本編
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「あら、総悟くん」
「ちわっす」
スーパーでの帰り道、沖田さんに会った。
銀さんと神楽ちゃんはひったくり班捕獲の依頼を請け負っており、不在だ。二人に比べ身体能力が少し劣ってしまう僕は、銀さん代理としてななしさんの買い物のつきそいを任されたのだ。
沖田さんはななしさんに近寄った後、こちらを一瞥し、「少し借りるぜィ」とその手を引いた。そして二人で肩を寄せ、何か話をした後、沖田さんは「じゃーな」と手をひらひらしながら去って行った。
こちらに戻ってきたななしさんは、手に何かを持っていた。
「沖田さん、なんだったんです?」
「うん、これをもらったよ」
何かのメモみたいだ。
ななしさんは僕の視線に気づきながらも「さっ早く帰ろうね」と上手に牽制した。これは探ってくれるなということらしい。
*
「……っていうことがあったンすけど」
夕飯後、ななしさんと神楽ちゃんが皿を洗っている間(時折パリンと聞こえる気がするけど、気にしないでおこう)に銀さんへ報告した。
案の定、満腹感で機嫌がよかった表情に、ピキッと音を立て筋が入る。
「はあぁ~~……ったく、すぐ変なモンに好かれんだから……。あれだな、やっぱ手錠して軟禁するしかねェか」
「こえェェよ!! やっぱってなんだよ!! その発想、普段から考えてんのかァ!?!」
「ババッバァカ冗談だコノヤロー! つーかななしに聞こえんだろーがァァァァァ!!!」
「お前の声のほうがうっせェわ!!」
向こう側では女子たちが「何かしら」「きっとエロトークで盛り上がっているアル。男っていくつになってもガキアルな」「ふふ、健全な証拠だよ」と好き勝手しゃべっているようだ。
目の前の男と二人そろって咳払いをし、本題に戻す。
「『あの』沖田さんが、こそこそと人に何かを渡すっておかしくないですか?」
「あのガキも羞恥心ってものがあるんだろーよ。メモねェ……ななしに見せろっつっても見せてくんねーだろうし」
「断られますよ。ななしさんと沖田さんの内緒話か……全然想像つきませんけど、何か分かります? 銀さん」
「知らねェよ。――まァ、俺にゃ関係ねェ話っつーことさ」
「………」
あーあー、いい年した大人が。
表情、全然隠せてないじゃん。
*
翌朝。
朝食の後片付けをすませると、「じゃあ、行ってくるね」とななしさんは出かけていった。
玄関から声をかけてくれたけど、僕しか返事をしなかった。
銀さん、神楽ちゃんはぶすっとしたまま、精いっぱいの反抗をするが、相手には伝わっていないようで、ガラガラと扉を閉めた音がした。
一人で出かけたいと言ってきたななしさん。タイミングがタイミングだ。きっと沖田さんと会う約束をしているんだろう。
てっきり止めに入ると思った銀さんは、何も言わず、つまりOKを出した。とても驚きだ。きっと、ななしさんの自由をついに認めたんだろう。神楽ちゃんは眉間にしわをよせたまま、銀さんをジロリと見た。
「銀ちゃん、本当に行かせていいアルか」
「バーロー、誰が行かねーっつったよ。ドSヤローの思考回路なんざだいたい読めるさ……。
それから俺は銀さんじゃねー」
すくっと立ち上がった銀さんは、パジャマを勢いよく脱ぎ捨てた。
青いスーツに白いシャツ。
妙にセットされた髪型。
なぜか赤い蝶ネクタイ。
あれ。
何か見覚えのある服装なんだけど。
「真実はいつも一つだァ!! いくぜ博士ッ、スケボーはどこだ!!」
「誰が天才発明博士だァァア!! メガネしか共通点ねェよ!!」
「うるさいわヨ博士。毒薬よこしなさい、あいつをガキにして消し去るチャンスだわ」
「おめーが毒薬つくった張本人じゃねーか! 博士は毒薬持ってねーよ、黒幕説ガセだから!!!」
こうして某アニメ主人公、元組織幼女、博士に扮した万事屋は出発したのだった……っていや、僕だけ普通の服なんだけど!!
