銀魂:神威(同行者ヒロイン固定)
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空を見上げる。
なんて清々しい空。
昨日の土砂降りが嘘のように、雲はまったく見当たらない。
「……最高だ」
そしてわたしの眼前にそびえ立つ料亭を見上げ、口の端をゆっくり上げる。
「……最高だ…!」
今回神威さんとやってきたのは江戸。今まで随分田舎とか森とか山とかとにかく人のいない所を旅していたから、到着した時はなんだか心臓がどきどきした。
しかし、江戸はいい意味でも最高の場所とはいえない。なんてったって敵地といっても過言ではない国。
なのであまり長居したくないんだけど、春雨のお偉いさん方による食事会に神威さんが呼ばれたのだ、それで行かないわけにはいかない。ていうか団長だからね。
そして顔に包帯ぐるぐる巻きの男が傘さしながら会場に入っていくのを見届けて(ううん、はたから見たら絵に描いたような不審者…)付添人のわたしはいとまをもらい、先程から街中をぶらぶらしていた。
「さて、どうしようか」
それにしても、ああ、いい天気。すがすがしいほどの開放感。
「とりあえず、あそこのあんみつ屋に行ってみようかな」
だがしかし、わたしは知っている。
この高揚感は はじめだけで、
「ッテェな!」
さて発動しました、わたしの迷惑なスキル! ああああやっぱり江戸はいやだ、敵地だし町ゆく女の子はオシャレだし(貧乏じみた服のわたしと目が合うとクスッと笑われる…!)人が多いから肩と肩がふれあうことがとにかく多い。
その結果わたしは公衆の面前のしかも道のど真ん中で虎顔の天人に肩をつかまれたわけです、はい。
「おい貴様、俺を誰と心得ている」
「(知らねーし!)す、すみません…! 悪気もやる気も死ぬ気もないんです」
「ふん、どうだか。大方俺を始末するために雇われた者だろうが、詰めが甘かったな」
「は…?」
ち…ちげぇェェェェ!!!!! ダメだこの人…じゃないこの天人、勝手に話つくっちゃってるよ!
天人の、某眠り探偵並の酷い推理を聞かされながら、わたしは逃げる準備をした。といっても片足を後ろにずらしただけなんだけど。
しかし、それがまずかったらしい。じゃり、と地面が音を立ててしまった。これまた敏感な天人が眉をつりあげる。
「貴様っ! 逃げようとするとは卑怯だぞ! 大人しく刑務所へいけ!」
「けっけけ刑務所ォォォ!!!!? 話とびすぎでしょ?!」
思わずツッコミをいれたものの時すでに遅し。わたしの肩をがっちりつかんで離さない虎顔の天人は目をギラギラさせ歩き出そうとした。どうやらこの天人、相当プライドが高い。そうでもない限り肩と肩がぶつかっただけで刑務所行きとか…色々飛ばしすぎだと思う。
「やっ、やめてください…! わたし人を待ってるんです!」
「ならん!!」
「くっ…!」
もしこれでわたしがほんとに連行された挙げ句取り調べを受けたら最期だ。神威さんに迷惑かかるしきっと春雨についても、一員だとバレたら洗いざらい話すよう拷問も受けるに違いない。そう思うと、今この場で天人に暴力をふるってもそれがちっぽけなことに……いやいやその前にわたしそれほど強くないから。普通そういう考えは戦闘に慣れてる人がするものだから。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。やっぱ非戦闘要員のわたしが同行するのがムチャなんだよ、あああああああ!!!
