その後、俺達ハートの海賊団は、しばらくロンメル王国に滞在することにした。

渡来人の多い国柄をベポが気に入ったのもあるが、俺自身も歴史ある街並みや豊富な書物に興味を引かれていた。

…そして何より、ネアの回復を見届ける必要がある。
トウカさんの家に居候させてもらい、経過観察に励んだ。

日が経つにつれ、ネアは元気に近場で買い物等をできるようになるまで回復した。

ネアの治療を終えて数日が経った頃には、彼女はすっかり元気を取り戻し、明るい表情で街を歩けるまでに回復していた。
彼女の回復ぶりを見て、トウカさんも心から安心している様子だ。

ある日、ネアが笑顔で俺に話しかけてきた。

「ローさん、本当に感謝しかないです！病気が治って、まるで新しい命をもらった気分で…！」

俺は無愛想を装いながらも、彼女の元気な姿を見てほっとしていた。

「無理はするなよ。病み上がりなんだからな」

「うん、でもあの時の私が嘘みたい！母も心配してくれてたけど、今では一緒に笑えるのが嬉しくて…」

彼女が話す「母」という言葉に、俺の頭にトウカさんの姿が浮かぶ。

俺がまだ珀鉛病に苦しんでいた頃、コラさんと共に各地の病院を巡っていたのを思い出す。
彼女は俺の治療を手伝い、いつも支えてくれていた。
その姿は今でも鮮明に覚えている。


ーその日の夕方、俺はトウカさんと二人で話す機会を設けた。
昔のことを少し聞きたくなって、彼女に問いかけた。

「トウカさん…改めてだがあの時、コラさんと共に俺のために各地を回ってくれたこと、忘れてねェ」

「あはは、嬉しいこと言ってくれるのね」

「コラさんとイチャついてたのも忘れてねェよ」

「そ、それは忘れてほしいかな…」

トウカさんは照れつつも、間を置いて優しく微笑み、静かに頷いた。

「…ロー君はまだ子供だったけど、とても強い子だった。ロシーは、あなたを守りたくて仕方なかった…彼はあなたを家族のように思っていたんだ」

「…そうか」

俺の胸には、再びコラさんへの感謝の気持ちと複雑な思いが広がっていく。

「なぁトウカさん…あの時、既に娘がいたことになる。どうしてコラさんにそのことを隠していた？」

トウカさんは顔を伏せながら答えた。

「本当は伝えて、彼に危ない任務を降りて欲しかった。でも、ドフラミンゴの元にいる子供たちのことや、あなたのことも心配で…だから、彼には任務に集中して欲しいと思って…黙っていたんだ」

「…それでこの海軍との繋がりの強い国に娘を預けてきたって訳か」

「でも迂闊だった…まさかこの国の特色でネアが病気になってしまったなんて…」

トウカさんは項垂れた様子で続ける。

「海軍のサポートが充実していて、娘を安全に保護してくれるのに適した国だからずっと住んでるの」

「無理もない。この国のスモッグ被害はここ数年で始まったらしいからな。まあ…できればもう少し郊外に引っ越すことを薦めるが」

「そうだね…引越しを考えないと…」

トウカさんは少し考えた後、顔を上げた。

「彼がどれほどあなたを大切にしていたか…そして、あなたと過ごす中で、家族のような絆を感じていたか…ロー君がこうして元気に成長している姿を見れて、本当に嬉しい」

「…俺もだ」

しばらく二人の間には静かな時間が流れたが、そこにネアが恐る恐るといった様子で近づいてきた。

「何を話してたの？」

トウカさんは柔らかく笑いながら娘に答えた。

「昔の話。ネア、あなたをこの国に預けていた時のことよ」

ネアは興味津々な表情で俺を見つめてきた。

「あの、ローさん…！実は私、あなたのことを前からずっと調べてて…昔から手配書も取ってあるんです」

俺は少し驚いたが、彼女は恥ずかしそうに続けた。

「『死の外科医』なんて言われてるけど、センゴクさんや母の話を聞く限りは悪い人には思えない。だからどうしても気になってしまって…」

彼女の率直な言葉に少し面を食らったが、その純粋さには心が動かされた。

「…俺は海賊だ」

「でも、あなたは父が命をかけて守った人だから、私にとっても大切な人だと思うんです…」

その言葉が、妙に胸に響いた。