銀魂:坂田
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「あーだりィ。今日はなんかやる気でねーなオイ」
「アンタがやる気でないのはいつものことでしょーが」
銀さんのいらついた台詞に、呆れながらコメントする。毎日毎日この上司は、だるいだのめんどいだの、ネガティブな発言しか口にしない。そして大人の言動は僕ら子供に強い影響はあるわけで、
「なんかだるィアルなァ。太陽出ばりすぎなんじゃないのこれ、いっぺん引っ込めよコルァ」
「神楽ちゃん、そろそろ定春の散歩行ってきたら?」
「んー雨になったら行く」
「それ行く気ないってことだよね」
三人は座れるソファを寝そべることによって陣取っている神楽ちゃんがそれだ。いつもなら天気が良くても定春を連れて外出していたけど、銀さんがあまりにもぐうたらな為その気が失せてしまったようだ。なんつう悪影響だよこれ。ていうか銀さんが今まで僕らにいい影響与えたことあったっけ? あれ? なんもなくね?
「銀さん、そろそろお金も底ついてきましたよ」
「何言ってんのぱっつぁん、そろそろも何も金なんざハナっから底ついてんだろーが底丸見えだろーが」
「わかってんなら行動しろよ!!」
そんな時、タイミングを見計らったかのように鳴るインターホン。まずい、これはお登勢さんだ、またはキャサリン。きっと家賃の回収にきたんだ。そう察したのは僕だけではなく、残りの二人(と定春)もだったようだ。無言で、且つ素早く机の下にもぐる。
「ちょっなんで定春まで机もぐってきてんの?!」
「何言ってるアル! 定春だってちゃんと宇宙の一部になれるヨ!」
「机にもぐらなくても宇宙の一部になれるから、とりあえず出ろ、今すぐ出ろ」
「それなら新八が出るネ! お前は隠れなくてもただ存在が元々宇宙の一部アル!」
「影が薄いってかァァァァ!!!」
「うるせェ!!」
銀さんに一喝され、僕らはすぐに口を閉じた。そしてすぐにメンバーを確認する。良かった、キャサリンは含まれてない。もし玄関前にいるのがキャサリンなら今この場にいるはずだ。
「……銀ちゃん、もしかして普通の客人かもしれないネ」
「…………」
様子を見るつもりなのか、銀さんは神楽ちゃんの呟きにだんまりで返事はしなかった。なんだろう?
ややあって、玄関先から「カランコロン」という音がした。下駄をはいてる人みたいだ、って、
「ちょっ銀さん?!!」
力任せに机ごと起きあがった銀さんは、玄関めがけて走り出し、そのまま勢いよく扉を開けた。その突然の行動に慌てながらも後を追った僕と神楽ちゃんが見た、その人は、
「ななしさん!」
「誰アルカ?」
確か前に銀さんとビデオレンタルショップに行った時、レジを打っていた店員さんだ。その間だけちょっと楽しく会話をしたので名前はなんとなく覚えていた。しかし、なんでこんなところに来たんだろう。首をかしげた僕の前で、しかしその女性は緊張した面持ちで口を開いた。
「あ、あの、店長が……坂田さんがいつまでもビデオ返却してこないんで、取りに行ってこい…と言われたんですけど」
「あ」
銀さんが間抜けた声を出すが、いやいや「あ」ですまないよこれ。だってこの人ビデオ借りたの一ヶ月前じゃなかった? 延滞料金どんだけかかってんの?!!
「何やってんですか銀さん、ビデオどこにあるんですか?!」
「あー…そういやどこだっけ? 探すわ、ちょっと待っててください」
「はい、わかりました」
ななしさんはホッとしたように微笑む。きっと店長に課せられたミッションは重要なんだろう。大変だなあ、相手がこの適当銀髪で。
と。
「あー中に入って」
「え? あ、はい…」
銀さんはななしさんの手を握ると、ぐいっと玄関に入れた。あ、あれ。いや別に変な行動じゃないよ、そりゃ玄関先で突っ立って待ってもらうより中に入ってもらったほうが良いだろうし。…ああそうだ、銀さんみたいな男が人に対してそういう気遣いをするのが意外で(第一、中に入れるのも僕が言おうとしたことだったし) まあ銀さんの行動にいちいちつっこみを入れていたらキリがないっていうのもあるし、ここはスルーしよう。
ななしさんが下駄を脱ぎ、それを揃えると銀さんが再びその手をとったとしても。紳士だと思えばなんのことはない。
「! い、いぬ…!?」
廊下を通り部屋に入ったななしさんは、定春もといデカ犬を見て相当ビックリしたようで(そりゃそうだ、僕らはすっかり慣れてるけど、この大きさは普通じゃありえないよね)思わず一歩引いた。
「あっすいません、でかいですけど大人しいんで。ね、神楽ちゃん、定春」
「そうアル! 見かけで判断しないでヨ!」
「そ、そーですか…すいません」
「……もしかしてななしさんって犬苦手なんですか?」
「あはは、そうなんです」
へえそうなんだ、と僕が相づちを打つよりも早く、黙っていた銀さんが鋭い声を発した。
「神楽、定春連れて散歩行ってこい」
「えーめんどい」
「ガキのくせに何なまけてんだコノヤロー今すぐ行ってこねーと晩飯抜きにすっぞ」
なお渋る神楽ちゃんの頭をゴツンと叩いて定春と一緒に追い出すと、銀さんは「すいませんねなんか」とななしさんに謝った。そしてソファに座らせると、慌ただしく自分の部屋に入っていった(勿論ふすまを閉めるのも忘れずに)
これは、恋愛経験薄い僕でもわかる。銀さんはこのななしさんに惚れてるんだ。
「あの…お邪魔してすいません」
「いえいえ。はい、お茶どうぞ」
「あ…ありがとうございます」
控えめなななしさんは、笑顔というよりも微笑みが多いみたいだ。積極的な女性が嫌いな銀さんが好みそうなタイプではある、けど……………。
「…あの、ここに回収に来るっていうのは、ななしさんが自分から名乗り出たんですか?」
「え? 違いますけど…たまたま店長に呼び止められて言われただけで」
「あ、そうですか…」
どうやら、だからといってあっちはそうでもないらしい。それに銀さんはただれた恋愛とご縁があるはずだ、ななしさんとなら間違いなく純愛になるだろう。でも銀さんって純愛に縁あるのかな……ドMの女性に好かれるわ温泉のばあさんに好かれるわで、結構ただれてるほうが多いと思うんだけど。
しばらくして、銀さんが部屋から出てきた。手には何も持っていない。けれど念のため、聞いてみた。
「どうでした銀さん、ありました?」
「いや、なかったわ」
「なかったんですか?! ちょっとどうするんですか、ななしさん店長に怒られちゃいますよ」
「…しゃーねェ、俺が直接行ってくらァ」
「いや、しゃーねえじゃないから」
銀さんはななしさんの手を引っ張り立たせると、靴を履いて出て行った。ななしさんは始終困った顔を浮かべていたけど、銀さんのほうはずっと無表情で、そういえばななしさんの名前を呼んだことがない。どれだけ意識してんのあの人。これは笑い話にならない。なんていうか、僕が言うのもなんだけど可哀相なくらいアレだ。
「……中二じゃあるまいし」
もしかしたら銀さんは、恋愛下手かもしれない。
まあ上手くいったらいいなあとうっすら思いながら、僕はなんとなく銀さんの部屋を見てみた。するとそこには、きれいに置かれたビデオの山。
「………中二も真っ青の純情さだよこれ」
アイツの柄は柄にもねェ柄。
(果たして三十路前の恋は実るのか、こうご期待!)