*
「それで土方コノヤローに一発、(ミサイルを)おみまいしてやったんでさァ」
「ふふ、そうだったの。総悟くんもヤンチャだけど、土方さんも案外ヤンチャなんだね」
「そうでさァ。俺ばっかり問題児扱いされて、たまったもんじゃねーや」
ニコチン野郎から受けた被害の数々(脚色あり)と、それに対する対抗策(伏せ字あり)を話しながら、みたらし団子を口に入れる。
テーブルをはさんだ向かいにいる女――もといななしさんは、くすりと笑うとお茶を口にふくんだ。
ファミレスなんざ来る機会が滅多にねェから、とりあえずみたらし団子を頼んでみたが、いつものあんみつ屋より甘く感じる。こんなもん食べまくったら、糖尿病になっちまう。つーか食事を味わうことなんていつぶりだ。
「どうしたの、なんだかびっくりしてる?」
「ええ、まあ……みたらし団子ってこんな甘かったっけと」
どうぞ、と差し出したそれを、「ありがとう」と素直に受け取り、おいしそうにほおばった。
その姿に、無意識に口元が少し上がっていく。
「……うん、いつもこんな味だよ。みたらし団子おいしいよね」
「へェ」
「もしかしたら、心がやすらいでるんじゃないかな?」
「は?」
急な分析に目を丸くすると、得意げに解説がついてきた。
「銀ちゃんが言ってたんだけどね、人は余裕がなくなるとご飯を食べてもおいしく感じなくなるんだって。昔、団子をたくさん食べる大会に出たみたいなんだけど、途中からきつくなったとか」
「そりゃ、別の原因でしょーや」
即答して、俺、かわいくねーな、と自身に呆れる(いや、別にかわいくなりたいわけではない) きっと近藤さんならオーバーリアクションなりして相手を気持ちよくさせるんだろう。
しかしななしさんはきょとんとして、「たしかに」と笑った。こっちの辛辣な返答なんて、ものともしちゃいねェや。
「でも、おいしく感じたならよかったね。今日はお仕事お休みだから、心がほっとしてるんじゃないかな」
「いや、おいしいじゃなくて甘い……まァいいか」
味がするのは。
「心がやすらいでいる」原因は、自分にあると、夢にも思ってないんだろう。
この人は、今まで会った人間の中で、一番俺とあわない気がする。さっきからムズムズしていけねーや。自分の中の、いつものどす黒い部分が、全く出てこようとしねェ。きっと今の俺を土方コノヤローが見たら、加えた煙草をぽろっと落として靴に当たって台無しになるんだろ……あ、見たくなってきた。
あわないと分かっているのに。
なぜか会えば会うほど、もっと会いたくなる。
会って、ムズムズした気持ちになりたくなる。
なんだ俺、Mに目覚めたんか? たしかにSとMは同居しているは言うけども。
これが恋ってやつかと思ったときもあったが、なんだかしっくりこねェ。
だからハッキリさせるために、何度も会うようにした。しかしストーカーにならないよう、あくまで偶然を装って、だ。万事屋をしょっちゅう訪れるわけにゃいけねーし、屯所に呼ぶきっかけもねェ(呼んで前みたいに話をしようにも、ほかの奴らが邪魔だ) だから狙うとしたら、昼と夕の外出しかなかった。
それも、うるせエ銀髪とチャイナがいねェとき。メガネは眼中にねェ。
「ななしさん。本題に入りやす」
「うん、何でも話していいよ。相談があるんだよね?」
人にはあまり聞かれたくないから内緒で、と添えておいたためか、とたんに真剣な表情になる。
こちらもつられて、神妙な面持ちで切り出した。
「……ななしさん、
俺をアンタの養子にしてくれませんガバババババ」
反応できねー早さで、顔だけおぼれた。
水のたまったバケツをこんなスピードで目の前に置き、俺の後頭部をつかめる奴なんざ、なかなかいねェ。
やっぱ邪魔されたか、と内心舌打ちした。
*
「何してるの!? やめなさい!!」
驚き、焦り、怒り、様々な感情を織り交ぜながらななしが叫んだ。
