本編
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夏真っ盛りの暑い日、俺達はテーブルを囲んでため息をついた。
扇風機をつけたい。ものっすごく つけたい。
でもそれをしたら、本気で死ぬ。
「……どうすんですか、これから」
新八が何度目かの問いを口にするが、答えは見つからなかった。
こっちが聞きてーよ。
「あー、なんでこんなことなってんだァ」
「お前のせいだろーがァァァア!!!」
どうやら禁句らしい台詞をはいたせいで、俺は新八に怒鳴られ神楽に頬をぶん殴られた(こいつら暑さのせいで余計に怒ってねーか?!)
そんな中、ななしはテーブルに置かれた物を手に取り、頬に手を添え、ため息をついた。
「…まさか、もうお金がないなんて」
最近 依頼が少ないせいで、金が充分に入らねー日が続く。
その上、俺がパチンコ行ったり糖分を得たりするせいで、その金がどんどんなくなって、冗談抜きで危ない……と新八に言われた。
ちなみに新八は昨日、そのことをに姉貴に話したら長刀で追いかけられたらしい。
バッカだなー、んなこと正直に話してんじゃないよ。俺だったら永遠に黙ってるね、死ぬくらいなら嘘つくね。
「姉上だけの給料じゃ、やっていけないし…。どうにかして給料欲しいんですけど、銀さん」
「バカヤロー、苦しんでんのはお前だけじゃねーっつの。俺が給料欲しいよ。だいたいおかしくね? 従業員が給料もらって社長の俺が給料渡すっておかしくね?」
「おかしいのはアンタの頭だ」
ぐうう~。
しょうもない口喧嘩が止んだのは、神楽の腹の音のせいだ。
そういや、朝からこの話で何も口にしてねえ。腹減ったなァ・・・。
「ななし、お腹空いたアル」
「そうだねえ、とりあえず 冷蔵庫にあるので作るね」
立ち上がったななしは台所の冷蔵庫を開けて、「あっ」と声をあげた。
それに「どうした」と駆けつければ、中身が空っぽの冷蔵庫。
「おかしいねェ、昨日野菜買っておいたのに……」
「…おい神楽、何 目ェそらしてんだ。わかるんだよ、お前無駄に素直なんだよ」
「な、何がアル? 私ちょっと目に埃入ってそれをとろうとしただけヨ」
「神楽ちゃん、目にニンジンのかけらが入ってるよ」
「マジでかァァァァ! 丸飲みしたはずなのに………あ」
「あ、じゃねェェェェエエよ!! だいたい年頃の娘がニンジン丸飲みってどういうことじゃァァァ!」
「銀ちゃん、落ち着いてっ」
暑さのせいで余計にイライラする俺達を見事に仕切るのは、やはりななしだった。
懐から古びた巾着袋を取り出すと、それを軽く振る。
間違いなく小銭の音がした。
「まさかそれ、へそく」
「んなわけあるかァ! ななしさんが毎日お登勢さんの手伝いをするから、もらってたんですよ! 掛け軸の裏に100円隠してるアンタと一緒にしないでください」
「ああってめッ何バラしてんだ!」
「たった100円でへそくりした気分なんて、どんだけ小さい男アルカ。そんな金、取る気しないネ」
「だったら掛け軸から目を離せ」
「ふふふ。それじゃ、行ってくるね」
ななしが靴をはき出ようとするのを見て、俺はすぐに続いた。
昔の過ちは二度としねー。消えないように見張ってやる。
「ぷぷーっ、銀ちゃんどんだけななし好きなんだヨ。恥ずかしいアル、ああいうのをマザコンていうのヨ新八」
「ファザコンに言われる筋合いはねェ。どうせ暑いの嫌なんだろ、だったら留守番しとけ」
ところが、神楽と新八も続いて靴をはき出した。
「家にいても暇だから、ついていきますよ。それにリクエストあるし」
「私もアルー! 今度こそななしと買い物できるネ」
俺をわざわざ突き飛ばしてななしの腕にからみつく神楽(チクショー!)
