復活:雲雀(姉さんヒロイン固定)
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「……あっちょ、ちょっと待って! ストップ!」
「……何」
「ごめん、いや、あの…あのこ」
「………」
「……ちょっと様子見てきて、いい?」
「…好きにしなよ」
ひばりねえのまいにち
「…姉さん」
「なーにー?」
「(……)…僕は好きにしていいとは言ったけど、飼っていいとは一言も言ってないよ」
「え?!」
なあと鳴く子猫を抱きながら、わたしは冷たい弟をソファから見上げた。ひ、ひど…! こんなかわいい小さな動物にも容赦ないっていうのか?!
でもそれならそれで、帰り道、わたしが段ボールに入ってる子猫を見つけたからってバイクを止めなくても良いじゃないか。そのままスルーだってできたはずだ。それなのに……子猫がかわいそう!……と、強気に言えないわたしに(今のところ)守られている子猫もかわいそうだ。
「大丈夫、飼いたくなるよ! 恭弥くんも動物好きでしょ? 見てよ、この瞳!」
子猫を抱っこすると、弟の顔面にその小さな顔を近づけた。けれども弟は大した反応もせず、ふいと顔をそらして、
「姉さんのばか」
そう吐き捨てると、リビングを出ていってしまったのだった。無視された子猫は宙に浮かびながら、しっぽをゆらゆらと揺らした。あ、和む。
…それにしても…ばかって…! わたしが何をしたというんだ…?!(子猫を拾っただけじゃないか…)
「えへ~ねこちゃん、かわいいなあ」
とりあえず部屋に戻ると、一緒に連れてきた子猫をベッドにのせた。ベッドにのるのが初めてなのか、子猫の戸惑う姿がかわいい。それにでれでれとしながら、子猫を眺める。
ふわふわの毛に包まれた小さな体躯、プニプニの肉球、くりくりっとした、この世の汚さ醜さを全く知らない綺麗で大きな目。もうわたしのストライクゾーンど真ん中!! これに追加してか弱い声で鳴かれた日には、
なあ。
「ぐはあァッ!!」
何もされてないけど、思わず頭をのけぞらせる。まさかの最強ボイスがきた…! これだから純粋無垢な子猫は恐ろしい、でもかわいい。
恐る恐る子猫に手を差しのべ、あごの下に持っていく。そしてくすぐってみると、子猫が気持ち良さそうに目をとじた。もっとなでると、ゴロゴロとのどまで鳴らす。うわあああこの世に生まれて良かった…!! 神様ありがとう!
「姉さん」
「!! あっ、はい! 何?!」
突然、弟がノックも無しに入ってきた。そしてズンズンと部屋に踏み込み、ひょいと子猫を持ち上げる。あああっ何をする!! さっきはオールスルーだったくせに!
「この猫、貰い手見つかったから」
「な…なあ?!」
早いよ早すぎるよ、貰い手見つかるの!! あれっ?ていうかそもそもわたし貰い手探すの頼んだっけ? いや、頼んでない!! 頼んでないぞ!!
ふにゃあと嘆く(ように鳴く)子猫を、弟は見下ろしながら言った。
「良かったね、大事に飼ってくれる人が見つかって」
「(最初超棒読みー!) ちょ…ちょっと待ってよ!! わたしは」
「姉さんがこの子猫をどう思おうと」
わたしの制止をさえぎって、弟はドアノブに手をかける。ああ、子猫…わたしの癒し…!
