復活:雲雀(姉さんヒロイン固定)
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「えーん、えーん」
「…………」
「ええええええええん!!!」
「ああああああ、のっ! …ど、どうしたの、ぼく?」
「えーん、えーん」
「あ、あの……」
「えーん、えーん」
「え…と…あっ(そうだ!)きみのお名前は?!」
「………みーくん」
ひばりねえのまいにち
「姉さんこれは何?」
「『これ』?!」
スーパーを出たわたしを出迎える弟の目は、小さな男の子を冷たく見下ろしていた。この世の中に、自分の半分も生きてなさそうな子を本気で睨みつける中学生なんて、どれほどいるだろうか。まあ少なくとも一人はいるね、目の前に。しかも「これ」だから。こいつ(…)とかこの子ならまだしも、物扱いだから。
そして「これ」と指差された当の本人は、ビビッていた。せっかく泣き止んだのにまた涙を目にためていく。
「恭弥くん、そうやって小さな子をいじめちゃ駄目でしょ」
「威嚇だから問題ないよ」
「(野性的すぎる!!)」
「……で、話は戻るけど。これ、何? 迷子なら店員に預けなよ」
まだ「これ」呼ばわりか……。思うんだけど、弟が人間扱いしてる人って、わたしを除いてどれくらいいるんだろう。あの赤ちゃんくらいか? まあそれはともかく、きちんと弟に説明しなくちゃ。
「この子、みーくんっていうの。スーパーで迷子になってたんだけど、お母さんが見つからなくて…」
「姉さんって面倒事に顔つっこむの好きだね」
「あはは…!」
弟の、到底ほめているとは思えないセリフがぐさっと突き刺さる。いや、わたしも正直つっこむ気にはならなかったよ。けれどたまたま目が合っただけで、わたしは非情にも目をそらしたんだけど、その途端この子・みーくんが大泣きし始めたわけで。そりゃそうだよね、自分困ってるのに目をそらされるってちっちゃな子でもショックだよね……!
それで後にひけなくなったというか、これで無視したらそれこそ人としてどうなのか問われるだろうから、頑張って声をかけたのだ。
でも、結局その場でお母さんを名乗り出る人はおらず、みーくんも不安な表情を全く変えることなく、見つからなかった。
「で、しょうがないからレジの人に預かってもらおうと思ったのは思ったんだけど」
そこまでわたしが言ったとき、みーくんは動いた。素早くわたしの太ももに短い腕を回ししがみつくと、ブルブルと顔を横に振る。
「…こんな調子で、わたしから離れなくって」
「離れろ」
言うが早いか、弟はみーくんの肩をつかむと、べりっとはがした。いくら必死のみーくんでも弟の力にはかなわず、わーんと泣きながら弟に突き放される。ひ、ひでええええ!! ここにいましたよ、人として問われる行動する人!!
「姉さんに馴れ馴れしく触るな、殺すよ」
「!! うわああああん!!!」
「咬み殺す方だからね、みーくん!」
……フォローにならないとわかっていても、修正したくなるものなのです、はい。
まあうちの弟が赤の他人(しかも出会って数分)に同情はおろか関心をもつわけないわけで。わたしは弟に肩をつかまれると、そのまま反強制的に歩かされた。やばい、このままじゃみーくんと離されていってしまう。急いで弟の暴走を止めなきゃ!
