銀魂:坂田
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「あれっせんせーじゃないですか」
「せんせーですが何か?」
朝、電車に乗り込むと、今日は扉の隣に白髪頭の先生が座っていた。といっても決して老けてるわけではない、どちらかといえば若い(どちらかといえば、というのは精神が老けてるだろうなって思うから) わたしはこの先生の名前を知らない、担任になったこともないし教科も何も教わっていない。何しろ うちの学校はマンモス校で、教師もばかみたいに多いのだ。今月に入って電車がばったりあってよく話すようになったけど、今更「先生の名前ってなんでしたっけ?」と聞けるはずもなく、わたしは先生を「せんせー」と呼んでいる。
先生が腰をおろしている座席の隣があいていたので、わたしはストンと座った。
ふう、助かる。これからまた、電車に揺られ揺られて、気持ちよくなったところで駅に着いて、走って校門を通過しなくては。
「それにしても、お前はまたこの遅刻寸前の電車に乗ってきたな」
「 せんせー、それはわたしの台詞です。生徒より教師が遅いのは問題ですよ」
どきりとした一言に、けれどもわたしはすぐに冷静に返した。
知らないはずだ、先生は。わたしがわざわざ、この時間の電車を狙っていること。どうしてだかわからないけど、先生といると落ち着くのだ。
「問題なのは俺の給料があがらねーことだ。あのクソ学校、Z組なんてクラス押しつけやがったくせに給料あげてくんねーもん」
「(知らんがな)」
気づかない先生は、生徒相手にぐちぐちと文句を垂れた。
はいはい、知らないから、お給料の話なんて。
Z組の面倒さも知らないから。
わかったから、
「……あの、せんせー近くないですか?」
「何が?」
こっちに近づかないでほしい。先生はわたしが相づちを打たないのが不満だったのか、顔をぐいぐいと近づけてくる。
逃げようと上半身をのけぞらせようとしても、そこで気づいた、先生の肩と触れていない方の肩は既に大きな手が包んでいる。
「近い近い! 何、せんせーもしかして酔っぱらってんですか?!」
「ひでー言いぐさだなオイ。教師が生徒にスキンシップして何がわりーの?」
「スキンシップじゃないですから! こんなのスキンシップという名のセクハラ…ひっ!?」
肩にあった手が、ススス…と下がっていくのがわかった。それが脇腹まできた時にゾワッとしてしまい、無意識のうちに背筋がのびる。
それを見た先生は、ニヤニヤ笑いながら「かわいーなチクショー」と呟いた。こっちがちくしょうだ、人の気も知らず遊びやがって。
「いい加減にしてください、怒りますよ」
「ななしチャン、怒ってるからねーそれ」
「(むっかつくううう!!!)」
「別にいーだろ、これぐれー。学校に着いたらななしと話せないんだから」
「…え?」
意外な台詞に、わたしは耳を疑った。一方、先生は話題をがらりと変える。
「いいよなーの痔男、お前の担任だろ」
「え? あ、はい…服部先生ですよね」
「……はっとりせんせい、ね」
はっとり、と繰り返す先生の目は、なんだか怖かった。いつものだるそうな、やる気のない目ではない。
わたしは何も悪いことなどしてないのに、なんだか先生に対してすごく謝罪の意思が芽生えそうだ。
「お前さ」
「なんですか」
「俺の名前知ってる?」
「………せ、せんせーは…せんせーです」
「要するに知らねーってことだな」
泣き笑いで口元を引きつらせた先生は(すっすいませんでしたァァ!)「しゃーねェな」と頭をかいて、内心オドオドしているわたしを見下ろした。
「耳打ちすっから」
「は?」
「早くしろ」
「は、はい…」
今度は先生のほうへ上半身を近づけると、フワリ、と甘い香りが鼻腔をくすぐった。そういえば先生、甘い物が大好きなんだって聞いたな。
「坂田、銀八」
「あ、そうですか」
名前を聞いて離れようとしたわたしを呼び止めるように、続いて銀八先生は言った。
「明日の朝は、もっといいこと教えてやるよ」
一応これ、宣戦布告な。
そう前置きした銀八先生は、わたしの耳たぶを、パクリと(けれどもとっても優しく)くわえた。
退屈な始まりの前には刺激的な朝を
(ッギャアアアアアアアアアアアアアア!!!)
「なっあ、う、わ! うっ、訴えますよせんせー! ていうか叫びます!!」
「マジでか。じゃあその前に口塞いどかなきゃな」
「………やめます」