なんだなんだと周囲の客がこちらを見るが、すぐに見て見ぬふりをした。いい判断だ。厄介事には首をつっこまないのが、世の中うまく生きていくコツだってことを知ってやがる。
バッッシャバッシャと暴れる男を抑えたままなので、ななしはいよいよ顔色を変えた。ここら辺でやめとくか。
「わーったよ。はい沖田くん、起きたかな?」
「へェ、俺は沖田です」
相変わらずのポーカーフェイスで、冷静にトンチのきいた返答がくる。それがまた癪に障る。
「ちげーよ、起きたのか聞いてんだよ。寝てたんだろ? 寝言だろさっきの?」
「安心してくだせェ、寝言じゃねーんで」
「そっか、じゃあ遺言にしとくわ。神楽ァ、氷持ってきてェ」
「母さん助けてェ、氷漬けにされちまう」
「誰が母さんだァ!!!」
ありったけの声量でつっこむと、どっと疲れが出てくる。
ななしをもとの席に座らせ、その隣に座ると、神楽が無理矢理間に入ってきた。せめーよ。
「ななし、アイツのマミーになるアルか? やだヨ、そんなんアリなら、私のマミーになるアル」
「ええと、ちょっと待って神楽ちゃん。わたしも何がなんだか……」
神楽のうるうるした瞳(マジなのか目薬なのかは謎)から困ったように顔をそらせると、その目線は沖田に向いた。
「総悟くん、相談事をもう一度言ってもらえるかな?」
「俺をアンタの養子にしてくれませんかっていう内容」
「えーと、経緯を聞いてもいい?」
決してすぐ却下しない。こういうときの、コイツの聞く力ははんぱねーと思う。
「旦那たちの前で言うのもなんですが、アンタともっと過ごしてーなと思うようになっちまったんでさァ」
さらりと出た言葉に、脳がおいつかない。オイオイオイオイオイオイオイ。
「え……こ、告白? 目の前で青春しちゃってる? 総司郎くん、恋しちゃったの?」
「総悟です。恋とはまたちげーんでさァ。俺にもよく分からねーんで、ななしさんともっといれば分かるかなと。だからまず養子になって距離をこう……」
「縮めてたまるかァァァア! やらんっ、オメーみたいなサディストにななしはやらん!」
「幸せにします」
「根拠なく誓うんじゃねェ! 万が一ななしがMに目覚めたらどーすんだ! ……あれっ、それはそれでいいのか? いやでも他人の男に教育されんなら俺がやったほうが……」
「よくねーよ!!! だいたいアンタら、ななしさんの話を聞くべきでしょーが!」
新八の一喝で、視線が一気に本人へ向いた。
今まで見たことがねーぐらい、顔を真っ赤にしていた。
……え?
「も、ももッ、もももしかして、お前……コイツのこと」
「え? アッ! ちっちがうよ!!!」
脇からの汗を感じながら問うと、ななしは赤ら顔のまま力強く否定した。
「だっ、だって、大声で、恋、だのなんだの、……もう、恥ずかしいよ……!」
両手で顔を隠す、まるで乙女のような恥じらいっぷりに、ああ、そういや俺ら(子供)の世話ばっかで、恋とか愛とか無縁な生き方だったもんなーと納得する。しかしそれを知らないやつは、別の食いつき方をした。
「かわいーアル! ななしはオカンじゃないヨ、心は立派な女の子アル!」
「そうだね、普段しっかりしてるからこそのあの反応、男子には萌えポイントだよ」
「ななしさん、もしやしょ「死ねェェェアア!!」</b>
神楽がとどめをさしてくれたおかげで、青年は今度こそ意識が飛んだようだった。
この機会を利用しない手はない。
「よし、おめーら好きなだけ頼め。沖田くんに全部支払ってもらうから」
ななしは大事な万事屋のメンバーであり、昔からの大事なモンだ。
たとえ義理の母だろーと、姉だろーと、関係ねェ。
俺にコソコソ隠れて奪おうなんざ、許すわけがねェ。
さて、二度としねーように釘をささねーとな。
久しぶりに書いた銀魂夢。楽しかったけど文書化難しい……!
