本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あのー、すいませーん。銀時クンいますか」
万事屋の前でピンポンとチャイムを鳴らしているのは、間違いない、ヅラだった。
なんつータイミングの悪い、…いや、良いのかこれ?
階段を駆け上がった神楽と新八が「あ、」と声を出す。
それに振り向いたヅラは、その2人の後ろにいた俺を見て、
「なんだ銀時、出かけ」
その隣のななしを見て 絶句した。一方、ななしはヅラと気づかずに俺を見上げる。
「? 銀ちゃん、お客様がいらっしゃるじゃない。早く行ってあげなくちゃ」
「ばァか、ありゃちげーよ。よく見ろ、あの黒髪。クソ真面目な面(ツラ)を。さっき話してた奴だぜ」
「………え」
もしかして、と俺を見上げるななしに、頷く。
「…お前、もしかして」
「ヅラちゃん」
「ヅラちゃんじゃない! …って、……お前……!」
どこかフラフラとした足取りでななしに近付くヅラ。
それに対しななしはしっかりとした歩みで、ヅラの前に立った。
「……まさか…! …ッぎ」
「この馬鹿者ォォォォオオオ!!!」
「ブゴオォォ!!」
俺を睨み付けたヅラの頬を、ななしが思いきりはり倒した。
うげっ、まだあの拳は健在かよ……!!(おっかねェ!)
その勢いはもの凄く、ヅラとはいえ大の男がみっともなく万事屋の床を滑る。
それを追って、ななしは思いきりヅラを怒鳴りつけた。
「言ったでしょう、他の人には迷惑をかけちゃいけないって!」
「……ま、間違いない……!(これはななしだ、)」
「どこが間違えてないって? 爆弾を使って良い事なんかできるはずないでしょう!? いい歳してどうしてそんなヤンチャするの!」
「ち、ちが……!」
ヅラの胸ぐらをつかんで激しくシャッフルする。
いい歳してヤンチャするな、とお妙に言われた覚えのある俺はぎくっとしたが、大丈夫、俺は爆弾なんか使ったことねーからぶたれない。
ななしは俺達の母親を自称するだけあって、教育上の怒りは手を出す事に躊躇がねェ。
その鉄拳は時にあの「先生」にも向かう事があった。
俺達が、初めて刀というものを握った時だ。
それは現在も変わってねーらしい。
ヅラの帯刀を見て、ななしの表情が曇る。
ようやく胸ぐらをつかんだ手を離すと、うつむいた。
「……………」
「……やはりお前、ななしだな」
「目上に対してお前……じゃないか。今は、ヅラちゃんの方が目上みたいだものね」
母親の怒りはすんだのか、俺達はようやく足を動かす事が出来た。
「ななしー超かっこよかったアル!」
「ごめんね神楽ちゃん、取り込んじゃって。……ヅラちゃん、あがってく? 話したい事もあるし」
「……ああ」
いつもであれば俺が即 ヅラを帰すが、この雰囲気でそれは言い出せなかった。
だいたい、今のななしになったら、誰も手がつけられねェ。
もう二度とならねーでほしいっつうのは無理だろうな。
ヅラでこの有様だ、もし高杉なんかと出会ったら………あ、俺そん時逃げよ。
それか、ななしを気絶させて連れてくしかねーな。
「ぎ、銀さん……。普段大人しい人ほど怒ると恐いってマジだったんですね」
「まあなァ。でもアイツが怒るのは母親としてばっかだからなー。私情で怒ったのは見た事ねェや」
「……ななしさんて、本当に僕らのお母さんみたいですね」
「でも気ィつけろよ。その時はガキ相手にプロレス技かける母親でもあるから」
「そんなバイオレンスな母親なの?!」
「………どうも信じられんな」
簡単にななしの経緯を聞いたヅラは、腕を組んで目を閉じた。
奴なりに整理してんだろう、今の状況。
歳も姿もそのままで現れたななしを、今更別人だと言い張るのは無理がある。
それに、俺自身が認めたくなかった。こいつァ本物だ。口調も怒るタイミングも、昔通りで。
変わらないななしに、俺は安心している。
「そういやお前、俺の事睨んでたろ。あれか、羨ましかったのか」
「そうではない。てっきりななし似のカラクリを作ったのかと思ったのだ。そこまで思い詰めているなら、俺の拳でたたき直してやろうとな」
「余計なお世話だ。お前に殴られたら直るもんも直らねーよ、特に精神的ショック」
はい、どうぞとななしがヅラの前にお茶を置く。それを一口飲んで、ヅラは息をついた。
「茶の葉は違うはずだが、ななしのいれたものだ。……懐かしいな」
「色々と大変だったみたいだね。ごめんね、急にいなくなっちゃって」
「ななしのせいではない。あれは、事故なんだろう」
「うん……。ありがとう」
ななしの手が、ヅラの頭に乗る。そしてよしよし、と優しくなでてやった。
あ、なんか胸糞悪い。
「ヅラちゃんは相変わらず優しいねえ。それに言葉遣いもしっかりしてるし、いい子になったね」
「……俺は子ではないし、ヅラでもない。桂だ」
「うんうん、わかってるよ」
ヅラと再会したのが余程嬉しいのか、ななしは頭をなで続ける。
それに我慢できなかったのは、俺よりもヅラだった。手首をとると、頭から離す。
「ななし、俺はもう大人だ。子供扱いはやめろ」
「ごめんね、どうしても癖が抜けきれなくて」
「…………」
ななしの困った表情に弱いのは、俺だけじゃねーみてェだ。
ヅラはわざとらしく咳をすると、立ち上がった。
「ヅラちゃん、どこに行くの。せっかくだからご飯一緒に……」
「ヅラじゃ……。……帰る。エリザベスが待っているからな」
「えりざべす?」
「今度は連れてくる。その時にまた会おう」
「けっもう来んな!」
「銀ちゃんっ」
玄関まで見送ったななしは、にこやかな表情だ。
そこまで嬉しかったのか、ヅラと再会したのが。俺にゃどうも理解できねーな。
「そんなに嬉しいもんかァ?」
「勿論だよ! ヅラちゃんに会えて、それから銀ちゃんにも会えて、私はとても幸せだよ」
「………そーかィ」
だから、やめろよな。その顔。弱いんだから。
「次は……そうだねェ、晋ちゃんかなあ。あの子、今頃どうしてるかしら」
「………………」
素早くジャンプを手に取り頭に乗せ寝転がる。
答えられるわけねーだろ!!