復活:雲雀(姉さんヒロイン固定)
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「うう…」
「おはよう姉さん」
「おはよ……なんか頭痛い」
「成績下がって?」
「……(酷い)……それ、も、少々ある。けど、物理的に痛い。ガンガンする」
「……ほんと?」
ひばりねえのまいにち
「本当だ、熱いね」
弟はソファに寝そべるわたしにまたがると、顔をぐっと近づけわたしのおでこに自分のおでこをあてた。ちょっと待てーいなんだ今のは、と跳ね起きたい気分だけど、生憎身体がついていかないのとまァ「弟」だし、と妥協することで、取り止めた。
「学校どうするの」
「うん…なんかだるいし熱計ってから決める。だから恭弥くんはもう学校に行って」
「………」
本当は休む気満々だ。でも素直に言うと、この弟は間違いなくわたしを自分の支配下…もとい中学校におきたがる。実際二年前そうなったし。だからあえて行くか休むかを曖昧にしたのだ。
さらに弟は学校が大好き。そして並盛の町も。だからたとえわたしがこうやって家で寝込むとしても、渋々だけど、
「……絶対に家から出ないでよ」
わたしをお姫様だっこすると、部屋まで歩いていき、ゆっくりとベッドに寝かせてくれた。掛け時計を見れば、まだ七時半にもなってない(そりゃそうか)
「ご飯、ここに置いておくから」
「うん」
「ちゃんと食べるんだよ」
「うん」
「昼休みまた来るから」
「うん」
「あと………」
弟の小言を「うん」と適当に聞き流しながら、自然と目を閉じていった。そしてやがて弟が部屋を出て、玄関のドアが音を立てるのを耳にし、眠りについたのだった。
並盛中の校歌が耳に入ってきたせいで、わたしは意識が戻ったようだった。目を開けると、ケータイがぶるぶると震えている。先ほどの校歌はEメール着信音でも通常の着信音でもあるため、急いで手にとった。
ちなみにこの着信音は、お察しの通り弟に強制された。そうじゃなければ何が悲しくて弟と同じ、しかも中学校の校歌を着信音にしなくちゃならんのだ!
「……なんだ…メールか…」
友達からだった。もう一時間目が始まっているにも関わらず、わたしがまだ来ないから「寝坊?!」とメールをしてくれたのだ。そういえば学校に連絡するの忘れてた。
『おはよ。頭痛くて熱があるかもしれないから今日は休むね。先生にも言っといて』
これでよし。送信ボタンを押し、ふうと息をつく。さっきよりは頭痛は治ったかもしれないけど、気のせいかな、肌寒い。布団はわたしの体温であったまってるけど、それでも寒い。もしかしたらこれは本当に熱が…? やっぱちゃんと計ったほうがいいかも、と思い布団を抜け出した時だった。
ぴんぽーん、とインターホンが鳴る。げっやばい、寝巻き姿のままじゃんわたし! 何か適当に羽織るもの……
がちゃり。きい。
「……え…」
今、明らかに玄関のドアノブが回って、ドアが開いた音がした、かもしれない。もしかしたら気のせいかも…。いや、おかしい。インターホン鳴らした後に、普通ドアノブ回す? 不在だってわかったなら、その場で帰るはずだ。それとも弟かな、ああきっとそうだ、そうに違いない。………って んなわけないッ! インターホン鳴らして自宅に入る人なんているわけないっ!! 落ち着けななし、現実から目をそらしちゃだめだ。
そうしている間にも、玄関から見知らぬ足音が近づいてくるのがわかった。時折止まってはまた歩きだす音。絶対に何か金目のものを盗もうと空き巣だ。警察に連絡……いやここはもっと頼りになる、
『どうしたの』
「恭弥くんっやばい!」
コールが一回鳴り終わると同時の速さで電話をとってくれた弟に感謝した。
「どっどどうしよう今家にいてそしたら玄関から今空き巣が入ってきてて今そいつが家を歩き回ってる…!!」
『姉さん落ち着いて』
落ち着いて、のところてうっすら『委員長っそっちは窓…』という声が聞こえた。
「……きょ、きょーやくん? まさか窓から」
『もしかして玄関の鍵しめないまま寝てたの?』
「え…あ、え?」
『…………』
無言の弟は、砂利を踏み鳴らしながら小さく息をついた(こっちも怖いよ!) あ。そういえば寝る寸前、弟が「僕が出たらすぐに鍵しめてよ」とかなんとか言ってた気が、しないでもない。というのも、この家に合鍵はないので、わたしが持っているのだ。
数秒後、バイクがうなる音が耳に飛び込んできた。普通応接室から駐輪場まで何十秒で着くわけない。……ケガしてないかな。
『すぐそっちにいくから、絶対に部屋から出ないで』
「わっわかった!」
思わず声を張り上げてしまい、慌てて口を抑える。
が、遅かった、みたいだ。 足音がピタリと止まって、 まっすぐわたしのほうへパタパタと近寄るのがわかった。
「やっやばい恭弥くん足音がちかづい」
ピーッピーッ。…ピー。
ケータイの電池が、切れた。ちくしょう充電して寝れば良かったああ!! 急いで充電して…あれ、コードがない。
「!!」
リビングだ。おとついの夜はテレビ見ながら充電してたから、そのまま放置してたんだった。恨む。これは恨むぞ自分を!!