「ちわっす」
スーパーでの帰り道、沖田さんに会った。
銀さんと神楽ちゃんはひったくり班捕獲の依頼を請け負っており、不在だ。二人に比べ身体能力が少し劣ってしまう僕は、銀さん代理としてななしさんの買い物のつきそいを任されたのだ。
沖田さんはななしさんに近寄った後、こちらを一瞥し、「少し借りるぜィ」とその手を引いた。そして二人で肩を寄せ、何か話をした後、沖田さんは「じゃーな」と手をひらひらしながら去って行った。
こちらに戻ってきたななしさんは、手に何かを持っていた。
「沖田さん、なんだったんです?」
「うん、これをもらったよ」
何かのメモみたいだ。
ななしさんは僕の視線に気づきながらも「さっ早く帰ろうね」と上手に牽制した。これは探ってくれるなということらしい。
*
「……っていうことがあったンすけど」
夕飯後、ななしさんと神楽ちゃんが皿を洗っている間(時折パリンと聞こえる気がするけど、気にしないでおこう)に銀さんへ報告した。
案の定、満腹感で機嫌がよかった表情に、ピキッと音を立て筋が入る。
「はあぁ~~……ったく、すぐ変なモンに好かれんだから……。あれだな、やっぱ手錠して軟禁するしかねェか」
「こえェェよ!! やっぱってなんだよ!! その発想、普段から考えてんのかァ!?!」
「ババッバァカ冗談だコノヤロー! つーかななしに聞こえんだろーがァァァァァ!!!」
「お前の声のほうがうっせェわ!!」
向こう側では女子たちが「何かしら」「きっとエロトークで盛り上がっているアル。男っていくつになってもガキアルな」「ふふ、健全な証拠だよ」と好き勝手しゃべっているようだ。
目の前の男と二人そろって咳払いをし、本題に戻す。
「『あの』沖田さんが、こそこそと人に何かを渡すっておかしくないですか?」
「あのガキも羞恥心ってものがあるんだろーよ。メモねェ……ななしに見せろっつっても見せてくんねーだろうし」
「断られますよ。ななしさんと沖田さんの内緒話か……全然想像つきませんけど、何か分かります? 銀さん」
「知らねェよ。――まァ、俺にゃ関係ねェ話っつーことさ」
「………」
あーあー、いい年した大人が。
表情、全然隠せてないじゃん。
*
翌朝。
朝食の後片付けをすませると、「じゃあ、行ってくるね」とななしさんは出かけていった。
玄関から声をかけてくれたけど、僕しか返事をしなかった。
銀さん、神楽ちゃんはぶすっとしたまま、精いっぱいの反抗をするが、相手には伝わっていないようで、ガラガラと扉を閉めた音がした。
一人で出かけたいと言ってきたななしさん。タイミングがタイミングだ。きっと沖田さんと会う約束をしているんだろう。
てっきり止めに入ると思った銀さんは、何も言わず、つまりOKを出した。とても驚きだ。きっと、ななしさんの自由をついに認めたんだろう。神楽ちゃんは眉間にしわをよせたまま、銀さんをジロリと見た。
「銀ちゃん、本当に行かせていいアルか」
「バーロー、誰が行かねーっつったよ。ドSヤローの思考回路なんざだいたい読めるさ……。
それから俺は銀さんじゃねー」
すくっと立ち上がった銀さんは、パジャマを勢いよく脱ぎ捨てた。
青いスーツに白いシャツ。
妙にセットされた髪型。
なぜか赤い蝶ネクタイ。
あれ。
何か見覚えのある服装なんだけど。
「真実はいつも一つだァ!! いくぜ博士ッ、スケボーはどこだ!!」
「誰が天才発明博士だァァア!! メガネしか共通点ねェよ!!」
「うるさいわヨ博士。毒薬よこしなさい、あいつをガキにして消し去るチャンスだわ」
「おめーが毒薬つくった張本人じゃねーか! 博士は毒薬持ってねーよ、黒幕説ガセだから!!!」
こうして某アニメ主人公、元組織幼女、博士に扮した万事屋は出発したのだった……っていや、僕だけ普通の服なんだけど!!
