銀魂:神威(同行者ヒロイン固定)
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夕刻も過ぎ、ゴールデンタイムも近づいた時間帯。
上司からもらった(からかい半分であろう)サングラスをかけ、いつもよりもっと地味な色合いの着物を整える。ショーウインドウに映る自分を確認し完璧に「カモ発見!」と言われることのないよう武装をしたわたしは、フンッと鼻息荒く江戸の街へ踏み出した。
そうしてしばらくテクテクテク、となんとなしに歩いていた時、神威さんに同行して何台目かのケータイが鳴った。上司からの着信だ。
「はい、ななしです」
『江戸に着いたか』
「はい、着きました」
『今どこにいる?』
「え? えっと……どこですかね、ここ」
『……………』
「…………」
『…………』
「あっあの! わかりました、多分! なんかちょっと歩いたところに万事屋とかいう看板が」
『知らねーよ! 何やってんだ、地図見て言えばいいだろうが』
「ち、地図なんていつも見てませんもん……」
いつもなら、どこに行こうとあの人が前を歩いて、なんなく目的地に着いていた。なのでわたしが今まで地図を見て目的地に向かったことは一度もない。
でも、今日は……今回は違う。
『ハッ。いつも団長に従いっぱなしだからな、おめーは』
「う……」
そうなのだ。今回の任務は神威さんがいない。神威さんは別の任務で、阿伏兎さんという部下の方と別方面に向かっている。それでなぜわたしが同行していないか、それはひとえに「邪魔だから」だ。二人が向かった先はいわゆる戦場。戦闘もできないわたしがホイホイついていったところで刀のサビにされるだけ。
それを先日 軍艦に帰った時通達されて、「しばらくはお休みかな」と喜んでいたところを、「俺が働いてななしが働かないなんてむかつくから、なんか任務やっといて」と、なんと理不尽な命令により、上司が無理矢理わたしを軍艦から追いだしてしまったわけだ。ちっくしょう、ほんとむかつく!! そもそもわたしは同行人、という形で今までやってきたわけだから、今回同行しないなら任務なんて参加しなくていいでしょ!
『何黙り込んでんだ。ボーッと突っ立ってんなら、地図開いて店探せ』
「わかりました…。……あれ」
懐に手をいれ、地図を探す。
……見あたらない。
あれ。うそ。
もしや着替えた時に…いや、きちんと入れ直した。
慌てて振り向いて、今まで自分が歩いてきた道を確認する。…ない。
『ななし』
「………」
『おォい…』
「………」
『ッ聞こえてんのか返事しろやァァァア!!』
「(キーン!!)はっはイいい!!?!」
片耳がダメージを受けつつ、わたしは上司の怒鳴り声に萎縮した。さ、さいあくだ…初っぱなから地図なくした…。
『チッ…。…てめーの目的地はそこら辺じゃ名が知れてるらしいからな、周りの人間に聞いてけ』
「わ、わかりました…ッ!」
ブチッ!!と電話を強制的にきられて、片耳のライフポイントが一気に下がり、瀕死に陥る。ちなみにわたしの心はゼロどころかマイナスきってます。もうやだ。辞めたい。無理だけど。
「はあァ………」
さっきまでの気合いなんか、どこかに吹っ飛んでしまった。
ケータイを握りしめると、わたしは足取り重く、話しかけやすそうな人を探し始めた。
「ようこそ、ホストクラブ・revivalへ!!」
入店早々、金髪の美青年がみすぼらしい格好のわたしを出迎えてくれた。やめてェェェもっと正直な態度示していいから! 「なんでこんな女が入ってくんだよ!」と冷めた目で追いだしてもらってもよかったから!!
そもそもわたしは、目的地・つまり潜入先がホストだなんて聞いてない。上司からは「revivalという店に行ってとある女の情報を仕入れろ」という話を受けただけなのだ。ていうかホストって聞いてたらこんな服着てないしね!! かえって目立つでしょ!
