番外(幼児時代もあり)
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朝になっていたから、起きた。だりい。
いつもよりボリュームアップした天然パーマの髪に手をつっこみ、ガシガシと頭皮をかく。
冷蔵庫へフラフラとたどり着き、残り一本となったいちご牛乳のパックを手に取る。
注ぎ口を開け、直接口をつけた。ラッパ飲みというやつだ。
「こらー!!」
ブへえっ!!
突如背後から声を出され、びびっ…いや、びっくりしたあまり口に含んだいちご牛乳を吹き出す。びびってねえ。断じてびびってねえ。びっくりしだんだ。びびるのとびっくりするのとは違うんだ。
察しはつくが、口元をぬぐいながら、首だけ後ろにめぐらせた。
そこにはやはり、寝間着姿のななしがいた。
「なんて行儀悪いことしてるの。飲み物はちゃんとコップに注ぎなさいって、いつも言ってるでしょ」
「…ったく…うるせーなァ朝から。別に飲めりゃあいーだろ」
「そういう問題じゃないよ! それに朝からこんな甘い物飲んで、病気がもっと進行しちゃったらどうするの? 少しは体のことを考えて…」
「アーハイハイすいませんね。つかこまけェこといちいち言ってたらシワできちゃうよななしチャン」
「しっ…!! しわとこれとは関係ないでしょ、もー!」
お、動揺してら。チクショーかわいいな。
ななしはブツブツとぶつくさ言いながら俺からいちご牛乳のパックを取り、コップに注ぐ。
……そういやさっき吹き出した時、もしかしたら俺のツバがパックの中に入ってるかもしれねえ。ふと考えた時、ななしがコップに口をつけ、ぐいっとその液体を飲む姿を見て、無意識の内に生唾をごくりとのみこんだ。
………いやいやいや。
違うだろ、俺!!
俺何考えちゃってんの何想像しちゃってんの、変態じゃん今の俺。一瞬でも興奮した俺やばいじゃん人として男として。違うよーみんなの銀サンはこんなキャラじゃないから!! どっちかっていうとさわやか系だから!
「!! ッげほっげほっ」
「おいっ!」
まさかのいちご牛乳でむせるななしの背中に手を回し、なでてやる。何やってんだこいつは、と思いながら本気で心配する部分もある。どうやら俺は相当惚れ込んでるらしい。
その俺に、またしてもこいつは罪な行動を取る。
「げほっ…ごめんね、銀ちゃん」
「別に……ッ、!!」
背中を丸めて顔をうつむかせていた体勢から、顔をあげて俺を見上げるななし。
こいつは気づいてない。
寝間着姿で、別に起きていちいち服装を直すことなんてなくて。若干だが胸の合わせが乱れていて、下手すりゃ胸元が見え見えだ。
さらに唇にいちご牛乳の液体が、……なんつーか、その……アレだよ、アレ。アレな感じで、付着してんの。そんなこんなで濡れてんだよ唇がァァァァ!!(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!)
「…? 銀ちゃん? どうしたの?」
「はっ!? べっべつにどおもしてねーよ」
「わかりやすいくらいにしてるよ。どうかした?」
黙り込んだ俺を不審に思い、ななしが顔を近づける。こいつは昔っからそうだよなー変だと感じたら真っ先に顔近づけてチェックだもんなー。
だが、今の俺にそれは逆効果だ。
もう俺の理性が消え失せそうだ。元々毛じらみくれーのサイズしかねえ理性的な銀サンが、本能のまま動く銀サンに押しつぶされそうだ。朝っぱらから狼になりそうだ。しかしそれだけは御免被る。ななしに下手な手出しをすりゃヅラと高杉にぶっ殺されちまう。
しかし。世の中、こんな言葉もある。存在する以上、それは別にしちゃいけねえってわけでもねえ。
「据え膳食わぬは男の恥ってなァ」
「え?」
ぎ・ん・ちゃ・ん。
いちご牛乳でつやめく唇が、俺を呼ぶ。
瞬間、脳内で理性の旗を掲げる銀サンが本能の銀サンに足蹴りされぶっ倒れた。
というわけで、いただきます。
「あら?」
逃げられないように、素早く腰へ腕を回して。
きょとんとしているななしを見て少し、いや結構躊躇しそうになったが、相手も大人だ。わかるだろう。いや、わかっててほしい。
これで何も反応がなかったら俺は本当に相手にされてねーってことだし。
緊張しまくりの心情をおくびにもださず、ななしをじっと見下ろした。
「……銀ちゃん?」
「なんだよ」
「あの、何やってるの?」
「や、いちご牛乳が飲みたくて」
「へ?」
