本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あのさァ、万事屋ってなんでもやってくれるんだよね?」
そう前置きしてからやって来たのは、お妙の上司であり、ホステスのオーナーだった。サングラスが光ってる気がする。あ、これなんかあるな。
俺がそう思うのと同時に、オーナーは早速ななしに目を光らせた。今度は思いきりサングラス光らせてやがる。そして俺の嫌な予感は見事に当たった。
「悪いんだけどさ、前みたいに1日スナックで働いてくんないかね? 従業員が結構休んじゃってさー、まああれほどじゃないけど」
「すなっくって何? 銀ちゃん」
「え、この人スナック知らないのかい。あれだよ、」
「お酒を呑むところですよななしさん!」
新八が眼鏡を光らせフォローする。何も知らないオーナーは首をかしげながら、
「いつだっけかな、たしかうちの子らが全員風邪で寝込んじゃった時にお世話になったんだよ、この人たちに女装してもらって」
「じょ、そう? ……その、『この人たち』って……」
「そりゃ、」
この、と新八を指さす。
人、と神楽を指す。
そして たち、で俺に向けられた人差し指の第二関節を上に急カーブさせる。
のたうち回るグラサンをよそに、俺はななしからの視線を避けるようにそっぽを向いた。もしこいつから「そんな趣味があるんだね」と笑顔で言われるならまだしも(いや充分耐えらんねーけど)昔の脳みそだからな、「男らしくない」と刀を振り回しかねない。
「あっいや別にそういう意味じゃないですよななしさん!」
すかさず空気を読んだ新八クンがフォローにかかる。神楽の「女装したのには変わりないアル」という無駄口は俺が塞いでおく。うるせーんだよお前、最近本誌で酢昆布食べてねーせいか知らんけど毒舌率増してっぞ!
「そうそう、ありゃあしょうがなくやったことでよ、誰も好き好んでやるわけねーしみたいな?! 仕事だもん仕事」
「うん、わかってるよ」
意外にもななしはニコッと笑い、俺達の見苦しい正論をあっさりと受け入れてくれた。
「万事屋だから、仕事に差別分別区別はいけないものね」
「そ~さ! さすがななし、息子のことよォくわかってんじゃん」
「銀さん、調子いい時は自分で息子名乗るんスね」
新八の呆れたツッコミなんざスルーしてなんぼだ。ソファーにもたれ隣にいるななしの肩に腕を回し思いきりのけぞっていると、オーナーが「で、結局いいの?」と控えめに発言してきた。
「で、どうするの銀ちゃん?」
「そりゃァここまでお願いされてんだからやるしかねーだろ」
「あ、きみらはいいよしなくて」
「は?」
少しだけずれたグラサンをくいっとあげて、オーナーは言った。
「君ら女装の店員より、本物の女の子のほうがいいからさ。一人でいいよ、そこのきみで」
ななしは自分が指さされていることに気づくと、なんの躊躇もなく頷いた。
「はい、わかりました」
「おいィィィィィ!!! 待て待て待て! なんでこういう本題になるんだよ!?」
「そうアル! 私だって本物の女の子ネ!」
「お前は女でも男に限りなく近い女だから無理なんだろ。つか今はそんなことどうでもいいんだよ」
「そんなこととはなんだコルァ!」と暴れる神楽を新八に羽交い締めにしてもらい、俺はグラサンを睨む。ななしをホステスの臨時店員に? 冗談じゃねーっつの。
「ななしは万事屋メンバーでも特別だからそんなやらしい仕事は無理だ。つーことで、俺か新八か神楽からチョイスしろこのグラサン」
「何、この場合グラサンって悪口なの? でもなァ、今うちんとこまたチャイナ娘強化週間やっててさ、女装はさすがにバレるよ色々と」
「ふざっけんなァァァ! お…うちのななしをおっさんのオカズにさせてたまるかァァアア!!」
「(今さりげなく自分のもの宣言しようとしたな銀さん…) それなら神楽ちゃんでも充分いいでしょ、なんでななしさんなんですか」
「じゃあきみらに聞くけど、チャイナドレスって少女と女性どっちが似合うと思う?」
「ななし」
「オイこのクソ天然パーマ、なんで名指ししてんだヨ」
「まあまあ神楽ちゃん、抑えて。でも銀さん、それってななしさんが今回の仕事引き受けるってことになっちゃいますよ」
「あ」
その時、ななしがすっくと立ち上がった。その行動に全員が静まりかえる。
俺を見下ろすななしの目は真剣そのものだったが、すぐにフッと目元を和ませた。
「銀ちゃん、わたし一度も万事屋の仕事したことないんだよ。いつも家事ばっかりで、みんなの帰りだけ待ってて……。だから、今回だけお願い。お仕事させてくれない?」
「……銀さん」
「……はァー…。…しゃーねェな」
ま、ななしの頼みを断るつもりなんざまったくねーけど。ただ仕事内容がまずい。ななしはスナックがなんたるかを全然知らねーんだし。新八もそう思ったようで、眼鏡をかけ直しながらオーナーに問う。
「僕らもななしさんにもしものことがあったらいけないんで、見に行ってもいいですか?」
「ああ、いいよ。そんじゃ、ななしさん?だっけ、今日の夕方にスナックすまいるに来てね」
「はい、わかりました」
グラサンオーナーを玄関まで見送ると、ななしは後ろの俺たちを振り返った。そして笑う。
「わたし頑張るね、銀ちゃん!」
それがとんでもなく嬉しそうで楽しそうなもんだから、
「……ああ」
文句を言ってやろうと思ったはずなのに、思わずつられて笑っちまった。