!
指が少し震えるのを感じながら、恐る恐る通話ボタンを押す。
「……も、もしもし」
「おう…久しぶりやなぁ、セイカ」
最早聞き慣れたコガネ弁の声。
どこか笑っているようで、でも鋭さがある。
「か、カラスバさん……!お元気、でしたか…?」
「…こっちはぼちぼちやな。ーーで」
一拍置いて、声のトーンがわずかに落ちる。
まるで照明が一段階落ちるように、空気が変わった。
「なんでオレが電話かけて来たか、分かるか?」
背筋がピンと伸びる。
「……えっ……」
「オレらの情報網ナメたらアカンで?」
「……」
「地方が違っても、すぐ分かるねん。テレビも、ネットも、見てる奴は見てる」
ぞくりとする。
何もかも、見透かされているようだった。
「…おるんやろ、一緒に」
……その一言で、心臓が跳ねた。
フラダリさんのことだ。
トボけることなど、隠し通すことなどできないと察する。
「……はい」
短く、でもはっきりと答えた。
一瞬の沈黙。
数秒が、やけに長く感じる。
「……なんでミアレ出ていくとき、オレに言ってくれなかったんや?」
静かな声。
けれど、圧がとんでもない。
「フラダリさんは、オレの恩人やって知ってるやろ」
「……っ」
手が震える。罪悪感と緊張で喉が詰まった。
でも、次の瞬間。
受話器の向こうから、くぐもった笑い声が漏れた。
「ぷっ……ははっ……アカン、マジメに怒ろう思ってんのに……!」
「えっ……?」
「ボス、もうそこらへんで…」
通話越しの隣から低く落ち着いた声が入る。ジプソさんの声だ。
その瞬間、張り詰めていた糸が、ふっと緩む。
「すまんすまん!いやぁ、オレもびっくりしてな」
笑いながらカラスバが言う。
「まさかガラルにフラダリさんがおるとは!しかもセイカと一緒て!」
その明るさに、肩から一気に力が抜けた。
胸の奥の冷えが、ゆっくりと溶けていく。
「び、びっくりしましたよ…もう…」
「いや、ちょっとしたどくづきや。堪忍な!」
少し笑いを収めて、カラスバさんの声が穏やかになる。
「フラダリさんが無事におるっちゅうこと、それだけで十分や。あの人、もうしんどい思いしてきたんやからな」
「……カラスバさん……」
「それに、お前と一緒なら安心安全や。あの人多分抱え込みすぎる性格やからな。必要なんは、支えてくれる人や」
その言葉が、胸に沁みた。
電話越しでも、カラスバさんの真っ直ぐな想いが伝わる。
「ありがとうございます…」
いつもの調子で返すと、カラスバさんは少し間を置いてから、口角を上げているであろう小声を出した。
「…お前…好きなんか?フラダリさんのことが」
「え゛っ…いやその…」
「…どこまでいったんや。ZAロワイヤルで例えろや。Aか?Bか?…Cランクか!?」
「それだとランク下がってますボス。あと、セクハラですよ…」
ジプソさんに諭され、カラスバさんはいつもの調子に戻った。
「いやすまん。ちょっとしたアシッドボムや。あまりにもテンション上がってしもうて…今のはアカンな…」
カラスバさんは咳払いをした。
「まあ、なんや。オレらは契りを交わした仲…セイカの根性はよう知っとる。フラダリさんを、任したで」
「……はい!」
通話が切れたあと、私はしばらく動けなかった。
張り詰めていた糸が、やっと切れたような感覚。
ビビヨンがそっと私の横で、羽を震わせた。
「……うん、バレちゃったけど……大丈夫みたい」
しばらくして、フラダリさんが帰ってきた。
「ただいま戻りました」
「フラダリさん…!あの、さっきカラスバさんから、電話が来たんです。フラダリさんが無事でいてくれてよかったって」
「…私たちが共にいることが知られてしまったんですか」
「はい。でも、怒ってるかと思ったんですけど全然で。むしろ、フラダリさんのことをずっと気にかけてくれていましたよ」
「…そうですか…安心しました。嬉しいものですね」
震えるような声だった。
けれどそれは悲しみではなく、心の奥底で温かさが広がっていくような震えだった。
少しして、フラダリさんはそっとこちらを見る。
「ありがとうございます。きみが伝えてくれなければ私は知らずにいたままでした」
そう言って、控えめに微笑む。
その表情は、不器用だけれど確かに救われていた。
私も微笑んで、窓の外を見上げる。
どうやら夜空の向こう、遠く離れたカロスで築いた縁は、ちょっとやそっとじゃ切れそうにない。
私はスタジアムのライトを見上げ、深く息を吸った。
観客席には、溢れんばかりの人の波。
拍手、歓声、そして…無数のカメラのフラッシュ。
「勝者…セイカ選手!」
司会の声が響き渡り、場内が割れるような歓声に包まれる。
ーー少し前まで、観客として見下ろしていた光景。
それが今、自分の足で立っている場所だなんて。
控室に戻ると、ビビヨンが小さく羽を震わせて寄り添ってくる。
「ありがとう、ビビヨン。今日も最高だったね!」
鏡の中の自分は、ほんの少し見慣れないほど輝いていた。
だけど、その笑顔の裏にーー小さな不安があった。
SNSには自分の名前が並び、ニュースサイトにも書かれていた。
コメント欄には応援の声が多く嬉しい反面、一つだけ、危惧していることがある。
それは同時に多くの人たちの目にも触れてしまうということ。
「あ…」
SNSに私の写真が投稿されていた。
それは良いのだが、背後にフラダリさんもほんのわずかにだが写っている。
…嫌な予感は的中した。
その夜。
借宿の部屋で、私はフラダリさんが外出かけている間、窓際のソファに腰を下ろしていた。
バトルの疲れを癒すためちょうど紅茶を口にした、その瞬間だった。
ーーロトロトロト。
テーブルに置いたスマホロトムが鳴る。
こんな時間に誰だろう…?
