フラダリさんとの旅
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十数年前のカロス地方ー。
私はこの慣れない土地の、最も発展した都市、ミアレシティに家族と観光に来ていた。
ミアレシティの広い街路は、夕方のオレンジ色に染まりはじめている。
まだ幼い私は一人、公園の端にしゃがみこんで泣いていた。
「うぅ……どうしよう……」
目の前には、弱った小さなコフキムシがいる。
歩道の脇で倒れて震えるその姿を見つけ、助けようとした。
「あの…誰か……!」
ダメだ。小さな声しか出ないせいで気づいてもらえない……
うまく助けを呼べず、怖くて、悲しくて、涙がぼろぼろこぼれていった。
その時だった。
「きみ。どうした、こんなところで」
低く、よく通る大人の声。
顔を上げると、夕日を背に赤髪の男性が立っていた。
真っ赤な髪、整えられた髭、黒を基調としたスタイリッシュな服…。
その佇まいは、幼い私から見ればやや怖い印象を受けた。
でも同時に『都会のかっこいい大人の男性』そのものだった。
私は縋る思いでその男性に訴えた。
「……こ、コフキムシが……グスッ……かわいそうで……」
「ふむ」
男性はしゃがんでコフキムシを観察した。
「弱っているな。状態異常ではないが…このままでは危険だ」
そう言って優しく視線を上げる。
「早くポケモンセンターへ連れていってあげなさい」
「……で、でも……」
「……?」
私は涙を拭い、小さな声で言った。
「ボール……もってなくて……ポケモンをゲットしたこと……ない……」
男性は一瞬驚いたように目を瞬かせ、ふっと柔らかく笑った。
「そうか。ならちょうどいい」
ポケットから、赤と白のボールを取り出す。
新品の、まだ誰にも触れられていないような綺麗なモンスターボールだ。
「これをきみにあげよう」
「えっ……でも……!」
「受け取りなさい。きみはこのコフキムシを助けたいと思った。その心は美しい」
幼い私の胸が、きゅっと熱くなった。
美しいって…初めて言われた……!
「さぁ、やってみなさい。コフキムシは弱っているから、きっと暴れない。そっとボールを近づけて……そう。触れてあげるだけでいい」
震える指で、コフキムシにボールを当てる。
パシュン
コフキムシが小さくなりボールに吸い込まれ、少し揺れたかと思うと…
カチッ!
「っ……ゲット、できた……!?」
「見事だ」
赤髪の男性は満足げに頷く。
「これでポケモンセンターに連れて行ける。きみが助けたんだ。胸を張りなさい」
私は涙を拭きながら笑った。
「あの…ありがとう…ございます!」
男は軽く肩をすくめた後、私の頭にそっと大きな手を置いた。
「きみのような子がいる限り、世界はまだ……捨てたものではないな」
真っ赤な髪が夕焼けに照らされて、まるで炎のように輝いていた。
(……かっこいい……)
幼い私は、ただただその背中に魅了されていた。
男性は立ち上がるとミアレの中心に向かって歩いていき、やがてその影は陽炎に消えていった。
その時は名前も知らなかった。
けれどーーその男性の言葉は、妙に胸に焼きついた。
(……また、会いたいな……)
まさか10年以上も後、彼との再会が私の運命を大きく変えるとは知らないままーー
幼い私は大事そうにコフキムシが入ったボールを抱えて走り出した。
・・・
〜十数年後〜
ミアレシティにやって来て、ガイの作るクロワッサンカレーにももう慣れてしまった、そんなある日のこと。
MZ団の三人といつものように食卓を囲う。
ふとガイが腕を組んで、珍しく真面目な顔で私を見た。
「なぁセイカ、そういや聞いてなかったけどさ、なんでミアレに旅行に来たんだ?」
デウロはそれを聞いて、不思議そうに首を傾げる。
「ほら、前にAZさんがジガルデに導かれたって意味深なこと言ってたでしょ。そうなんじゃないの?」
私は苦笑して言った。
「…そんな大層な理由じゃないよ。無意識にそれもあるかもだけど、本当に観光で…あと、人探しかな」
三人が不思議そうに顔を見合わせる。