顔中をほてらせるわたしの横を、美青年は営業スマイルを浮かべ進んでいく。
「ご指名はございますか?」
「えっと………あ、はい」
上司に教わった通りの名前を口にすると、テーブルまで案内され「少々お待ちを」と一礼された。指名した人物は、「とある女」が一番指名する人らしい。
その後すぐに、いわゆるヘルプさん(おまけに美少年!)が入り、プロ並みの微笑みでわたしと楽しげに会話をしてくれたおかげで緊張も消えていく。他のテーブルでは「きれいなドレス」だの「この服装は君の為にあるようなもの」だの、服装をとかくほめているホストメンバーだけど、……うん、笑顔はきれいでも嘘は言えないみたいだね、わたし服装ほめられてないよ。
ていうか、こんな美形の人々が集うお店に…まさか任務でとはいえ体験することができてるなんて。ううん、やっぱ服も着替えておくべきだったかな。
「お待たせ致しました」
頭の片隅でこっそり後悔していると、ついに目的の人物がやってきた。ヘルプの人がニコリと笑って「それではお楽しみください」と席を立つ。
かわりにわたしのすぐ隣へ腰掛けたのは、漆黒の髪を短く切った男だった。
「こんばんは」
「あ…はい、こんばんは……、っ!!」
顔を直視した瞬間、息が止まりそうになった。
美男中の美男、と言うべきか。それも、さっきの美少年なヘルプさんがかすんでしまうほど。せっかく解れていた緊張が、再びわたしを縛り付けてしまった。い、いやーこれは…目にかえって悪いかも。多分この任務が終わって外出て男の人たちを見たら、全員可哀相って思っちゃうくらいに。
「今夜はご指名いただきありがとうございます」
「い、いえ…」
「もしかして、何かご紹介などありましたか?」
「え? あ、ああ……」
とりあえず名前だけでも出してみようかと、狙いの女性の名を告げる。
反応を伺うと、「そうですか、あの方から」と嬉しそうに微笑んだ。それだけ。ちょっと残念。
それでも、仕事はきちんとこなさなければ。今まで同行をしていただけ、というわけでもない、こういった情報収集もやったことは結構ある。大丈夫、相手がたかが美形なだけで、通常通りやればいい。
なんとか気を取り直したわたしは、はじめは日常会話からはじめて、ジュースも頼んで、普通のお客さんとして楽しんでいた(今回の任務でかかった代金は、全て上司が持ってくれるらしい! ラッキー!)
相手もわたしをお客さんとしてきちんともてなしてくれるし、甘い言葉も囁いてくれるしで、ああ、やばい。すごい天国かも…!
「ふふ、赤くなってますよ。大丈夫ですか?」
「あ、あはは…。いや、普段こうやって遊ぶこととか、ないですから」
「そうなんですか。お仕事は何をされてるんですか?」
「えっとお……なんというか、わがままな上司に付き合わされて、あちこちついて行く…」
「なるほど、秘書の方ですね」
「え?」
「それなのに、派手な服ではなく、一般の衣装で過ごされるなんて……」
うっとり…としたような まなざしがわたしに降り注ぐ。やめてくれ。誤解に誤解が生じている! 慣れてないの、わたし今までいじめられてたからこんな優しい目で見られるの慣れてないの!
さらに横髪をさらりとすくい上げられ、思わず背筋がのびる。ゾワッとした、何今の。生まれてチョメチョメ年(古いとか言わないで!)こんなことされたことない…ッ!
しかし、その手がふと止まった。
「…おや、これは? きれいなイヤリングですね」
「あ、ありがとうございます…。なんでか知らないですけど、上司からいただいたものです」
これは事実だ。お互いに違う船に乗る時、ほぼ無理矢理神威さんにつけてもらった(任務に邪魔だからって断ったら笑顔で首しめてきたからね、生死軽くさまよってる間につけられただけだからね) なんにせよ結構高そうなイヤリングだけど……。でも、実は気に入ってたりする。
あちらもニコニコと笑みながら、「それは良かったですね」と答えてくれた。
「知ってます、それミルキーオパールですよね」
「へえ、そうなんですか」
「ええ」
そこでスッと、わたしの前にグラスが現れた。いつの間にか空になっていたグラスに、炭酸の液体がたっぷり入っている。なんだか美味しそう。
なんの警戒もなくぐびっと一気のみすると、途端にとても気分が良くなった。
すごーくしあわせ。かむいさんもいないし、じょうしもみてないし。
しまりのない顔をわたしを なでなでしてくれるこの人は、あれ、だれだっけ?
