本編
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扇風機の風が回ってくるのを感じていると、ななしがおもむろに口を開いた。
「みんな、しりとりしない?」
「あ? しりとりィ?」
「そう。暑い事を忘れる為に、涼しくなるような夏っぽい単語使って、ね」
えーめんどい、と答える前に新八と神楽が賛成したために、それができなくなっちまった。
……しょうがねーな。
「やってやらァ」
「ふふ、それじゃ私からね。『すいか』、はい銀ちゃん」
「あー、『かき氷』。次新八」
「り、ですか? うーん……『臨海学校』」
「『宇宙旅行』アル!!」
おい、それ夏じゃねーだろ。旅行つけりゃ夏と結ばれると思ってんのかコイツ。
そう思いながらも誰もツッコまねーのは、しりとりするだけで精一杯の気力だからだ。
ソファーに寝転がる俺と、向かい側で 水に濡らしたタオルを顔に当てる新八。神楽は扇風機の前を陣取り(このガキ)内輪を仰ぎながら床に正座するのはななし。
いやなんで正座なんだよ。だれればいいじゃん。
そんなツッコミさえする気が起きねェ。
「私だね。『海』」
「海……みんなでいっその事 行くか」
「『海外』」
「『いやよいやよはやっぱりいや』ヨ」
「おいィィィィ! スルーかよ、ここまでスルーかよお前ら! しかも神楽のどこで区切ればいいの?」
「えっ、何がですか?」
「しりとりじゃなかったアル?」
ぽかんとした目で俺を見る奴らに、頭が痛くなってきた。
あーやっぱやめた、めんどくせェ。
「無し無し、今の無し。しりとりの続きやろうぜ」
「それより、怪談話しようヨ!」
神楽の明るい声に、俺は即答した。
そしてすぐに立ち上がる。そこをすかさずななしが座った(やっぱ正座きつかったんだ)
「却下」
「えー、怪談良くないですか。ねえななしさん」
「うんうん、良いよ! 銀ちゃん、やろうよ」
「嫌だね! やりてーならお前らだけでやれ、俺はアレ……ななしの部屋にいるから」
「なんでわざわざ遠い部屋を選んでるネ」
「やっぱ恐いんだ銀さん。まあしょうがないですもんね、誰にでもそういうのはあるし」
「銀ちゃんが恐い話嫌いだったなんて、初めて知ったよ」
びっくり、と目を丸くするななし。チクショーこのダメガネェェェェエエ!!
「おまっ何余計な……いやデタラメ言ってんだよ! 俺怪談マジで大丈夫だし、最近 幽霊と散歩したおぼえあるし」
「えええマジでか!! 凄いアル。でもそれなら怪談話くらいワケないだろ」
「………神楽、お前」
尊敬した台詞はどうやら俺をたたきつけるためだったらしい。
結局 無駄に意地をはって、俺はななしの隣に座った。
「あれ? 何してんの君たち」
「暗くしてんですよ。まあ夜にやってもいいんですけど、それだと夕食に間に合わないんで」
「カーテン閉めてもあんまり暗くならないヨ」
神楽がぶーたれるが、俺はそっちの方がいい。
いや、やるなら できるだけ明るいままで怪談が希望だ。
「あーもういいから、そのまんまでいいから! 座れ、はじめっぞ!」
「はーい」
「まあ、薄暗くなったからいいか」
新八と神楽が向かい側のソファに腰をおろすのを確認して、ななしは「それじゃあ」と口火を切った。
「まず私からね」
ひそひそと声を出すので、俺達は自然と前のめりになる。
とある女性はその日、田舎から引っ越してきたばかりです。
なので、どこにも知り合いがいません。
しかしある夜、玄関の扉がドンドンと叩かれました。
「アアァァアアアァアアアアァァァア」
「銀ちゃんうるさいネ」
「恐いならもう聞かなくていいですよ」
誰ですか、と尋ねても相手はドンドンと扉を叩くだけ。
それで女性は我慢できずに言いました。
私の質問に答える時、『はい』だったら扉を一回、『いいえ』だったら扉を二回叩いてください、と。
早速女性は相手に聞きました。『男だったら一回、女だったら二回、扉を叩いてくれますか』って。すると返事がドン、だけでした。つまり、この人は男性なのです。
そして次に『子供だったら一回、大人だったら二回、扉を叩いてください』と言いました。二回叩かれたので、大人です。
そうして女性は、『わたしを殺すんですか? 殺さないなら一回、殺すなら二回扉を叩いてください』と聞きました。すると相手は、
「どォん!!」
と大きく扉を叩きました。
「はい、おしまい」
「……び、びっくりした」
「私もアル。ななしって話し方上手いアルな」
「ふふふ。でもちゃんとわかった?」
「わかってますよ、結局女性は殺されないんでしょ。銀さん大丈夫でした、心臓バクバクしてんじゃないですか? ……あれ、銀さん?」
「なんか白目むいてね? 放心してね?」
「あ、………大声、出し過ぎたかな」
銀ちゃーん、とななしが肩を揺さぶる、そんな夢を見た。
後輩に実際騙された話引用。あれビビるんですよ身近だと。