私はゆっくり息を吸い込んだ。
「私、幼いころにもミアレに一度だけ観光で来ててね。その時、弱ったコフキムシを見つけたんだ。そうしたら1人の男性が私を助けてくれた」
デウロが優しい表情でぽんと手を叩いた。
「そっか、セイカが唯一ミアレに来る前にボックスに入れて持ってたビビヨン!その子をゲットさせてくれた人だね!恩人を探してるってこと?」
私は小さく頷く。
「うん。あの時のあの人……すごく大人の男性って感じで本当に素敵で……かっこよくて……」
途中まで言って顔が熱くなったので、ハッとして我に帰った。
ガイが眉を上げる。
「へぇ、ってことはもしかしてその人を探しに来たとか?」
「うん、まあね…」
私は答えながら視線を落とした。
その人のことは後々知った。
ある日偶然、テレビで見て…間違いなくこの人だと分かった。
恩人の名は…フラダリさん。
……でも、皆には言えない。
フラダリさんは5年前、カロス全土を恐怖に陥れた人だ。
しかも、消息不明らしい。
あんな大事件を起こした人を、恩人として探してるなんて、到底言えなかった。
「そっか、セイカも人探ししてるのか…んじゃ、マチエールさんに頼んでもいいかもしれないな!」
「い、いいよ…!本当に何の手がかりもない、知らない人だから…」
デウロは微笑んだ。
「でももし幼いころに助けてくれた人と再会できたら、あたしは運命感じちゃうなあ」
その言動にピュールは目を細めてため息をつく。
「ですが…その時に大人の男性だったのであれば今はかなりのお歳を召しているはず…この街を去っているか、結婚して子供がいてもおかしくないのでは?」
「もう、ロマンが無いなあピュールは!」
「現実的な話をしているんです」
2人が言い争いしそうになっていたので慌てて口を開く。
「あはは、そうかも…でももしかしたらって考えているだけだから。それに、もうこの街が好きになったから」
そう、本心だ。
ただ気になって、ふと思い立っただけ。ちょっとしたオマケの期待のはずだった。
…そう、この時の私は、彼が生きていることも、この先再会するだけでなく、私と密接に深く関わってくることも、何も知らないでいた。
私はこの慣れない土地の、最も発展した都市、ミアレシティに家族と観光に来ていた。
ミアレシティの広い街路は、夕方のオレンジ色に染まりはじめている。
まだ幼い私は一人、公園の端にしゃがみこんで泣いていた。
「うぅ……どうしよう……」
目の前には、弱った小さなコフキムシがいる。
歩道の脇で倒れて震えるその姿を見つけ、助けようとした。
「あの…誰か……!」
ダメだ。小さな声しか出ないせいで気づいてもらえない……
うまく助けを呼べず、怖くて、悲しくて、涙がぼろぼろこぼれていった。
その時だった。
「きみ。どうした、こんなところで」
低く、よく通る大人の声。
顔を上げると、夕日を背に赤髪の男性が立っていた。
真っ赤な髪、整えられた髭、黒を基調としたスタイリッシュな服…。
その佇まいは、幼い私から見ればやや怖い印象を受けた。
でも同時に『都会のかっこいい大人の男性』そのものだった。
私は縋る思いでその男性に訴えた。
「……こ、コフキムシが……グスッ……かわいそうで……」
「ふむ」
男性はしゃがんでコフキムシを観察した。
「弱っているな。状態異常ではないが…このままでは危険だ」
そう言って優しく視線を上げる。
「早くポケモンセンターへ連れていってあげなさい」
「……で、でも……」
「……?」
私は涙を拭い、小さな声で言った。
「ボール……もってなくて……ポケモンをゲットしたこと……ない……」
男性は一瞬驚いたように目を瞬かせ、ふっと柔らかく笑った。
「そうか。ならちょうどいい」
ポケットから、赤と白のボールを取り出す。
新品の、まだ誰にも触れられていないような綺麗なモンスターボールだ。
「これをきみにあげよう」
「えっ……でも……!」
「受け取りなさい。きみはこのコフキムシを助けたいと思った。その心は美しい」
幼い私の胸が、きゅっと熱くなった。
美しいって…初めて言われた……!
