番外(幼児時代もあり)
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ある日突然、それは起こった。
「ななしちゃんが、お見合い結婚するって本当?!」
その発言に、飲んでいたお茶を勢いよくふく小太郎、晋助。銀時はお茶を飲んでいなかったが、先ほどまで鼻ちょうちんをふくらませていたにも関わらず、今はすっきり目が覚めている。
参った、すでに近所の女子は耳にいれてしまっているらしい。やはり料亭へ向かう途中見られていた気がしたのは、間違っていない。ななしが買い物からまだ戻ってないところを見ると、道ばたで質問攻めにされ思わず口を滑らせた、といったところだろう。それにしても、ああ、困った。まさか滑らせた相手がこの、
「なんでも相手は、すっごいお偉いさんの武士で格好良くてお金持ちで道場も援助金出してくれる優しい人なんでしょ?! やったね、ななしちゃん玉の輿じゃない!!」
「いやあ、実際はそんな大げさなも」
「まったまたー謙遜しちゃって! いやあでも良かったね、ななしちゃんにもようやく春がきて。私すっごく心配してたの! あっいっけない私ったら買い物の途中だった! じゃあお邪魔しました松陽先生!」
「あ、ああ」
おしゃべりな人だったとは!
しかし、それを後悔するよりも先にやるべきことがある。この場からすぐに立ち去らなければ。「それじゃあそろそろ勉強を再開しようか」と立ち上がった私の袴の両方の裾を、双方の手がそれぞれつかむ。手をのばした障子の前には、いつの間にか銀時が座っていた(時々思う、この三人は本当に子供なのかと)
つまり、遅かった。
有無を言わさない目つきに睨まれた私は、咳払いをして、何事もないような表情を浮かべる。
「どうしたんだ三人とも」
「先生、今の話本当?」
「今の話ってなんのことだい?」
「ななしがお見合い結婚すると」
「…………」
「……」
「……睨まないでおくれよ、銀時」
迷った末に、仕方がないとため息をついた。そして再び正座をして、「黙っていて悪かった」と口火を切ることにした。
縁談を申し込んだのは向こう側だった。以前ここを訪れた際に献身的なななしを見て、惚れ込んだらしい。簡単なことのようだが、「惚れ」というのは一番厄介なきっかけだ。なかなか諦めてくれない上に断ると逆上する場合がある。
「先生、それってつまり、ななしが好き好んでお見合いに行ったわけじゃないってこと?」
「まあそういうことになるかな。ただあちらさんは息子も両親もななしを気に入ってしまったらしくてなあ。こっちの言い分も聞かず勝手に婚礼で盛り上がって困ったよ」
「ふーん……」
晋助が黙り込むのと同時に、今度は小太郎が挙手した(ななしが「意見がある時は挙手しなさい」と言ったのを見事に遂行している。従順だな……) なんだい、と顔を向けると、
「ななしが嫁に行く場合、どうなるのですか」
「うーん……一応武家のしきたりなんぞを身につけなくちゃいけないから、あっちの屋敷で当分花嫁修業だろうな」
銀時も何か言うかと思ったが、この子はただボーッとしている。よく寝る子だ、とななしは呆れていたけど、それはななしに構ってほしいからじゃないのだろうか。
「ま、嫁いでもここでまた住むかもしれんが……そうすると、夫も住みそうだな」
「「絶対にやだ!!」」
「ははは……(えらい嫌われようだな) まあこの話は終わりにしよう、本当に勉強を再開しなくては」
こうしてなんとか話は終わったが、もしななしが嫁いで戻らなかった場合、今度は私がこの子らの面倒をみることになる。……どうしよう、と不安になってきた。
そして後日、私はしばらく塾を離れていた。五日ほど経ち、用事をすませて我が家へと帰る。その道の途中、向こう側から誰かが歩いてきた。普段であれば会釈ですませるが、その顔が見知った者であったので、声をかける。
「やあ、こんにちは」
「! こっこれは松陽どの」
ななしの将来の夫となるかもしれないという可能性が万が一でも一応ある、男だ(これは決して嫌味ではない) だがその男は私をみとめたかと思うとぎくりとした表情を浮かべた。しかしこちらとしては心当たりがない為、普段通り会釈をする。そういえばこの道は一本道で、塾へとたどり着く。ということは私が留守の間に訪ねられていたようだ。しまった、と心中で舌打ちをしたい思いに駆られる。相手は私よりも上の位だ。失礼のないようにしなくてはいけなかった。これが今後響かないといいが……。
まあ終わったものは仕方がない、と気を取り直し、むしろそれについて話すことにした。
「訪問するなら連絡をしてくだされば良かったのに」
「いやあ、ななしさんが松陽どのには内密でどうぞと誘ってくれたので」
その割には、まるで逃げたかのような歩き方だったが、いったい何があったのだろうか。不安になった私は眉を八の字にして、
「もしやななしが何か粗相をしましたか?」
「いやいやとんでもない、むしろあのガ…」
「が?」
「………松陽どの、大変言いにくいが、」
そう前置きしたくせに、口から出てきたものはすらすらと言葉を連ねていき、そして「失礼致す」と足早に去っていった。完全に蚊帳の外にあった私は、何がなんだかわからない。
『自分から申し出たものの、やはりななしさんには自分は合わない。なのでこの縁談はなかったことにしてほしい』
まったく訳がわからない!