「む」
ふと、天人の体がゆれた。反動で、真正面にいるわたしに一歩近づいたものの、すぐに足を戻し体をひねって振り返る。
わたしにも見えた、それは日の光できれいに輝いた銀色の、ふわふわした髪。それよりも不思議に見えたのは、腰に差している木刀だ。
気を取り直した天人が、わたしを掴んだままその人間をギラッと睨みつける。
「おのれ…貴様もか! これだから地球人は、」
「……アイスが…」
「…何?」
「俺の三段アイスがァァァァァ!!!」
その人は天人にぶつかったことより、それによって三段アイスが台無しになったことを嘆いていた。あ、二段も地面に落ちてる。
さらに思い切り絶叫した後、天然パーマに手を突っ込みワシャワシャとかき乱しながら、ブツブツと呟きだした。
「くっそーマジでかこれ…これだから言ったんだよ…もっと押し付けてくれって…漫画みてーに丸々させなくていいって……マジでか? これ」
「おい!!」
聞いているのかっ、と天人がほえる。
それに対し「あァ?」とすこぶる不機嫌な、銀髪の人は、天人とわたしを初めて目にとめた(それまでアイス直視だったからねこの人) そしてボーッとしたような顔で、ぽつりと呟く。
「かけおち?」
「違うわ!! どこをどう見たらそう捉えるんだ貴様!!」
「またまた謙遜しちゃってー。いいんじゃね? 国際結婚よくね? おめでとーございます。あっ、なんかすいませんボク 邪魔しちゃって、どうぞどうぞ」
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!?」
さらに道譲られちゃったんだけど!! 何この人、助けるどころか全然気づいてないよ! マジでかけおちって思ってんの?! 駄目だやっぱりこういう時は神威さ…いや無理。神威さんも駄目。結局わたし一人で何かするしかない。
さっきよりは力が弱まっていることに気づき、わたしは意を決した。
「くっ!!」
「!!」
瞬間的に、天人に捕まれていた肩を思い切り揺らし、なんとか離れる。
しかしそれが悪かったようで、天人が今度こそ本気で怒り、わたしに襲いかかってこようとした。
ひい! 虎顔めっちゃ怖!!
「ッウギャアアアアア!!!」
と、突然天人が悲鳴をあげた。な、何?!
訳がわからないわたしの手首をとったのは、あの銀髪の男。え、この人…なんで?
とりあえず天人といるよりは、とわたしはそのまま一緒に走り出した。大事にならないうちにあの現場から逃げなくちゃ。
「あのっ!」
「喋ってる暇あったら走れ! ちっくしょー俺のアイスゥゥゥゥ!!」
ちょっと目が血走ってる……あれっさっきまで持っていたアイスが…どこにやったんだろう。
「あの、アイスは…?」
「アイツにやった」
「……………」
いったいアイスをどう扱ったら、あんな悲鳴あげられるんだろうか。
息をきらせるわたしの横で、銀髪の人は涼しい顔でアイス(二回目)を購入した。ちなみに代金はこちら持ち。
店員の明るい声に背中を押されるようにして、わたしとその人は涼しい店から一転、暑苦しい外へ出た。それでも先程より暑さに苦しめられることはない、何しろ彼だけでなくわたしもアイスを買ったのだから!(うっひゃー美味しい!) へへっ日頃贅沢できないからこれくらいいよね!
「やーうめえなァ。やっぱ暑い時はアイスだろ、糖分だろ」
「そうですね! ……あの、さっきはありがとうございました」
「気にすんな、アイス食えたんなら結果オーライだ」
本当に助かりました、とぺこり頭を下げる。でも、そろそろ会食が終了時間だ。現在地を銀髪の人に教えてもらい、神威さんのいる会場へ向かうことにした。今からだったら走れば間に合う。
「それじゃ、そろそろ失礼します」
「おー、気ィつけてな」
手をひらひら振ってもらいながら、わたしは前を見て歩き出した。ところが早速肩がぶつかってしまい、ひいっと慌てて謝罪する。でもさっきとは別で、「いいよ」と片手をあげてスッと離れていった。なんだ、今度の人は怒らなかったぞ、ラッキー。
その直後、頭をポスンと叩かれた。えっ、と慌てて振り返ると、先程の銀髪さんが首をかきながら立っている。その手、つまりわたしの頭を叩いた方には、あ、れ、財布……しかもわたしの。
まさか、と青ざめながら懐を探ると、ない。よく見ればさっきぶつかったであろう人物が地面にぶっ倒れている。これで事態を把握したわたしは、
「……あの、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げた。
「アンタ大丈夫? あれなの、田舎から上京してきた子なの?」
「おおざっぱに言えばそうなります。いやあ、うっかりしてました」
「いや、うっかりしすぎだろ。しかも財布ん中、すげェしけてるし」
「ちょっ! 見ないでくださいィィィィ!!!」
真っ赤になりながら財布を取り返す。普通 他人の財布見る?! やっぱこの人あり得ない!