コンコン。
「!(ひいっ!)」
ついに辿り着かれ、わたしの部屋のドアをノックする空き巣。人生最大のピンチだと本気で思った。これで素直に待ってたらドアが開いた時わたしの姿は丸見えだ。とっさに布団へ飛び込み、身を隠す。
「……開けるぞ」
男の人の声だった。聞いたことないからやっぱり空き巣だ。にしてもノックとか今の言葉って空き巣らしく…いやいや、今の空き巣はそういうものなのかもしれない。なんでもかんでも前向きにとらえちゃだめだ。
ドアがキィ、と音を立てながら開いたのがわかった。男の人が部屋に入ってきたのも。
「恭弥? …いねぇのか」
……今、恭弥って言った。てことはこの人、弟を狙ってるんだ! やばい、弟は間違いなくこっちに向かってる。鉢合わせしてバトルにでも突入されたらたまったもんじゃ……あ…。
「(や、やばい)」
鼻がムズムズする。布団に縮こまっているせいで、そのふわふわな毛がくすぐったいのだ。が、我慢したいけど……………ッ、だっだ…だめだ…!
「~~ッくしょおい!!」
しかも極め付きの親父風くしゃみ。顔の温度が急上昇したのは布団にもぐっているから、ではない。
「隠れてないで出てこい。恭弥か?! それとも、マフィアの連中か?」
「(…は?)」
いや、意味わかんないから。なんで空き巣にマフィア呼ばわりされてるの。いやまずなんでマフィアっていう選択肢が出てくるの?
と。
「!! うわあああああ!!!」
突然、ほんとに突然。掛け布団がきれいにひっぺがされ、わたしはあっけなく空き巣に見つかった。酷いよ普通だったら「ひっぺがすぞこのやろう!」とかとりあえず一言くらいあるもんじゃ…ない、のかな。
まあなんにせよ最悪の展開、見つかった、のだけど…。
「!? な…お、おんな…」
この空き巣、外国人? 偏見というわけじゃないんだけど、どうも日本人には見えない。しかも顔が……超かっこいい。弟と同じくらいかそれいじょ…って、なんでここで弟が出てくるんだ。いや、そもそも格好いいとか外国人とか空き巣の職業に就いてる人には関係ない情報だ。
「アンタ誰だ?」
流暢な日本語で問われたわたしは、ここの家主の身内であり少なくともこの男より強い権限を持っているにも関わらず、
「雲雀ななし、です…恭弥くんの、姉やってます」
「な……」
素直に(しかも超小声で)答えた。対する空き巣は目を丸くしたものの、すぐに慌てて「すまん!」と謝りだした。何か盗んだからか…と思ったけど、理由は別だった。
「まさか恭弥に兄弟がいるとは思わなかったんだ。ていうかよく考えたら俺のほうが怪しいよな」
「は、はい…いえそんなことは」
「はは、恭弥とは別のタイプなんだなななしは」
「(早速呼び捨て?!)」
男の人は「ディーノ」と名乗ってくれた。弟の家庭教師らしい(初耳すぎるんだけど!!) どうやら空き巣ではないらしく、弟を訪ね不在だと思い、試しにドアノブを回すと開いたので、慌てて入ってきたそうだ。……何故そういう判断になったんだ。わたしがそう思ったのを察したのか、ディーノさんはフッと笑んだ(ドキー! なんだこの爽やかさ!)
