本編
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ぶえっくしょい!と大きなくしゃみをして、あ、ヤベエと思った直後だった。
静かにしまっていたはずのふすまが瞬時にして開く。そして現れたのは、ティッシュ箱を抱えたななしだった。
「いい加減にしろよオイ、資源無駄遣いすんじゃねーよ」
「無駄遣いしたくないなら早く風邪を治しなさい」
困った子だね、とブツクサ言いながら俺の枕元に腰をおろし、元々置いてある箱にまだティッシュがあるのを確認した(だから言っただろ)
それからななしは額に載せた白いタオルをとり、たらいに張った水に浸す。そして充分にしぼって、また元の位置に戻した。
「まだ熱は下がらないみたいだね」
「まーな。誰かさんと違って俺の身体 繊細だからさァ、なかなか復活してくんねーんだよ」
「誰かさんって誰かしら」
「何白々しい顔でミカン食ってんだよお前」
熱といっても38度まではない。しかしオカン体質のコイツからすりゃ微熱だろうが高熱だろうが身体に異常があれば絶好のチャンスに違いない。そんなわけで布団に寝かしつけられた俺は新八と神楽から隔離されている。
ちなみに風邪を引いた理由は、今日の昼 公園ではしゃぎまくった神楽に 池へ突き落とされそうになったななしを助けようと思ったら、逆に引かれて一緒に落ちた。そのくせななしは、あれだけ冷水をかぶったにも関わらずけろりとしている。
やっぱアレか、母ちゃんは無敵なのか。
「だから言ったでしょ、ミカン食べたら風邪ひかないの。はい、あーんしなさい」
「いらねーよ。今なんも食べる気しねーんだ」
「そう言って 晩ご飯のおかゆも口にしてないじゃない。何か食べないと栄養とれないよ」
「食うならパフェがいい」
「ワガママ言わないのっ」
せっかく病院からもらった薬も飲めないよ、とため息をつくななし(ていうか今の俺って思いきりガキ?)
「げほっごほっ」
「! 銀ちゃん大丈夫?」
「何慌ててんだお前、ただの咳だろーが」
「ただのただのってなめてると痛い目みるからね」
俺の態度に眉をつりあげたななしは、風邪についてうんぬんと語り出した。はじめはどうせすぐに終わるだろうと思い放置していたが、なかなか終わらず、気づけば「銀ちゃんもいい加減定職について安定したお給料もらって、お母さんを安心させてちょうだい」って、
「全然違うじゃねーかァァァ! 風邪関係ねーじゃん!!」
思わず上半身を起こしななしに反論したが、「関係あります」と強引に布団に寝かしつけられた。
「そもそも風邪をひくってことは体調管理がなってないってことなんだよ。そうなった理由はどう考えても不摂生な生活でしょう。これもちょうどいい機会だから、銀ちゃんも生活態度見直してね」
「いや……つーか病人は安静にって言ったのお前だよ? 安静にさせてねーのもお前だよ?」
「そう言って逃げるつもりだろうけど、神様仏様が見逃してもわたしは見逃しませんからね」
「あーーもーわかったから!! 明日聞きますちゃんと聞きますだからスンマセンっした!」
そこら中にいるボケキャラアホキャラよりもななしのほうがよっぽど厄介だ。
俺は風邪以外の要因で痛む頭を抑えて、額のタオルをななしに放り投げる。いつの間にか温くなっちまってた。
「それやったらお前ももういいから。俺寝るし」
「……はいはい」
タオルが載せられたのを確かめ、俺は目を閉じた。
…………が、すぐに開けた。そこには当然の顔をしたななしがいる。最早何も言えず、俺は嫌味ったらしくため息を深々とつき、また まぶたをおろした。
あーくそ、だりィ。熱上がってる気もする。これは間違いなくななしのせいだ。……にしても、男としちゃあカッコワリー姿なんて惚れてる女に見せたくないんだけどな。まあそんなこと言っても、相手は俺のことなんか眼中にねーようだが。
そんなどうでもいいことを考えすぎて、なかなか眠りにつけない。
「(全然眠くならねー……)」
だが、しばらくすると、腹に何かが乗った感触がした。かと思えばすぐにそれが消える。そして気のせいかと思った直後、また腹に乗った。まだいるなら、犯人はななしだ。なんのつもりなんだコイツ。
……しかし、その謎はすぐに解けた。いや、解けたんじゃない。思い出したんだ。
すると、まるで俺が思い出したのを見計らったように、ななしはか細い声で謡いだした。
「ねーんねーんころーりーよー、おこーろーりーよー」
坊やは良い子だ、ねんねしな。
たったこれだけの歌詞を、ゆっくりとなでるように唱える。俺はこの歌声を音色をガキん時にも耳にしている。その時、腹をポンポンとなでられていたことも。
完璧子供扱いじゃねーか、チクショー。
うつらうつらしかけた まぶたを上げてななしを見上げようとしたが、今頃になって急激に眠気が襲いかかってきた。
「おやすみ、銀ちゃん」
呪文のようなその台詞に、俺は何度落ちたのだろうか。その点じゃあ やっぱり俺はまだまだ子供らしい。
「(いや、ちげーな)」
「これなら また風邪をひいてもいいかもしれねェ」と思う俺は、昔以上にガキだ。
ほのぼの大好きです。風邪にはお気をつけて!