銀魂:土方
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「土方さん」
「……」
「ひーじかーたさん」
「……」
「マヨネーズ星人さん」
「誰がマヨネーズ星人だ」
「お、起きましたね」
にらみつける俺に対し、ななしはヘラヘラと笑い返した。それにしてもあっちーなあ、暑すぎて体を動かすのがだるい。やっぱ夏休みはゴロゴロするのが一番良いんだよな、リラックスできっから。そんなことを思いながら、大の字に寝ている俺は、のぞきこんでくるななしを見上げた。
「それにしても、まさかこんなところで寝てらっしゃるとは」
「うるせー」
「副長ともあろうお方が」
「斬るぞ」
「ふふん、バテてる大人にすごまれても怖くないですよーだ」
今度はにやけた面を浮かべながら、俺の隣に寝転んだ。ななしが着ている着物があまりにも白すぎて太陽が反射して目にまぶしい。つか狙ってねェこいつ? さっきから俺の目に当たるように体動かしてんだけど。このクソアマ。
「隣に寝んな、どっか行け、今すぐどっか行け」
「土方さんの命令に反抗するのがわたしのポリシーです」
「んなくだらねーポリシー守ってんじゃねーよ」
ほんとは力一杯しかりつけてーが、いかんせんこの暑さだ。怒る気力も失せる。だるい。そうめんが食いたい。水飲みたい。でも動くのだるい。なんだ今の俺、すごいダサくね?
「そういえば土方さん、わたし言い忘れてたことがあったんです」
「あ?」
「女中やって一年目、沖田さんが好きでした」
「へー」
「……なんですかそのリアクション。マジでか!とか、なんだと!?とか、もっと驚いてほしいんですけど」
「めんどい」
「あーあーあーあーあーあー、いーっちゃったーいっちゃった。ツッコミ役がツッコミ放棄したら存在価値なくなっちゃうのにー」
「(うぜえこいつ)」
「え、ちょっと本格的に無視ですか? しょうがないなあ、もっと暴露しちゃいます」
「お前もっと話題選べよ」
隣で、一人でぺらぺら喋るななしの顔を見る気にもならない。大空に浮かぶ太陽を、意味もなく見上げる。なんで毎年夏になるとあいつ張り切ってんだ。夏になった途端毎日雲に邪魔されればいいのに。
「……で、それから。さっきの恋バナの続きなんですけど~」
「へーそうまじでー」
「二年目は山崎さんで、三年目は意外や意外の原田さんで、」
「へえー」
「四年目は万事屋の坂田さんで」
「は?!!」
突然声を荒げたあまり、器官がつまりゴホゴホとむせる。そこで焦ったのはななしで、寝かせていた体をがばりと起こして俺の上半身を少しあげ、背中をさする。え、何やってんのこいつ。え、俺おじいちゃん?
「わわわすいません、ていうか坂田さんだと反応するんですね、おっかしー」
「やーなんかちょっとお前斬りたくなってきたわ」
「うふふ!」
楽しげに笑うななしは、太陽と同じくらいまぶしい。チッと舌打ちしながら反対方向に顔を向けた時だった。頬にぽたりと何かが落ちてきた。なんだ、とそちらに目をやると、すぐさっきまで笑っていたはずのななしは泣き顔になっている。それも尋常じゃねーほど、それこそぼろ泣きってやつだ。
「お、おい…何泣いてんだ」
「すいませ……いや、なんか…嬉しくて」
「は?」
「土方さんが、反応してくれて」
不意に立ち上がったななしは、俺のななめ前に、つまり、全身が見れる位置に歩いた。
「……なんだ、その格好」
「えへ、似合いますか?」
単なる白い着物じゃねェ。真っ白で、純白の。そこで俺は思い出した。
こいつがこの格好をしたのを、俺は一年前に見ている。
屯所の広間に、横たわらせて………。
「ではでは最後に、とっておきの告白」
無理矢理笑顔をつくったななしに、俺は言葉が出せなかった。それでもなんとか起き上がろうと思い首だけ起こした時、俺自身にも何が起こっていたのかわかった。服がボロッボロですすだらけで気づけば全身血だらけで、刀が向こうにぶっ飛んでいた。さらに向こう側には、モクモクと灰色の、いかにも環境に悪そうな煙をあげて、屋根がない倉庫がある。今まで衝撃の影響で何があったのか記憶まで飛んでいたらしい。
「坂田さんを一年で飽きた後は、ずっと、ずっと、それこそ何年も、」
そして瀕死の俺を無理矢理にでも助けてくれたのは紛れもねぇアイツで。笑顔を浮かべるななしは、無理矢理なくせに、どうしてだかとてもきれいに見えて、場違いとはいえ見とれた。
「土方さんのことをみてきました」
その華奢な……華奢すぎる体を今すぐ立ち上がって抱きしめてやりたいのに、それができない。
「わたし、ずっと土方さんが大好き。だから貴方を助けることができて本当に嬉しいです」
「お、い」
一年前に消えた笑顔が、くしゃくしゃだが目の前にあるのに。
胸がいてェ。
苦しくてたまらねェ。
怪我で痛いんじゃねェんだ、これは。
「ありがとう、土方さん」
静かな声がまるで子守歌のようで、急激に眠気が襲ってくる。やめろ、やめてくれ、俺は眠りたくねェ、ななしを、見させてくれ。
「さようなら」
(「ななし!!」)
声にならない叫びが、全身の激痛を消した。
悲哀で最悪な別れ方
俺を呼ぶ、俺の名を叫ぶ声がする。
だがそれは野太かったり聞き慣れた声だったり複数で。
あいつの声は全く聞こえなかった。
もう、二度と。