復活:雲雀(姉さんヒロイン固定)
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「い、いらっしゃいませぇー…!」
「いっ、いらっしゃいませ!!」
ひばりねえのまいにち
バイトを始めて早数日。わたしは相変わらず挨拶が微妙で、新人くんに申し訳なかった。新人くんは今日から入った男の子で、なんでも以前このお店を壊してしまったらしい。わたしはまだ少ししかいないからその経緯は知らない。
ちなみに全てをバラすと、ここはケーキ屋さんで、わたしはバイトを始めた。勿論弟には内緒。志望理由が「ケーキがタダでテイクアウトできるという噂を聞いたから」なんて不純すぎる為、お店にも弟にもこれも内緒だ。しょうがないでしょここのケーキすんごい美味しいんだから…! そして噂は事実で、わたしは昨日もチーズケーキをお持ち帰りした。このバイト、天職!
ただ、一つまずいことがある。新しいバイトくんの教育係になってしまったことだ。人に従うことは多々あれど(主に弟)人を従えるなんて慣れないものだから、さっきみたいに挨拶連呼でも失敗する。さらに新人くんに「うわあ…」という表情を浮かべられ、ショックを受けた。
「沢田くん、雲雀さん、休憩入っていいよ」
「あ、はい…」
「えっ…!?」
先輩の呼びかけに対しての対応がそれぞれに違った。わたしは了解だったけど、バイトくん…いや、沢田くんは仰天して、先輩ではなくわたしを見ていた。
「ひ、ひばりって……(あ、いやでも名字が同じだけかも、きっとそうだ)」
「? わたしの名字、どうかした?」
「いえっ、すいません なんでもないです」
「じゃあ休憩室行こうか」
沢田くんはわたしほどではないけど大人しい男の子で、そのほんわかさが和んだ。中学生としかわからないけど、年下なのは間違いない。ああ、どこかの年下とは大違いな…。
休憩室はわたしと沢田くん以外誰もいなかったし、彼がなんとなく話しやすいイメージだったので、わたしは少し緊張しながらもいろいろと話しかけていった。対して沢田くんも、緊張しつつ答えてくれる。
「沢田くんの学校はバイトしても大丈夫なんだね」
「あ……いや、わかんないです正直。バイトの許可は風紀委員にもらわなくちゃいけないみたいなんですけど、今回それをしてないまま急遽やってきたんで」
ていうか気づいたらここにいました、と泣き笑い的な表情を浮かべる、ツンツン頭の少年。気づいたらっていったいどういうことなんだ? それよりもこの、文字通りツンツンしてる髪型だけど、性格はむしろ逆で、なよなよしいというか。初対面のわたしでも、ああこの子苦労してるのね、と同情したくなる気分に陥る。それにしても、バイトの許可は風紀委員か……………ふうきいいん?
そういえば沢田くんは今私服だから中学がどこかわからない。もしかしたら、と思い試しに聞いてみると、
「並盛中です」
「……………ああー……あの……お世話になってます」
「な?!!(何いきなり!?) なんでお世話って、雲雀さ…ん? …え?」
どうやらわたしの名字と並盛中に、何かが結びついたらしい。さっきまでにこにこしてたのに、突然青ざめながらわたしを見る。
「も、もしかして雲雀さんて……!!」
「はい、雲雀ななしです。雲雀恭弥くんの姉です」
「えーーーーーーーーーー!?!!」
驚きすぎた沢田くんは椅子から勢いよく立ち上がり、一歩後ろに下がろうとしたものの、その椅子が倒れたことによりその脚につまずき、結果尻餅をついた。そ、そんなリアクション予想してなかったんだけど! カミングアウトのレベル高かったのかな?