「さぁ、やってみなさい。コフキムシは弱っているから、きっと暴れない。そっとボールを近づけて……そう。触れてあげるだけでいい」
震える指で、コフキムシにボールを当てる。
パシュン
コフキムシが小さくなりボールに吸い込まれ、少し揺れたかと思うと…
カチッ!
「っ……ゲット、できた……!?」
「見事だ」
赤髪の男性は満足げに頷く。
「これでポケモンセンターに連れて行ける。きみが助けたんだ。胸を張りなさい」
私は涙を拭きながら笑った。
「あの…ありがとう…ございます!」
男は軽く肩をすくめた後、私の頭にそっと大きな手を置いた。
「きみのような子がいる限り、世界はまだ……捨てたものではないな」
真っ赤な髪が夕焼けに照らされて、まるで炎のように輝いていた。
(……かっこいい……)
幼い私は、ただただその背中に魅了されていた。
男性は立ち上がるとミアレの中心に向かって歩いていき、やがてその影は陽炎に消えていった。
その時は名前も知らなかった。
けれどーーその男性の言葉は、妙に胸に焼きついた。
(……また、会いたいな……)
まさか10年以上も後、彼との再会が私の運命を大きく変えるとは知らないままーー
幼い私は大事そうにコフキムシが入ったボールを抱えて走り出した。
・・・
〜十数年後〜
ミアレシティにやって来て、ガイの作るクロワッサンカレーにももう慣れてしまった、そんなある日のこと。
MZ団の三人といつものように食卓を囲う。
ふとガイが腕を組んで、珍しく真面目な顔で私を見た。
「なぁセイカ、そういや聞いてなかったけどさ、なんでミアレに旅行に来たんだ?」
デウロはそれを聞いて、不思議そうに首を傾げる。
「ほら、前にAZさんがジガルデに導かれたって意味深なこと言ってたでしょ。そうなんじゃないの?」
私は苦笑して言った。
「…そんな大層な理由じゃないよ。無意識にそれもあるかもだけど、本当に観光で…あと、人探しかな」
三人が不思議そうに顔を見合わせる。
私はゆっくり息を吸い込んだ。
「私、幼いころにもミアレに一度だけ観光で来ててね。その時、弱ったコフキムシを見つけたんだ。そうしたら1人の男性が私を助けてくれた」
デウロが優しい表情でぽんと手を叩いた。
「そっか、セイカが唯一ミアレに来る前にボックスに入れて持ってたビビヨン!その子をゲットさせてくれた人だね!恩人を探してるってこと?」
私は小さく頷く。
「うん。あの時のあの人……すごく大人の男性って感じで本当に素敵で……かっこよくて……」
途中まで言って顔が熱くなったので、ハッとして我に帰った。
ガイが眉を上げる。
「へぇ、ってことはもしかしてその人を探しに来たとか?」
「うん、まあね…」
私は答えながら視線を落とした。
その人のことは後々知った。
ある日偶然、テレビで見て…間違いなくこの人だと分かった。
恩人の名は…フラダリさん。
……でも、皆には言えない。
フラダリさんは5年前、カロス全土を恐怖に陥れた人だ。
しかも、消息不明らしい。
あんな大事件を起こした人を、恩人として探してるなんて、到底言えなかった。
「そっか、セイカも人探ししてるのか…んじゃ、マチエールさんに頼んでもいいかもしれないな!」
「い、いいよ…!本当に何の手がかりもない、知らない人だから…」
デウロは微笑んだ。
「でももし幼いころに助けてくれた人と再会できたら、あたしは運命感じちゃうなあ」
その言動にピュールは目を細めてため息をつく。
「ですが…その時に大人の男性だったのであれば今はかなりのお歳を召しているはず…この街を去っているか、結婚して子供がいてもおかしくないのでは?」
「もう、ロマンが無いなあピュールは!」
「現実的な話をしているんです」
2人が言い争いしそうになっていたので慌てて口を開く。
「あはは、そうかも…でももしかしたらって考えているだけだから。それに、もうこの街が好きになったから」
そう、本心だ。
ただ気になって、ふと思い立っただけ。ちょっとしたオマケの期待のはずだった。
…そう、この時の私は、彼が生きていることも、この先再会するだけでなく、私と密接に深く関わってくることも、何も知らないでいた。
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