番外(幼児時代もあり)
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じりりりり、じりりりり。
「はい、万事屋です」
『……万事屋さんて、なんでもやってくれる?』
高めの、可愛らしい声が、不安そうに震えている。
ななしはすぐに何かあったのかと感じ、相手の望む返答をした。
「はい! なんでもやりますよ!」
「……やりますっつったって……これ」
ただでさえやる気のない瞳が、ななしににらまれて、ますます生気を失う。
ターミナルが小さい。
自分たちが住んでいた街が遠い。
それくらい離れた山に、ななしと銀時はスクーターに乗ってやってきた。
「仕事を選ばないのが銀ちゃんのポリシーでしょう。文句を言わないの」
「いや、だからって、なんでここまで来る必要があんだよ。おかげで帰りのガソリンなくなっちまったよ、コンチクショー」
「あのあたりにウチんちが……」と目を細める銀時の後ろで、ななしはポリ袋を取り出した。
二、三回上下に揺らし、空気を入れることで、ふわっとなったポリ袋を、銀時に渡した。
「はい。これにたくさん、もみじを入れるんだよ」
「へーへー……」
今回の依頼主は、少女だった。
聞けば、入院している母親が、病院から見えるこの山の紅葉を見て「あんなにきれいなんだから、もみじはきっと真っ赤なんだろうねえ」と言ったそうだ。
年齢の低い少女は、ビジネスマンの父親に過保護に育てられているらしく、山に登ることなどできないし、そもそも許されもしないだろう。
そこで万事屋銀ちゃんに依頼が入った。
あの山にあるもみじを、たくさん持って帰ってきてほしいと。
「依頼を受ける仕事なのはあってんだけどさァ、もっと金になる仕事を引き受け…ぶへえ!」
後頭部を叩かれ、恐る恐る振り返れば般若のななしが仁王立ちしていた。
眉間に皺を寄せ、唇を真一文字に結んでいる、明らかに「怒」の表情である。
それでも「ちょっぴり可愛い」と思う銀時は重症に違いない。
「もみじを拾って1,000円ももらえるなら、ありがたいお話じゃないの。文句言わないの! そんな風に仕事を選ぶから、今の生活が苦しくなるんでしょう。前にも言ったけど、何事も経験なんだからね。今もらえるお仕事はありがたいと思って……」
「ああああああああああああああああああもういいから!! 俺が悪かったから、すいませんでした!!」
おかんモードに入るななしは非常に面倒くさい。
何が面倒くさいかと言うと、世の中で言えば正論な話を、こちらが謝るまで長時間説教されることだ。
カサカサと逃げ回りななしから距離をとる銀時を、ななしがため息をついて見る。
「私がいない間に、すっかり怠け者になっちゃって……」
「うるせー」
「……もし銀ちゃんの前に私がまた現れなかったら、もっと酷くなってたのかも」
「はぁあ? 何調子に乗ってんの、お前なんかいてもいなくても変わんねーから。誰に諭されようが、俺らしく生きていくんだもんね!!」
「……なんか似たようなこと聞いたと思ったら、小さいころの晋ちゃんだった」
「よっし、やるかな~。大人だしな~!」
単純な息子だと思われるだろうが、ガキん時のヤツと一緒にされるよりは数倍マシだ。
背伸びしたところを、ななしが忍び笑いする。
チッと舌打ちをした直後だった。
「あっ」
ザッ、と一段と強い風が、山全体を通る。
その風の強さに、ななしが一歩後ずさる姿を目にした。
「おい……ブッ!」
銀時が手を伸ばしかけた時、赤いものが視界を覆った。
慌てて顔からはがすと、もみじだった。
何事だと思えば、地面に落ちていたもみじや、木の枝についたままのもみじが風に乗って宙に舞っている。
365℃が赤い景色となった時に、ななしの姿を真っ先に探す。
彼女は、銀時の姿に気づくと、ふわりと笑った。
「きれいだね、銀ちゃん」
嬉しそうに。
ここまで来た理由を忘れていそうなほど、うっとりとした表情でもみじの風を見上げている。
目を細め、ほう、と息をつく姿に、銀時は思わず生唾を飲み込んだ。
「あァ……」
目は、ななしだけをとらえていた。
「きれいだ」
もみじが飛び交う景色、その中に包まれるななしの姿を、ひたすら脳に焼付けようと、まばたきすら忘れる。
「でしょう? やっぱり、来てよかったね」
「あ?」
自信満々に笑むななしを見て、「きれい」の視点が違っていることに口端が上がる。
それでいい。自然のものを愛でる彼女が、一番きれいだということを知っているのは、俺だけで。
「さあ、仕事だよ!」
風がやみ、もみじを目で追っていたななしは、気を取り直したように柏手を打った。
「もみじをたくさん持って帰って、御依頼主の子と神楽ちゃん、新八くんに届けてあげようね」
「ハァ? 後の2人はいらねーだろ。つーかあいつら葉っぱで喜ぶ年齢じゃねーよ。お金のほうが喜ぶよ」