*
「それで土方コノヤローに一発、(ミサイルを)おみまいしてやったんでさァ」
「ふふ、そうだったの。総悟くんもヤンチャだけど、土方さんも案外ヤンチャなんだね」
「そうでさァ。俺ばっかり問題児扱いされて、たまったもんじゃねーや」
ニコチン野郎から受けた被害の数々(脚色あり)と、それに対する対抗策(伏せ字あり)を話しながら、みたらし団子を口に入れる。
テーブルをはさんだ向かいにいる女――もといななしさんは、くすりと笑うとお茶を口にふくんだ。
ファミレスなんざ来る機会が滅多にねェから、とりあえずみたらし団子を頼んでみたが、いつものあんみつ屋より甘く感じる。こんなもん食べまくったら、糖尿病になっちまう。つーか食事を味わうことなんていつぶりだ。
「どうしたの、なんだかびっくりしてる?」
「ええ、まあ……みたらし団子ってこんな甘かったっけと」
どうぞ、と差し出したそれを、「ありがとう」と素直に受け取り、おいしそうにほおばった。
その姿に、無意識に口元が少し上がっていく。
「……うん、いつもこんな味だよ。みたらし団子おいしいよね」
「へェ」
「もしかしたら、心がやすらいでるんじゃないかな?」
「は?」
急な分析に目を丸くすると、得意げに解説がついてきた。
「銀ちゃんが言ってたんだけどね、人は余裕がなくなるとご飯を食べてもおいしく感じなくなるんだって。昔、団子をたくさん食べる大会に出たみたいなんだけど、途中からきつくなったとか」
「そりゃ、別の原因でしょーや」
即答して、俺、かわいくねーな、と自身に呆れる(いや、別にかわいくなりたいわけではない) きっと近藤さんならオーバーリアクションなりして相手を気持ちよくさせるんだろう。
しかしななしさんはきょとんとして、「たしかに」と笑った。こっちの辛辣な返答なんて、ものともしちゃいねェや。
「でも、おいしく感じたならよかったね。今日はお仕事お休みだから、心がほっとしてるんじゃないかな」
「いや、おいしいじゃなくて甘い……まァいいか」
味がするのは。
「心がやすらいでいる」原因は、自分にあると、夢にも思ってないんだろう。
この人は、今まで会った人間の中で、一番俺とあわない気がする。さっきからムズムズしていけねーや。自分の中の、いつものどす黒い部分が、全く出てこようとしねェ。きっと今の俺を土方コノヤローが見たら、加えた煙草をぽろっと落として靴に当たって台無しになるんだろ……あ、見たくなってきた。
あわないと分かっているのに。
なぜか会えば会うほど、もっと会いたくなる。
会って、ムズムズした気持ちになりたくなる。
なんだ俺、Mに目覚めたんか? たしかにSとMは同居しているは言うけども。
これが恋ってやつかと思ったときもあったが、なんだかしっくりこねェ。
だからハッキリさせるために、何度も会うようにした。しかしストーカーにならないよう、あくまで偶然を装って、だ。万事屋をしょっちゅう訪れるわけにゃいけねーし、屯所に呼ぶきっかけもねェ(呼んで前みたいに話をしようにも、ほかの奴らが邪魔だ) だから狙うとしたら、昼と夕の外出しかなかった。
それも、うるせエ銀髪とチャイナがいねェとき。メガネは眼中にねェ。
「ななしさん。本題に入りやす」
「うん、何でも話していいよ。相談があるんだよね?」
人にはあまり聞かれたくないから内緒で、と添えておいたためか、とたんに真剣な表情になる。
こちらもつられて、神妙な面持ちで切り出した。
「……ななしさん、
俺をアンタの養子にしてくれませんガバババババ」
反応できねー早さで、顔だけおぼれた。
水のたまったバケツをこんなスピードで目の前に置き、俺の後頭部をつかめる奴なんざ、なかなかいねェ。
やっぱ邪魔されたか、と内心舌打ちした。
*
「何してるの!? やめなさい!!」
驚き、焦り、怒り、様々な感情を織り交ぜながらななしが叫んだ。