「そ、そんな…ヒバリさんにお姉さんがいたなんて(初耳すぎる…! もしかしてリボーンも知らない情報なんじゃ)」
「えへへ、顔にてないでしょ」
「あ、はい……あっいやっそういう意味じゃなくてっ。でも、びっくりしました。ていうことは、先輩なんですね」
けれど沢田くんは、はははと軽く笑うと、さっきと同じように接してくれた。てっきりビクビクしながら……かと思ったんだけど、ちょっと嬉しいな。
「でも、雲雀さんは、ヒバ…弟さんと違って…」
「あ、ななしでいいよ」
「あっありがとうございます。えっと、その、ちなみにななしさんはヒバリさんみたいにトンファーとか、そういう武器みたいなものは……」
「え? ううん、ないよ。わたしは恭弥くんと違って、一般人なので。…だから、いつも恭弥くんに逆らえないんだ……ハハ…」
「は、ははは………(うわあ、ヒバリさん最強すぎる…) ていうか、呼び捨てじゃないんですね」
「うん。呼び捨てしたらすっごく怒るの、おかしいよね、普通弟なんだから呼び捨てオッケーでしょ?!」
「は、はい…!」
自然と口調がきつくなってしまった。慌てて沢田くんに謝っていると、店の外がなんだか騒がしいことに気づいた。それはわたしよりも沢田くんのほうが反応が早くて、急いで休憩室を出る。
いつの間にか店中を占領しているのは、化粧の濃い女子高生グループと、どうやら知り合いらしい不良の高校生グループ。げらげらと笑いながらケーキを眺めたり指さしたり、はたまたケーキそっちのけでしゃべったり。でもそれはかまわない、だってお客さんだもの。
問題は、他の、つまり赤の他人のお客さんへの態度。ようはちょっかいというやつだ。私服の男の子に向かって、制服姿のカップルが大声でしゃべり出す。
「あれっなんかアイツに似てなァい?!」
「マジそうじゃね?!」
「もしかしてェ兄弟とかだったりしてー」
「ぎゃはは、マジうけんだけど!」
「えー?! やーだーかわいそすぎる!」
お、おのれら……いくら社交的すぎるといっても、それは好意的とはとうてい思えないぞ。男の子も、すごく不快そうな表情だ。だがしかし、わたしはケンカの部類は全て苦手だ。ここで注意なんてしようものなら………うう、ごめんなさい、腰抜けです。
隣にいる先輩はできるだけ見ないように、レジのほうに集中したり。はたまた店長は奥に引っ込んだり。……みんな、わたしと同じ。
「あ、あのななしさん…これってどうしたら……」
「え」
沢田くんは、オロオロしながらもわたしに相談をもちかけた。……………すごい。逃走寸前だったわたしの心を見事にキャッチしてみせたぞ、この子。沢田くんだけだと思う、この中で、あのお客さんをどうやって守ろうかと考え出したのは。
そして、調子のいいわたしはみるみるやる気が出てきた。年下の弟分(勝手に呼ぶのもなんだけど…)の手前、逃げるわけにもいかない。
「こ、ここは、注意を…するしかないよっ」
「えっちょっ…!!」
大丈夫、相手は同級生だけど顔見知りじゃない。多分からかわれることもない。まずいのは言い返されることだけど、今の状況じゃあどう見てもあっちのほうが悪いに決まってる。がんばれ、わたし!
ケーキの飾られているショーケースから出て、わたしは直接その三人と対峙した。男の子だけでなく、高校生カップルもちょっとは驚いたようで、わたしをジッと見ている。そんな中、わたしはどきどきしながら口を開いた。
「あの、お客様。店内でのお客様同士のトラブルは、他のお客様へのご迷惑になりますので……」
「は? 意味わかんないし」
いち早く復活したのは、高校生の彼女だった。うわーきたよ今時の若者が真っ先に発する反論。意味わかんねーのはその化粧具合だよ何その原始人スタイル?!とどこかの漫画のようなノリでつっこみたい。続いて彼氏も復活したらしく、オウオウとわたしを睨め付ける。
「つーかトラブルって何? 俺らなんもやってねーけど」
「だ、だから……さっきみたいに、他のお客様にちょっかいを出すのは…」
「別にちょっかいじゃねーし。良いじゃん思ったこと素直に言っただけだっつの。つーかァ、あんたは黙ってケーキ売ってりゃいーんだよ」
「そーそー」
ちっくしょう、なかなか言い返せない。これも日頃から弟に口答えしなかったせいか、うまい言い返しができない。かといって一時のノリに任せて暴言をはくのも嫌だ。そんな間にも、相手は「オーイけんちゃんたくじぃ」と仲間を呼んでいる、ってエエエエエ!!!? 何あのスキンヘッドと……レゲエの人?
