復活:雲雀(姉さんヒロイン固定)
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「姉さん、早くして」
「わっわかってる…! ああっ、原稿部屋に置いてた!」
「………何やってんの」
「(ひい!) ごごごめんなさい!」
ひばりねえのまいにち
卒業生代表として原稿を読んでほしい、と言われたのは他ならぬ弟からだった。それぞれの卒業生がどんな高校生活を送っているのか、在校生に発表するらしい。もちろんわたしが在校生だった時も、毎年卒業生が何名かやってきて体育館でしゃべってくれた。その立場が逆転しただけだ。まあ、他ならぬ弟のお願いだし、日頃中学のことを話してくれないので、これも良い機会だ。久々に母校を訪ねようっと。
ちなみにその日は高校ではわたしは公欠となっている。きっと弟がすぐに中学校と高校に連絡したんだろう。…相変わらず手の回しが早い。
そしてようやく準備が終わり、苛々が目に見えている弟の元へ急いだ。
「講義は一時間目って言ったよね。早くしてくれない?」
「は、はあ……でもそれなら、別にわたし待たなくて先に行けば…」
「なんか言った?」
「イッテマセン」
トンファーをちゃきっと構える弟に、即座に前言撤回するわたし、これでも姉。弟とはいえさすが不良の頂点、実の姉にも容赦ない。といっても実際殴られたり暴力をふるわれたことは一度もないんだけどね。殺気や暴言なら何千回もあるけど。
結局弟の背中にしがみつきながら、わたしは朝イチで懐かしの中学校に登校したのだった。
「わー懐かしい!」
並盛中だー、とはしゃぐわたしに、弟は「当たり前」と冷静に返した。いやいやわかってないねえ、卒業してからの中学は、今まで見ていた中学と同じようには見れないのだよ! それに、他の中学じゃあすっかり変わってしまった生徒たちの服装だって、ここではわたしがいた時と同じ、そんなに乱れてない。
「きっと恭弥くんのおかげだね。並盛中は、ずっとこのままであってほしいなあ」
「…姉さんがそう言うなら、ずっとこのままにするよ」
「あはは、………恭弥くんだもんね(絶対可能だこの子なら)」
しかし、いつまでも外をウロチョロするわけにはいかない。次第に増えてきた在校生が、わたしをちらちらと見るようになっている。そしてその人たちに決まって言う、弟の台詞。
「何見てるのさ」
「すっすみませんヒバリさん!」
「おはようございますヒバリさん!」
すっごい機嫌悪そう。そりゃそうだ、登校時間のピークとはいえ「群れ」が目の前に広がってるんだから。でもこれくらい許してあげなきゃ。
それにしても、いやあ並盛中の女の子はレベルが高いなあ。おしゃれだし笑顔がかわいいし。
「姉さん、不気味だよその顔」
「ぶ…!? …妹がいたらなあって思っただけだよ」
「……………」
「…恭弥くん?」
「僕はいなくて良かったよ」
「ええええ」
眉をひそめ、ムッスーとした表情のまま、弟はわたしの手首をつかむと歩き出した。そして職員用の玄関から入ると、スリッパを用意してくれる。
「あっありがとう」
「どうせ姉さんのことだから、スリッパ持参してないんでしょ」
「…………(かわいくない、当たってるだけに余計に)」
そして応接室に通されると、わたしはソファに腰をおろした。うわあ、フカフカだ…! すごく気持ちいい。ネコバスってこんな乗り心地なんだろうか、なんちゃって。そういえば弟…もとい風紀委員長はよくここで仕事とかしてるって聞いたな。うんうん、たしかにここだったら仕事に集中できそう。……ていうか「仕事」って何やってるんだ、この子は。姉のわたしですらまだ学生なんですけど。
そんな感じでゆったりとくつろいでいると、チャイムが鳴った。時間からして、SHRだろう。なんとなくソファから立ち上がり窓際に寄ってみると、グラウンドでは小走りの生徒やリーゼントの風紀委員に呼び止められる生徒がいたりと、ちょっとした騒ぎだ。…ん?
「あ」
「どうかした?」
「え? あー、あれ、沢田くんだと思って…」
「……だから何」
なんだこの子は、自分から聞いておいてその切り捨て。ちなみに当の沢田くんは、見るからに慌てて走っていたが、そのうちすってんころりんとグラウンドのど真ん中でこけていた。
「あはは、沢田くんってよく遅刻するの?」
「知らないよ」
「…?」
ぶっきらぼうな返事だけど、どこか子供みたいだ。弟ならではのジェラシーってやつですか。まあ本当に知らないっていうのもあるかもね。他人には興味ないって日頃から言ってたし。
「ていうか……恭弥くんはここにいていいの?」
「当たり前でしょ、僕は委員長だよ」
「いや、そうじゃなくて。委員長っていっても生徒でしょ、教室に戻らないとSHR始まるんじゃない?」
「いいよ、気にしなくて」
スッと立ち上がった弟は専用の事務机から離れると、わたしのいる窓ガラスにまっすぐ歩み寄り、両手をついた。ガラスにへばりついて焦るわたしをそうやって囲むと、口端をゆっくりと、少しだけ上げる。
「姉さんといるほうがいいから」
「…………そ、そうですか」
これで弟だもんなあ、もったいない。身長もいつの間にやら追い越されて今ではあちらのほうが高いし。
「…背高くなったねえ」
「うん」
「………」
……でもね、そろそろ悠長なこと言ってられないみたいだ。二人きりで密室ということに、あちらさんはどこか嬉しそうなのだ。気のせいか窓ガラスに追いつめられているわたし。横にずれようとしても弟の長い腕が邪魔をしている。
「…ていうか離れてくれないかな恭弥くん、やばいよこれ」
「どこが? 問題ないよ、姉弟だから」
「え、ええー…?!(こういう時だけ姉弟っていう単語使うのずるくない?)」
というか、姉を窓ガラスに追い込む弟なんてそういないと思う。気のせいか顔がぐぐっと近づいてきてるような、ていうか確実にしてる!!
「コッコラ! いい加減にしなさいっ」
「何照れてるの姉さん、外国じゃ当たり前だよ姉弟でキスなんて」
「ここ日本! ジャパン! ジャッポーネなの! ていうか何今なんて言ったキスって言った?!」
「うるさい」
うわあああやだああたとえ美形でも身内のしかも血のつながってる弟とキスなんて罰ゲーム以外の何ものでもないっ!! きっとカメラがどっかひそんでんだそうに違いない!
そして、非力ながらも必死に弟と攻防戦をくりひろげているわたしのもとに、
「委員長、そろそろおじか」
リーゼントの方が、勢いよく応接室に駆け込んできた。よほど時間がおしているのか、息を切らしてまでお知らせにきてくださったようで。
だが、しかし。彼が見たのはその風紀委員長が実の姉を窓に密着させて楽しんでいる風景で。あれ、風紀乱してるの委員長じゃね?と思ったに違いない。
「……君、ノックも無しに入室なんて良い度胸してるね」
「…! しまっ…いやっすみません!」
「うるさい黙れ咬み殺す」
きっと彼の、今日の星座ランキングはビリに違いない。
臨時中学登校したわたし
講義…といっていいものか、とりあえず自分のお仕事は無事、きちんとできました。