画面に表示された名前を見て、手が止まった。
《カラスバさん》
……
や、ヤバい…!
指が少し震えるのを感じながら、恐る恐る通話ボタンを押す。
「……も、もしもし」
「おう…久しぶりやなぁ、セイカ」
最早聞き慣れたコガネ弁の声。
どこか笑っているようで、でも鋭さがある。
「か、カラスバさん……!お元気、でしたか…?」
「…こっちはぼちぼちやな。ーーで」
一拍置いて、声のトーンがわずかに落ちる。
まるで照明が一段階落ちるように、空気が変わった。
「なんでオレが電話かけて来たか、分かるか?」
背筋がピンと伸びる。
「……えっ……」
「オレらの情報網ナメたらアカンで?」
「……」
「地方が違っても、すぐ分かるねん。テレビも、ネットも、見てる奴は見てる」
ぞくりとする。
何もかも、見透かされているようだった。
「…おるんやろ、一緒に」
……その一言で、心臓が跳ねた。
フラダリさんのことだ。
トボけることなど、隠し通すことなどできないと察する。
「……はい」
短く、でもはっきりと答えた。
一瞬の沈黙。
数秒が、やけに長く感じる。
「……なんでミアレ出ていくとき、オレに言ってくれなかったんや?」
静かな声。
けれど、圧がとんでもない。
「フラダリさんは、オレの恩人やって知ってるやろ」
「……っ」
手が震える。罪悪感と緊張で喉が詰まった。
でも、次の瞬間。
受話器の向こうから、くぐもった笑い声が漏れた。
「ぷっ……ははっ……アカン、マジメに怒ろう思ってんのに……!」
「えっ……?」
「ボス、もうそこらへんで…」
通話越しの隣から低く落ち着いた声が入る。ジプソさんの声だ。
その瞬間、張り詰めていた糸が、ふっと緩む。
「すまんすまん!いやぁ、オレもびっくりしてな」
笑いながらカラスバが言う。
「まさかガラルにフラダリさんがおるとは!しかもセイカと一緒て!」
その明るさに、肩から一気に力が抜けた。
胸の奥の冷えが、ゆっくりと溶けていく。
「び、びっくりしましたよ…もう…」
「いや、ちょっとしたどくづきや。堪忍な!」
少し笑いを収めて、カラスバさんの声が穏やかになる。
「フラダリさんが無事におるっちゅうこと、それだけで十分や。あの人、もうしんどい思いしてきたんやからな」
「……カラスバさん……」
「それに、お前と一緒なら安心安全や。あの人多分抱え込みすぎる性格やからな。必要なんは、支えてくれる人や」
その言葉が、胸に沁みた。
電話越しでも、カラスバさんの真っ直ぐな想いが伝わる。
「ありがとうございます…」
いつもの調子で返すと、カラスバさんは少し間を置いてから、口角を上げているであろう小声を出した。
「…お前…好きなんか?フラダリさんのことが」
「え゛っ…いやその…」
「…どこまでいったんや。ZAロワイヤルで例えろや。Aか?Bか?…Cランクか!?」
「それだとランク下がってますボス。あと、セクハラですよ…」
ジプソさんに諭され、カラスバさんはいつもの調子に戻った。
「いやすまん。ちょっとしたアシッドボムや。あまりにもテンション上がってしもうて…今のはアカンな…」
カラスバさんは咳払いをした。
「まあ、なんや。オレらは契りを交わした仲…セイカの根性はよう知っとる。フラダリさんを、任したで」
「……はい!」
通話が切れたあと、私はしばらく動けなかった。
張り詰めていた糸が、やっと切れたような感覚。
ビビヨンがそっと私の横で、羽を震わせた。
「……うん、バレちゃったけど……大丈夫みたい」
しばらくして、フラダリさんが帰ってきた。
「ただいま戻りました」
「フラダリさん…!あの、さっきカラスバさんから、電話が来たんです。フラダリさんが無事でいてくれてよかったって」
「…私たちが共にいることが知られてしまったんですか」
「はい。でも、怒ってるかと思ったんですけど全然で。むしろ、フラダリさんのことをずっと気にかけてくれていましたよ」
「…そうですか…安心しました。嬉しいものですね」
震えるような声だった。
けれどそれは悲しみではなく、心の奥底で温かさが広がっていくような震えだった。
少しして、フラダリさんはそっとこちらを見る。
「ありがとうございます。きみが伝えてくれなければ私は知らずにいたままでした」
そう言って、控えめに微笑む。
その表情は、不器用だけれど確かに救われていた。
私も微笑んで、窓の外を見上げる。
どうやら夜空の向こう、遠く離れたカロスで築いた縁は、ちょっとやそっとじゃ切れそうにない。