「ところで、俺のお得意様のご紹介で来られたんですよね?」
「はあーい、そうなんデス」
「そうですよねぇ……。ああ、それから」
あまい、あまい声。
それなのに、なんでだろう、どきどきしなくなった。
かわりに、いま、すごくねむい。
「ミルキーオパールの宝石言葉って知ってますか?」
「は……え……?」
口がうまくうごかない。
まぶたが きゅうにおもたくなって、頭がふらふらする。
そんなわたしをやさしくだきとめる、おとこのひと。
………おか、しい。
でも、声にだせない。だめだ、もう。ねてしまおう。
「それはね……」
それにしても。
どうして、そんなにこわい顔をしているの?
ぐうすかぴいと熟睡するななしを抱き上げる男の顔は、醜く歪んでいた。
あの女の紹介で来た? それがそもそもおかしい。
なぜならあの女は、既に一ヶ月前に死んでいるのだから。
黒幕を裏切り自分自身がとどめをさしたというのに、なぜ今さら紹介などと言うのか。
決まっている。あの女が勝手にばらまいてる麻薬を取り返しにでも来たのだろう。
「フ……。間抜けな奴だ」
ホストという稼業も、裏の世界はある。いや、そもそもホストという職業が裏の世界なのかもしれない。金と欲望と嫉妬と、犯罪がうごめく世界。
そんな危険な領地に、目の前で爆睡する女は手ぶらでやってきたのだ。
「どっちにしろ、始末だな」
眠っている間に殺してやるというのがせめてもの優しさだ。今までの客と違ってマイペースで、自分を落としてやろうという気迫も全くなく、むしろ純粋に楽しんでくれている。
それにほんの少しだけ、感謝をして。
その為悲鳴はあげることはないだろうが、念のため店の地下室にこうしておりてきた。今は営業中だから誰も入ってこない。鍵もきちんとかけた。
ここには「万が一客とそういうことをすることになった」時の部屋である為、ベッドがある。そこにななしを寝かせると、ななしはゴロンと寝返りをうった。そしていびきをかく。
「……………ハハ」
嘲笑しながら、懐から短刀を取り出した。
そして両手で柄を握ると、あおむけにしたななしにまたがる。
悪いな、お嬢さん。
「次、生まれ変わったら、飲み物に毒が入ってないか ちゃーんと確認してくださいね」
敬語でにっこりと、見えているはずはないのに微笑む。
その直後、鋭く光る切っ先を、ななしにまっすぐ振り下ろした。
ピシッ。
頭上の、鉄でできた天井が音を立てる。営業中でもどんなに上で足を鳴らそうと、絶対に音を立てない、天井がだ。
それに あまりにも静かな空間であった為、その音は酷く男の耳に残った。
不審に思い、腕を止めようとした瞬間。
「!!!」
鉄の、天井が。
男の脳はそれだけしか考えることができなかった。
顔を天井へと向けた直後、そこの部分が爆発したような衝撃音を立て、破壊されたのだ。無数の鉄のかけらがあちこちに散らばり、煙が立ち上る。
それに、一瞬でも長く目を奪われていたのが命取りだった。
「…!! ッガ…ッ…!」
突然、体に鈍い衝撃が走る。まるで大きな物…車などに衝突をされたくらいに、体が前のめりになる。
同時に、今まで自覚することなく行っていた呼吸がそれにより止まりそうになった。ゴホッゴホと咳をした時、何かが口からはき出される。しかしそれがなんなのか、目をつぶっていた為に確認することはなかった。
「(いったい次から次へと……!?)」
訳がわからず、そっと見下ろしてみる。そして呆然とした。
何かが、突き出ていた。
それは、他ならぬ自分の腹からだった。
真っ赤に濡れた、とがったものが腹を貫通している。
死んだように眠るななしの服を見ると、地味だったはずなのに、今は派手な模様ができあがっている。それは紛れもなく、自分自身がばらまいた血。ふと口から何かが伝っていると気づき手をのばすと、血が出ている。
それを自覚した刹那、体内にたまっていた血がせりあがってきてしまい、ゴフッと吹き出す。
「…な゛……、に………」
「それはこっちの台詞」
ひやりとした、氷のような冷たさが耳をかすめる。しかしそれは実体がない。声だ。男の声が、耳元でする。
確認ができない。首をひねることさえ、できない。今になって激痛が伴ってきたのだ。意識を保つことで精一杯の自分には、この状態でいるしかない。
そんな中なんとか頭を冷やし、疑問を感じた。
なぜ、こいつは部屋に入って……ああ、そうか。
「天井」から、か。
「あーあー…ななしが汚れちゃった」
さっきの氷点下並の声が、ななしを見た瞬間にカランと高くなる。
しかし、それは逆に危機が訪れていることを男は知っていた。ななし、という名なのか。つまりこの侵入者は女の知り合いで、こんなところにまで助けに来るというのならば、仲間か、それ以上か。そんな関係に俺は終止符を打とうとしていた。
「しょうがないなあ……ななしはいつまでたっても半人前なんだから。やっぱり、俺が一生側にいないとダメなんだ」
呆れたとばかりの物言いだが、嬉々とした声だ。表情は依然見えないが、心底怒っているというわけでもなさそうで、男は眉をひそめる。
「……だ、れだ…?」
「俺? 俺は……宇宙海賊『春雨』だよ」
「!!!!」
宇宙海賊。
どうして、ここに。
いや、待て。ということは、この女も…!?
