復活:雲雀(姉さんヒロイン固定)
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「ああーきたよ今年も、この憂鬱なイベント」
「あはは」
雪なんかまったく降らない、けどそれでも気分はじゅうぶんに盛り上がる。そんな今日は12月24日、クリスマス前日のイヴだ。教室のカップルはお互いがそわそわしていて、HRが終わった今、放課後デートを楽しみにしているんだろう。ちくしょう、羨ましい…!
唯一の救いは、シングルがわたしだけでなく、仲良しの友達もそうだということだった。
「ていうかさ、イヴは恋人と一緒に過ごすものって一体誰が決めたんだっつーの」
「あー誰なのかな? バレンタイン?」
「それ14日だから」
「わかってるって」
鞄に教科書を詰め込みながら、つっこむ友達に笑いかける。ちなみにこの子は今年がたまたまシングルなわけで、去年は彼氏と過ごしている。つまり、男がいた時期があったのだ。しかしわたしは生まれてこの方、一度も彼氏がいない。
その理由の塊は、現在わたしの学校に着いている。そこから見える、教室の窓を覗き込めば校門に堂々と止まっている、バイク(あれっおかしいな……)
「……来てる?」
「そりゃモチロン…」
そう。わたしのイヴは、毎年毎年決まっている。
白い地面に目立つ黒いバイクを二人で眺め、同時にため息をついた。
「大変だね、シスコンをもつって。しかも弟って雲雀恭弥だし」
でもかっこいいよね、と慰めにならない言葉に、わたしは捨て台詞をはいた。
「じゃあ代わってみる? 一日だけでわかるよ、わたしの立場と事情と心境が」
「冗談じゃない、僕の姉さんは姉さんだけでいいよ」
「うぎゃあ!!!」
背後からの声に、思わず体がのけぞる。慌てて振り向くと、そこには中学生の弟が、当たり前のように立っていた。いやいやきみここどこだと思ってるの? 高校だよ? ていうか教室まで来てたのか、いつもは校門で待ってるのに(寒いから?)
しかし、誰一人として弟・雲雀恭弥に、そうツッコミを入れることはできない。彼を相手にするならそこら辺の不良を相手にしたほうがまだマシだと思っているからだ。そしてそんな弟をもつわたしは、間違いなく被害者。
「遅いよ姉さん、僕を何分待たせるつもり?」
「ごっごめん、ちょっと鞄に荷物つめこみすぎちゃって…!」
「別にいいけど」
「(いいんかい! ちくしょう無駄に謝った…!)」
「ほら、いくよ」
逃げられないようにか、それとも無理やりにでもということか、わたしの手首を引っつかむと踵をかえし、歩き出す弟。教室を出て目の当たりにする光景は、廊下にウジャウジャといるカップル。しかしそれらは弟を見ると、すぐに端へ寄った(はは、ちょっとだけ優越感) 友達のほうを振り返ると、すでに手を振って見送ってくれている。心なしか涙ぐんでくれている気がした、ありがとう、マイフレンド。わたしの分まで、家族と一緒に素敵なイヴを過ごしてください……。
「でもよかった、姉さんがちゃんと僕の言った通りしててくれて」
「え?」
校門で待ってくれていた弟の愛車、もといバイクにまたがりながら、思わず聞き返す。弟は学ランを風になびかせながら、うっすらと微笑んだ。うう、ほんとにかっこいいな……むかつく…。
「だって去年、僕に黙ってイヴに予定いれてたでしょ」
「ああ………そういえばそうだったね」
ちなみに彼氏とではない、友達とだ。正確にいえば部活仲間で、みんなでワイワイ過ごそうと盛り上がっていた企画もあった。ところがこれが前日どうやら弟にバレたようで、その時一緒にいた人(勿論不良だ、確か草壁さん…?)の話によれば、それを聞いた途端 烈火のごとく怒り、よりによって当日、部室に乗り込んでわたしをひっとらえると、強制的に家へ搬送しやがったのだ。勿論、翌日わたしが部活仲間に土下座したのは言うまでもない。
それから弟は、12月に入った初日、わたしに指を突きつけた。
『イヴは絶対に僕以外の誰とも過ごさない家を出ない、じゃないと咬み殺す』
そして現在、わたしはドナドナをBGMに(雰囲気がね、雰囲気が)弟にしがみつき、帰路についているわけだ。ほら、そこの道を右に曲がればあとはまっすぐ家で………………あれ? 左?