「この店員意味わかんねーこと言ってんだぜ」
「マジー? やべーじゃんこの店、店長呼べよ」
「てっ店長…?!」
「たりめーだろ、客に不快な思いさせたんだからソンガイバイショーだっつの」
明らかに損害賠償を脳内変換できてないイントネーションだったけど、向こうは仲間で意気投合していた。ああもう、やっぱ沢田くんにいいとこ見せようとか思うんじゃなかったあ………。
「や、やめろよ! ななしさんは悪くないだろ!」
「さっ沢田くん」
その時背後から声を荒げてきた、沢田くんは、わたし以上に真っ青だった。怖くてしょうがないという感じだ。それでも、彼はわたしをかばってくれたのだ。
だがしかし、彼らは沢田くん、つまり男には容赦なかった。ガッと胸ぐらをつかみ、わめいたのだ。
「テメー中坊だろ?! 年上に逆らってんじゃねーよ!!」
やばい、このままじゃ沢田くんがケガするかもしれない。慌てたわたしは、その男の腕を強くつかんだ。
「やっやめてください!! 警察呼びますよ!」
しかし、その腕を別の男、さっきのスキンヘッドが力強くはがした。手首が痛い。
「うるせーな、ブスは引っ込んでろ!」
「ななしさん!!」
「っわ……!」
そのままブンッと力任せに投げられ、勢いよく尻餅をついた。
「………何やってんの」
……はずだった。
どうして、弟がここにいるのかがわからなかった。尻餅をつくはずだったわたしの体は誰かに背中から体当たりしてしまい、けれどその壁は強くて、揺らぐこともなかった。そして声は、あの、すごく不機嫌そうなもので。
弟は、わたしの疑問を見透かしたかのように、ぽつりと呟いた。
「並盛の生徒から通報があってね。最近ここの秩序が悪くなってるって」
「つ、つうほ…(アンタは警察かーーーー!?)」
「沢田綱吉」
「はっはひ!!(って俺はハルか?!)」
「……姉さんのことブスって言ったの、どこのどいつ」
「え…」
「…え、と……多分あのスキンヘ」
「グギャア!!!」
「んなーーーーーーーーーーーー!!!(瞬殺!)」
「並盛の秩序と……僕の機嫌を損ねる者は全てこの場で咬み殺す」
弟が手を挙げた瞬間、その背後からリーゼントの集団がいっせいに入店してきた。その姿も雰囲気も怒声も迫力があって、誰もが唖然呆然としている中、その集団はあの高校生たちだけをひっとらえ、お店の外に引きずり出した。
「す、すいませんでした……許してください…!」
さっきとはえらい違いだ、リーゼントに囲まれ恐縮する高校生たち。弟はトンファーを手に持ちながらギラギラした目でその獲物を見ていたけど、ふとその輝きを止め、わたしに振り返った。
「どうする、姉さん。こいつら殺していい?」
「咬み殺すんだよね? 殺すんじゃないよね? いや咬んでも一緒だけど、でも咬み殺すのほうだよね?」
「わかった、殺していいんだね」
「うわああああっ、わかったごめんわたしが悪かったです! ………殺さないでください。多分今度からはしないと思うから」
というか、こんな公共の場で見せしめはあまりにも可哀相すぎるし。何しろこの彼らの表情、……日頃からボスと生活しているわたしからすれば、同情以外の感情が浮かんでこない。
「……しょうがないな。姉さんが言うなら、今日はやめといてあげるよ」
「! 恭弥くん、」
「ただし、」
間髪入れずに、弟はジロリとわたしを見た。
「今すぐ辞めるならね」
「……………」
何を、なんてぼけたらそれこそ最期だ。結局わたしは、数日分のバイト料と、ケーキを一つだけいただいて、弟と一緒に帰宅した。明日からはまた暇な日々だ。
だが、帰宅しても弟の機嫌は直らなかった。そんなにバイトをしていたことが嫌だったのだろうか。いやいや、でもケーキ屋は家からそんなに遠くない。夕食だってきちんと作ってる、じゃあ何がいけないっていうんだろう。
「恭弥くん、あの、……怒ってる?」
「怒ってないように見える?」
「見えないです」
「だろうね」
「…バイト、黙ってやっててごめんなさい」
「もう二度としないでね」
「(二度と?!!)は、はい……努力します」
「あと、沢田綱吉だけど」
「え? ああ、沢田くん」
麦茶をコップにそそぎ、弟の前にあるテーブルにことんと置く。弟はそれを一口飲むと、苦い顔をした。ちなみに麦茶は苦くない。
「……なんであいつといたの」
「たまたま、だけど…。なんか、前にあのケーキ屋さんで大変なことやっちゃったみたいでその弁償として働いてるみたい。あっだからね、バイトっていうわけじゃないんだよ!」
「ふーん…草食の肩もつんだ」
面白くなさそうに麦茶を飲む弟。いや、わたしは事実を述べただけなんです。
「それに姉さんのこと、ななしって呼んでた」
「あれは、わたしが恭弥くんと姉弟ってことがわかったからだよ。ほら、沢田くん恭弥くんのことヒバリさんって呼ぶから、わたしとかぶるでしょ?」
「…狡いね」
「何が?」
「なんで僕は『姉さん』なのに、そいつは『ななし』なの?」
「なんでって……」
「………」
「…えっと…あ、そうだ、ならこう考えよう、わたしは恭弥くんだけのお姉ちゃんでしょ。つまり、わたしをお姉ちゃんと呼べるのは恭弥くんだけ。ね?」
「…………」
「…だ、だめ?」
「……しょうがないから、それで妥協するよ」
そうやって憎まれ口をたたくくせに、なんだかんだいってかわいい弟は、さっきよりもだいぶ微笑んでいた。
「要するに、姉さんは僕のものってことだね」
「うんそうそ…えーーーーー?!! そっそれとこれとは……!!」
バイトすらも命がけなわたし
「ちなみに『恭弥くん』はわたしじゃなくても誰でもそう呼べるけどね。…あ、あれ? わたしなんかまずいこといった…えっちょま…!!」