本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
見回りっていうのは最高に最低な程、暇だ。
総悟が「あっ怪しい奴発見」と言ったきり戻ってこねェのも頷ける(認めねーけど)
ほとんどが何も起こらずに屯所に戻るんだが、いつもいつもそうなわけじゃねェ。
たまにだが、ハプニングが起こる。それを逃さない為に、暑い中 歩き回ってる俺。
………なんか馬鹿馬鹿しくなってきた。
「あーくそマジだりィ。コーヒー買うか」
自動販売機を見つけ、小銭を取り出す。
そして入れようとした途端、背中を強く押され、俺は販売機に顔を叩きつけられた。
「ぶっ!! 誰だてめェェェ!!」
暑さのいらだちも手伝って、ぶち切れた俺は素早く逃げようとした人間を捕まえた。
はじめ攘夷かと思ったが、明らかに違う。民間人だ。しかも女ァ?
「あっすみませんお怪我大丈夫ですか! あとすみません離してください!」
「どれも すみませんですんだら警察いらねーんだよ。業務執行妨害でしょっぴいてやる」
ぐいっと手首を引っ張ると、女は抵抗するかわりに 焦った口調で俺を説得しにかかった。
「わかってます、後できちんとここに戻ってきます! でも今は勘弁してください、じゃないと銀ちゃんがムショっていう所に……!」
「……『銀ちゃん』?」
その単語を聞いて思い出すのは皮肉にも万事屋だった。
いや、でも世の中に銀ちゃんはごまんといるだろう。
銀ちゃんじゃなくてギン・チャンかもしんねーし。
どうでもいい事に思考をめぐらす俺に、女は自分から話し出した。
「銀ちゃんが人をはねちゃったらしくて、今すぐお金振り込まないとムショ行きなんです。息子をそんな目にあわせたくないのはみんな同じでしょう、だから急いで銀行に」
「ちょっと待て」
その手の話なら、随分前に流行った詐欺だ。
つーか、まだやってんのかよ……しかもそれに引っ掛かる奴も。
「そいつァ詐欺だ。安心しろ、その息子は人をはねちゃいねー」
「………え? さ、ぎ…?」
ぽかん、とする女に、いつの間にか怒りがおさまった俺は簡単に説明した。
すると女は慌てたようにメモ用紙を取り出し、電話番号を見せる。
「でもこの電話番号、」
「貸せ」
取り上げて、ケータイから電話する。
思った通り、無機質な声が聞こえてきた。
「架空だ。その病院名なんか、聞いた事もねェ。でたらめだな」
「……そ、そうだったんですか」
ホッとしたように女はため息をつく。
それから、サッと青ざめた。俺を見ている。
「ごめんなさいごめんなさい!! 血が…!」
「あ?」
鼻です、と言われたので触ってみたら、血が出ていた。
あー、たたきつけられたもんな。
女は懐からハンカチを取り出すと、躊躇なく俺の鼻の下に付ける。
すぐにでもその手を払いのけて「いらねえ」と言いたかったが、
「あーあー、こんなに出ちゃって。……私、そんなに強くやりました?」
なんとなく、払いのけづらかった。
まるで相手が、俺の事をなんでも思ってねーか、それともガキのように扱う。
隊服とか、俺の目つきとか、んなもんどうでもよさそうだ(俺を見ただけで大抵の人間は男女年齢問わずにびびるもんだが)
見た事ねー女。
「すぐに冷やした方がいいですね。近くに公園とかあります?」
「………いや、いい」
そこでハッとした。これ以上見ず知らずの女を引っ張るのはまずい。
さっきまで夕焼けだった空が、今じゃあ薄暗くなっている。
しゃーねェ。笑われんのは癪だが、このまま帰るか。
「それより、もう帰れ。息子がいんだろ」
「はあ、でも貴方は」
「血くらい平気だ」
「……。それじゃ、これ使ってください。返さなくてもいいから」
「………」
よりによって白いハンカチに、赤い血。
返さなくてもいい、というのは正直助かった。
「それじゃあ、失礼しますね」
「ああ」
女が来た道を戻るのを見て、俺も背中を向ける。
コーヒーを飲むつもりで吸ってなかった煙草に手をのばした時、
「すいまっせ~ん。ネェちゃん、ちょっとここまで案内してくんない?」
「でもねえ、私よくここわからなくて」
「あっそうなの? それなら一緒に」
「お前だけで逝け」
助走をつけて ドガッ、と男に蹴りを入れる。
砂埃がたったが、俺は最後まで見ずに女を連れて歩き出した。
