復活:雲雀(姉さんヒロイン固定)
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「きのうさあ」
2学期が始まり、友人と夏休みの登校日以来再会した。
放課後、友人宅に遊びに行く(弟には再三女友達だと説明したけど…信じてもらえてる、はず…!)
みんなが大好きな、某スティックのお菓子を口にしながら、友人が言った。
「すごく怖い夢見ちゃった」
「へえ、どんな?」
「それがさー! 男に首を絞められる夢なんだけど、それが殺人鬼で、警察が家になだれこんで……っていうところで起きたんだよね」
「うわ、めっちゃ怖…! 正夢にはならなそうだから、よかったじゃん」
人に話せば、その夢は正夢にならないと聞いたことがある。
友人はウンウンと頷きながら、
「でしょ。それがまたリアルすぎて、深夜に目が覚めちゃったんだけど、どうにもこうにも怖くて……つい…」
「……」
「………え」
「………」
「…ちょ、つい、何? 気になるじゃん!」
「……うう…」
彼女は恥ずかしそうに、「親のベッドに入った」と白状した。
私は彼女の顔が面白くて、プッと吹き出してしまった。
「何それ! お嬢さん、それ予知夢かもしれないねー」
「ばっかにしないでよ!! ガチ怖かったんだから! ななしに気持ちなんてわからないんだから!」
「ごっごめん、ごめん」
逆切れに近い感情を露わにされ、お菓子とともに避難する。
それにしても、怖い夢ねえ……。
「最近、見てないなあ…」
「…ふーん。最近ってことは、ちょっと前は見てたわけ?」
「まあね。夏は特に、ホラー特番があったから……」
瞬間、背筋に悪寒が走った。
やばい。
まずいものまで思い出してしまった……!
「ちょ…ななし、すごい汗と涙だけど大丈夫? ていうかなんで涙?!」
「はは…我が生涯最大の選択肢ミスを思い出しちゃった…」
さかのぼるは、2カ月前のとある夜。
弟が留守の中、とあるホラー番組を見た。
幽霊のドアップ顔。
「ギャアアアアア!!!!」
俳優及び声優の絶叫。
『ヴワアアアアアアアッ!!!』
「うわばバアアアア!!」
そしてとどめに、番組終了後の家鳴り。
「ぎぇええええ!!」
瞬間、台所の塩を片手にベッドへ潜り込んだ。
「…失敗した…失敗した…!」
一人でホラー番組を見てしまったこと。
お風呂に入る前に、風呂に幽霊が出た内容をしっかり見てしまったこと。
何よりも、自分自身がホラーに弱いとわかっていながらも、あえて見てしまったこと。
「恭弥くん…なんで帰ってこないんだよ…もお…!」
いつもはあれだけベタベタしてくるくせに、肝心な時は、いてくれないんだから…なんて、八つ当たりもいいところだ。
しかし、それだけ心細かったという証拠でもある。
バラエティー番組にテレビを切りかえて、ひたすら弟の帰りを待つ。
そういえば弟から連絡ないなあと思った矢先、早速携帯が鳴り響いた(ビクッてなった…!)
「もしもし!」
『遅くなった。今から帰るよ』
「うん!」
『………姉さん、どうかしたの?』
「え? あ…いや、なんでもないよ。なんで?」
『……それなら、いい。それじゃ…』
「あ、恭弥くん!」
しまった。
また1人きりになるのが怖すぎて、うっかり呼び止めちゃった。
すぐに思ったけど、もう遅い。弟は『何?』と柔らかく問いかける(うわあああ)
私は1人で慌てて、1人で観念して、「そのう…」なんてモジモジしながら、それでも本心を打ち明けた。
「…気をつけて…だけど、はっ早く、帰ってきてね」
『………うん。すぐに帰るから』
通話を切られる瞬間、バイクのエンジン音が大きくなった気がした。
弟が帰ってきたのは、それから3分後だった。
玄関で靴を脱いでいる弟の姿にホッとして、思わずかけ寄る。
「お帰り、恭弥く…!?」
玄関に上がったかと思えば、突然ぐいっと引っ張られた。
思わずよろめく体をしっかり抱きとめたのは、他ならぬ弟。
そして、ぎゅう、と強く抱きしめられる。
まさかの展開に仰天したものの、実は人肌が恋しかったため、そのままにしておいた。
「……ごめん、遅くなった」
「(あれ…?)」
なんだか、落ち込んでる。
私がいつもと違うことに気づいていたみたい。さすがだな…弟よ。
「ううん、大丈夫。十分早いから」
「…リビングに行こうか」
