番外(幼児時代もあり)
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『ななし~!! 書いたぞ~!』
『あら、早いねぇ晋ちゃん』
虫の鳴き声がよく聞こえる。
暗い夜空には、いつもより明るい星がいつもよりたくさんばらまかれていて、天の川というやつがあった。
今日は、七夕という日らしい。
『晋ちゃん、もっときれいな字で書かないと…』
『う、うるせー! …いっでェ!』
『乱暴な言葉は使わないっ』
庭には、日頃見慣れない笹の木。
近所からおすそわけしてもらったと嬉しそうにアイツが言っていた。
『ヅラちゃんはどう? 書けたかな』
『…ヅラちゃんじゃない、桂だ。…書けた』
高杉とヅラから受け取った紙に こよりを通し、枝にくくりつけていくアイツ。
その作業がいったん終わると、緑色だった笹に短冊がたくさんぶら下がっているのを、嬉しそうに見上げた。
『…………』
その姿を、縁側からぼうっと眺める。
すると、ななめ上から声がふってきた。
『銀時、書けたかい?』
「銀ちゃん、書けた?」
同じ方向から、女の声がした。
ハッとして見上げると、ななしが腰をかがめて様子を伺っていた。
「あら、机によだれがついてるじゃないの。えーと、ふきんは…」
ふきんを探しに部屋を出て行ったななしの背中を見てから、今まで自分が突っ伏していた机を見た。あ。ほんとだ。
つーか………俺、今まで寝てたのか。
「あ、銀さん起きました? 銀さんだけですよ、願い事書いてないの」
「……あれ、いつの間にそこにいたの新八。影薄くて気づかなかったわ」
「なんだとコノヤロー! ツッコミやめてバスケやってやろうか、ジャンル移籍してやろうか!?」
「てめーの鈍足じゃムリだよぱっつぁん、メガネだけだよ移籍できるのは」
「本体おいてけぼり!?!!」
立ち上がり、フラフラとしながら、ああそういやここ志村家だったと状況を飲み込んでいく。
部屋を出てすぐの縁側に出ると、…あれ、デジャヴ?
庭に笹があるんだけど。
「何これ」
「何これって何コレ? 決まってんだろ、笹アル」
「んなもん見りゃわかる。パンダが見世物用に食ってるアレだろ?」
「見世物用じゃなくて主食だから、寿司とか食ってねーからパンダ! …ったく、完璧に忘れてるよ、この人」
七夕でしょ、七夕。
呆れたように言う新八。
さ~さ~のはァサーサラダーと歌う神楽(なんか違くね?)
後ろから、短冊とマジックペンを持ってきたななしとお妙。
ああ、そういえばそうだった。晩飯(勿論ななし作で)と七夕の飾りをかねて夕方からこっちに来てたんだっけ。
「はい、銀ちゃん」
ようやく目覚めてきた俺に、笑顔で強引に短冊を押しつけるななし。
「んだよこれ…書けってかァ?」
「お妙ちゃんも書いたよ。あとは銀ちゃんだけ」
『玉の輿』と書かれた短冊を持ち、お妙が上機嫌に笹の枝へ手をのばす。
いや、ムリだろあんなん。彦星も牛も織姫も泣いて土下座するよ、魔王の見合い相手はスライムですら駄目でしたって報告するしかねーよ。
「俺はいーや。つか、ななしも書いてねーだろ」
「ううん、ちゃんと書いたよ」
縁側でそう答えるななしの隣に腰掛けて、マジックペンを弄ばせる。
見せてもらった短冊には、『みんなが健康でいられますように』……まーなんつーかありきたりっつーか、こいつらしいっつーか。
「そういえば銀ちゃん、子供の時も見せてくれなかったよね」
「あ? …んな昔の話覚えてねーよ」
「そっかあ、銀ちゃんからしたら何十年も前の話だね。わたしは覚えてるよ~」
嬉しそうに自慢するななしの笑顔がまぶしくて、そっぽを向く。
「ヅラちゃんはね、もっと賢くなりますように。晋ちゃんはもっと強くなりますように、だったの」
「へぇ」
「銀ちゃんは、……あら、なんだったっけ?」
「んだよ、覚えてねーじゃん」
「ち、違うよっ。銀ちゃんは…あっそうだ! そう、結局つけなかったんだった」
「へェー?」
焦ったななしがそう言うと、言い訳のように聞こえる。にやっと笑い「そろそろ痴呆症か」とからかうと、ムッとした顔でこづかれた。
「違うからね! 本当につけてなくて…あれっそうだったかな…いや…」
そうやってブツブツと言っている間に、ペンで短冊に記入する。
ななしにのぞき込まれないうちに立ち上がると、誰も読まれないような高さに短冊をくくりつけた。
「あーっズルいアル銀ちゃん!! 見せやがれ!」
「駄目だよ神楽ちゃん、そんな言葉使いしちゃ(でも晋ちゃんみたい)」
そんなに見たいのか、必死に神楽が飛び跳ねている。何を期待してんだあの小娘は。
その隣で新八が「笹を直す時に見ればいいよ」なんて助言をしているが、それより先に俺が取るに決まってんだろ。
余裕な気分で、お妙にもらったスイカ(果てしなくグチャグチャだが焼けた卵よりはマシだ)をほおばっていると、同じくスイカをほおばるななしに直接聞かれた。
「何を書いたの、銀ちゃん?」
「………金と女に恵まれますように」
面倒のあまり、適当に言っておいた。それを聞いた神楽と新八は「ムリだろ」と真顔で言い放つ(けっ書いてるわけねーだろッ!)
一方のななしは、真剣に眉をひそめている。
「うーん、お金は銀ちゃんに働く気がないとね。女の子は任せて、わたしが良い子見つけてくるよっ」
「嘘だよ、ブァカ!」
引かれると思ったが、予想以上に乗り気で虚しくなり、鼻で笑った。
つーか見つけなくていいから。もう見つかってるから、目の前に。
「誰がおめーに教えるか。俺の願いは彦星と織姫だけが知ってればいーんだよ」
「あっずるいよ!! どうしてお母さんが知らなくて星が知ってるの?!」
「ずるかねーよ! 変なとこでジェラシーぶってんじゃねェ!」
さっきまで神楽をたしなめていた奴が、今は「教えて」と食い下がるからしつこくてしょうがない。
言えるわけがない。
言ったらこいつは余計に、勘違いもプラスしてつけあがるだろうから。
「絶対に、言わねェ!」
「なんでよー、銀ちゃん!!」
『銀時、書けたかい? …ほう、これか』
『……つけねーけど』
<ななしがそばにいてくれますように>
<ななしが離れずそばにいますように>
思考回路は当時のままで
「そういや今日七夕…」という即興ですみません。