後ろからあがった非難の声に「うるせェ!」と一喝する。
「アンタほんとに無知だな! あんなゴロツキに、普通ついてかねーだろ。……息子が可哀相だぜ、ったく」
「む、無知じゃありません。………ただ、まだ、この世界に慣れてなくて」
「あ? なんか言ったか」
「! いいいいえ、なんでも」
最後がぼそぼそと呟いていたが、別に気にならない。
とにかく、もし一人で帰らせたら、翌日 新聞に失踪だの強盗だので写真があげられる気がする。
職業上、そして世話になった以上、放っておけるはずがなかった。
そして女を見送った場所を見て、俺は 呻いた。
「……………アンタ、万事屋のメンバーか」
「いえ、 居 候 です」
居候、という部分に変な強調がかかる(なんだそりゃ)
どうやら銀ちゃんっつうのは本当にあの銀髪ヤローの事だったらしい。
そう思っていた俺を振り返って、女は背筋をのばすと 凛とした態度で名乗った。
「よし……ななしと申します。今更ですけど、ここまで送ってもらったのに名無しの権兵衛じゃいけませんから」
「なんか古くねーかそれ」
今の時代に女の口から「名無しの権兵衛」を聞くとは思わなかった。
俺はなんとなく言っただけだが、相手は何かが気にくわなかったようで、ぶすっとした表情になる。
が、結局 俺の名を聞く事もなく、深々と一礼して階段をのぼっていった(いや別に聞いてほしかったわけじゃねーし!)
それを見届けて、今度こそ俺は帰路につく。
「……ななし」
どっかで聞いた事あるかもしんねーと思いながらも、やっぱり考えるのは、どんなハンカチを買って返そうか、という事だった。
「ただ」
「ななしーーーーーーーーーー!!!!」
帰ってきたななしを出迎えたのは、神楽の熱烈なロケットパンチだった。
ただ、パンチは脇を横に通り背中にがしっと強く回される。
その力は流石のななしでもこらえきれず、絶叫しながら玄関に尻餅をついた。
「いたたたた!! かっかぐっ」
「うわあああああななしさんんん!!」
「バッおめーはがれろォォォォ!!」
離れろ、ではなく はがれろ、と銀時が言い換えるが、まさしくそれだった。
神楽はななしの腹に顔をこすりつけて、「心配したのヨ!」の後に「腹減ったヨ!」と付け足した。
「ああ、ごめんねえ、結局作ってなかったわね」
すぐ作るから、と神楽をやんわりとはがすと、早速 台所に立つ。
新八と神楽はそんな微笑みにどこかホッとした表情で、ソファに座ると、続きのテレビを見る。
しかし、銀時はななしの背中を見て 声をかけた。
「なんであれだけ言ったのに、出てってんだよ。心配させんじゃねー」
「ごめんごめん、色々あってね」
そこで詐欺の事、知らない男に鼻血を出させてしまったり、帰りはまた騙されそうになったけどその男に助けてもらって送ってもらった事を細かく話す。
ななしはキャベツを切っていた為わからなかったが、その背を見つめる銀時には鋭いものがあった。
「やっぱり銀ちゃんの言ってた通りだよ。私だけじゃ絶対お金とられてたし、危なかった。あの人に感謝しなくちゃ」
「そうじゃねーだろ」
怒りを抑えたような声に、ななしはビックリして振り向く。
どうして銀ちゃんは怒ってるんだろう、そんな目で見る。
その目が気に入らなかった銀時は、ななしの両肩を強く掴んだ。
「お前本当に事の重大さがわかんねェのか。下手したら金どころか、犯されてたかもしんねーんだぞ。なのに多串に感謝とか、そんな事ぬけぬけ言うんじゃねえよ」
「……ご、ごめんなさい」
しゅん、と うなだれるななしに、銀時は今度は優しく語りかける。
本当に、何もなくて良かったと、心から思いながら。
「もう、不安にさせんな。俺は慣れてっけど、あいつら、本当に心配してたんだからな」
「……うん」
あいつら、という部分で 新八と神楽を見る。
ななしは落ち込んだものの、やはり 銀時を温かいまなざしで見つめた。
「それじゃ、お詫びにたんと美味しい物作らなくちゃっ」
「わかりゃいーんだよ」
フッと笑うと、銀時は台所を出た。
「銀ちゃん、何 話してたネ。もしかして今日の夕飯リクアルか! ななしーー餃子がいいアル!!」
「神楽ちゃん、いい加減食事から頭離そうよ」
新八の控えめなツッコミにくすり、と笑いながら、ななしはふ と思った。
「……あの人の名前、オオグシさんていうのかしら」