「何言ってるの銀ちゃん、幸せはわけてこそ、幸せなんだよ?」
「いや、わけわかんねーから、もういい」
「もう、いけずな子だね。新八くんは家のことやってくれてるし、神楽ちゃんも定春のしつけを頑張ってるんだから、いい子いい子してあげなくちゃダメでしょう」
「……………」
いや、俺だって頑張ってんだけど。
ななしの小言に対し、銀時は無性にイライラした。
「(二人きりの状況で、新八たちの話出してんじゃねー……ん?)」
ふたり、きり。
耳の後ろから、悪魔の声が聞こえた。
細い腕を引き寄せ、抱きしめる。
一瞬の出来事に、ななしは何も対処できず、されるがままだった。
声が上がったのは、銀時が抱きしめる力を強めてからだ。
「…ぎッ、銀ちゃん?!!」
「今、お前幸せなんだろ? なら、俺にもわけてくれや」
今ここに邪魔者は誰もいない。
銀時は下心ありありでななしを包み込んでいるが、ななしは違った。
当初「え、え…!?」と戸惑っていたが、やがて銀時の背中に腕を回した。
「全く、いつまでも銀ちゃんは子供なんだから……」
甘えん坊ねと、笑う。
その言葉に、銀時は我慢ができなかった。
「…………」
「……?」
黙り込んでしまった銀時を心配し、ななしが見上げる。
「どうしたの、銀…」
言葉が途切れる。
声が出ない。
自分の唇が、塞がれている。
その塞いでいる相手は、他ならぬ銀時の唇だった。
――正確に言えば、銀時の持つもみじが、2人の唇の間に挟まっていた。
「うるせーんだよ。子供じゃねーっつってんだろ」
「え…? だ、だって……」
怒気をうっすら含ませた台詞、銀時の行動に、ななしの脳内が混乱する。
銀時は再度もみじに口づけると、ななしの唇により押しつけた。
時折、角度を変える仕草が、まるで本当にキスを交わしているような状況を思わせる。
「(う……も、もうダメ…!)」
あまりにも情熱的なそれに、慣れていないななしは足の力が抜けていく。
銀時はそれを助けることなく、ななしの頭を手のひらで守りつつも、ゆっくりと共に倒れた。
ななしにまたがり、唇から離れようとしない銀時と、耳元で騒ぐもみじの音。
まるで夢じゃないかと思ううちに、自分の唇に、もみじとは別の熱を感じ始めた。
「ん……っ!!?」
その熱が一体何なのか、ななしもわかったのか、銀時の背中をどんどんと叩く。
痛みなんて毛ほども感じないが、何気なくまぶたを開けた銀時が見たのは、紅葉したもみじと同じくらいの色に染まった彼女の表情だった。
思わず理性がはじけ飛びそうになるが、寸でのところで抑える。
しかしその努力を台無しにしようとする相手は、目の前にいた。
「んぅ…ふ……っ」
「は……。ななし……きれいだ…」
「…え……?」
呼吸を整えようとしているのか知れないが、乱れた呼吸のまま銀時を見上げるななし。
その魅力的な唇を直接むさぼりたい衝動が、自らの理性をむしばんでいく。
今ここで襲えば、今後の人生は真っ暗に違いない。
しかし、この状況を少しでも長く味わいたい。
理性と本能が戦う銀時のため、鉄槌をくらわすべく、2人組が背後に立っていた。
「死ねェェェェェ万年発情期イィィィィィィイ!!!!」
「全く、油断も隙もないアル」
「ななしさんも、これに懲りたら銀さんと2人でいないようにしてくださいね」
万事屋未成年ズに文字通りボコボコにされた銀時は、もみじよりも朱色に染まった状態で、木の枝に吊るされた。
無事にもみじを病院まで届けた帰り道、ななしは新八と神楽からこんこんと説教をされていた。
ななしはオカン気質すぎるだの、相手を男と見ていないだの、そんなんだからいまだに独身だの、ほめているのかけなしているのかわからないことも時々出たが、そこは気にならなかった。
「う、うん……そうだね、気をつけるよ。銀ちゃんも、もう子供じゃないみたいだし…」
「そうアル!! 銀ちゃん言ってたネ、下の毛が生え始めたらてめーのことはてめーでするもんだって。だからななしがアノヤローの性欲処理に利用される必要なんて……」
「神楽ちゃん、色々まずいから!! 言わないでそういうこと!! 違う、違いますからねななしさん!! 銀さんは本能で生きてる人ですけど、ななしさんのことは大事に思ってて……」
「だいじょーぶだよ新八くん、心配してくれてありがとう。神楽ちゃんも、ありがとうね」
「え……ななしさん?」
「大丈夫アルか、ななし」
「うん。もう大丈夫!」
年下に、こんなにフォローされてしまうなんて。
ななしは新八と神楽をまとめてぎゅっと抱きしめると、
「2人とも、大好きだよ!」
笑顔で、元気よく告白をしたのだった。
I Love you.=「今日も、綺麗ですね」</big>
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