「きょっ恭弥くん!」
「何?」
「(超不機嫌だ!)いや…あの、みーくんが…」
「知らない。ほっときなよ」
「ほっ…?! だっだめだよ!!」
お母さんが見つからず、泣くことしかできない。そんな子供がわたしを頼ってくれているのだ。ここで見殺しにするなんてことわたしにはできない。せめてみーくんを安全な場所へ連れていかなきゃ。
そしてわたしは弟の手を握り、ちょっと狡いことをした。こういうボスタイプは、自分が利益的に損をせず得をする条件に弱い、に違いない。つまり、
「お願い恭弥くん、ちょっとだけで良いから、協力して! そうしたら、恭弥くんの言うことなんでも聞くから、ね?」
「……それ、本当?」
あ、揺らいでる。無表情だけど、心が密かに揺らいでる。
きっと彼の脳内ではわたしが奴隷のごとくこきつかわれる様子が浮かんでいる。子供をちょっと手助けするだけで姉という名の奴隷(ん?なんかおかしい?)が手に入るのだ、これで断るなんてあり得ない。
「勿論、ほんとだよ!」
「なら、いいよ」
ほら、きた!!
わたしは半分喜びもう半分「やっぱ余計だったかも…」と後悔したが、後にはひけない。というわけで、ご愁傷様、この後のわたし。
とりあえず待ってくれる弟を外に残し、泣きじゃくるみーくんを連れて、わたしは再度スーパーへ足を踏み入れた。
「………で、なんでそうなるの?」
スーパーを出たわたしたちを、弟はさっきよりもっと冷気を込めた目で見下ろしていた。
今のセリフは、他の人が言うとちょっとしたコメディ風のツッコミになるのかもしれない。でも弟が言えば、本気で問いつめる感じで、コメディさが微塵も感じられない。そうなった理由を、自分が納得できるように言え、というオーラがぷんぷんする。
そんな彼を目の前にしたわたしだ。弟が説明を要求している状況、つまり、みーくんを抱っこしている状態なわけだけど、思わず顔が隣にあるみーくんより先に泣きたくなる。…なんで弟に泣かされなきゃいけないんだ…?!
「姉さん」
「はい(…なぜ敬語…)」
「わかりやすく言うよ。なんで それ抱っこしてるの」
「(それ…)あの…高いほうが見やすいかと思って」
「それで見つかったの?」
「見つからなかったです」
「じゃあなんで店員に言わなかったんだい」
「ちゃんと言ったんですけど今レジ忙しいからって ああああやめて恭弥くん! 乗り込まないで!!」
やばい、今の弟がスーパーに入ったら潰される!! スーパー潰されちゃう!
弟の服をつかみ精一杯引っ張るけど、あまり意味はないみたいだ。そんな時、みーくんが「ねえ」と声を上げた。
「おねえちゃんのおなまえ、なあに~?」
こんな時に?!! と思わずつっこみを入れそうになったけど、相手は純粋無垢な子供。空気は読まず吸うためだけにあるものだと思っているに違いない。
わたしは落ち着いた弟から手を離しながら、今更だけど自己紹介をすることにした。
「えっと、ななしだよ。そういえば言ってなかったよね」
「わかった! ななし、もいっかい なかに はいろ?」
「え?」
「ママが ぼくをおいて、かえるはずないもん」
…まあ、確かにそうだよね。どうやらみーくんは、泣き虫だけどとっても前向きな男の子みたいだ。わたしはそれに賛成したけど、その前に……。
「み、みーくん…あのさ、自分で歩ける?」
腕が痛い。さっきから何度も抱っこしなおしてるけど、そろそろ限界だ。ところがみーくんは「やだ!」とわたしの首に腕を巻いてきた。
「ここがいい! ななしにギュッてされてたい」
「え、ええ~~(でもかわいい…!!)」
「調子にのらないでくれる?」
うおう、うちのボスが激しくお怒りだ。ところがみーくんは弟にあっかんべーをすると、わたしのほっぺに顔をくっつけた。そんな時、ふにっとした感触が一瞬だけして、離れる。
「、わ…!」
「ななしのほっぺ、やわらかーい」
あ、れ。もしかしなくとも、みーくんにちゅうされちゃったみたい?
ほんとはアギャーと叫びたいけど、相手が相手だし(範囲外だもの!)、みーくんの裏表のない、純粋な笑顔を見ると、空笑いですませるしかなかった。あれだ、きっと仲良しっていう証拠なんだ。はい、終わり!
