本編
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夕方、ななしを連れて俺は万事屋を出た。神楽と新八もついてくると言い張ったが、あそこは元々未成年が出入りすべきところでもねーしややこしくなりそうだから留守番を命令しておいた。
「いいか、新八の姉貴がいっからそいつにちゃんと従えよ」
「わかってるよ銀ちゃん、何回も言わないでってば。お妙ちゃんでしょう?」
まァお妙はセクハラ男には容赦しねー性格だから、万が一ななしに何かがあれば退治してくれるだろう。こういう時は頼りになる。
そして到着したななしはお妙に連れられ裏方へ、俺は店内の席に適当に腰を降ろす。チャイナ娘強化週間なだけあって、回りの奴らはいつも派手な着物ではなく色とりどりのチャイナドレスで着飾っている。似合う奴もいりゃあ似合わねー奴もいるけど、まあ楽しんでるようだし黙っておくか。とりあえず俺の目的はななしの援護だし(いざとなれば射撃もいとわねー覚悟だよ銀サンは!)
「銀サン、」
「あ? 何、支度終わったの?」
鼻をほじりながらお妙の声に振り向く。赤いチャイナドレスを着たお妙はいつかの姿と同じで、にこりと笑うと横に避けた。するとその後ろにいたななしの姿が俺の目に入る。
ずぶり、と小指が鼻の奥に入り込んだ。激痛が走り涙目になるが、それでも目はななしから離れない。
「ちょっと大丈夫銀ちゃん?! 鼻血が出てるじゃないの、ほらティッシュ!」
ピンクを基調にしたデザインのそれは膝の皿までしか隠してないという短さで、右フロントに生地がカットされているためななしが歩くたびに前に出した右太ももがチラチラと見えるようになっていた。お妙お前 何しとんじゃァァァア!!でもグッジョブ!
「まあ銀サンたらいやらしい、ななしさんのチャイナドレス見て発情するなんて。今時それで鼻血なんて古いですよ」
「ちげーよ! つかこりゃどういうこった、何このエロデザイン」
隣でせっせとティッシュをちぎっては鼻の穴に入るサイズにしているななしをなるべく見ないようにして(特に胸元と足)お妙をジロッと見ると、またあの微笑で返された。そしてわざわざななしの着ている衣装について語り始める。
「ななしさんの着ているドレス、ティアドロップっていうんですよ。ほら、胸元がしずくみたいな穴が開いてるでしょう? あ、今見ましたね銀さん」
「今見てねえよ!!(さっき真っ先に目がいったけど) 何その誘導尋問みてーな語り口調!? 俺を陥れるつもりかコノヤロー」
どうだか、と腕を組むお妙をよそに、ななしは大量にティッシュを使用していた。そして俺の鼻に突っ込んでは取り替え突っ込んでは取り替えって、
「もう出てないんですけど。つか自分でやるからいいって、お前自分の持ち場につけよ」
「でも銀ちゃんから目が離せないよ。すぐお客さんに迷惑かけそうだし……」
「お前どこまで母ちゃんなんだよ。俺ぐれーなァ、公共の場での暴走は極力控えてんだよ、おら、いったいった」
手でシッシッとななしを追いやると、お妙の持ってきた水を一気飲みした。その直後なぜかのどにグッと詰まり、ブッと吹き出す。これ水じゃねえ!!
お妙を見ると、どこまでも笑顔で両手を片頬に添えている。何そのしてやったりな表情。
「これドンペリじゃねーかァァァァ!! また無人機行かせる気かテメー」
「誰も水なんて言ってませんよ。ついでにホステスで水だけですまそうって甘い考えもいけませんよ、ウフフ」
この悪女、どうにかしてくれ!
営業時間になり、次々と客が来店する。そんな中 仕方なくコップ一杯(二杯目だ)のドンペリをちびちび飲んでいると、見知った声がした。
「お妙さァァァァん! 今日こそ教えてくださいアドレス!」
「……………」
ゴリラじゃん。しかも指名聞く兄ちゃんきれいにスルーして指名してるよこいつ、普通にテーブル着席しちゃってるよ。常連のくせにマナーがなっちゃいねーなオイ。いやゴリラだからしょうがないか。ゴリラだもんな。
対してお妙の反応はというと、
「ごめんなさいゴリ…近藤さん、私ちょっと裏でお仕事があるんです。ヘルプの子でお待ちくださいね~」
そのスマイルのまま、ななしを呼んだ。はーい、と幕の向こうから現れたななしはやはりあの衣装のままで、さらに化粧を施されている。おそらくここの店員がやったんだろう、ちっくしょうグッジョブ!!