「ななし!」
「あらお兄ちゃん、お帰りなさい!」
「お帰り松陽せんせー!」
「遠出ご苦労様でした」
「あらヅラちゃん、もうそんな難しい言葉覚えたの? すごいねー」
「…ヅラじゃない桂だ」
玄関で声をあげれば、すぐに飛んできた妹、と晋助、小太郎、銀時。なぜか四人ともご機嫌のようだ。
私はコホンと咳払いをして、「さっき道ばたであの男に会った」と言った。すると晋助が目をらんらんと輝かせて、
「あいつなんか言ってた?!」
「は? ……それは…言っていた、な」
だが、これをななしの目の前で言うのは心苦しいものだった。せっかくの女としての幸せをつかめなかったのだ。ところがそんな私の気遣いは、当の本人が見事に破壊する。
「あの人、婚姻をなしにしてくれた?」
「!! なっ何故それを」
「だってそーゆー風に仕向けたの、おれたちだもん、な!」
「なんだと!?」
晋助の同意を求める声に、小太郎と銀時がこくりと頷く。ななしはというと、苦笑いをしながらも否定はしない。
居間にあがり、私はようやく詳しい話を聞くことができた。どうやら私が外出の間にあの男を呼んだこの子たちは、ありとあらゆる嫌がらせをしたらしい。晋助が一番自慢するのは「風呂を沸かしたとみせかけて水風呂に浸からせる」、小太郎は腕を組んで「小一時間ほど難しい問題を問い続けた」と言った。他の子も集まってきて、僕はこうした私はああしたと言い出す。これを聞いていると、なんて生徒たちだ、と頭を抱えたくなる。きっと被害者となった男はそれこそ憤慨したい気分だっただろうが、きっとななしの手前でもあるし相手が子供のため我慢していたんだろう。あの時何も責められることがなくて、奇跡だと思う。
ただ銀時は何も言わなかったので、少しホッとしながら問いかけた。
「銀時は何もしていないのかい?」
「してねー」
「嘘だ、お前が一番酷いだろ」
「酷い? 銀時は何をしたんだい晋助」
「したんじゃなくて言ったんだよ。あいつが玄関で草履脱いであがった途端、『お前の足 馬糞の匂いがする』って」
「…………………酷い…な」
そしてとどめの嫌がらせか。これでもななしとその仲間たちと一緒にいたいなんて男はほとんどいないだろう。どうやらななしが女の幸せをつかむことができるのは、当分先のようだ。
「安心しろよ先生、ななしはずっと一緒だから!」
「当たり前でしょ晋ちゃん、ずっと一緒だよ。……だから今日こそは、お野菜食べましょうね」
「げっそれはやだ!!」
まあ、今回は本人がそれほどのっていなかったのもあるし、これでよしとしよう。
済んでしまえば、不思議と笑いがこみ上げてきた。
なめんなよ!
すみません、松陽先生の口調一切わかんないので適当です・・・!!
リクありがとうございました!