「そうだよ。ななしも俺の同行人で『春雨』。最も今まで雑用ばっかやてたから、戦闘とか全く役に立たないけど」
でも、結構役に立つ時もあるんだよ。
そうフォローする海賊に、男は「嘘をつけ」とニタリと笑った。。しかし顔は血の気がなく青ざめている。正直今すぐにでも気を失いそうだが、これだけ騒ぎを起こせば他の奴らが気づいて助けに来てくれる。それまでなんとかこいつを足止めせねば、と思ったのだ。
「嘘じゃないよ。現に、今こうしてアンタを捕まえてる」
「グアアッ!!」
どうやら腹に刺さっている物体は敵が持っているらしく、ぐりぐりと回転させられた。それにより、今までも十分痛みはあったが、さらに激痛が男を襲う。
「それにしても、よく眠ってる。何か飲ませた?」
「ああ……たっぷりと、…な…」
「そっか。……さて、ななしの話はここまでね。俺、他人がななしのことを話しているとむかつくから」
「ハ…ァ……ハ、ァ……そ、かよ…!」
次いで、瀕死の男に海賊は例の女について尋ねた。男は全く隠すことなく、真相を話す。それを黙って聞いた海賊は、
「ふーん、そうなんだ」
とだけ呟き、なんの前触れもなく、男に突き刺していた物体を勢いよく引き抜いた。ドプッ、と嫌な音が耳につく。穴の開いた腹から、今まで物体にさえぎられていた血液がドロドロとあふれ出していく。
もう、限界だ。全身から力が抜け、そのままななしの上に倒れそうになる。
しかしそれをさせなかった奴が、背後にいた。
素早く横へ回ると、男の胴体を自分の得物で勢いよくぶつける。前に倒れようとしていた体だったが、武器に邪魔され、腹の傷をジュクジュクといじられながら後方の壁にたたきつけられた。
だがそこまでされても、男は痛みを感じなくなっていた。感覚がなくなっている。たとえ指を動かしても、脳が察知してくれない為に「動かしていない」ことになっている…そんな感じだ。
コツ、コツ、コツと靴が、鉄の床を渡ってくる。あっちが向かってきているというのに、なぜか自分が死刑台に向かって歩いているような錯覚が起きる。そんな中、男は誰も来ない味方を疑った。
なぜ、誰も来ない。たとえ地下室だろうが、上の部屋とつながれば音が伝わるはずだ。なのに……。
なんとか首に力を入れ、天井を見上げる。
そこで何かが上の階からだらんと垂れているのが見えた。
「(…あれは、なんだ…?)」
上の階は警備室だ。こういった場所に部外者が入らないよう、地下室の監視をしてもいる。だが、人の気配がない。よくよく見ると、その垂れているものは、真っ赤なもみじに見える。そのもみじはピクリとも動かない。
………まさか、と、そのまま視線を床に落とした。
その、穴の下にある床にだけ、真っ赤な小池ができている。
「……………」
男の視線に気づいたのか、なんということでもないように相手はサラリと説明した。
「ああ。上の人? 殺したよ。でもここの場所教えてくれなかったから、地面叩いてみたんだ。そしたらビンゴだったね」
「て…め……」
「しょうがないだろ。ななしに手を出した奴は、全員殺してるんだから。今までも、これからもそうしなきゃ」
「ハ……ッ、……そ…なん…じゃア、ななしチャン…かわ……そう…だ、ぜ……」
「…………………」
虫の息になっている男の前に立つと、海賊は傘の先端をその脳天に向けた。そして傘の頭ろくろがぱかりと開く。男はかすむ目で、その中にギラッと光る筒をみとめる。
「お前が言うなよ」
筒の向こうには、オレンジ色の髪にニコニコと笑っている海賊が顔を見せる。
男と目が合った瞬間、海賊はスイッチを押した。
頭に衝撃が走った。
痛みは普段ならあっただろうけど、今は感じない。でもそれによって脳は覚醒した。
「……ん…」
……あれ。
何してたんだっけ、わたし…。
頭痛い。寒い。
「あ、起きた」
「………(え…かむ…)」
「あり? 起きてなかった」
「うギャアァァァァ!!」
突然顔の横に、神威さんが蹴りを放つ。その衝撃音で、わたしは完璧に覚醒した。ななななんっなんでだァァァァァア!!! なんで神威さんがここにィィィィィ!!!!
