診察を進める中で、俺は無意識にネアの顔を見つめていた。

彼女の顔立ちには、コラさんの面影が浮かぶ。
特にその優しい表情が、記憶の中にあるコラさんと重なる。

ネアはそんな俺を見て、わずかに力を振り絞るようにして、微笑んだ。
どこか無邪気で、しかし同時に寂しげなその笑顔に、俺の心が大きく揺さぶられた。

「治せる…のですか？」

その問いに、俺は即座に答えた。

「もちろんだ。すぐに治る」

“ROOM”を展開し、ネアの体をスキャンして感染症の原因を特定していく。
内部の異常箇所を取り除くのは、俺にとってもはや慣れた作業だ。

「少し待ってろ…」

手際よく治療を進めながらも、俺の中には焦りと不安が混ざっていた。
彼女を救うためにはミスは許されない。
だが、俺は冷静さを保ち、確実に治療を進めた。

治療が完了すると、ネアの呼吸が徐々に安定し、苦しげだった表情が和らいでいった。

「…これで大丈夫だ。もう心配はないが…暫くは経過観察だ。安静にしていろ」

そう告げた瞬間、トウカさんは驚く。

「えっ、もう！？」

「ああ、そういう能力だ」

涙を浮かべながら感謝の言葉を口にした。

「本当に…本当にありがとうロー君…！感謝してもしきれないよ！」

「…礼なんて、コラさんやトウカさんのしてくれたことに比べたら安いもんだ」

彼女の目が再び開き、輝きを取り戻しているのを確認すると、自然と息をついた。

「どうだ、ネア。体は軽くなったか？…とはいえまだ横になっていろ」

「ええ…！呼吸が凄く楽に…！本当にありがとう…トラファルガーさん」

「ローでいい」

彼女は嬉しそうにうなづいた。
そしてふと、遠慮がちに言葉を紡いだ。

「あの、ローさん…まだ時間はありますか？」

「…？」

「もしかしたら辛いことを思い出させるかもしれないのは分かってます…でも…貴方から見て、私の父が…どんな人だったのかを知りたくて…」

一瞬戸惑ったが、俺は彼女の気持ちを理解し、頷いた。

「…アンタの父親は俺にとって恩人だ。アンタが知りたいなら、いくらでも話す」

「ありがとう、ローさん」

俺はベッドの隣の椅子に座って、静かに昔のことを話し出した。

彼女の両親がどんなに素晴らしい人だったかを。
コラさんがどれだけドジで優しい海兵だったかを。

ネアは興味津々の様子で、気になるところは質問してきたりもした。
笑ったり、神妙な顔をしたり、彼女は両親譲りの表情の豊かを持っているようだ。

ひとしきり話した後、彼女の瞳には涙が浮かんでいた。

「父が生きていたら…こんな風に、たくさん話せたのかな…一度も会ったことが無いから…」

遠くを見つめながら呟く彼女に、俺は静かに答えた。

「コラさんがアンタの存在を知っていたなら、愛していたに違いないだろうな…」