「あのゴリラさんのお世話をお願いしますね」
「わかったよ。お妙ちゃんが来るまでお話しておけばいいんだね?」
「ええ、そうです。何かあったら遠慮なく手刀でもエルボーでもくらわせてください」
「(えるぼー?)うん、わかったよ」
いまいちわかってねー顔で頷くと、ななしはゴリラのいるテーブルに向かった。俺もそれとなくゴリラにバレねーよう移動し、そのテーブルの隣に座る。俺の座った背後にゴリラがいる感じだ。そしてななしはそいつの隣で、早速メニューを眺めている。
「えっとごめんなさい、わたし新しく入ったからよくわからないんだけど……とりあえずドンペリでいいんでしょうか」
「いや、とりあえずじゃないと思うんですけどそれ……」
控えめなゴリラのツッコミはななしには届かない。きっと、いや絶対お妙に「困った時はドンペリで」と教育されてんだろうな。
「それよりお嬢さん、お名前はなんというんだい?」
「ななしといいます。初めまして」
「いやいやこちらこそ初めまして」
ななしの無駄に礼儀正しいところが気に入ったらしいのか、ゴリラは上機嫌にべらべらとしゃべり出した。つかアンタら前に一度会ってんだけど。まあ去年の夏だしな、忘れてんのかもしんねーと思い直す。
それにしても、真選組の局長がこんなところで機密漏洩していいのかってほんと心配になるくらいになんでもかんでも話すが、ななしは始終ニコニコしながら聞いている。あの顔からしてすっかり息子の愚痴を聞くオカン気分なんだろう。
「そしたらさァ、総悟が脱毛剤だってくれたやつが実は逆の作用でさァ……。それこっそり尻に塗ってた分 翌日が地獄だったよ。俺もしかして嫌われてんのかなァ」
「それは酷いねえ。でもきっと、そのそうごって子は近藤さんにかまってほしかったんじゃないかな? 最近忙しくて遊んであげてないんでしょう?」
「え?まあそりゃ……しかしあいつも難しい歳だからなあ、遊ぶっていっても冷たくあしらわれそうで…」
「駄目だよ、そうやって相手を自分から遠ざけちゃ。近藤さんがそう思ってても、そうごちゃんは違うかもしれないわ。それにその子がどんな子だろうと、誰だって受け止める人を必要としてるはず。その役は近藤さんしかいないと思うよ」
頑張って、とななしが元気づける。なんだここ、教育相談所じゃねーんだぞ。
まあしかし、ゴリラだもんな、ななしに手ェ出すわけねーか。こういう点では安全な男だ、助かった。
「うう……俺ァ久しくこんなに励まされた事なかったよ…! ななしちゃん、アンタいい女だな。俺より年下なのに、なんか母ちゃんと話してる懐かしい感じがしたよ」
「ふふ、そう?」
「(本当はお前より大分年上だけどな)」
目をおさえて鼻水をすする近藤に、ななしは嫌な顔一つせず自分のハンカチを渡す。そしてティッシュの箱を持ってきて目の前に置いた。ほんと気の利く女だな、こいつ(さすがオカン)
「近藤さんこそ、まだお若いのに大勢の部下を抱えて大変じゃないの。わたしに何かできることがあればいつでも言ってちょうだい、協力するわ」
「ななしちゃん……!! あんたテレサだよ、お妙さんが微笑をたたえる菩薩ならななしちゃんは人類皆を子供として温かく見守る母親だ」
感極まった声とともに、ゴリラの手がななしの両手をしっかりと握る。この野郎、と俺が素早く手刀するのと、ゴリラが言い終わるのが同時だった。
「来週、真選組の屯所に来てくれ! アンタに頼みたいことがあベシッ!!」
ゴリラの介抱はようやく来たお妙に任せ、ななしはまた別のテーブルに行った。
それを眺めているうちに何事もなく時間は過ぎ、ななしのあがる時間になった。本当は夜通しらしいが、ななしは臨時だし条件付きで引き受けた(らしい)ため神楽がまだ起きてる頃には帰れそうだ。
「銀ちゃん」