なんだなんだと周囲の客がこちらを見るが、すぐに見て見ぬふりをした。いい判断だ。厄介事には首をつっこまないのが、世の中うまく生きていくコツだってことを知ってやがる。
バッッシャバッシャと暴れる男を抑えたままなので、ななしはいよいよ顔色を変えた。ここら辺でやめとくか。
「わーったよ。はい沖田くん、起きたかな?」
「へェ、俺は沖田です」
相変わらずのポーカーフェイスで、冷静にトンチのきいた返答がくる。それがまた癪に障る。
「ちげーよ、起きたのか聞いてんだよ。寝てたんだろ? 寝言だろさっきの?」
「安心してくだせェ、寝言じゃねーんで」
「そっか、じゃあ遺言にしとくわ。神楽ァ、氷持ってきてェ」
「母さん助けてェ、氷漬けにされちまう」
「誰が母さんだァ!!!」
ありったけの声量でつっこむと、どっと疲れが出てくる。
ななしをもとの席に座らせ、その隣に座ると、神楽が無理矢理間に入ってきた。せめーよ。
「ななし、アイツのマミーになるアルか? やだヨ、そんなんアリなら、私のマミーになるアル」
「ええと、ちょっと待って神楽ちゃん。わたしも何がなんだか……」
神楽のうるうるした瞳(マジなのか目薬なのかは謎)から困ったように顔をそらせると、その目線は沖田に向いた。
「総悟くん、相談事をもう一度言ってもらえるかな?」
「俺をアンタの養子にしてくれませんかっていう内容」
「えーと、経緯を聞いてもいい?」
決してすぐ却下しない。こういうときの、コイツの聞く力ははんぱねーと思う。
「旦那たちの前で言うのもなんですが、アンタともっと過ごしてーなと思うようになっちまったんでさァ」
さらりと出た言葉に、脳がおいつかない。オイオイオイオイオイオイオイ。
「え……こ、告白? 目の前で青春しちゃってる? 総司郎くん、恋しちゃったの?」
「総悟です。恋とはまたちげーんでさァ。俺にもよく分からねーんで、ななしさんともっといれば分かるかなと。だからまず養子になって距離をこう……」
「縮めてたまるかァァァア! やらんっ、オメーみたいなサディストにななしはやらん!」
「幸せにします」
「根拠なく誓うんじゃねェ! 万が一ななしがMに目覚めたらどーすんだ! ……あれっ、それはそれでいいのか? いやでも他人の男に教育されんなら俺がやったほうが……」
「よくねーよ!!! だいたいアンタら、ななしさんの話を聞くべきでしょーが!」
新八の一喝で、視線が一気に本人へ向いた。
今まで見たことがねーぐらい、顔を真っ赤にしていた。
……え?
「も、ももッ、もももしかして、お前……コイツのこと」
「え? アッ! ちっちがうよ!!!」
脇からの汗を感じながら問うと、ななしは赤ら顔のまま力強く否定した。
「だっ、だって、大声で、恋、だのなんだの、……もう、恥ずかしいよ……!」
両手で顔を隠す、まるで乙女のような恥じらいっぷりに、ああ、そういや俺ら(子供)の世話ばっかで、恋とか愛とか無縁な生き方だったもんなーと納得する。しかしそれを知らないやつは、別の食いつき方をした。
「かわいーアル! ななしはオカンじゃないヨ、心は立派な女の子アル!」
「そうだね、普段しっかりしてるからこそのあの反応、男子には萌えポイントだよ」
「ななしさん、もしやしょ「死ねェェェアア!!」</b>
神楽がとどめをさしてくれたおかげで、青年は今度こそ意識が飛んだようだった。
この機会を利用しない手はない。
「よし、おめーら好きなだけ頼め。沖田くんに全部支払ってもらうから」
ななしは大事な万事屋のメンバーであり、昔からの大事なモンだ。
たとえ義理の母だろーと、姉だろーと、関係ねェ。
俺にコソコソ隠れて奪おうなんざ、許すわけがねェ。
さて、二度としねーように釘をささねーとな。
久しぶりに書いた銀魂夢。楽しかったけど文書化難しい……!