いまだに状況がのみこめねーのか、逃げようとしないななし。
わからないままでいい。
首を曲げてななしの顔に高さを合わせると、唇に自分の口を近づける。
「…………」
「…………」
「…………」
………………………ち、くしょう。
「…!!」
「………(俺の…バカヤロー)」
一拍おいて、ななしの怒声と平手打ちが俺を容赦なく襲った。
「で、どうしたらそんな酷い顔になるんですか?」
「違うアル新八、銀チャンは元々こういう顔だったネ」
「神楽ちゅわ~ん殺されてーのか」
万事屋に行くと、いつになく赤い顔のななしさんがいて、片方の頬に痛々しい紅葉を咲かせた銀さんがいた。神楽ちゃんはその時はまだ押し入れだったけど、すぐに「何事アルか!」と飛んできた。
で、現在。朝ご飯を買いに出かけたななしさんがいない今、僕と神楽ちゃんは銀さんに事情聴取をしていたのだ。
「ななしはどこにいったアルか?」
「外」
「銀チャンに襲われ荒んだ心を癒しに行ったアルか」
「言うなァァァァ!!!」
神楽ちゃんの台詞が銀さんの心をえぐりにえぐり、貫通する。本気で泣きそうなんだけど銀さん。いやだよこんな銀さん見たくねーよすごい気まずいよ。ていうか自業自得だからねこれ。
「銀さん」
「んだよ……」
「本当にななしさんを襲ったんですか?」
「襲っちゃいねーよ」
「それじゃ、それにも関わらずどうしてななしさんが怒って平手打ちしたのか説明してください」
「襲ったから」
「あっさり前言撤回してる!!」
「しねェェェェ!!!」
ちげーよそれはザックバランに言えば…だ!と、神楽ちゃんに首をしめらながら、苦しそうに銀さんが言う。実際は相当しめられてるのか途切れ途切れだ。
ざっくばらんに言って? しかし一般人からすると、銀さんの「ざっくばらん」のサイズがわからない。
神楽ちゃんをどうにか離しながら、銀さんに尋ねることにした。
「どういうことなんですか? そろそろちゃんとした説明してください」
「しようとしてるのをおめーらが阻止してんだろーが!!」
「んだとテメー何逆ギレしてんだ。そろそろ本気でぶっ殺すぞ」
「すいませんでした」
「やめて神楽ちゃん、話が進まないから」
正座した、いい歳した大人を見下すのは僕たち未成年。
絶対零度の視線を二方向から浴びせられながら、そのマダオは口を開いた。
「いや、な? ななしがあんまりにも朝から無防備にアピールするもんだから、ちょっとあの…本能のままに任せようと思って」
「で、何をしたんですか」
「なめた」
「は?」
「何をアルか?」
「くち」
……それはつまり、いわゆる接吻というやつじゃないんだろうか。
しかしそれを言うと、マダオは「ちげーよ!」と勢いよく否定した。むかつく。
「キスはしてねー。いやほんとはしたくてしょうがなかったんだけども! でもなんかそういうのは勢いよりお互い承知の上でやったほうがいいと理性が奇跡的に復活してでも止まらなくてだな、結局口についてたいちご牛乳なめとったっつー話だよ」
「理性意味ねえェェェェ!! 結局抑えられなかったんじゃん! 寸前で止めれば良かったんじゃん!!」
「うるせェェ!! 俺の何十年の想いなめてんじゃねーぞコルァ!! 唇はなめても俺の想いはなめんじゃねーぞコルァ!!」
「全然うまくねーよ!! 黙れよもうこのマダオ、喋れば喋るほど聞くこっちが悲しくなってくるよ!!」
むしろこっちからすれば、「何十年の想い」とやらをちょっとした勢いで台無しにしたのが情けなくてしょうがない。
いくらななしさんが優しくても、突然口をなめられれば怒るだろう。
体は大人中身は子供というマダオを冷たい目で見下ろしながら、ため息をついた。
「とりあえず、僕と神楽ちゃんで探してきますから。ななしさんが帰ってきたら、ちゃんと謝ってくださいよ」
「わーった。頼んだ」
「行くよ、神楽ちゃん」
「おう! …ところで、銀ちゃん」
「なんだ神楽」
ななしの唇、やわかったアルか?
神楽ちゃんの突然すぎる、すごく素直な問いに(その証拠に彼女の顔には企みなど微塵も感じられない)僕と銀さんはそろってブッとつばを吹いた。
長寿と幸福なんかいらない
「俺がほしいのはお前だけ」
「ななしサン」
「なに?」
「すいませんでした」
「うん、いいよ」
「いいのかよ」
「銀ちゃんだもの」
「え………」
「犬になめられたと思って気にしないよ、大丈夫」
「……………」
「(ぎ……銀さんんんんん!!!!)」