「……………は!!(し、しまった!)」
いや、違う。
わたしはそれですんでも、弟は違う。ゴオゴオと怒りのたぎったオーラ全開で、みーくんを睨み付ける。それは気のせいではなく、周りの主婦の方がそそくさと退散する。中にはオロオロしながらケータイ片手にどこかへ連絡する人も…ま、まさか110じゃ…?! それはまずい、こんな公共の場で騒ぐなんてやっぱりまずいよ!
「ま…待って! ストップ!!」
「やだ」
ひいいいめっちゃ怒ってるーーーーー!!!! みーくんの態度になのか行動になのかわからないけど(もっももしかしたら両方?!)、とにかく怒ってる!
「恭弥くんちょっと待って、落ち着こう!」
「どいて姉さん、そいつ殺せない」
「お願い病まないでーーー! 相手子供だから! そんな本気に…」
「相手が何であろうと、姉さんに手を出す奴は全て殺す」
「(“咬み殺す”の方がまだカワイイよちくしょう!!)」
ていうか、どいても何もみーくん貼り付いてるからね。そしてそんな子供を自分かわいさに引き剥がすことなんて、ヘタレなわたしはできないのだ。
「ななしー、こわいよー」
わたしのほっぺにスリスリと顔を寄せるみーくん(どう見ても怖がってるようには…! でもかわいい) そして、ああ、なんなんだ、どうして、この子は、こうも、
「……姉さん絶対にそこから動かないでね」
地 雷 を 踏 む の が う ま い ん だ 。
ブチきれた(と思われる)弟は、魔法のように どこからかトンファーを取り出し構えると、ヒュンヒュン回した。餌食になる!! 間違いなく病院送りになる!!
「みーくん!」
そんな時、第三者の叫び声がわたしたちの動きを止めた。スーパーとは真反対の方向にのびている道から、一人の女性が走って来る。
「え、だれ…?」
「あ」
わたしの呟きに反応したみーくんは、顔をのけぞらせその姿を見ると、ぱあっと顔を輝かせた。
「ママ!!」
「えっ?!」
ええええええ?!!!
マ、ママアアア?!!!
あれだけ、わたしと弟をさんッざん振り回したみーくんは、それこそ風のように去っていった。突然現れた女性は、本当にみーくんのお母さんで、何度も礼をしながらみーくんと一緒に帰っていったのだった。
手をつないで帰っていく、その親子の後ろ姿をながめていると、弟に呼ばれた。
「いつまで突っ立ってるつもり? 帰るよ」
「あ、うん」
片方の手でわたしの荷物を奪い取り、もう片手はわたしの手を握った。そして指を絡め、歩き出す(こ、これは俗に言う恋人…なんでもない、気にしない)
こうして帰路についたわたしは、けれども不可解なことに気付いていた。だってみーくんはスーパーで迷子になっていたのだ。そしてお母さんは中にいるって。でも実際現れたお母さんはスーパーじゃなくて別方向からで、かといってみーくんを置いて帰宅するわけない。お母さんがみーくんを抱きしめながら言った「勝手に外出ちゃダメでしょ」というのも」引っ掛かる。
「………恭弥くん」
「何?」
「みーくんのことなんだけど」
「興味ない」
「……さいですか」
「姉さんこそ、忘れてないよね」
「え? 何を?」
うっかりそう返してしまったことに、わたしは後悔した。歩みを止めた弟の表情が険しい。しまった、あれか!! 協力する代わりになんでもいうこと聞くっていうやつ。
アワアワしながら「あああれね!! いいよなんでも言うこときくよ?! でも一日限定だけどね!」と言うと、弟は頷いて、
「姉さんから、キスして」
そう、ぽつりと呟いた。
あまりにも小さく呟いた為、わたしはうまく聞き取れず、「え?」と聞き返してしまった。
「僕からするより、姉さんからキスしてほしいんだ」
「……………」
絶句、とはこのことだろう。何? ここはなんでやねん!とか突っ込めばいいの? ふざけんな!って怒ればいいの? 呆れたとため息をつけばいいの? 絶対やだ、という拒絶は難しそうだけど……ぶっちゃけ、どうリアクションをとればいいのかわからない。
対する弟は、照れもせず笑みも浮かべず、ただわたしをジッと見ている。うう、やめて…そんな顔でわたしを見ないで……!!