どこか疲れた表情をしながらもななしはしっかりとした足取りで俺のテーブルに着いた。きわどい格好をしていることを気にしないのか、ななしは右フロントの切れ目を物ともせずよっこいしょと隣に腰を降ろす。ちょうど俺の左側に座ったためその右脚が切れ目によりあらわになるが、できるだけ気にしないように努力する。もしくは我慢しろ我慢……(あ、もしかして今までの連中もこれを我慢してたりして)
「よォお疲れ」
「ふふ、久々に よその人と話し込んじゃった。ちゃんとお給料分仕事できてたかな?」
「そりゃもう完璧母ちゃんだったよ」
「そっか、よかった」
にこりと笑い、ななしはウーロン茶を飲んだ。そして一息つくと、ああやっぱり言うのか、
「ところで銀ちゃん。自分が言ったこと覚えてる?」
「……………あっちょっと酔いがまわってきたかもしんねー」
どんぺり飲みすぎたわ、と普通の大きさのコップ片手に俺が項垂れると、さすが昔の母ちゃん、簡単に慌てだした。騙してるみたいで(つか実際騙してるけど)気がひけるが、いやいやこれを利用しない手があるもんか。
こっそり笑いながら、「あー寝転びてェ」なんて呟く。
「…はいはい、どうぞ寝転びなさいな」
ななしはため息をつきながら、太ももを軽く叩いて指示する。あ、バレてた。それでも許可してくれるんだから、息子な立場にうっかり喜んじまいそうだ。まァいつまでもそれに甘んじてるつもりは毛頭ねーけど。
まだ時間が早いせいか、客はまだ少ないほうだ。それに俺たちのいる席が目立ちにくい場所なだけあって、臨時とはいえ店のもんにこんなことをしていると発見される恐れはない。ゆるいU字の席をふんだんに使い全身を椅子の上にのせて、ななしの膝を枕にした。あー役得役得、ほんと新八と神楽呼ばなくてよかったわ、うん。
「で、近藤さんにあんな乱暴をはたらいたのはどうして?」
「僕知らな~い、何も知らな~い」
「いい年して かわいこぶらないの」
額に でこピンを喰らったが、ななしはそれ以上追求することなくウーロン茶を一口のどに流した。
「……で、あのゴリラのことはどうすんだ?」
「?」
「あー近藤だよ近藤」
「ああ、近藤さん。ちゃんと名前で呼ばないとわからないよ。近藤さんなら今お妙ちゃんが……」
「違うっつの。ゴリラの頼み事だ。まさか本当に屯所行く気じゃァあるめーな?」
「う~ん……でも、頼まれたんだから、それを今更断るわけにもいかないでしょう。第一断らせてくれなかったのは銀ちゃんだよ」
あ、そこ言われるとキツイ。衝動的にやっちまったとはいえ、さすがにまずかったかも…いやだけどあそこで普通手握るとかありえねーだろやっぱ、つうことで、
「ありゃゴリさんが悪いんだよ。ちょっと調子に乗ったから」
「他人のせいにしない! それでも侍なの銀ちゃんは」
「そうですそれでも侍です。大事なものを守るのが侍なのです…ってか?」
「まったく、ふざけるのもいい加減にしなさいな。わたしはちゃんと行くよ、約束を守るのも侍なんだから」
「いやお前侍じゃねーだろ」
「侍の妹は侍も同然です」
「何その無理矢理なこじつけ?」
どうでもいいことをグダグダと喋りながらも、俺の脳はガキの頃を思い出していた。ああ、そういやこうやってななしに膝枕してもらってて、こんな風に見上げてたなあ、なんて、懐かしさを感じる。
ただその懐古の気持ちをななしに悟られまいと(いやだってガキみてーじゃん)ななしの膝から頭をあげた。
「あーすっきりしたわ、これで帰りの運転もだいじょ~ぶ」
「駄目だよ銀ちゃん、飲酒運転は」
「へェへェ、わーったから、さっさと着替えてこい。裏口で待ってんぞー」
不服そうな表情のまま頷くと、ななしは着替えに店内から姿を消した。おっし、そんじゃ出ますかね。
いやあ、今日は随分と、
「目の保養になったもんだ」
帰りはななしさんの険悪に負け、きちんと押して歩いて帰りました。