銀魂:坂田
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3月の晴れた休日、わたしは三年間皆勤した高校を卒業した。
その間、SHRも卒業式も教室での卒業証書授与でも、わたしの担任・坂田銀八先生はポーカーフェイス(+かなり面倒くさい的な顔)だった。
でも別に構わない。
先生よりもクラスメイトと過ごした時間のほうが楽しかったし、正直他の友達ほど先生と親しくならなかった。
「あ」
忘れ物した。
夜集まって妙ちゃんたちとご飯を食べる、という約束を手帳に記入しようとした時、鞄に入れた記憶がなく、学校に忘れたことに気づいた。
普段面倒くさがり屋のわたしだが、色々書いてある手帳を見られるのもまずいし、自宅が学校に近いので、夕方わたしは私服で戻ることにしたのである。
「いってきまーす」
早速学校に到着すると、門を通過して昇降口に入り、靴を脱ぐ。途中誰にも会わなかったので特に何も言われることなく、教室へと向かう。
あった、Z組。
もう二度とくぐることはないと思っていたが、まさか数時間後に相まみえることになろうとは。
そして躊躇なく、ドアを横にスライドさせた。ガラガラガラ!と大きな音が静かな空間に響く。
「…!!」
びびった。
夕日の差し込む教室に、何かがいる。
それも生徒の机に座って上半身を倒している。
…………ん?
あの席。
…わ、わたしの?!
慌てて近寄って確認すると、
「んがー」
やはり、中央の席はわたしの席で。
そこに鎮座しているのは、他ならぬ坂田先生だった。
近づいてみると、いびきをかいている。しかもよだれも垂れてる(うげっきも)
ていうか、なんでわたしの席で寝てんのこの人。仕事しろよ。もしくは自宅で寝ろよ、職員室でも可!(あ、逆にまずいか)
ていうか、あ。
「!!(てっ手帳!!)」
ハッとした。
もしこの席に座った時引き出しの中に手を突っ込んでたりしたら、手帳に気づいてるだろう。
手帳には日々のスケジュール(主に誰と遊ぶだのどこに買い物行くだの)が書いてあるし、時には日記でいろいろな愚痴がぶちまけてあったりする。まさにシークレットブックでもあるのだ。
よりによって、この、見るからに口が軽そうな男が喋ったら…!! いや、もういいかもなどうでも。卒業したんだし。二度と高校に来なければいいだけの話。
とりあえず、うん。
引き出しのぞいてみよう。
「せんせー」
その為にはまずこの邪魔で邪魔でしょうがない坂田先生の体をどうにかしなくてはならない。
「せんせー、起きてください」
何度か呼びかけてみるものの、起きる気配はない。
いっそのこと無理矢理起こそうか…いや、別にいいか。そこまで必死になってどかさなくても、横から腕をのばして探ればいい話だし。
横にずれてしゃがむと、先生の脇腹に触れないよう、引き出しに向かって腕をのばす。
するとすぐに固い物が手に当たったので、そのままひっつかみ手帳を鞄に突っ込む。
さあ帰ろうと立ち上がった、
「おい」
ときだった。
低い声(なんかゾワッとした)が耳にこだまし、同時に手のひらがかあっと熱くなる。
ぎょっとして腕を見下ろすと、坂田先生がわたしの手を掴んでいた。その掴む手が、熱い。風邪で高熱があるんじゃないだろうか、と思うくらいに。
「返事しろーななし」
「…はい」
「おし、じゃあ質問」
突っ伏していたはずの先生の顔が、今は横顔だけこちらに向け、わたしを見上げている。
質問? なんだそれ。
「なんで俺に触れねーんだ」
「いや、別にどうでもいいじゃないですか」
即答すると、先生はしばらく沈黙した。
「お前さァ、俺のこと嫌いなの?」
「……さあ」
「……なんだそれ」
「そもそも、そんなに話したこともないじゃないですか」
だから嫌いとか好きとかはわかんないです。
これは正直に言った。いや、今までも正直に答えたけど。
すると先生は、机からようやく上半身を起こし、こちらをジロリと見上げた。
そこで気づいた。
先生の目、真っ赤だ。
「わっ!!」
力任せに手を引っ張られ、完璧に気の抜けたわたしの体は先生の上に着地する。
かと思えば頭をがっしり掴まれ(手は掴まったままだ)先生の肩の上に顔を押しつけられる。なんだこれは!!
「なっ何するんですか! 離してくださいっ!!」
力の限り坂田先生から体を離そうとするけど、相手はそれに対し余計に力を込める。なんという大人げなさ!!
「お前進路どこだっけ」
「は?」
「進路だ、進路」
「け…県外就職です」
「それどこ」
「だから県外です」
「ふーん、じゃあ邪魔しに行くわ」
「はあ……」
脈絡のない会話について行けないまま、なんとなく「待ってます」と返した。すると坂田先生が「あァ?」と不機嫌に声を出すものだから、調子が狂う。意味がわからん。
先生と会話するってこんなに疲れるものなのか。
「おま…本当に邪魔しに行くからな」
「別にいいですよ」
「じゃあいつでも辞めれるようにしとけよ」
「は?」
「いいっつったろオメー。邪魔しに行って辞表出させるような事態にしてやるから」
「それ教師の台詞じゃないと思うんですけど!!」
しかもこの人担任だからね!! わたしの!!