「え、あー……」
「断ったら咬み殺すからね」
「……ワカッテマス、けど」
うっそー、まずいぞこの状況。わたしと弟の横顔を照らす夕日が妙にまぶしい。夕日と逆の方向を向けば、二人の影法師がじっと立っているままで。
弟の手とつながっている自分の手が汗ばんでいる。やめて、今この場ってまじでやめて!!?
「姉さん」
彼の口調はとても静かで、まるで諭されているような気分になる。
「姉さんは僕のこと、ただの弟って思ってる。でも、僕は本気だよ」
「……………」
約束を破るつもりは、ない。
でも、だからといってこんな弟(失礼?でも残念、事実です)を意識することも、できない。
「………わ かった」
決心した。
わたしは生唾を飲み込むと、弟の目を見つめ返した。
「恭弥くん、目、つぶって」
結論から言おう。わたしは弟にキスをした。
ただし、ほっぺに。
「……や、約束は守ったからねッ!! かっかえるゆォ…!」
それでも顔から火がほどばしりそうなわたしは、弟をぐいぐい引っ張りながら再び歩き出した。何も言わないけど、すごく不満そうな弟の顔・雰囲気は一切無視する。
「あああ~もうやだ……ほんとなんでこんなことに……!」
「姉さん」
「!! なっなななに!?」
「頬くらいで照れる姉さんもかわいいよ」
「?!!!! ……くっ…くらいって言うなーーーーー!!!!!」
それでも何一つわたしと弟の仲が変わらないのは、それこそ姉弟愛というものだ、
「ま、このまま一気に落とすより、徐々に落としたほうが楽しいしね」
……なんて、わたしだけかもね………………。
誰か、この子にいい女の子紹介してくださあああい!
近くて一番遠い愛を唱える、それはうちの弟
「そういえばみーくん、耳元で笑った時あったんだけど…クフフって変だよね」
→ほそく
ひばねえシリーズ完結。
まずはここで一言、「あーつかれた」(……) いや、これは相当大変でした。タイトル毎回苦労しました、だって頭文字限られてるんだもの! 一番考えたのは「に」ですね。結果的ににびいろとか使ったけど、なんだにびいろって。灰色のこと? 灰色のともだち?
そして何より雲雀弟の暴走具合。やばいですね、原作の彼とは思えないほどのシスコンっぷり、というかシスコン以上っぷり。ななしさんほんとお疲れさまでした……あの、多分ていうか絶対これからも弟くんはななしさんフォーリンラブなので。勘弁してやってください。
それから忘れちゃいけない、応援してくださったそう、そこのあなたさま!! 本当にこんなシリーズを楽しんでくださってありがとうございました。面白かったですありがとう、とおっしゃってくださって、イエイエこちらこそありがとうでございますよ。
もっと続いてください!と熱烈なラブコールを受けながらも、申し訳ありません、諸事情につきここで終わらせていただきます。いえない、書く時間が本格的にとれなくなったからここが潮時とか絶対に言えない……!!(お前はバカですか)
ちなみに今現在(08.12/13)よそさまのクリスマス企画に、このひばねえ設定で執筆中です。書き終わったらクリスマス編としてアップしますので、それまではしばしのお別れとなります! もっと甘く書けたらいいんだけどなあ…姉弟設定だからなあ………。
何はともあれ、ここまで来れて完結できたのは皆さんのおかげとしか言いようがありません。
10話もおつきあいくださって、本当にありがとうございました。
12月14日(日付変わった…)
ヒフ 拝