本編
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「ここが、総悟の部屋だ。あいつが来るまでゆっくりしていてくれ」
「あらっ、部屋の主がいないのに、いいの?」
「何、今 山崎に呼んでもらってるからすぐ来るさ」
じゃ、と近藤が手を上げ去っていくのを曲がり角まで見届け、ななしは一呼吸おくと、そのふすまに手をかけた。
本当は銀ちゃんも連れていきたかったんだけどな、とななしはこっそり残念がっていた。だが本人は屯所に、というより真選組の役人たちに(近藤とは初対面でなく再会であったことは先ほど思い出した)尋常ではないほどの嫌悪感があるようで、「やめるか断るかどっちかにしろ」と滅茶苦茶なことを今朝まで言い続けていた。それでもななしの意思がかたいので渋々屯所の門前までついてきてくれたが、さすがに中までは御免とばかりに去っていった。
そして広間に通されたななしを待っていたのはあの仕事場で出会ったゴリラ似の局長・近藤だった。あの時は頼み事があるとしか言われてなかったが、今からその「頼み事」を言われることはわかっている。
世間話からその本題に入ったのは、ななしが出されたお茶を随分飲んだ頃だった。
「前に話した、悪戯好きのアイツのことを覚えてるかい?」
「ええ、勿論。その子がどうかしたの?」
「……実は、な。あいつには、…総悟には、姉がいたんだ」
そう前置きして、近藤は重々しく口を開いた。そしてななしに、沖田の姉・ミツバが江戸にきたことから婚姻の真相、その死までを語った。ななしはその間、相づちはうっても声を出すことなく最後まで黙って聞き、近藤の話が終わるとようやく口を開けた。
「そう……でも…どうして、そんなことをわたしに話したの? 自分で言うのもなんだけど、わたしは赤の他人だよ」
「さあ、なんでだろうな。そう聞かれるとうまく言えねーんだが、強いて言うなら多分そいつァアンタだからだよ」
「わたしだから?」
ぽかんとするななしに、近藤はニッと笑い「そーさ」と頷いた。
「確かに俺とアンタは出会って日も浅い。しかしそれと、気が置けない仲じゃねえってのは別だと俺は思うがね…。それに『すまいる』でも言っただろ? アンタは不思議と本当に話しやすい人なんだ」
「……近藤さんって凄い人だね」
近藤の器量がいかに大きいかがななしにはわかった。流石 十人十色の集う、血気のはやった真選組隊士たちをまとめる局長だ。敵ながら天晴れだと思う。
ななしに褒められた近藤は素直に後頭部をがしがしかきながら笑ったが、すぐに気を取り直し咳払いをした。
「それともう一つ理由がある。ななしちゃんなら総悟の本音を聞くことができるんじゃねーかと思ったんだ」
「本音?」
「ああ。アイツは飄々としていて、負けん気が強くて、意地っ張りなガキでな。トシや俺にはまったく弱音をはかねーんだよ。それでも姉貴がきた時にゃあ心安らいでたんだろうが、その姉貴がいなくなっちまった。それ以来総悟の気持ちをうまく打ち明けられる奴がいないんだ」
最近も、近藤が沖田の部屋に向かう途中縁側で一人空を眺めている本人を見かけたという。その表情が良いわけもなく、何か思い詰めているようなものだった。ところが近藤に気づいた沖田はすぐにそれを消し、土方へ対するほど酷くはないが皮肉を飛ばす。
総悟が自分を信用していないはずがない。だが、それとこれとは別問題なんだとは思った。
「きっとアイツの事だ、俺やトシにこぼすのをプライドが許さねーんだろう」
「……そうなの」
「そこで、アンタに頼みがある。まァさっきも言ったんだが、総悟の愚痴をうまく聞き出してほしい。いや、話を聞くだけでいいんだ」
勿論これは万事屋の仕事としてとってもらっても構わない。そう続ける近藤にななしは首を横に振った。
「これはわたし個人のお願いだから、銀ちゃんたちは関係ないよ」
そしてななしはにっこり笑って言った。
「わかった、頑張ってみるよ」
第三者視点でも、真選組は基本的に名字呼びです。