「かっかかかむいさん?!!」
「おはよーななし」
「お、おはようございます…ってそうじゃなくて!!」
なぜ、なんで、どうしてっ!?
だって神威さんは今別の任務に行っているはずで、わたしは…あれ?
「…ここ、どこですか」
そこでわたしは、ここがホストではなくどこかの宿屋だと気づいた。朝日がまぶしい。
朝日? つまり今は、夜じゃなくて、朝だ。
……日にちも場所も変わっていて、神威さんがいて。
わたしは、「眠って」いた。
ということ、は……。そこまでいきつき、思わず生唾を飲み込む。
「あのー…もしかしてわたし…任務失敗しちゃいました?」
「やだなーななし、もしかしてじゃなくて完璧にだろ? 本当に役立たずなんだから」
前半ぐっさり、後半ばっさり。
下の布団に倒れたわたしは、さらに衝撃事実に気づいた。
やけに寒いと思ったら、わたし、着物着てないィィィ!!! なんでェェ!? なぜ下着姿!?!!
「あ、服は臭かったから捨てたよ」
「?!! ギャアアアアアッ!!! こここここっち見ないでください!」
「何を今更」
ニコニコと笑う神威さんは、相変わらず酷い。障子の窓を開けるとそこに腰掛け、赤面するわたしに「大丈夫だよ」と声をかける。
「アンタの裸見て欲情する人は原始人くらいだから」
「!! わァるかったですねェっ!!!」
布団を胸の前にかき集めつつ、枕をひっつかむと神威さんにぶん投げる。それをいとも簡単にキャッチすると、神威さんは畳の上にぼとっと落とした。
「俺、今気分がいいからさ。アンタの聞きたいこと、話してあげるよ」
「え……」
そういえば、まだわたしがこうなった経緯、それから第一になぜ神威さんがここにいるのかがわかっていなかった。
「…それじゃ…。なんで神威さんが、ここにいるんですか?」
「つまんなかったからアンタ追ってきたんだ」
「は?」
「阿伏兎連れて行けっていうから、どれだけ強い奴らがいるのかと思ったらさ。とんだ期待はずれで、つまんなくなったから阿伏兎に任せてこっち来たわけ」
「な、…何やってんですか!? それ、上に知られたら」
「知られてもどうってことない。要は任務が完了すればオッケーなんだし」
「オッケー…って。…いや、そもそも任務放棄しても、わたしの居場所がわからなかったら意味がないじゃないですか」
「わかるよ」
きっぱりと告げられ、わたしはキョトンとしてしまった。
……いや、…そんな自信満々に言われても…。でも現に神威さんは、わたしとこうして会ってるんだし…。
混乱するわたしを知ってか知らずか、神威さんはゴソゴソとズボンのポケットを探った。そして黒い物体を取り出す。
「これ使ってアンタ探したまでは良かったんだけど」
窓から離れた神威さんはわたしの前で腰をおろし、物体の前面をわたしに見せた。緑色のマス目が画面一杯に広がっていて、その中心部分に赤いランプがピコンピコンと光っている。……え、何これ。
これを、使って?