「冗談だよ、見てねーよ」
「わかりました、もういいです、大丈夫ですっ! 二度とあんなことやこんなことにならないように、人のいないところ通っていくんで! じゃ、ありがとうございましたっ」
「オイ!」
制する手から逃れるようにして、わたしは走り出した。そして人混みを横にかきわけ、路地へ入る。
それにしても、江戸には、ああいう変な奴らしかいないのだろうか。肩があたっただけで刑務所行きと騒ぐ天人やら、アイスが落ちてあんなに愕然とする、木刀を差した人やら…。もはや神威さんだけが変人と思えなくなってしまう。やっぱり、田舎育ちのわたしには、江戸は向いてないのかなあ。
はあ、とため息をついて、通りを抜け空き地へ出た時だった。
「!!」
本能的に殺気を感じ、わたしは足に急ブレーキをかけた。すると足下の土がピュンと飛び散る。
「クク…流石、ゴキブリ並の生命力をもつ種族だ。すんでの所で止まるとは…」
「あ……」
目の前に立ちはだかったのは、さっきの、虎顔の天人。その手には小型のピストルが握られている。…さっき、もし少しでも進んでたら足を撃ち抜かれてたんだ。
それにしても、なんだ、あの天人。の、背中。たまたま見えたんだけど。
「…………それ、着替えなくて良いんですか」
「ッ!! き、貴様に言われる筋合はないわ!!」
ちょっとうろたえる天人の背中には、襟首にはコーンらしきものが砕け散ってついている。ああ、アイス突っ込まれたんだ…それは悲鳴あげるわ。きっと処理するより先にわたし達を処理するんだろう、そして今まさにこれ。
「さっきの男は一緒ではないか…まあいい。奴もじきこの手で葬ってやる。まずは貴様からだ」
真正面からピストルを構えられ、撃鉄をゆっくりと引かれる。
にやりと意地汚い笑みを見せる天人を睨み返しながらも、わたしは、どうしても死ぬ気にはなれなかった。
あ、そうか。
「やあ」
この人が、いるから。
「なんだかまた面白いことになってるね」
わたしのすぐ前に降り立ち、差していた傘をななめにおろす。その直後ピストルから弾丸が発射されたんだろう、傘に勢いよく当たったものの貫通せず、むしろこちらに影響はないまま、足下に落ちた。
「な…なんだ…!! 何者だ貴様ァッ!?」
虎顔の天人が声を張り上げてるけど、まったく見えない。傘で見えないというのもあるし、わたしは突然現れた包帯の男に目がいっていた。
「か、神威さん…。終わったんですか?」
「いや、終わってない。でも全然楽しくないから、逃げてきちゃった」
「ええええ!! そんなムチャクチャな…!」
「だって、アンタといるほうが楽しいんだよ」
一見かわいらしく、下手したらドキッとするかもしれない台詞でも、顔面包帯男に言われるとなんとも思えない。あ、そうですかと棒読みで返し、わたしはようやく天人のことをおもった。神威さんも同じことを考えたのか、「で?」とわたしを見下ろす。
「どうやったら、こんな面白いことになるんだ?」
「不運と偶然とアイスとすりと迎えが重なったらこうなります」
「へえー」
まっっったくわかってないくせに頷くと、神威さんは傘をまた頭上に戻した。そして天人の姿を見て、落胆したように呟く。
「なんだ、全然強くない。行くよ、ななし」
「え、あ、はい」
「…あれ」
まあ、わたしもあの天人をぶっ倒してほしいとか思ってないし。これですむならいい。
しかし、そう思っていたのはこちらだけのようだった。
「俺を…馬鹿にするなァァァ!!」
天人が叫ぶと同時に銃を構える。
それでも、神威さんには到底かなわない力量だというのはすぐにわかった。
彼は瞬き一つで、わたしの隣から数メートル離れた天人の背後に回り込んでいた。
傘を差したまま神威さんが天人に蹴りを放つ。すると天人は一拍おいてから勢いよく地面をすべっていった。それが電柱に激突するまで見届けて、わたしは振り返った。
「わっ!!」
すぐ目の前にいた神威さんだけど、なんだか顔がしかめっ面な気がする。
とりあえず神威さんの希望で日の光が当たらない路地に戻って、誰もいないことを確かめ、包帯をとってもらう。
「ぷはっ。今の季節に包帯はきついや」