なんつう酷いこと言うの!? しかも卒業式という日に…!
「先生、頭打ったんですか?」
「そりゃこっちの台詞だコノヤロー。お前こそ約束忘れてふざけてんじゃねーよ」
「……………やくそく?」
反復するわたしを抱きしめる力が、更に強まる。このまま絞め殺されるんじゃなかろうか。
そういった、生死の意味でなんだかドキドキしてきた。
「い、いやァ…わたし先生と約束はおろか会話自体ほとんど交わしたことないんで……。覚えてません」
「……ななしちゃーん。……殺すよ」
耳元で囁かれ、ぞわわっと全身の毛がよだつ。低い声で恐ろしい台詞を吐くこの人は、本当にZ組のみんなから好かれる先生なの? あ、もしかして悪いもの食べたのかな、うん、きっとそうだ。
「言ったじゃねーか……十月十日」
「え? ……ああー…先生の誕生日」
「その六時五十分」
「………」
突っ込まない。いちいち気持ち悪いことにツッコミはしたくない。
変な汗をかきながら、「ええっとお」と声をあげる。
「そ、そういえば…補習とか、あったよお~な…」
「よお~な…じゃねェだろうが。補習やったよ? ななしの為に残って勉強付き合ってやったよ?」
「ああ、そうでしたっ。誕生日だったのにわざわざ補習してくれたんでしたよね」
しかもなぜかわたしオンリー。他に成績の悪い生徒なんてたくさんいるのに、わたしだけ坂田先生に「お前数学悪いから今日補習な」なんて言い渡されて。
お互いに(そう、何故かお互いに)ぶつくさ言いながら、夜の七時前まで数学の勉強をした、おぼえがある。
わたしが順調に思い出すことに機嫌を良くしたのか、坂田先生の声が少し高くなった。
「だろォ~。で、補習終わった時、お前約束したじゃん」
「……………」
お、おぼえてない。そこからは、まったく。
なんだっけ、なんだっけ。
よくわかんないけど、ていうか、坂田先生のペースにのまれてる気がするけど!
思い出さなくちゃ、と焦ってしまう。
「えっと…え、っと……」
そばでクク、と肩を震わせる先生は、わたしの首に顔をうずめた。先生の柔らかい髪の毛が首をくすぐる為、ひいっと鳥肌が立つ。
「かわいーなァお前」
「!!(い、意味わかんない!! こわすぎる!)」
ああ、さっちゃんいないかな。さっちゃんだったら喜んでわたしの代わりになってくれるだろう。
彼女なら先生にゾッコンだからね、将来の進路に坂田あやめって書いて先生に殴られても……………………あ。
おもい、だした。
『おし、終わりー』
『やったー…! やっと帰れる』
『バカヤロー、帰ったら復習しろよちゃんと』
『はーい。じゃ、ありが…』
『待て待て、ななし』
『なんですか? 早く帰って見たい番組があるんですけど』
『慌てんなって。俺が送ってやらァ』
『え、ほんとですか! ありがとうございますっ』
『…お、おう…』
『じゃあ校門で待ち合わせですか?』
『そーすっか』
『お待たせしましたー』
『おせーよ。何時間待たせる気だコノヤロー』
『いや、そこまでは待たせてないと思います』
『もののたとえだって。かてーなァ、ななしは。んなことじゃ社会に出ても通用しねーぞ』
『うるさいですー。どうせわたしは未だに巣立てないひな鳥ですよ』
『そうだなー、なぜかお前だけだもんな、進路決まってねェの』
『なぜかとか言わないでください。いいです、フリーターになりますから』
『……………』
『え、シカトですか』
『……まー…な。そんなら、……アレだよ。どっかの男に永久就職すりゃいいだろ』
『結婚ですか』
『永久就職といえ。それも進路だ』
『あはは、教師の言う台詞じゃないですよそれ』
『うるせーなァ』
『ていうか、それこそ永久に無職です』
『マジでか』
『マジですよ』
『……そんなら、……まァ、万が一だけどな。万が一進路決まらずに卒業するようなことになったら………』
『…………?』
『……とりあえず、俺が枠あけといてやるよ』
『え…なんのですか?』
『今の会話でわかんだろオメー。就職先だよ』
『……ああ、せんせーのお嫁さんですか? や、それは さっちゃんが…』
『奴は永久に不合格だから気にすんな』
『酷いですよ先生』
『しゃーねェだろ、先生だってなァ一人の人間なんです。で、どうなんだ返事は。今日限定だけどね。別に強制じゃないけどね』
『んー、じゃあもし万が一無職になるようなことがあったら、よろしくお願いしますね~』
『…おう。約束だかんな』
『はーい』
そういえば、先生と長く話したのはあれが最初で最後かもしれない(あ、現在は除く)
それにしても、あれは100%軽はずみな冗談であって、本気じゃない。
勿論あの時のわたしは、先生も冗談だって、受験生に対するジョークだと思っていたからこそ、ああやって返事したのだ。
しかし、それだとその約束と、現在の状況のつじつまが合わない。だってあれはわたしが進路が決まらなかった時の約束だ。でもわたしは就職先が決まっている。だからあの永久就職は無効のはず!