「当たり前だ、恭弥は俺の生徒だからな。それに…」
「それに?」
「…いや、気にするな(この姉貴は知らないみてぇだし) ところで恭弥は……」
「あ、学校です」
「で? ななしは学校に行かないのか?」
「はい、今日は学校を休みました。あ、どうぞ」
「ああ、悪いな」
布団の上に正座するわたしに促され、ディーノさんは側にある椅子に腰かけようとした。が、どうしてだろう、本当に意外なドジをこのイケメン家庭教師はふんだのだ。普通の椅子なのに何をどう間違えたのか、足をすべらせ布団にダイブしてきた。
「いってぇ!」
「わっ! だっだいじょぶですか…ていうか今何が起こったんですか…?」
「わ、わりー…足すべった(そういやロマーリオいねーんだった!)」
「すべったんですか…あ、何か落としましたよ」
ディーノさんの懐から落ちた何かが、掛け布団にぽとりと転がった。それを手にしたわたしは、はじめ自分の目が信じられなかった。ずっしりとした重さで、黒く光っていて、……テレビや映画でしか見かけない、日本の一般市民にはゆかりのない武器。
「こ、こここれじゅっ銃……」
「あっ!!」
「でぃ、でぃーのさん……もしかして」
そこでハッとした。最近ここいらで、不審者の目撃情報が相次いでいるのだ。
不審者、と、この、「自称」弟の家庭教師。おまけにこの銃。この重さで偽物とは思えないし偽物を持つ理由がわからない。
や、ば、い。
「ふぎゃああああああ!!!」
「あっおい!」
逃げようとしたわたしだったけど、まだ銃を握っていたことに気づかなかった。そしてディーノさんはそれを取り上げようと手をのばすが、再び足をすべらせる。
「うわっ!」
「グフ!」
ディーノさんが全体重をかけてわたしにのしかかった。なんなんだこの人!! やっぱ人って第一印象が良いほど悪いって本当なのか? これ見かけ倒しってやつ? 空き巣疑惑だったりドジふみまくりだったり、それで家庭教師つとまるのかな。
「お、お、も…!! ちょっどいでくだ…!」
「すっすまん!」
銃をわたしの手から離し、懐になおす。それからディーノさんはよっこいせと体を起こした。一見痩せて体重がなさそうに見えたけど、やっぱりあるものはあるんだ、とこっそり思った。ふう、と大きく深呼吸をしながら、なんとなくドアを見る。
「!!!!!」
お、弟がいるんですけどーーーーー!!! いつの間に?!! 全然気づかなかったっていうか声くらい出してくれてもいいじゃないか、幽霊かと思ったぞ!!
固まったわたしに気づいたディーノさんも、弟の姿にぎょっとしたようだ。
「……………」
弟はわたしとディーノさんを交互に見るまでもなく、元々細く切れた目をいっそう細くした。そりゃそうだ、この体勢、いちいち視線を変えなくても視界に一緒に入るほどの距離だし。
そして低い声をこちらも、さらに低くする。
「姉さんに何してるんだい跳ね馬」
「恭弥くん誤解だよ!」
「そうそう、違うんだ恭弥」
「離れろ」
「! ぐっ!!」
常備のトンファーで頭を狙われたディーノさんだったけど、すんでのところで腕を交差しそれを防いだ。これ以上弟に暴れられたら困るし収拾がつかない。わたしは急いで立ち上がり暴走する弟を制した。
「まっ待ってってばきょ…」
その時、いきなり頭に鋭い痛みが走った。ゆらゆらと世界が歪んでいく。弟の顔がぼやけている、のは、なんで……? 酔ってるような感覚で、気持ち悪い。
「ななし!」
ディーノさんが呼んだ声が遠くからのように聞こえた。
頬を何かあたたかいものがつたっていて、それが手なんだ、というのはなんとなくわかった。その温もりが心地良い。うっすらと目を開けると、弟がいた。
「!?」
正確には弟の顔が、だ。
「ちっっちちちちかい!!」
「起きた?」
「起きるよそりゃ!! なっ何を…!」
「勘違いだよ。熱が下がったか計っただけさ」
「…それなら体温計つか…なんでもないですごめんなさい」
寝込みは襲わないように心がけてるよ、と弟が平然と口にするけど、うん、今はスルーしておこう。大丈夫だ、わたしだって弟と血がつながってるんだから多少なりともそういうパワー的なものはある…はず。ちなみにわたしのそのパワーが全部弟にいっている場合は想定しないようにしている。
そんな弟が話すには、あの後わたしは高熱を出して寝込んでしまったそうだ。ディーノさんは事を荒立てたことを謝罪し「また来る」と言い残し(弟は来なくていいと断固拒否したらしい)家を出ていったとか。そして今は昼を過ぎ夕方の時間帯だった。どんだけ眠ってんだわたし。でもそのおかげか、とても痛かった頭は異常なし、肌寒さも治っている。
「学校には戻ってないの?」
「戻れるわけないよ、こんな姉さん残して」
「(こんな…)…す、すいません……。それにしても来るの早かったね」
「電話で騒がれた挙げ句途中で通話が切れたら誰だって急ぐさ」
「…ほんとすいません…」
わたしは人生一度も弟に逆らえないんだろうな、なんてこっそり涙しそうになった。まあいいけど。
それに。姉としてはなんだけど、こう、頼りがいのある弟で良かったなあとも思ったのだった。きっとこんな「恭弥」はわたししか知らない。
そう思うと、なんだか嬉しい。
「今日はゆっくり休みなよ」
「うん…ありがとう」
弟に優しく頬をなでられ、わたしは照れ臭そうに微笑んだ。
熱が出てしまったわたし
「…あれ? なんかまた顔近くない?」