そんな光景を見てななしは一言、「ありがとう」と笑った。
スーパーは 外とは比べものにならない程の涼しさで、急激な気温の変化に 体が震えた。
神楽は傘をたたんではしゃぎ回り、新八はそれを止めに走る。
残された俺はかごを手にとり、ななしの隣に立った。
「んで、メニューはどうすんだ」
「ご安心を。こういうジリ貧生活には慣れてますから」
「おう、頼りにしてるぜ」
そしてブツブツと、献立について呟くななし。完璧に母親じゃねーか。
……あれ。待てよ。てェことは、今こいつの隣でかご持ってる俺はなんだ。
「どうしたの銀ちゃん、黙っちゃって」
「いや。そういや年齢的に俺らオイシイよね、という」
「え?」
大丈夫、銀ちゃん。そう本気で心配してくるななしをうまくかわしていると、後ろから「旦那ァ!」と呼びかけられた。
んだよ誰だコルァ、と不機嫌に振り向くと、あーなんだっけ、名前出てこねー。
「君は確か……ジミー君か。山のつくジミー君か」
「何その曖昧な思い出し方! 山崎ですよ、山崎退! …あれ、そちらの方は?」
「別に誰でもいいだろ。なんの用だ、用ねーのか、そうか」
「まだ何も言ってないんだけど!!」
「あら? そのかご…」
ななしがひょい、とかごの中をのぞき込むと、大量の野菜が入っていた。
それを見て天然娘は、目を丸くしてジミーを見上げた。
「お若いのに苦労しますねえ、大家族なんて」
「えっ? ああ、違いますよ。俺、買い出し係だから」
「ななし、この世にはパシリというとてつもなく可哀相な単語があるんだ。それを言いたくない奴はだいたい買い出しって言うんだ、覚えとけ」
「旦那、いい加減にしてください(当たってるのが余計にむかつく!!)」
んで、なんの用だよ。そう問うと、ジミーは声をひそめた。
周りに誰か聞き耳をたてている奴がいないか確かめてから、「あのですね、」と手を口に添える。
「旦那があの桂の野郎とつながってるって、副長が疑ってるんですよ。まあ俺は疑ってませんけど(前に潜入して散々な目にあったからもう疑いたくないし)」
「…へェ。別に、アイツに信じてもらいたくもねーけ」
「桂?!」
ななしが素っ頓狂な声をあげ、俺はすぐに口をふさいだ。
そうだ、コイツ ヅラが指名手配犯だって知らねーんだった!
「? 旦那、この娘さんは…」
「そりゃお前あれだよ、アレ。別に何もねーよ」
「でも、桂にすごく反応が」
「悪いかよ、桂で反応して悪いかよ! それなら反応してないのが良いってのかアン?!」
「えっいや悪くないですけど…!」
俺のもの凄い剣幕におされるジミーは、ななしを一瞥した。
鈍い女とはいえど、さすがに何かあると思ったのか、開放されたななしはにっこりと言いつくろう。
「すみません、銀ちゃんがカツラを愛用してるのかと思っちゃって」
「それ酷くない?」
「ああ、そうだったんですか。いやいや違いますよ、俺が言ってるのは人間の桂です。テロリストとして指名手配されてるんで、気をつけてくだ あッだァァ!!!」
「…………えっ…あ、はい。わかりました。ありがとうございます」
無言でジミーの頭をはたき、退散させた。
あの野郎、地味なくせに重大な事をさらりと言いやがって。
おかげでさっきまで 食事に集中していたななしが、沈んだ表情を浮かべていた。
「…銀ちゃん、どういうことなの? ヅラちゃんがテロリストなんて…ていうか、テロリストって何?」
「そこかよ。あっ 俺今初めてツッコミした気がする」
まあー、大ざっぱに言いやァ 爆弾魔みたいなもんだな。
そう言うとななしはぎょっとした目つきで俺を見上げ、「まさか」と呟く。
「そんな、ヅラちゃんが……いつも素直で良い子だったのに」
「何もわかっちゃいねー母親はみんなそう言うんだよ。今のヅラは 変人だ。元から変人だったけど、変人の変人だ。人妻好きだしペット好きだしキャプテンだし」
「銀ちゃん! いったいヅラちゃんに何が起きたの?!」
「天変地異」
これ以上ヅラの話をしたくなかったから、適当に答えてやる。
真剣な声で「天変地異」と呟くななしの頭を、こづいた。
「んなわけねーだろ。帰るぜ、ほら」
「あ、うん」