「先生、わたし就職先決まってるんですけど」
「そうなんだよなー。だから俺がクレーム起こそうと思う」
「思わないでください!!」
最悪だ。
四月から新生活が始まろうとする卒業生に向かって、なんという最悪な台詞。
先生は相変わらずわたしの体に密着したまま、くつくつと笑った。
「ま、焦らなくてもいいわな。そのうち上司とケンカして辞めればいい」
「あのー先生わたしのこと嫌いなんでしょ。絶対そうでしょ」
「……………本当にそう思ってんのか?」
その時、今まで背中を締め付けていた腕力と後頭部を掴んでいた力が一気にゆるんだ。その反動で、先生の体を押していたわたしが勢いよく離れる。
そして飛び込んできた光景は、目を充血させた坂田先生。それを見た直後、再び後頭部を固定される。目の前には、ぐんぐん顔が近づいてくる先生。
ぶつかる、と思った時、実際ぶつかったのはわたしと先生の唇。
「………」
「………」
それがゆっくり離れると、先生は真剣な目でわたしを見た。
「俺がお前を嫌いなら、とっくの昔に愚痴手帳を掲示板に貼りだしてるよ」
「な」
「好きだ」
「え」
突然の告白に、ついていけない。
ショートして頭が真っ白なわたしに、先生はまた角度を変えて顔を近づけた。
また度アップだ、と無防備に開いたわたしの口を、今度は何かがねじり込んで侵入してくる。
「ん、む!?」
唇にぴったり何かがくっついて、それが熱くて柔らかくて、気持ちいいような、気持ちが悪いような。
それよりも口の中に、もっと柔らかくてぬめぬめしたものが、勝手に這いずり回っている。
とっさに目をつぶり、わたしは必死にその物体から舌を逃がそうとする。でも逃げられない。口内は狭くて、いくら舌をあちこちに動かそうとしても根本は動けない。相手はそれをわかっていて、舌が届かなければ根本をなめ、反射的にわたしが舌を戻すのを待っている。
「(いや、だ)」
いや、なのに。
気分が高揚する。
「……っは…ぅ…」
体が、熱い。
無意識のうちに呼吸が止まってしまう、苦しい。
次々に迫り来る先生の手に、二転三転する状況に、何より今キスされているという事実に、脳細胞の少ない頭がパンクするあまりにクラクラする。
「んんっ…」
そこでようやく、侵入してきた舌はわたしの口から退却した。酸素が鼻から口から入り、呼吸を整えてくれる。そこでわたしのまぶたが現実を見るべく開いた。
けれど、顔は離れることはない。ちゅう、と口を突き出せば楽々届くくらいの超近距離で、ぜえぜえと息もたえだえのわたしに、先生は囁く。
「窒息死したくなかったら、俺んとこに転職しろ」
なんという脅迫。
というか、なんというプロポーズ。
しかし、わたしはそう簡単に流される女じゃない。
「……っ、…、い、や…です。そもそも、わたしは先生のこと」
「わかってらァ。俺なんか一ミクロンも興味ねーんだろ。だが、んなもん関係ねえ。俺がお前といてェんだ」
「んな、ムチャクチャな……」
子供じみた言葉に、呆れるほかない。
そもそもあの職場は校内で人気が高くて、ようやく勝ち取って試験受けて、なんとか内定もらったのだ!! 最後の最後に挽回ができて、みんなに「おめでとう!」って拍手してもらった。
だから。
また口の中をべたべたにされても、セクハラされても、わたしは嫌だ。
それに、さっきも言ったけどあの約束は無効だ。
「先生、あの約束なら無駄ですよ。わたしは進路が決まって、就職したんです。だから、もう先生のお世話には……」
「ななしちゃーん、きみは本当にバカだねえ」
「は?」
やっと顔が離れたものの、よしよしと頭をなでられ首をかしげる。むかつく。
先生はわたしの睨みなんかまったく気にしなくて、にやりと笑った。
「あの約束な、お前が無職になったら有効になんだよ」
……………。
…………。
「だからよォ、俺」
本気で邪魔すっから。
輝ける良き日にそれはないよ
わたしの就活の努力を返せ!!
「そんな…」
「新入社員三ヶ月で終了かもな」
「それが教師のすることですか!」
「しゃーねェだろ、ななしが好きなんだから」
「んな…」
「今更恥ずかしがってんじゃねーよ」
「いや、恥ずかしがってはいないです」
「うそつけー」
「わたしの意志 完璧無視で呆れてるんです」
「上等だ」
「…………(駄目だこりゃ)」