「そうですね」
「ところでさ、アンタに聞きたいことあるんだ」
「はい?」
「男といたよね」
聞きたいことがあるって言ったくせに確信めいた発言をする神威さん。
でも、それは事実だから、肯定するのは肯定するんだけど……なんだか嫌な予感がする。ちょっと苦手な雰囲気になってきたかも。
「…まあ、なりゆきで男の人とはいました」
「ふーん。どんななりゆき? 男は? 一緒じゃないの?」
「えっと、さっきの天人にいちゃもんつけられたところを助けてもらったんです。で、さっき別れました」
うん、我ながら正確ないきさつ。
と思ったけど、
「どんな男?」
「え?」
「…………うん、なんでもない。わかるから、そいつ」
……? なんでわかるんだろう。
包帯を体からとりながら、神威さんはわたしに近づいた。そしてスンスンと鼻で空気を、いや、わたしの匂いを吸う。
「匂いが、する。あの男の匂い。あと、甘い匂いも」
「!!」
甘い匂いっていうのは間違いなくアイスクリームだ。でも、あの男っていうのは……本当に神威さんの思い描いている男とわたしが実際に会った男が同一人物だという保証はない。
でも神威さんが言うなら、早々間違いはないんだろう。なんてったって野生人だしね(あ、人じゃなくて天人か)
「無意識の内に強い男をひきつけるって、ほんと、すごいね」
「い、いや…わたしは強い人をひきつけるんであって、男限定じゃないと思います…(ていうかあの人強いんだ)」
「うん、そうだった。…で? 甘い匂いは?」
「……」
「まさか、俺に黙って金使ってアイス食べてたんじゃないよね?」
「(バレとるううゥゥゥゥゥゥゥ!!!)」
あわわわと言い訳を考えるわたしを引きずり、神威さんは傘を差すと路地を出て土手に向かい、川へ降りた。そしてわたしを突き飛ばす。想定外の行動に、わたしは抵抗する間もなくドボンと川へ落ちた。それも浅いところじゃなく、一瞬足がつかないのかと焦ったほどだ。
「ギャア!!」
「あはははは」
「……ッハァッ、ハア……! …悪魔か、アンタは!!」
なんとか体勢を立て直すと、足はちゃんと着いた。それでも下半身まで水位があるし、服がびっちゃびちゃだ。
無残なわたしを見てケラケラと、それこそ楽しそうに笑う神威のヤローに、殺意さえおぼえる(ああ、わたしにコイツを倒せるだけの力があれば!!)
「あ、ありえない…なんで川に落とすのか、神威さんの意味がわからない」
最後のは決して「存在が」とかじゃなくて「言動が」なんだけど、それでも神威さん自身について意味がわからないので、言い直すのはやめておく。
一方、神威さんはきょとんとした後に、ああ、と拳から人差し指を立てながら答えた。
「アイツの匂いがするから、落とさなくちゃ、と思って」
「……いや、それならわたしがお風呂入るまで待てばいいじゃないですか」
「? なんで?」
「は?」
それこそ理解できない、とでも言いたそうな神威さん。わたしの手を握り川から引き上げながら、ぽつりと呟くように言った。
「俺以外の匂いがななしに少しでもつくと、殺りたくなるし」
「? …何やってるネ銀チャン、玄関につっ立って。いつ帰ってきたアルか?」
「疲れたから」
「疲れてるからってそんな顔するアルか」
「するんだよ。大人は色々あンだ、ガキんちょが首つっこむんじゃねェ」
「そうなんだ、じゃあ銀チャンも首つっこむべきじゃないヨ」
「言っとくけど俺は大人の分類だから、色々知ってる部類だから」
昼間に会った女。ごくフツーの、女だった。
なのに、財布にはさんでいた写真に、その女と一緒に映っていたのが、
「いい加減、中入ったらどうネ」
…………。
いや、気のせいだ。多分。一瞬としか、財布取り返す瞬間しか見てなかったし。他人の空似ってやつだろ。第一あんな一般人と奴が知り合いだってのが驚きだ。
「神楽ァ」
「何アルか」
「…いや、なんでもねェ」
「それ、世界で一番むかつく返答ネ。今すぐ続けろ」
「わーった、言うわ。お前最近太」
新八の声に気づけば、血だらけで壁に顔がめりこんでいた。
本音は言うべきじゃない
神威の口調が相変わらずわかりません。