「あ、そうだね」
リビングのソファに、今度は2人で腰掛ける。
テレビでは、有名なお笑い芸人が司会者からいじられて躍起になっている。
隣に座った弟は、私の頬に手を添えた。
「姉さん…何かあった?」
言外に「いつもと違う」と含ませているんだろう。
そりゃそうですよね。いつもの私なら、抱きしめられたらベリッとはがす行動とるもんね。
距離が近いし、頬をなでる感触は心地いい。
まるで恋人みたいな状況に、思わず赤くなるけど、弟の目は私を心配そうにとらえていた。
つまり、“弟”として純粋に心配している、と(勝手に)判断した私は、相手の顔を気まずそうに見上げた。
「あの、ね?」
「うん(きょうの姉さん、いつもより可愛い)」
「笑わないで、くれる?」
「僕が姉さんの話で笑ったことある?」
「ほとんどないね(よくも悪くも)」
「うん」
会話のキャッチボールを済ませた私はいくらか楽になり、一息ついてから、話し出した。
弟は静かに相槌を打ってくれて、話が終わると納得したように「ふーん」と言った。
「それなら、一緒に寝る?」
「え」
「怖いんでしょ」
「…も、もう怖くないよ…」
正直、弟と一緒に寝る方が色々と怖い。
しかし、奴は強かった。
「…じゃあ、僕もう寝るから」
「え、あ」
つい。
つい、弟の着ているブラウスを握りしめる私。
それはもう、明らかに「一人にしないで」コールに等しく。
弟は嬉しそうにニヤリと笑った。
「我慢はよくないよ」
……きょ、きょうくらい…いいよね…!
恐怖に負けた私は、弟の甘い罠に自ら飛び込むことを選んだ。
それでも念押しで、弟に問いかける。
「ぜ、絶対に何もしない…?!」
「心外だね。僕が今まで姉さんに何かした?」
「…してない、けど、……うん」
「しそうになったことは、たくさんあるよね!!」と続きそうになった言葉を飲み込む。
諦めよう。
そして弟を信じよう。
「…ん…ふぁあ…」
安心した途端、あくびが出て、まぶたが重くなる。
冷蔵庫からミネラルウォーターを持ってきた弟は、私の体にぴったりと寄り添う形で座った。
体の半身が弟の熱で温まる。
「僕が運ぶから、眠いなら寝なよ」
「うー…いい…よ…」
「姉さんの強がりにはもう慣れてるから。…そういうところも好きだけど」
「え…ごめん、聞こえなかった…」
「なんでもない」
私が1人で怖い思いをしたのが原因なのか、弟がいつもより優しい。
それが妙に心地よく、私も自然と甘えてしまう。
弟の肩に頭を乗せると、くすりと笑った声がした。
「心配しないで。僕は姉さんの隣にいるよ。ずっと」
「うん…ありがとう」
額にかかった前髪を、手のひらでそっと上げられる。
あらわになったそこに、エアコンの風が当たる。
「(あ…涼しい)」
……かと思ったら、一点に熱い何かが触れた。
しかし、まぶたを開けるほどの元気もやる気もない。確認する気すら起きない。
「これくらい、いいよね」
「弟の声が、頭上から聞こえた」。
そこまで考えるのが、限界だった。
「……ちょっと、ななし?!」
友人の声で、我に返る。
いかんいかん、ちょっと思い出しすぎちゃった。
「…あ、ごめんごめん! あはは」
笑ってごまかそうとしたものの、友人は強かった。
「あははじゃないっての。で、実際何があったの?!」
目をらんらんと輝かせる友人に、引きつった笑みを浮かべる。
「もしかして、例の弟くんと一線超えちゃったり?!」
瞬間、飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。
こっこの女、何言っちゃってんのおおお!?!
「そっそんなわけないでしょおが!!」
「あー…その慌てっぷり、怪しすぎだしぃ。さあさ、おねーさんに白状しなさい!!」
「だーれが! ていうか、白状することないからね!」
ちぇー、とつまんなさそうにストローを噛む友人を盗み見て、ほっとする。
だって、今考えると、あの額に当てられたものは……
「……(いや、なんでもない。なんでもないんだ、あれは)」
それに、弟の言葉。
「(あれは夢だ。忘れよう)」
そう割り切りたい気持ちがあるのに、あの後に続いた言葉は、ぞっとするくらい現実的だった。
「だから、姉さんもずっと僕の隣にいるんだ。ずっと……ね」
I Love you.=「隣にいてください」