「まさか発信器に盗聴機能までついてるとは思わなくてさ」
「…はっしんき?」
「そ。アンタがまた面白そうなこと起こすだろうから、駆けつけたんだけど。……今回は、面白くなかったなあ…なんでだろう」
最後の一言が、なぜか低い声でゆっくりと呟かれる。ゾクッとするわたしの耳に手をのばすと、神威さんはパチリとイヤリングをとった。
これ、発信器で盗聴器だったのか。なんつうことされてたんだ、わたし。犯罪だろこれェェェ!!(あっ職業が既に犯罪者だった)
内心でそう絶叫していると、イヤリングをとった神威さんの手がわたしの頭部をひっつかんできた。
奴の目が、異様に冷たい。
「随分と、あのホストに口説かれてたね。嬉しかった?」
「え? い、いやあ…ホストってわかりましたから別にそこまで…」
「『そこまで』?」
「いえ!! まったく嬉しくありませんでした! なんかもォ香水くさいわポマードくさいわ口裂け女も真っ青でオンリピック選手並に走り去るくらいの強烈な匂いで…!!」
「そりゃあ大変だったね」
労い度0%の笑顔を浮かべると、パッとわたしの頭を離した。あ、あぶねえ…この人、どこでスイッチの入り切りしてるのか相変わらずわからん…!
その時、ケータイがピロピロと鳴った。それは神威さんのポケットからで、紛れもなくわたしのケータイの着信音だ。
「おはよー」
それを神威さんが出たのだから、きっと上司はビックリしているだろう。ちょっとざまあみろって感じ。思わずニヤニヤ笑って上司の驚きっぷりを想像していると、神威さんと目が合った。
「……ああ、うん。…ななし? いるよ、俺の前で裸になってる」
「!!?! なっベシ!!」
慌ててケータイを取り上げようと身を乗り出したわたしの顔面を、手のひらで叩く。は、鼻がァァ!!
「うん、報告はさっきした通り。だから俺達任務終わったから、次までしばらく休憩くれない?」
「な、なんつうひと…!」
そうか、結果的にわたしも神威さんも任務終わったんだ(阿伏兎さんは本当に一人で全部任務こなしたらしい…お、お疲れ様です…!) ということは、とゴクリのどをならせば、神威さんがそれを見て嬉しそうに笑った。
「ありがと。じゃーしばらくななし…こっちに連絡しないでね」
バキッ。
任務を果たしたとばかりに、ケータイが神威さんの手により昇天する。この人は通話の切り方も知らないのか。もしくは万が一連絡がないように、とか。うん、あり得る。世界は俺のものと考えている人なんだから。
「さて、どこに行こうかななし」
「どこって……。…ほんとに、どこに行っても良いんですか?」
「良いよ。アンタの上司が許可してくれたから」
嘘だ。絶対 強制的にさせたのわかってるから。
でも、今の神威さんはおかしい。今までの彼はわたしと一緒にどこかへ、なんて考えるキャラでは断じてない。全て自分が行きたいところへ、そこにわたしがヒョコヒョコとついていく、そんな関係だったのに。
だから、首をひねるわたしを見て、馬鹿にしたように笑う神威さんを見てなんだかホッとした。そうだ、変に意識しないで、わたしもいつも通り接しなきゃ。
「そんなに笑わないでくださいよ」
「本当に面白いね、アンタ」
「神威さんに言われても嬉しくありません」
「まあまあ。ところでさ、ここ数日、アンタと別行動でわかったことがあったんだ」
「わかったことですか?」
「うん」
こっくり頷いたのち、神威さんは言い放った。
「俺、アンタ無しじゃ生きていけないみたい」
は?
上手く理解できなくて、わたしは目を丸くする。
それに対し、神威さんは全く照れも赤面もすることなく、いつものスマイルを浮かべるだけだ。それどころか、わたしが聞こえなかったのかと思ったのか、言い直してきた。
「つまんないんだよね、アンタがいないと」
「…い、いや…そんな迷惑そうに言われても」
「だから、俺、アンタから一生離れないよ」
「なっ…!!?」
………わたし、一生独身決定ですか。
この奇妙な宣言を、ストーカーととればいいのか、プロポーズととればいいのか。とりあえず、なんでだろう、
「…? ななし、赤いよ」
「っ!! み、みないでくださいいい!!」
静まれ、わたしの鼓動!
ときめきをください
「ほかの奴からそんなものもらったら殺すよ」
「それはそーと」
「……?」
「…………」
「…な、何黙り込んで…」
「ねえ、ななし」
「な、なんでしょう?」
「俺、原始人かもしれない」
「はあ?」
「うん、とりあえず朝から一発しようか」
「一発って……ま、まさか」