「僕が認めないから、こいつはこの家にはいらない」
「……そっそんなあ…~~!!」
普通ここまできたら飼おうとか、……いや、弟に普通を求めちゃいけないんだった。きっとわたしが部屋に閉じこもってる間に、風紀委員の皆さんに指示して引き取ってくれる人を探してたんだ、これが弟の普通だ。
弟が一歩踏み出したところで、わたしは咄嗟に声を出した。
「恭弥くんっ!!」
「……………」
「ど…ど、どうしてもダメ…?!」
「じゃあ聞くけど」
くるりと振り向いた弟は、子猫からわたしに視線をうつした。
「僕らが学校にいる間、誰がこの世話をするんだい?」
「う゛」
「餌代や家を買うお金、病気の診療代もかかる。言っておくけど僕は一円も出す気ないよ」
「…そっそれはわたしが」
「バイトはもうさせないからね」
「!!」
さすが姉弟というべきか、わたしの考えがお見通しみたいだ。えええなんかやだ!!(本格的に支配され始めてる?!) 反論をする前に釘をさされてしまう。一生懸命考えてるうちに、弟がため息をついた。
「わかったでしょ」
「………」
「経済的にも日常でも余裕ない僕らより、裕福で猫が好きな家に住むほうが良いんだ」
「………」
「……わかったら返事」
「はい!」
何度も言ったような気がしないでもないけど、改めて言おう。彼の不機嫌な声に即答するわたしは、間違いなく彼の姉だ。
そして血も涙もない鬼こと弟は、かわいいかわいい子猫をわたしの手から奪い去り、ゆうゆうと去っていったのだった。
「(ば、ばかやろ~!)」
罵声一つも声に出せないわたしは、間違いなく…以下略。
「へぇ、そんなことがあったんだ」
翌日、登校したわたしはすぐさま友達に愚痴をこぼした。自分で言うのもなんだけど、毎度毎度弟の愚痴を聞かされるこの友達もかわいそうだよね……でも話さずにはいられない。それはこの友達が聞き上手というのもある。その聞き上手な彼女は、呆れ半分同情半分の面持ちで、教科書を引き出しにしまった。
「ななしも大変だねえ、愛されて」
「愛されてるんじゃない、支配されてんの」
「(……確かに、そうともとれる)」
「うちの弟ってさ、意外と動物になつかれるんだよね…本人も嫌いじゃないみたいだし」
だから一緒に子猫を連れて帰ってきた時は、本当にやった~!と思ったのだ。ところがどっこい、わずか三十分足らずで引き取り手を見つけ、わたしの制止も全くきかず子猫を追い出してしまった。
「はーあ…」
「まあまあ、しょうがないでしょ。弟くんの言うことも間違ってないんだし。子猫だろうとなんだろうと、飼うにはそれなりの覚悟がないと」
「覚悟?」
「そ」
死ぬ覚悟だよ、と友達はポツリと呟いた。
「どんな生き物だって最期はくるでしょ。ななしって泣きやすいから、弟さん気にしたんじゃない?」
「………そこまで考えて…ない…わけじゃないかもしれない」
「あはは、どっちだよ」
なんだか思うんだけど、この友達って弟のことよくわかってるなあ。大人というか、客観的に物事を見ることができてるというか。
「ねえ、弟に会ってみない? フィーリングカップルの可能性高いかもよ」
「冗談!!」
即答且つものすごい苦い顔で拒否された。…まあ、わたしが彼女の立場なら、毎日その弟の愚痴を聞かされて会いたいとは思えない。それにこの友達は年上好きみたいだし、うん、弟ドンマイ!
わたしは脳内でそう思っていただけだったんだけど、端から見れば弟を拒絶されてショックをうける姉かもしれない。何を思ったのか、友達は「ああ~」と視線を宙にさまよわせた。
「でもさっ、弟くんがななしの言うほど酷い人じゃないっていうのはわかるよ。ほんとに冷たい奴だったら、わざわざ引き取り手なんて探さないでそこらに捨てるはずだもん」
「…うん」
「ね? おまけに引きとる人のことまでちゃんと考えてるんだから、かわいい弟じゃん」
確かに、そう言われればそうだ。第三者からすれば弟のやったことは良いこと。でも当事者のわたしからすれば「飼いたかったのに!」と批判すること。
「でも…」
「でも?」
「…ここで納得したら負けだと思ってる」
「何にだよ」
友達のシャープな突っ込みと同時に、HR開始のチャイムが鳴った。
いいとこあるっぽいうちの弟
「ま、一番有力なのは、単に子猫に嫉妬しただけっていう」
「うん、それなら納得できる」