「ちょっと、恭弥くん?」
弟を呼び捨てにできないわたしは君付けで彼を呼ぶけど、返事はなかった。いったいどういうつもりなんだろう。いったん近付いた自宅の屋根か、みるみる遠くになっていった。
「着いたよ」
とんとんと腕を叩かれ、わたしはようやくバイクから降りることができた。あれから数分、ずっと乗って移動してたものだから、妙な感覚が残ったままで、足元がふらつく。それを見た弟は、黙ってわたしの肩をつかむと強引に寄せた。端から見れば放課後デート中のカップルに捉えられそうな姿だ(制服同士だし、弟のほうが背高いし、顔つき全然違うし…!) あいにく離れようにも相手がそれを許してくれず、しょうがなくそのままにして、到着した町並みをおとなしく歩くことにする。
ちなみに連れてこられたのは、隣町の大通り。今の季節だと、夕方でも空は暗くなっていて、街のイルミネーションが目にまぶしい。幅の広い道に立ち並ぶ様々な店をちらちらと見ながら、弟と並んで奥へ進んでいく。やがて見えてきたのはこの町一番大きな駅……の前にある、もみの木。
とてつもなく大きくてたくましい、たくさんの飾りをつけた、きれいなクリスマスツリーだった。
「す、すご……!!」
あまりの衝撃と迫力に、思わず誰にともなく呟く。こんな大きなツリーなんて、生まれて初めて見る。いや、正確には、目の前で、だ。精一杯に頭を起こしてどうにかてっぺんを見ようとするけど、もうちょっと下がらないと難しいかも。でも周りにはすでにたくさんの人(カップルだけじゃない、サラリーマンや買い物帰りの主婦の方々もだ)が足を止めて見とれているため、その場から動くことができなかった。
それにしても、ほんとに大きい。並盛にこんな大きなもみの木はない、と思う。少なくともわたしは知らない。それにただ大きいだけじゃない、ツリーを彩る様々な灯りがキラキラとしていて、なぜか胸がどきどきして、感動した。
そうやってただひたすら見上げていると、弟から声をかけられた。相変わらず肩にある手は離れていない。
「姉さん、気に入った?」
「うん、勿論だよ! とってもきれいだけど…」
ああ、気づけば回りの人はカップルばっかり……。残念なことに、わたしと弟みたいに家族でツリーを見ている人はほとんどいない。
「…さみしくない? 姉弟でクリスマスツリー見るって」
「別に」
「……まあ、気にならないタイプだもんね恭弥くん。でも、よく見つけたね」
「探したよ。姉さんを喜ばせたかったから」
「…そっか」
それにしても、よく人の多いところにこうやっていられるもんだ。弟は人通りの多いところが大嫌いで、デパートやスーパーにも自分から行こうとしない。そういう話を、ちょっとしたからかいで口にしてみたら、ツリーから目を離され、
「姉さんが喜んでくれるなら、それくらい平気だよ」
「…………」
目を合わせて思わずまじめにそう答えられて、顔中の血液の流れがよくなった気がした。
「…あ、あのねっ、そういう台詞は自分の好きな子に言うべきなの!」
「だから言ってるでしょ」
「ちがッ…そうじゃないから。彼女ができた時にね、こういう場所に連れてくるといいって………」
そこまで言うと、弟の目がみるみるとがりだしたのがわかった。おいおい、姉として弟を心配、というかアドバイスしてあげてるのに! 対する弟の返事はつれないもので、
「彼女? そんなの必要ないよ。第一、姉さんじゃなかったら間違いなくこんな所来ない」
「…………そうですか(もういい、疲れた…)」
どうやらきみは、わたしじゃないとダメみたいで。
そんなわたしも、今日ばかりは、
「ありがとう、恭弥くん」
「どういたしまして、………ななし」
あなたじゃないとダメみたい
「だからといって『姉弟』に変わりはないからね?!」
「そんな固い頭してるから、モテないんだよ」
「な………!(ぜってええ違う! 100%お前のせいだ!!)」
「でも万が一姉さんがモテるようになっても、すぐぶち壊すけどね。さ、帰ろうか」
今更ながらメリークリスマス! 素敵企画をありがとうございます☆